在庫管理における発注方式と長短所:自動発注で欠品が増える理由と対策

ダイヤモンド・オンラインおよびダイヤモンド・ドラッグストア寄稿

「新型コロナウイルス禍 ドラッグストアで食品の欠品が増える理由と対策」ということで、いつものダイヤモンド・ドラッグストア連載とは別に、ダイヤモンド・リテイルメディア様の依頼で書きました。
紙面にも載りましたが、こちらからWEBでも全文読めます。

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新型コロナウイルス騒動により、ドラッグストア(DgS)は店舗によっては食品コーナーの欠品が目立つようになった。スーパーマ…

文字数に限りある紙メディアでは書けなかった在庫管理における発注について記載します。

ドラッグストア店舗における食品の欠品状況は企業単位で大きく異なるように筆者には見えます。
要因として、①メーカーもしくはベンダーから仕入れる時点の欠品増加、②発注(予測)精度の低さで需要変化に対応できていない、③商品の品出しが間に合わない、の3つが考えられます。
ここでは、②発注(予測)精度の低さで需要変化に対応できていないについて、紙面で書けなかったことを解説していきます。

在庫管理における発注の種類

小売業の在庫管理においては、大きく2つの発注方式があります。
定量発注方式と定期発注方式です。これ以外にも簡易発注方式などがありますが、小売業においては需要に対応することが不可能でありほとんど使われません。

簡易発注方式は保険調剤薬局に多い

簡易発注方式は、保険調剤薬局や個人経営の工場、ベンチャー企業の備品などで使われています。あまり在庫について考慮しないとこういう発注になります。
簡易発注方式には、ダブルビン方式と補充方式があります。ダブルビン方式はA・Bの2つの箱を用意するところから始めます。まずは使用期限の短いAから使い始め、Aが空になったら初めてBを開封し、新たに1つ発注する方式です。「空になる」という作業者が視覚的に捉えやすい状態を発注のタイミングとするため、分かりやすいという特徴があります。保険調剤薬局の多くはダブルビン方式です。包装単位(100錠が多い)を使い切ったら空き箱をダンボールに貯めておいて、手空き時間にまとめてバーコード発注するわけです。

補充方式は、一定量を使用したらその分だけ発注する方式です。商品ごとに一定量とはどのくらいなのか、過去の出荷データを元に決めておくのですが、勘と経験でやっているケースを多く見ます。出荷頻度は少ないけど、欠品時の損失が大きくなる恐れのある商品はダブルビン方式ではなく、こちらを使います。保険調剤薬局に例えると、分割販売での仕入れはこのケースが多いです。

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定量発注方式

定量発注方式は、在庫量が決めた水準(発注点)まで下がったとき、一定量(発注量)を発注する方式です。発注点方式は発注量が一定であり、後述する発注点補充点方式は発注点に達した時に補充点を超えるように発注する方式です。後者のほうが急激な需要増に対応しやすく優れた方式です。
定量発注方式は、小売業全般で広く使われている発注方式です。需要がほぼ安定し、単価が安く使用量の多い小物類の発注に適しています。

定量発注方式において、発注点は本来次のように計算します。本来と書いたのは、ここを勘と経験で適当に設定している小売業が多いからです。

発注点 = 調達期間中の平均在庫量+安全在庫量
      =(単位期間の平均需要量×調達期間) + 安全在庫量
調達期間とは、注文を出してから納品されるまでの期間です。納品リードタイムともいいます。

例をあげると、
1日あたりの売上数量が3個で、発注してから商品が入荷するまでの調達に2日かかるとした時に、
発注点=(3個×2日)+安全在庫量=6+安全在庫量
です。

安全在庫量は商品の売れ行きのばらつきによって異なりますので、カテゴリーや季節等多くの要因で変動します。一般的には
安全在庫量=安全係数×標準偏差×√(発注間隔+リードタイム)で求めます。

※安全係数:品切れ5%の時の標準偏差1.65を使用することが多い。欠品を1%しか許容しないなら2.33
 標準偏差:需要の平均値なので過去の販売量から求めます。カテゴリーによっては定期的に計算し直す必要があります。

ただし、個人的にはドラッグストアなどセールや◯倍デ-で売上の波動が大きな業態の安全在庫量については、単位期間の平均需要量×調達期間が6なら2,3以下なら1程度で決めてしまって後は欠品頻度で調整すれば十分かと思います。

「単位期間の平均需要量」については、過去データからの計算をすることが多いです。季節を考慮して、前年同時期、前月〜直近までの両方の動向を元に計算します。
過去データからの計算では、需要の急激な変化に対応できないことがあります。この改善はAIが活躍しやすい領域です。
売価の変動が大きい場合、売価ごとの実績を管理して計算すると、より精緻なものとなります。これらを考慮して精度の高い需要予測が可能になると、後述する自動発注が有効に機能します。
 

定期発注方式

毎週○曜日、毎月◯日といった形で発注するタイミングを設定する方式です。
需要の増減に柔軟に対応できますが、毎回発注量を決めるのが手間になります。
需要変動が大きく在庫回転率の低い商品(アパレル・家電等)に使われることが多いです。ドラッグストアにおいては、天気で需要変動が大きな(しかも倉庫を圧迫する)ティッシュ・トイレットペーパーに使われることがあります。

定量発注方式と定期発注方式のイメージ

定量発注方式は発注点を下回った日に発注する
定量発注方式
定期発注方式は決められた日に発注する
定期発注方式


定量発注方式における自動発注の種類

自動発注とは

自動発注は、商品のID-POSによる販売動向や在庫情報をもとに発注数を自動計算して、ベンダーに自動的に発注するシステムです。発注業務コスト(=人件費)の削減を主な目的とします。また、回転率の低い商品を中心に発注忘れによる欠品を防止する効果もあります。

自動発注のデメリット

デメリットとしては、店舗従業員の考える力が育たないという点があります。
手動発注の場合、従業員にとっての発注業務は頭脳労働です。商圏の状況や顧客・ビジター客の購買特性、商品の入荷タイミング、天候・気温、地域のイベント情報等を総合的に判断し、どれぐらいの量を発注すれば、売上・収益を最大化できるか、過剰在庫によるロスを最低限にできるかを考える業務です。
まさに仮説を構築して検証するというPDCAを行う業務により、仮説検証力が向上していきます。
考える力が鍛えられるわけです。

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自動発注の方式は2種類

 

小売業における自動発注は一般的な定量発注方式において利用されます。
 

一つ売れると一つ発注がかかるセルワンバイワン方式と発注点を下回ったら補充点までの量を発注する方式である発注点補充点方式の2種類が主に採用されています。

セルワンバイワン方式とは

 

ID-POSにおいて、商品の販売数の累計が、発注単位を超えた時に販売数の累計だけ自動的に発注する仕組みです。
 

売れた分だけ補充する考え方なので、通常システムで需要予測は行いません。
 

ロジックが単純なので、まず自動発注を導入しようという時によく用いられる方式です。
 

筆者が30年弱前にドラッグストア大手ココカラファインの前身であるセイジョー(まだ50店舗強でした)に入社した時には、すでに単純なセルワンバイワンの自動発注システムが導入されていました。紙製品など日毎の需要変動が激しい商品は手動発注でした。

 

セルワンバイワン方式の長所として、作業時間の短縮というメリットの他に、売れた分だけ補充されるので、手動発注と比べると発注モレによる欠品も少なくなります。
 

また、後述の発注点補充点方式よりもロジックが単純なので、店舗従業員教育を含めた導入コストが低いです。

 

短所としては、主に需要低下した商品の過剰在庫です。需要が増えたときは棚に欠品が発生するので、補充発注をすることで在庫を積み増しします。売れているときはこれで良いのですが、積み増しした後に売れ行きが落ちた場合も売れるたびに自動発注がかかるので在庫が過剰な状態になるのです。
 

これを防ぐためには、通常の積み増し発注の他に、手動発注分の数だけは自動発注がかからない機能開発と運用使い分けが必要です。長期の需要増加には通常の在庫積み増しを行い、一時的な需要増加と判断した時には、自動発注がかからない手動発注を行うわけです。さらに、需要低下を店舗が気づいたときに一定数売れるまで自動発注をオフにする機能(一般にマイナス発注と呼びます)も必須です。
 

もう一つの短所として、売り切り終了にしたかった商品を設定(自動発注の解除)忘れしてしまい再入荷することがあります。運用の課題ですが、現実には多頻度で発生しています。

 

セルワンバイワン方式で発注単位を小さく設定していると、少しずつでも毎日のように売れている商品ならば、発注日ごとに必ず発注がかかってしまい、店舗での品出しの手間が増えますし、ベンダーや自社物流センターでの物流効率の低下をもたらします。
 

一般に小売業チェーンにおいて、店舗ごとの売上のバラツキは大きなものです。全店共通の設定では効率が悪いので、発注単位は店毎、もしくは売上規模グループ毎に設定できる必要があります。
 

なお、自動発注における発注単位は上述の定量発注方式における発注点と同意なので、セルワンバイワン方式を発注点方式と呼ぶシステムベンダーも存在します。

発注点補充点方式とは

発注点補充点方式は、発注点を下回ったら補充点までの量を発注する方式です。発注点を設定することでセルワンバイワンに比較して納品の頻度を最適化することができます。

例えば、販売日の翌々日にベンダーから物流センターに納品される場合、在庫6ヶの商品が月曜に1ヶ、火曜に2ヶ、木曜に1ヶ売れたとします。これをセルワンバイワンと発注点補充点(仮に補充点6、発注点5とする)で比較すると、

自動発注方式比較の表
自動発注方式による発注と在庫の違い

となり、同じ商品が前者で週3回、後者で週1回納品されることになります。ベンダーから入庫した商品を棚に入れる作業において、棚まで到達する時間が最もかかり、そこで1ヶ並べるか3ヶ並べるかは数秒しか違いません。
納品頻度が最適化されることで短縮される作業時間は売上げが大きいほどに大きくなります。
これはベンダー倉庫においても同様であり、1回に納品する商品の種類数をコントロールすることでベンダーのコストを最小化することができ、Win-Winの関係になります。
発注点補充点方式においては、売れ筋商品の補充点と発注点の差を大きくすることで納品頻度を最適化することができます。また、補充点=発注点とするとセルワンバイワンと同じ挙動になりますので、作業コストも考慮するのであれば発注点補充点方式の導入をオススメします。

補充点発注点方式においても、需要の変化に合わせた調整は必要です。上述のようにAIなどで需要予測の精度が上がると、手動調整が最低限度で済むようになります。
機会損失と過剰在庫を減らすためには、多忙な店舗任せにせず、本部のサポートが肝要です。

自動発注の調整は、地味なノウハウではありますが、細部重視で実行するかどうかが収益を分けます。

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