薬剤師としてJMATの災害地医療支援に宮城県東松島市へ:過去記事

【2011年3月31日】に書いたブログです。

手書き薬袋に説明

日医からはJMAT派遣に「薬剤師」という単語がなかった

震災直後、以下のニュースが出た時に(現役ではありませんが)一薬剤師として”カチン”ときたことは今でも覚えています。

・日医、「JMAT」を被災地に派遣 医療介護CBニュース 3月15日(火)17時16分配信

東日本大震災の発生を受け、日本医師会は3月15日、東京都内で緊急記者会見を開き、「日本医師会災害医療チーム(JMAT)」を被災地に派遣すると発表した。被災した各県の災害対策本部などと連携し、被災地の民間病院や診療所の日常診療と、避難所や救護所の医療を支援する。石井正三常任理事によると、既に数チームが現地入りしているが、同日から「大規模な対応」を取る。 JMATが派遣されるのは、岩手、宮城、福島、茨城の4県。日医は現時点で健康支援の対象となる被災者は46万人以上と想定している。チームは、医師1人、看護職員2人、事務職員1人の計4人を目安に構成。参加を希望する医師は、所属する都道府県医師会に伝える。派遣期間は、支援先と支援医師会との協議によるが、3日-1週間がめど。日医では、計100チーム(計400人)の派遣と約1か月の支援を目指す。人数や期間は支援先の需要によって変更になる場合もある。石井常任理事はJMATの役割について、「避難所には着の身着のままで、いつも飲んでいる薬を持たない方が多数いる。薬や相談を含めた支援が心待ちにされている」と述べ、救護所での薬の処方など、地域のニーズに合わせた支援を行っていく考えを示した。

このニュースを最初に見て、医師会の理事の方が薬に関する支援の重要性をこれだけ謳っているのに「薬剤師」という単語が出ていないことに、薬剤師として憤りを感じていました。医師会の方に…というのでなく、薬剤師に関する世間的な認知に対してです。

JMAT災害医療派遣の経緯

運よく、当時所属していたココカラファインの災害地支援策に1億円の義捐金や店頭募金の他に、現地への薬の無償提供とJMAT参加が加わりました。

・3/17プレスリリース http://www.cocokarafine.co.jp/ir/pdf/20110317.pdf

・3/22プレスリリース(写真は先発隊。私は後発隊でした。車がきれいですね(^_^;) ) http://www.cocokarafine.co.jp/ir/pdf/20110322.pdf

たまたま対策本部に近い部署におりましたので、社長他経営幹部が誰を送ろう(実務力があり、会社を代表して振る舞える一定の役職者、計画停電等で混乱する現場以外…)というときにその場で立候補?して参加させていただくことができました。 ここで書いても仕方ないのですが、得難い経験をさせていただいて感謝しております。また、本当に微力ながら薬剤師として機能できた自負はあります。

災害医療支援における薬剤師

災害医療支援薬剤師の役割

今回、参加させていただいたことで、災害医療支援における薬剤師の必要性・活躍の場を感じたので、記載いたします。

医師会より発表された医師1名、看護師2名、事務1名ではなく、薬剤師が加わったことで、2チーム合同の 医師2名、看護師3名、事務2名、薬剤師1名のチームで行動できたことは、かなり効果的であったと感じました。小規模避難所中心であれば理想形は医師1、看護師1、事務1、薬剤師1となるでしょう。

その中で薬剤師の役割は

1)津波に流されて、飲んでる薬がわからないものの特定。

2)限られた持参薬での代替え処方提案。

3)避難所環境によっては、喘息患者が増えているので、吸入指導。これはなぜうがいをするのか、βブロッカーは発作時のみの最低限なのに、ステロイドは継続使用が必要なのはなぜかなど薬識をバックに持った吸入指導という点で看護師さんには少し難しいことであり、薬剤師が適任と思います。

4)医療用薬とOTCの使い分け。

5)薬情が出ないので、薬剤師がいれば、薬袋に何のための薬かを書いてあげられる。

たとえば、頭痛が主訴で背景にPTSDのある避難所の患者さんにおいて、

カルテ内容と診察を小耳にしながら薬袋を書くので、

・頭痛目的のロキソニンであれば、患者さん個別に飲む目的である頭痛と書いて解熱鎮痛とは書きません

・レセコンでは自動で用法が入るだけのムコスタも口での指導と同様に、ロキソニンを飲むときに一緒に飲んで胃を守る薬と書きます

・また、この場合PTSDで眠れない方でしたので、睡眠薬ではなく、目的であるところの安眠と記載しました

特にカルテをみながら、診察を耳にしながら薬袋書いたり、投薬できたので通常の調剤薬局での調剤以上に投薬の質は高い状態で行えたと思います。

後発部隊としての活動の場は比較的大きな避難所でさまざまな患者さんがいる場所、ただし、体育館は安置所として使われているので、教室生活で、室内・校内の衛生環境も良いとは言えないところでした。

2チーム合同(8名)で、
患者さんがいらっしゃる→事務(看護師)が問診と検温のお願いをする→看護師が血圧等バイタルチェック→医師の診察・看護師の処置→薬剤師の薬袋作成とピッキング、投薬

という流れで、10人以上患者さんが集中する時間は薬剤師のところが医師2名の薬に関する質問と調剤でかなり忙しくなるので、薬袋作成のお名前と薬品名だけ事務スタッフに協力してもらうなどのサポート体制もうまく機能したと思います。

このチームが機能することで、大規模避難所の午前診察ラッシュでお待たせする時間を少なくできました。

ラッシュが落ち着いた後は医師、看護師での教室や近隣施設への往診チーム、定置での診察チームに分かれ、往診チームの処方を作成後内容と状況に応じて薬剤師の教室、近隣投薬と事務、看護師さんによるお届けに分けることができました。

また、2チーム合同(8名)での行動となったので、病院搬送の必要な重症患者が一日一名程度発見されたので、搬送を事務(連絡、運転),看護師(ケア)のペアで行うことができました。

薬剤師がいることで変わる災害医療支援

他のJMATチームとの違いは、薬剤師の参加(一部チームには入っていますが少数派)の他に医療用薬、OTC共に自前で持ち込んだので、日赤や保健センターにセットを借りてのチームより薬の選択肢が多く、幅の広い対応が出来たことだと考えます。

例1)集団生活で咳を気にする方に、辛い時は医療用薬、軽い時は咳、喘息の効能のある浅田飴咳止めを差し上げる

例2)花粉症に医療用内服に合わせて、複数成分のはいったOTC点鼻薬、点眼薬の同時処方。

・医療用支援物資の寄付について

医療用薬の寄付に関しては、当該地域では(地域差あると思います)日赤石巻病院に提供すれば、管理・活用に心配もないので、簡単でした。

一方、OTCに関しては、その他の支援物資以上に置いていく(または送る)だけではダメだと思っておりました。

実際、東松島市保健センターの方に寄付の話をしたところ、センター長やスタッフの方々は当初はアルコールジェル、総合感冒薬を代表に物はあって整理しきれていないので、あまり受けたくはないけど仕方ないという雰囲気でした。

そこで、物の少なくなって困っていた鼻炎薬や目薬等があることを説明して受け入れてもらい、現地では物資の過不足だけでなく、半強制的に届く支援物資の管理・整理が大変な負荷になっていることを充分承知していましたので、まずはスタッフ3名にOTCの簡単なレクチャーを一通りしたところ、こちらが驚くほど前向きに話を聞いてくれてメモまで取ってくれる良い生徒になってくれました。

内服から外用まで一通り説明したことで、多少なりとも必要な方への適切な薬の給付ができるようになったと思います。

また、かなりの混乱状況にあったので、センターの薬と寄付した薬を一通り薬効毎に整理して帰りました。

________写真追加________

最後の写真の登校日(震災後初日である3/22)の『持ち物(元気な姿と笑顔、私服でも可)』を見て涙が出たのを覚えています。

________コメント________

Jiho***da 2011/04/06 15:56
otc_tyouzai様 過日はダイレクトのご連絡で失礼いたしました。
ブログでのご報告拝読いたしました。「薬剤師の役割」として挙げておられる箇所で,いくつかご教授いただいきたいことがありますので,以下に列記いたします。カッコ書きは元文章に合わせてあります。

1)「飲んでいる薬がわからないものの特定」→具体的にどのような方法で特定されたのかお教えくださいませんでしょうか。また,その際にどのような医薬品情報が役立ったかもご教示ください。
4)医療用薬とOTC薬の使い分け→どのような例があったかご教示くださいませんでしょうか。

また,活動の例として挙げておられる部分について,少々詳しく教えていただけると幸いです。

例1)→ 咳をする方の仕分けについて,「つらいとき」,「軽いとき」の仕分けのポイント
例2)→医療用の内服薬にあわせるOTC薬の同時処方とはどのような内容だったのでしょうか。
「OTC薬は置いていくだけではダメ」→スタッフの方々にレクチャーされた内容はどのようなものだったのでしょうか。

すみません。長くなってしまいました。お時間のあるときでけっこうですので,ご教授いただければ幸いに存じます。

郡司   2011/04/07 13:00
>1)「飲んでいる薬がわからないものの特定」→具体的にどのような方法で特定されたのかお教えくださいませんでしょうか。また,その際にどのような医薬品情報が役立ったかもご教示ください。

基本的には患者さんとの対話が最重要です。
何を目的に?
服用タイミングは?
どんな形状か?
いつから?
を確認して、自分の知識の中にある薬とマッチングさせるという作業です。
患者さんの薬識により出てくる言葉が違うことと知識の引出しの量が鍵になるでしょう。
この引出しという部分で現役バリバリ様々な場所での経験たっぷりの方 と ブランクが長い私などでは雲泥の差だと思います。

電気もなく限られた往診時間ですし、本を調べて…という時間的余裕はもちろんありませんので、頭の中に入っていないと役に立たないのですが、2回ほど医薬品情報は使用しました。
それは、twitterのハッシュタグ #kusurisheet で有志の方々が作成したお薬説明シート(薬剤識別シート)です。
例えば、「血圧の薬で1日1回飲んでた白いので…」で、特定しきれない時に患者さんに見てもらうことで、「あぁこれこれ」と特定できたケースがあります。特にGEに関しては三十数社発売のアムロジピンを筆頭に飲まれている方でないと特定は難しいものが多いですので、役に立ちました。

>4)医療用薬とOTC薬の使い分け→どのような例があったかご教示くださいませんでしょうか。
また,活動の例として挙げておられる部分について,少々詳しく教えていただけると幸いです。
例1)→ 咳をする方の仕分けについて,「つらいとき」,「軽いとき」の仕分けのポイント
例2)→医療用の内服薬にあわせるOTC薬の同時処方とはどのような内容だったのでしょうか。

例をあげますと
【状況】宮城としてはちょうど飛散のピークにあたり花粉症の方が多かったのですが、被災地の患者さんは薬も失い震災以来何もケアできていなかった。
通常の薬局と違い、避難所の廊下等での診察・調剤であり、医療用薬はカラーボックス2ヶに詰め込んだ状態で種類数は持ち込めず、医療用薬の抗アレルギー薬としてはゼスランのみ。
【使分け】
鼻水と鼻づまりの症状が多く困っている方には、併用薬をチェックした上で、抗コリン作用のあるベラドンナ総アルカロイドと血管収縮剤入りのOTC新エスタックニスキャップLを差し上げました。特にキツイ方には点鼻薬も、これはゼスラン他医療用薬にも合わせて。
今回は稀でしたが、眠気やのどの渇きが少しでも少ない方が良い方と症状が持続的かつ緩やかな方にはゼスラン(本当はアレグラ等の方がベターですが、ゼスランしかなかったので)
また、Drが内科・消化器科・呼吸器科であったこともあり、目薬はOTCのみの持参であったので目の症状のある方には、持って行った以下のOTCのうち、
1)マイティアアイテクト アルピタット:
抗アレルギー:クロモグリク酸ナトリウム=インタール
抗ヒスタミン:マレインサンクロルフェニラミン
抗炎症   :プラノプロフェン=ニフラン
2)ナザールブロック他数種
抗アレルギー:クロモグリク酸ナトリウム=インタール
抗ヒスタミン:マレインサンクロルフェニラミン
血管収縮剤 :ナファゾリン塩酸塩
3)抗菌目薬
サルファ剤のOTC
4)サンテFX

目がコロコロする感じの違和感がある方には、1)をそれ以外は2)を。感染の疑いがあるケースは3)といった使分け。
ここで一つ反省点としては、医療支援期間の途中で上水道が回復したため、日中自宅を片づけに行く方が増え、また道路の汚泥が乾燥したこともあり粉塵が目に入り、それを擦ることによる炎症の方が多くいらしたことです。
ネオメドロール等の眼軟膏があれば、抗菌目薬OTC+ネオメドロールという対応ができたはずです。

咳に関しては、幸い呼吸器Drがいらっしゃいましたので、Drの診断を受けて、
1)喘息確定
シムビコートとメプチンエアーの投与と吸入指導・服薬指導。
メプチンエアーの使用歴のある方は多かったのですが、シミビコートやフルタイド等のコントロールのための薬を使った事がない方が多く、少し驚きました。したがって、継続使用の重要性の話が大切になると感じました。

2)現在、喘息ではないが、今後可能性がありうる。
浅田飴咳止め(効能:せき、ぜんそく、たん、のどの炎症による声がれ・のどのあれ・不快感・のどの痛み・はれ)等の配布と使用方法及び症状が重くなった場合の注意。
3)喘息の心配はないが、避難所の集団生活ということがあり、夜間の咳を止めたい。気を使ってしまい悩んでいる。
必要時にお使いいただけるように、ジヒドロコデインリン酸塩が主成分のコルゲン透明咳止めカプセルを差し上げた。

>「OTC薬は置いていくだけではダメ」→スタッフの方々にレクチャーされた内容はどのようなものだったのでしょうか。

薬店に入社した非薬剤師(登録販売者候補)へ、最初にレクチャーするのに近い内容です。この辺のカリキュラムは企業情報に該当しますので、詳細は割愛させていただきます。主要成分の使い分け(コデイン系と非コデイン系の特性。胃腸薬の各成分による症状特性等々)とOTCには多い(風邪・花粉・一時的な不眠改善薬・乗物酔い等)抗ヒスタミン剤の重複チェックなどが中心です。

Jiho***da 2011/04/08 15:50
ご教授ありがとうございました。現場でのご活躍の様子をうかがうことができ,たいへん参考になりました。

災害現場での薬剤師の皆様のご活躍が,他医療スタッフのなかでも話題になっています。
ある赤十字病院の救護班の方々は,現場でボランティア薬剤師さんと同行されて,「本当に助かった」とおっしゃっていたそうです。
これがまさにチーム医療の実践なのだろうと思います。

また改めてご連絡差し上げることがあるかと存じますが,その節もよろしくお願い申し上げます。

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