新型コロナウィルス騒動の飲食業への影響をカクヤスの業績から試算してみた

 流通含めた経済に多大な影響が出ている新型コロナウィルス騒動。
 小売・飲食各企業発信の業績情報からは、目に見えている影響と意外な影響の大小が垣間見えます。
 日本国内業務用酒類販売のNo.1企業である株式会社カクヤスのIR(ファクト・データ)から推測できる情報を知識に昇華させていきます。

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カクヤスとは

 2019年に東証2部上場した酒類販売の小売業で、業務向けBtoB宅配と一般消費者向け店頭販売および宅配を主業とする企業で、かつてオフィスディスカウントの黒船といわれたオフィス・デポ・ジャパンも子会社に持つ、年商1,000億円強の企業です。

 なお、オフィス・デポは世界60カ国以上に販売網を展開している世界最大の文具・オフィス製品ディスカウントストア・チェーンですが、現在日本国内に店舗はありません。二十数年前にドラッグストアを起業する際、五反田TOCのオフィス・デポで文具をまとめ買いした私は少し寂しさを感じます。

 カクヤスは東京都23区・一部四部、神奈川県一部、大阪府一部で展開しているので、それ以外の方は会社案内をご確認ください。

宅配×店舗+B2B×B2Cのビジネスモデルが出来た経緯

 以前、現社長(3代目)の佐藤順一氏の講演を聴いたことがあり、その記憶から書きます。

1.酒類規制緩和で安売り競争にのったが、利益が出ない

2.安売りを抑えて、送料無料宅配に着手

3.BtoC宅配を増やしても売上は上がるが、利益が出ない

4.店舗からの宅配範囲を1.2kmに見直し、その配達範囲を元に出店計画をしき、23区を網羅する戦略に変更

5.売上と利益率のバランスは最適化できた。しかし、まだ赤字

6.先代、先々代時代(規制緩和以前)は御用聞きが大きな事業だったことから、BtoBに注力

収益性大幅改善。

 このビジネスの肝は2つです。

カクヤスビジネスモデルの肝

1.店舗在庫宅配範囲が1.2km

 配達範囲を各店から半径1.2kmとしたのは理由があります。
 当初東京都北区にある基幹店から1km圏内で宅配をはじめたところ、商圏外の人から注文したいという声を多く聞いたので広げた。しかし、遠くなるほど宅配に時間がかかり、宅配費用が利益を上回る。
 とはいえ、1km圏内の顧客では商圏売上が足りないということで、仮説と検証を繰り返した結果、1.2kmが店舗からの適正な宅配になったということです。他にも受注平準化を図るための工夫なども凝らされています。

 逆に言うと、考え抜いて工夫を凝らしても、店舗在庫利用通販(EC/電話・FAX)の自社デリバリー収益化可能範囲は「隣の青い芝生を見ている経営者が想像するより」狭いということです。

2.BtoB+BtoCのビジネス

酒を最終消費する「場」はどこでしょうか?

 家庭はもちろんですが、居酒屋をはじめとした外食の比率が大きいですね。

飲食店1店舗あたりの売上は大きいでしょうか?

 平成28年厚労省の数値で
飲食店営業の許可を受けた施設数は全国で1,424,920施設、
喫茶店営業の許可を受けた施設数は全国で220,138施設であり、
10年前(平成18年3月末)と比較してそれぞれ78,539施設の減、68,950施設の減となっています。
 この時点で日本の人口減少と大手チェーン集約を実感できる数値ですが、現在の新型コロナウィルス騒動で10万単位の飲食店が閉店に追い込まれる可能性が高い状況です。 平成27年の1世帯あたり(2人以上の世帯)の外食支出は169,626円であり、この金額が大幅に減るわけですので。
 さて、平成27年の飲食店営業及び喫茶店営業の市場規模は160,108億円です。

 市場規模だけ見ると大きいのですが、
 さきほどの施設数で割ると、1施設あたりの年商は
160,108億円/(1,424,920+220,138)=0.097億円=970万円
です。月商80万円から家賃・人件費・食材・光熱費等を支払うビジネスなので、一般的な小売業よりも売上高は小さいです。
 そして、これは超人気店や大手チェーンも含めた平均値であって、中央値ではありません。ほとんどの飲食店は月商80万円よりもはるかに少ない売上高なのです。

 とはいえ、16兆円市場の一定比率はアルコール飲料ですので、市場自体は大きいです。しかし、1店舗売上が小さく過半数が個人経営(平成21年で55%が個人事業主)ですので、大手小売業のようにセンター一括夜間納品等はありません。
 この酒の仕入れという機会(ChanceというよりOpportunity)をカクヤスは掴んだわけです。

新型コロナウィルス前後の業績(速報値)

ビフォアコロナ

 1月から2月中盤まではビフォアコロナの業績といえます。好業績ですね。

アフターコロナ

 2月の家庭用(B2C)業績が異常値と言って良い数値になっています。店長含めた小売業経営経験があるとわかりますが、前年トントンだったものが突然前年比108.1%になるのは青天の霹靂というレベルの事態です。
 ただし、業務用(B2B)の業績に陰りが見えますね。

 そして、3月前半は業務用(B2B)売上高が前年比75.4%と異常事態になっています。この異常値の要因はもちろん新型コロナウィルス騒動です。
 「騒動」と書いているのは1万人に1人も罹患していない致死率数%(つまり数百万人に1人)の疾患に対して、の反応の大きさがSNS含めた情報化と国際化によって拡大されているという側面が大きいからですが、ここでは深く触れません。ここで言いたいのは、新型コロナウィルスによる体調不良(罹患率の高い普通のコロナウィルスも含めた風邪や、より致死率の高いインフルエンザで従業員減や需要減)で売上が下がったのではないということです。

B2BとB2Cの事業インパクト

 さきほどの速報値は前年比のみで、実際の収益額や比率をミスリードする可能性があります。
 次に、第3四半期の業績から各事業の規模を見ていきます。

 カクヤス社の2020年3月期第3四半期報告書(つまり、2019年4月~2019年12月の業績)による(抜粋して端折っています)と、

第3四半期
売上高 84,225百万円
 業務用 59,995百万円
  前年比 客数↑ 客単価↓

 宅配    12,303百万円
  前年比 客数↑ 客単価↓
 POS  11,647百万円
  前年比 客数↓ 客単価↓

 ということです。

B2B宅配   71%強
B2C宅配   15%弱
B2C店舗販売 14%弱

 というビジネスモデルです。2.8億ほどはその他事業等によるものでしょう。
 いかに業務用酒類宅配が主要ビジネスかがわかります。

 そして、年商1,000億円を超えるカクヤス社の主要ビジネスであるB2B宅配が3月前半は前年比75.4%だったという事実がいかに大きいかが、ここまで見たところで理解できたかと思います。

飲食店の月商が25%低下すると、飲食店の経営数値はどうなる?

 カクヤス社が宅配するB2B先の過半数は個人事業主の飲食店です。単純計算でその店が元々月商80万円ということは、月商が20万円下がり60万円になったということです。
 経産省の平均値ですが、飲食店の営業利益率は8.6%です。元々月の儲けである営業利益高は8万円位しかありません。ここから20万円売上高が下がっても家賃や冷蔵設備含めたローンは払わなければなりませんし、人件費もかんたんには調整出来ません。また、食材を絞りすぎると、せっかく来ていただいた有難いお客様をがっかりさせることになりますのでロスが増えます。
 ほとんどの飲食店は赤字になったといえます。
 そして、これは平均値であって中央値ではないので、過半数の飲食店はもっと厳しい状況です。売上高半減以上も珍しくないでしょう。

 おそらく、外出禁止ムードの高まった3月下旬以降はこれよりも厳しい状況に追い込まれているはずです。
 かつての新型インフルエンザ他の騒動のように収束する日が早くきますように…
 そして、外出可能になったら、自分の好きな店に積極的に顔を出しましょう。

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