調剤録と処方箋の電子保管(3年)でペーパーレス化する要件:過去記事

【2010年8月28日】に書いた薬剤師または医療事務向け内容です。

処方箋および調剤録の保持期間は3年です。これをペーパーレス化出来ないかということで半日かけて調べました。

調剤録の電子保管に関しては、診療録等と比較して薬剤師法や薬坦規則の縛りがある分だけ複雑で判断に迷う部分が大きかったので、整理してみました。

院外処方箋そのものに関しては、電子化へのハードルは調剤録より低いので、ほとんどの薬局で処方箋の裏打ちを調剤録としている現実を加味して調剤録についてしぼって記載します。

まず、調剤録を電子保管して紙を処分するための結論
1.電子媒体による保存を認める3つの条件(真正性、見読性、保存性)を満たす。
2.電子媒体は薬局内に保管する。
3.調剤録を作成した日(もしくは翌営業日まで)に電子化を行う。
4.過去のデータの電子化はかなり要件が厳しい。

もちろん、例外や地域担当者の判断でもっと甘いこともあるでしょうが、1~3を満たさないで電子化することは認められにくいようです。

◆薬剤師法 28条 調剤録

薬局開設者は、薬局に調剤録を備え、調剤済みとならなかった場合、一定の事項を記録し、3年間、保存しなければならない。

◆保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則

最終改正:平成二二年三月五日厚生労働省令第二五号

(調剤録の記載及び整備)第五条  保険薬局は、第十条の規定による調剤録に、療養の給付の担当に関し必要な事項を記載し、これを他の調剤録と区別して整備しなければならない。

(処方せん等の保存) 第六条  保険薬局は、患者に対する療養の給付に関する処方せん及び調剤録をその完結の日から三年間保存しなければならない。

(調剤録の記載) 第十条  保険薬剤師は、患者の調剤を行つた場合には、遅滞なく、調剤録に当該調剤に関する必要な事項を記載しなければならない。

以上、薬坦規則においては(調剤済となろうがならなかろうが)必要事項を記載した上での保管及び社保、国保、公費単独、自費に区分して保管することが書かれており、薬剤師法においては、薬局に調剤録を備え3年間保管となっているので、調剤録は薬局内に保管する必要があります。

また、京都東山医師会サイトに公開されている「診療録等の保存を行う場所について」(平成14 年3月29 日医政発第0329003号・保発第0329001 号厚生労働省医政局長・保険局長通知)の運用の具体的指針として、「厚生労働省委託事業 高度医療情報普及推進事業」において、産業界及び学界の有識者によって構成される委員や、日本医師会等との協議・検討のもと、作成されたガイドライン(www.higashiyama.kyoto.med.or.jp/images/140613-d.pdf )において、次のように書かれています。

>なお、「診療録等の電子媒体による保存について」(平成 11 年4 月22 日厚生省健康政策局長・医薬安全局長・保険局長通知)においては、「薬剤師法(昭和35 年法律第146 号)第28 条に規定されている調剤録」と「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(昭和32 年厚生省令第16 号)第6条に規定されている調剤録」が電子保存の対象となっていたが、薬剤師法上調剤録は薬局に備えることが明記されているため、今回の通知の対象とはなっておらず調剤録を薬局外に保存することはできない。

以上考慮すると、電子媒体による保存を認める3つの条件を満たして、尚且つ、電子媒体が薬局内に保管されている場合のみ調剤録の電子化が認められるという事になります。

キーになるのは、電子媒体による保存を認める3つの条件(保存義務のある情報の真正性、見読性、保存性が確保されていること)のうち情報の真正性であって、「故意または過失による虚偽入力、書き換え、消去及び混同を防止すること」が難しく、訂正等を行った場合の経緯の記載をはじめとしたトレーサビリティ確保が重要課題です。

したがって、「置き場所無くなったから、電気屋に行きスキャナーを1台買ってきてPDFで保管しました。原本(紙)は捨てました。」では要件が満たせない事になります。専用のシステム(できればレセコン等と連動したもの)が必要になるでしょう。

システムの例

1・2009年10月07日レセプトコンピュータだけで薬歴と調剤録のペーパーレス化を実現

業界初※1 薬歴と調剤録の電子保存機能をダブル搭載

保険調剤薬局用コンピュータ「PharnesII」を発売

2・PCラブ/Win21 【電子ファイリングシステム】

薬剤師の指紋認証機能により、調剤録の処方せん裏書きをコンピュータ内部で電子的におこないます。

◆厚生労働省 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第4.1版(平成22年2月:http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/02/dl/s0202-4a.pdf)

同Q&A(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/02/dl/s0201-3a.pdf)

は153ページ(Q&A27ページ))もあり、一度目を通すだけでも苦労しましたが、調剤録電子保管に関する重要な部分を抜粋しますと、

3.1 7 章及び9 章の対象となる文書について p.9

医療に関する文書は、法令等によって作成や保存が定められている文書と、そうでない文書に大別できる。7 章及び9 章の対象となる文書は、法令による作成や保存が定められている文書の一部であり、具体的には、

一 医師法(昭和23 年法律第201 号)第24 条の診療録

六 薬剤師法(昭和35 年法律第146 号)第28 条の調剤録

十一 保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(昭和32 年厚生省令第16 号)第6 条の調剤録(作成については、同規則第5 条)

十四 薬剤師法(昭和35 年法律第146 号)第27 条の処方せん※

十五 保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(昭和32 年厚生省令第16 号)第6 条の処方せん

十八 診療放射線技師法(昭和26 年法律第226 号)第28 条第1 項の規定による照射録

なお、法令等による作成や保存が定められている文書のうち、e-文書法の対象範囲となっていない医療関係文書等については、たとえ電子化したとしても、その電子化した文書等を法令等による作成や保存が定められた文書として扱うことはできないため、別途作成・保存が義務づけられる。

6.4 物理的安全対策 p.36

考え方

物理的安全対策とは、情報システムにおいて個人情報が入力、参照、格納される情報端末やコンピュータ、情報媒体等を物理的な方法によって保護することである。具体的には情報の種別、重要性と利用形態に応じて幾つかのセキュリティ区画を定義し、以下の事項を考慮し、適切に管理する必要がある。

・入退館(室)の管理(業務時間帯、深夜時間帯等の時間帯別に、入室権限を管理)

・盗難、窃視等の防止

・機器・装置・情報媒体等の盗難や紛失防止も含めた物理的な保護及び措置

なお、情報及び情報機器を医療機関等以外に持ち出して取り扱う場合についての詳細については、別途、「6.9 情報及び情報機器の持ち出しについて」に記載している。

最低限のガイドライン

1. 個人情報が保存されている機器の設置場所及び記録媒体の保存場所には施錠すること。

2. 個人情報を入力、参照できる端末が設置されている区画は、業務時間帯以外は施錠等、運用管理規程に基づき許可された者以外立ち入ることが出来ない対策を講じること。

ただし、本対策項目と同等レベルの他の取りうる手段がある場合はこの限りではない。

3. 個人情報の物理的保存を行っている区画への入退管理を実施すること。例えば以下のことを実施すること。

・ 入退者には名札等の着用を義務付け、台帳等に記入することによって入退の事実を記録する。

・ 入退者の記録を定期的にチェックし、妥当性を確認する。

4. 個人情報が存在するPC 等の重要な機器に盗難防止用チェーンを設置すること。

5. 窃視防止の対策を実施すること。

推奨されるガイドライン

1. 防犯カメラ、自動侵入監視装置等を設置すること。

7 電子保存の要求事項について p.76

法的に保存義務のある文書等を電子的に保存するためには、日常の診療や監査等において、電子化した文書を支障なく取り扱えることが当然担保されなければならないことに加え、その内容の正確さについても訴訟等における証拠能力を有する程度のレベルが要求される。誤った診療情報は、患者の生死に関わることであるので、電子化した診療情報の正確さの確保には最大限の努力が必要である。

(1) 作成責任者の識別と認証

(2) 記録の確定

(3) 識別情報の記録

確定された記録は、第三者から見て、いつ・誰が作成したものかが、明確になっている必要がある。作成責任者の識別情報には、氏名及び作成された時刻を含む事が必要であり、また、作成責任者の識別情報が記録情報に関連付けられ、通常の手段では誤った関連付けができないこと、及びその関連付けの分離・変更又は改ざんができないことが保証されている必要がある。

(4) 更新履歴の保存

診療情報を例に取ると、診療情報は診療の遂行に伴い増加し、その際、新たな知見を得たことにより、確定済で保存してある記録に対して追記や修正を行うことは少なくない。このような診療行為等に基づく記録の更新と、不正な記録の改ざんは容易に判別されなければならない。そのためには記録の更新内容、更新日時を記録するとともに、更新内容の確定責任者の識別情報を関連付けて保存し、それらの改ざんを防止でき、万一改ざんが起こった場合にもそれが検証可能な環境で保存しなければならない

最低限のガイドライン

【医療機関等に保存する場合】

(1) 作成者の識別及び認証

a. 電子カルテシステム等でPC 等の汎用入力端末により記録が作成される場合

1. 利用者を正しく識別し、認証を行うこと。

2. システムへの全ての入力操作について、対象情報ごとに入力者の職種や所属等の必要な区分に基づいた権限管理(アクセスコントロール)を定めること。また、権限のある利用者以外による作成、追記、変更を防止すること。

3. 業務アプリケーションが稼動可能な端末を管理し、権限を持たない者からのアクセスを防止すること。

b. 臨床検査システム、医用画像ファイリングシステム等、特定の装置もしくはシステムにより記録が作成される場合

1. 装置の管理責任者や操作者が運用管理規程で明確にされ、管理責任者、操作者以外による機器の操作が運用上防止されていること。

2. 当該装置による記録は、いつ・誰が行ったかがシステム機能と運用の組み合わせにより明確になっていること。

(2) 記録の確定手順の確立と、作成責任者の識別情報の記録

a. 電子カルテシステム等でPC 等の汎用入力端末により記録が作成される場合

1. 診療録等の作成・保存を行おうとする場合、システムは確定された情報を登録できる仕組みを備えること。その際、作成責任者の氏名等の識別情報、信頼できる時刻源を用いた作成日時が含まれること。

2. 「記録の確定」を行うにあたり、作成責任者による内容の十分な確認が実施できるようにすること。

3. 確定された記録が、故意による虚偽入力、書き換え、消去及び混同されることの防止対策を講じておくこと及び原状回復のための手順を検討しておくこと。

b. 臨床検査システム、医用画像ファイリングシステム等、特定の装置もしくはシステムにより記録が作成される場合

1. 運用管理規程等に当該装置により作成された記録の確定ルールが定義されていること。その際、作成責任者の氏名等の識別情報(または装置の識別情報)、信頼できる時刻源を用いた作成日時が記録に含まれること。

2. 確定された記録が、故意による虚偽入力、書き換え、消去及び混同されることの防止対策を講じておくこと及び原状回復のための手順を検討しておくこと。

(3) 更新履歴の保存

1. 一旦確定した診療録等を更新した場合、更新履歴を保存し、必要に応じて更新前と更新後の内容を照らし合せることができること。

2. 同じ診療録等に対して更新が複数回行われた場合にも、更新の順序性が識別できるように参照できること。

(4) 代行操作の承認機能

1. 代行操作を運用上認めるケースがあれば、具体的にどの業務等に適用するか、また誰が誰を代行してよいかを運用管理規程で定めること。

2. 代行操作が行われた場合には、誰の代行が誰によっていつ行われたかの管理情報が、その代行操作の都度記録されること。

3. 代行操作により記録された診療録等は、できるだけ速やかに作成責任者による「確定操作(承認)」が行われること。

4. 一定時間後に記録が自動確定するような運用の場合は、作成責任者を特定する明確なルールを策定し運用管理規程に明記すること。

(5) 機器・ソフトウェアの品質管理

1. システムがどのような機器、ソフトウェアで構成され、どのような場面、用途で利用されるのかが明らかにされており、システムの仕様が明確に定義されていること。

2. 機器、ソフトウェアの改訂履歴、その導入の際に実際に行われた作業の妥当性を検証するためのプロセスが規定されていること。

3. 機器、ソフトウェアの品質管理に関する作業内容を運用管理規程に盛り込み、従業者等への教育を実施すること。

4. システム構成やソフトウェアの動作状況に関する内部監査を定期的に実施すること。

9.3 過去に蓄積された紙媒体等をスキャナ等で電子化保存する場合 p.109

最低限のガイドライン

9.1 の対策に加えて、以下の対策を実施すること。

1. 電子化を行うにあたって事前に対象となる患者等に、スキャナ等で電子化を行い保存対象とすることを掲示等で周知し、異議の申し立てがあった場合はスキャナ等で電子化を行わないこと。

2. かならず実施前に実施計画書を作成すること。実施計画書には以下の項目を含むこと。

・ 運用管理規程の作成と妥当性の評価。評価は大規模医療機関等にあっては外部の有識者を含む、公正性を確保した委員会等で行うこと(倫理委員会を用いることも可)。

・ 作業責任者の特定。

・ 患者等への周知の手段と異議の申し立てに対する対応。

・ 相互監視を含む実施の体制。

・ 実施記録の作成と記録項目。(次項の監査に耐えうる記録を作成すること。)

・ 事後の監査人の選定と監査項目。

・ スキャン等で電子化を行ってから紙やフィルムの破棄までの期間、及び破棄の方法。

3. 医療機関等の保有するスキャナ等で電子化を行う場合の監査を適切な能力を持つ外部監査人によって行うこと。

4.外部事業者に委託する場合は、9.1 の要件を満たすことができる適切な事業者を選定する。適切な事業者とみなすためには、少なくともプライバシーマークを取得しており、過去に情報の安全管理や個人情報保護上の問題を起こしていない事業者であることを確認する必要がある。また実施に際しては適切な能力を持つ外部監査人の監査

を受けることを含めて、契約上に十分な安全管理を行うことを具体的に明記すること。

・重要なQ&A

Q-28 災害等で電子システムが運用できない場合で、一時的に運用した紙データを後から電子システムに反映させることは真正性の観点から問題にはならないのか。(システムへの入力時のタイムスタンプが有効になるのではないか)

A 適切な安全管理が実施されていれば問題ありません。「6.10災害等の非常時の対応」において要求事項が記載されていますのでそちらを参照してください。また、紙データを電子システムに反映させる際には、紙データをオリジナルとして保存する必要が生じると考えられます。

Q-59 診療録等をスキャナで電子化した場合、原本の取扱いはどのようにすべきか。

A 「9.1 共通の要件」の記載にしたがって電子化し、電子化されたものを保存義務のある対象とする場合は、スキャンされた原本は個人情報保護の観点に注意して廃棄しても構いません。しかし、電子化した上で、元の媒体も保存することは真正性・保存性の確保の観点からきわめて有効であり、破棄を義務付けるものではありません。

Q-61 「改ざんを防止するため情報が作成されてから、または情報を入手してから一定期間以内にスキャンを行うこと。」とあるが、“一定時間以内”は、どれくらいか。

A 原則は1日以内です。ただし深夜に来院し、次の日が休診である場合などは営業日として1日以内となります。

このあたりをまとめると、原則として、調剤録を作成した日に電子化を行う。過去のデータを電子化する場合は、紙データをオリジナルとして保存する事になります。

ペーパーレスを実現するためには、可能な限り早期にオペレーションを変える必要がありますね。

⇒今、薬局に溜まってる調剤録3年分を一括スキャンして、元の紙を廃棄することは望ましくない。(9.1,9.3のガイドラインを満たせば可能ではあるが、かなり手間がかかる)

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