保険調剤薬局の現状と医療の未来予想

日本の保険調剤薬局の現状

※以下、概算です。「約」は端折っています。
日本の保険調剤医療費は厚生労働省資料(2019年)によると、7.7兆円です。
また、日本薬剤師会資料(2020年2月分推測値)によると、医薬分業率は77.3%ですので、薬局が受け取っている医療費は6.0兆円です。
年間処方箋枚数は厚生労働省資料によると、8.4億枚なので、
平均処方箋単価は7,100円ということになります。

薬局数は厚生労働省資料(2018年)によると6万軒なので、
1店舗あたりの年間処方箋調剤金額は1.0億円
1店舗あたりの年間処方箋受付枚数は1.4万枚
ということになります。

なお、薬剤師は32万人いて、
 薬局18万
 医療機関6万
 医薬品関連4万
 大学・衛生1万
 その他3万
です。蛇足ですが、私は1割弱の3万人のうちの1人です。
さて、薬局が6万軒あるので、1薬局あたりの薬剤師数は3名ということになりますが、参考になる資料がないのですが、平均としては正社員2名、パートタイマー1名というところでしょうか。3名で年間1.4万枚なので、250日稼働で毎日20枚前後の処方箋に対応していることになります。
これはあくまで平均値であって、肌感としては一人あたり1日一桁の薬局と30枚強の薬局の分布が多い印象です。

日本最大手調剤チェーンの現状

2020年時点で最大手の調剤チェーンは株式会社アインホールディングスです。
同社の調剤事業は2020年決算短信によると、
調剤事業売上0.26兆円なので、日本の保険調剤におけるシェア4.3%です。
処方箋受付枚数は0.23億枚なので、日本の保険調剤におけるシェア2.7%です。
最大手でこのシェアですので、保険調剤薬局事業が分散している状況が明確にわかります。

薬局店舗数は1,088店舗なので、
1店舗あたりの年間処方箋調剤金額は2.4億円
1店舗あたりの年間処方箋受付枚数は2.1万枚
ということになります。
薬局平均に比べて売上2.4倍、処方箋枚数1.5倍です。大型病院門前の店舗があることが大きい要素ですね。売上が2.4倍ということは平均的な薬局と比べて2.4倍以上の費用を使うことが可能となります。
当然年商1億円の個人経営薬局と年商2,600億円の最大手チェーンでは、医療用医薬品はもちろん機器・備品類の仕入れ価格も有利となりますし、1薬局あたりの売上が大きいことで設備等投資の償却も容易になります。

世界最大手調剤薬局Walgreen

2020年時点で世界最大手の調剤薬局はWalgreens Boots Alliance, Inc.の米事業Walgreen Companyです。
同社の2020年年次報告書によると、米国リテールファーマシー事業だけで1,077億ドル(11兆円)の売上です。薬局事業の売上が75%、小売事業の売上が25%なので、薬局事業は8.3兆円です。
アメリカではインフルエンザをはじめとしたワクチンの接種等も薬剤師が可能ですので、そういった事業を含みますし、処方箋枚数にも予防接種がカウントされています。
9,021店舗展開していて、店舗から5マイル(8km)以内に米国民の78%が居住しているという巨大チェーンですので、年間の処方箋枚数は12億枚です。(30日換算、予防接種込)

Walgreens(店舗名はアポストロフィなしでsが付きます)における
1店舗あたりの年間処方箋調剤金額は9.2億円
1店舗あたりの年間処方箋受付枚数は13.3万枚
ということになります。
日本の薬局と比較して約10倍の規模というわけです。

ウォルグリーンとアインHDの比較


国民医療費の現状

2018年度の国民医療費は43兆3,949億円です。
内訳は主に
 医科30.8兆
  入院16.2兆
  外来14.6兆
  有床医療機関0.7万軒、無床医療機関9.5万軒
 歯科2.9兆
  歯科診療所6.9万(歯科医療機関総数17.9万)
  ※日本歯科医師会2016年数値の概算
 薬局7.8兆
です。当然ながら、歯科は保険診療だけでは成り立ちません。

国民医療費推移

2017年のデータで、65歳以上の医療費が25.9兆円、65歳未満が17.1兆円ということですので、およそ6割が高齢者の医療費です。
高齢化の進む日本では、国民医療費の高騰が大きな課題となっています。

国民医療費高騰を抑えるには

1.セルフメディケーション

このような状況で国民医療費を抑えるためには、2つの手段があります。
一つはセルフメディケーションです。

セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と世界保健機関(WHO)は定義しています。
軽度の不調で医療機関に行かないで済むようになったり、不調そのものが起きにくい健康管理および体調管理をすることで、生活者の負担が減りますし、国民医療費負担も減るわけです。

セルフメディケーションの難しさ

例えば、咳止めの市販薬は約400種類あります。そのうちの9割以上の効能・効果には「せき・たん」と書かれています。

せき、たんの薬

咳で困っているときに、薬の知識がない一般の生活者が自分に適切な薬を選ぶことが出来るでしょうか?

例えば、市販の咳止め薬の多くには、リン酸ジヒドロコデインやリン酸コデインという麻薬系のせきどめ成分が配合されており、これらには便秘の副作用があります。
便秘がちな女性には合わない薬が多いわけです。
こういったセルフメディケーションのアドバイスをドラッグストアや保険調剤薬局の薬剤師が行うと、その方の体質・生活に合った薬を選ぶことが出来るようになります。

私は前職で、友達以上医者未満のセルフメディケーション手助けがWebでもできるようにと、薬剤師が市販薬を徹底的に調べて、ご自分で選べるようなコンテンツを作っていました。オンラインでもできることはあります。

ビッグデータで“おもてなし”:「Tableau」と「Redshift」を導入、ココカラファインの狙いとは? ITmedia エンタープライズhttps://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1702/08/news012.html

2.在宅医療

在宅医療には2つの側面があります。
一つは、足腰の老化で外来通院が難しくなった高齢者が自宅で受けられる医療という面です。

もう一つは、入院した患者が急性期を過ぎたら自宅でのケアに切り替えるという面です。目的としては通常生活への復帰と次の急性期患者のために入院ベッドを空けることです。
前述したように、医科医療費における入院医療費は半分以上の割合をしめます。入院の総数を減らすことで医療費全体を抑制することになります。

世界有数の超高齢社会において、高齢者一人ひとりへのサポートと高齢化に連動した国民医療費高騰の抑制という2面から在宅医療・在宅介護の必要性は増え続けます。

3.医療のオンライン化

オンライン診療とは、スマートフォンやタブレットなどを用いて、病院の予約から決済までをインターネット上で行う診察・治療方法です。
医院に足を運び、診察してもらう方法が対面診療で、ビデオ通話のように情報通信機器を通して診察する方法がオンライン診療です。

なお、2021年1月時点で初診から オンライン診療可能なのは、禁煙外来やAGAなどごく一部です。再診から オンライン診療可能なものも慢性疾患・在宅診療などの一部に限られます。
とはいえ、コロナ禍で時限的特例措置として拡大された経緯もあり、今後増加することでしょう。

オンライン診療やオンライン調剤が一般的になると、地方など人口減により医療機関経営が成り立たなくなっても、都市部の医療機関で対応することができるものも多くなり、在宅医療と組み合わせることで地域の基幹病院の負担を軽減することが可能になるかもしれません。

セルフメディケーションと在宅医療をオンライン医療が結ぶ未来

医療情報の電子化

厚労省のデータヘルス集中改革プランでは、2022年夏までに
(1)全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大
オンライン資格確認等を利用して明細書記載の患者情報や薬剤情報、特定健診情報を全国の医療機関や薬局等に提供できるほか、救急時に患者の意思が確認できない場合も情報を閲覧することが可能になる。
(2)電子処方箋の仕組みの構築
(3)自身の保健医療情報を活用できる仕組みの拡大

という方針を打ち出しています。

なお、資格の確認はマイナンバーカードだけでなく、健康保険証も毎度窓口で確認し、レセプト返戻の負担がなくなる形でやっていく。マイナンバーカードの場合、患者と機械の間でやり取りするので、医療機関に負担はない。とのことです。
電子処方箋の運営主体は支払基金と国保中央会になります。
検診情報や学校健診情報も2022年度からマイナポータルにまずは法定項目から連携していくということです。

※2020年10月21日 厚労省は、マイナンバーカードを活用した医療機関への情報提供は、患者側が提供情報を選別することはできず、全て提供するかしないかのオールオアナッシングであると説明。医療機関には薬剤情報と特定健診情報、薬局には薬剤情報を、受診時のマイナンバーカードを利用した本人確認を通じて提供する方向だが、薬局にも特定健診情報を…という意見もあり、調整中。

電子処方箋のメリット

電子処方箋のメリットは大きく分けて3つあります。

1.医療機関と薬局の情報共有が容易になる

医療機関・薬局間で情報共有が進めば、医薬品の相互作用やアレルギー情報なども管理できるようになり、国民の医薬品使用の安全性の確保につながる。また、薬局で処方内容の照会や後発医薬品への変更などを含む調剤業務が行われた際に、その結果が医療機関にフィードバックされることにより、次の処方情報の作成に有効利用できる。

2.偽造・再利用の防止、ミスの減少

紙の場合、カラーコピーなどによる偽造や再利用が問題になるケースもあったが、電子処方箋では不正使用を防止できる。さらに薬局では入力作業の簡素化や誤入力の防止、保管スペースの削減効果

3.遠隔診療時の処方箋の受け取りが簡易化される

処方箋の原本を電子的に受け取れるようになるため、医療機関・薬局や患者の負担を軽減する。

超高齢社会の医療を支える3本の矢はセルフメディケーション、在宅医療・介護と医療のオンライン化

超高齢社会医療の鍵は医療のオンライン化

日本においては、ますますの超高齢社会と同時に生産年齢の減少が起こります。高齢者は増え続けるのに、それを支える若い世代が減少するわけです。
当然ながら、医療費・介護費は増え続けていきます。経済成長が停滞している日本において、増え続ける医療費・介護費を国が払い続けることはできなくなります。
最終的には国民皆保険制度の維持ができなくなるでしょう。

そうならないために必要なのは、前述したセルフメディケーションと在宅医療・介護です。これらをより促進する必用があります。
また、オンライン診療も含めた医療のオンライン化がこれらも含めた医療・介護の効率化の鍵となります。

近未来の薬局の役割は

セルフメディケーションへの取組み

こういった前提に立つと、未来の薬局の姿が見えてきます。
現状、セルフメディケーションに注力している保険調剤薬局はごくごく一部です。このまま取り組まないでいるならば、ドラッグストア企業に取り込まれていくでしょう。

在宅調剤のために薬局数集約

また、薬局が6万軒に分散し1店舗あたりの薬剤師数が少ないことで、在宅医療に取り組んでいる薬局は2割もありませんし、受付処方箋枚数も処方箋全体の1%程度です。
国の調剤報酬改定でも、在宅調剤の加算と門前薬局の減算が繰り返しされてきましたが、この動きは当然止まりません。
いずれ、在宅医療に取り組まない薬局は淘汰されるでしょう。
1店舗あたりの薬剤師数を確保するために国として薬局の数を集約する動きになることは必然です。

オンライン化への対応

オンライン化へ対応するためには、まずアナログのデジタル化が必要です。
電子薬歴、EDI伝票、在庫管理などのデジタル化が出来ていない薬局は早期に対応する必要があります。

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