調剤薬局におけるシステムと電子薬歴|保険薬局DXの基礎知識

目次

調剤薬局では、業務効率化や安全管理のため多数のITシステムや機器が導入されています。それぞれに役割があり相互連携することで薬局DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。主要なシステムとその機能は以下の通りです。

電子薬歴システム(電子薬剤服用歴管理システム)

患者の薬剤服用歴(薬歴)を電子的に記録・管理するシステムです。紙の薬歴に代わり、処方内容や服薬指導内容、副作用歴、アレルギー情報などをデータベースに蓄積します。薬歴の検索性向上や複数スタッフ間での同時参照、情報共有を可能にし、在宅訪問時もタブレットで閲覧・入力できるなど利便性が高いです。

レセコン(レセプトコンピューター)

処方箋受付から会計・レセプト請求までを行う保険調剤薬局の基本となるシステムです。患者の受付登録、処方内容の入力、保険点数の自動計算、会計処理(領収書発行)から、月次の診療報酬明細書(レセプト)作成までを担います。調剤薬局業務の中核であり、調剤報酬請求の正確化・効率化に不可欠です。

電子お薬手帳

患者さんが持つお薬手帳のデジタル版で、スマートフォンアプリ等で提供されます。従来紙に記録していた薬剤情報を電子化し、患者自身が服薬履歴や健康情報(血圧・血糖値など)を管理できます。許可すれば、薬局や医師とも情報共有でき、服薬アドヒアランス向上や重複投薬防止に寄与します。

全自動分包機

錠剤や散剤を自動で一包化する調剤機器です。レセコンと連動している場合は、処方箋データに基づき、指示された用量・日数分の薬剤を一回分ずつ袋詰め(分包)します。手作業による一包化の手間とミスを減らし、高齢者等のみやすい形で薬を提供できます。近年は分包時にカメラで薬剤を撮影し鑑査を支援するモデルも登場しています。

在庫管理システム

薬局内の医薬品在庫を適正に管理するシステムです。在庫数や有効期限の管理、発注支援、棚卸業務の効率化などを行います。過剰在庫や欠品を防ぎ、需要予測に基づく自動発注機能を持つものもあります。複数店舗間で在庫情報を共有し、余剰在庫の融通などを図るチェーン向け機能を備える製品もあります。

調剤監査システム

調剤過誤防止のためのシステムです。バーコードや画像認識、重量センサーなどで調剤した薬剤が処方箋の指示通りかを自動チェックします。例えばピッキング時に薬品名や数量を記録し、処方せんと照合してミスを検知します。調剤過誤の未然防止と記録保存により、薬剤師の負担軽減と安全性向上に役立ちます。

薬局経営支援システム

チェーン薬局の本部業務を支えるシステムです。各店舗の売上や処方件数、在庫、人件費など様々なデータを本部で収集・統合し、経営状況の可視化や分析を行います。本部から各店への指示伝達、実績モニタリングを効率化し、チェーン全体での戦略立案をサポートします。

チャットツール

薬局内外のコミュニケーションにチャットアプリを活用するケースが増えています。社内では情報共有や連絡にビジネス版LINE (LINE WORKS)を導入しスタッフ間の連携を強化した事例があります。対患者向けにはLINE公式アカウントを用いて、処方箋事前送信の受付や調剤完了通知、服薬期間中のフォローアップなどを行う取り組みもあります。これにより患者の待ち時間短縮や満足度向上に繋がっています。

POSレジ

調剤薬局向けのPOSレジスターは非課税が主の調剤に加えて物販も兼用する必要があります。処方箋による調剤分の会計と市販薬・雑貨販売の会計を合算し、キャッシュレス決済にも対応するなど薬局特有の会計業務に適合したものです。レセコンと連動し保険種別ごとの売上集計や領収証発行を行い、軽減税率やセルフメディケーション税制にも対応する機能が求められます。調剤薬局専用POSとしては、レセコン連携や自動釣銭機接続を特徴とする製品も見られます。

以上のように、調剤薬局では調剤・投薬業務から経営管理まで多様なシステムが使われており、それぞれが機能を分担しつつ連携することで効率的かつ安全な運営を実現しています。

電子薬歴システムの普及と導入背景

普及率の推移

調剤薬局における電子薬歴の導入率は近年大きく伸びました。厚生労働省の2019年調査では、薬歴管理の電子化を行っている薬局は全体の73.9%にのぼります。その後も毎年導入が進み、コンサル企業の推計によれば2025年には約90.8%、2030年には93.1%と、ほぼ全ての調剤薬局で電子薬歴が使われる見通しです。つまり現在約7~8割の薬局が電子薬歴を導入済みで、今後数年でほぼ標準的なインフラになると考えられています。

普及を後押しした要因

普及の背景にはいくつかの要因があります。まず、行政の推進が大きいです。厚生労働省は「かかりつけ薬剤師・薬局機能」の充実を図る中で、薬歴等の情報電子化を積極的に促してきました。実際、厚労省は薬局に電子薬歴導入を検討するよう推奨しており、薬局DX(デジタル化)の一環として補助金の提供や事例紹介を行っています。

また、法制度・診療報酬の改定も転機となりました。2020年9月の薬機法改正でオンライン服薬指導が解禁されるなど、デジタル技術を活用した服薬ケアが可能になりました。これにより在宅医療や遠隔対応で電子薬歴の必要性が高まっています。

さらに2022年8月から電子処方箋制度が開始され、処方箋情報の電子交換が進む見込まれています。電子処方箋に対応するには薬局側でも電子薬歴やクラウドを活用した情報管理が不可欠となるため、制度面から電子薬歴導入の必要性が一層認識されました。診療報酬面では2022年度改定で服薬期間中のフォローアップ(後述)が評価されるようになり、タイムリーな記録・情報共有ができる電子薬歴の価値が上がっています。

チェーンと個店での導入状況

企業規模による導入格差も見られます。一般に、大手チェーン薬局ほどシステム導入に積極的で、電子薬歴や電子処方箋への対応率が高い傾向があります。実際、店舗数が多い薬局ほど電子処方箋運用開始率が高く、店舗数が少ない薬局でも3分の1以上は既に運用を始めているとの調査があります。

大手では本部主導で統一システムを導入し全店展開するため一気に普及します。一方、個人経営の薬局ではコスト負担や人員のITリテラシーの問題から導入が遅れがちで、未だ紙薬歴のままの所も一定数残っています。しかしそのような小規模薬局でも、電子薬歴の利点(業務効率化や監査対策)や周囲の導入状況を受け、徐々に導入が進んでいる状況です。

このように電子薬歴の普及は、行政からの後押し(推奨・補助)、制度改正によるニーズの高まり、そして業務上のメリットの認知によって急速に進展してきました。今後も電子処方箋の普及やさらなるIT化の波により、未導入の薬局も含め電子薬歴は業界標準となっていくと考えられます。

電子薬歴システムのメリット・デメリット

紙薬歴との比較した電子薬歴のメリット

業務効率の向上

電子化する最大の利点は記録業務の効率化です。紙薬歴のようにファイルを探し回る手間がなくなり、患者来局時に瞬時に過去の薬歴を検索できます。複数の薬剤師が同時に同一患者の薬歴を閲覧・編集できるため、例えば調剤と服薬指導を別のスタッフが並行して行うことも可能です。
また、入力の迅速化もメリットです。キーボード入力に慣れれば手書きより格段に早く記録でき、定型文テンプレートや音声入力に対応したシステムでは記載時間を大幅短縮できます。その結果、薬剤師が患者対応に割ける時間を増やす効果が期待できます。

情報の正確性・安全性

電子薬歴では服薬情報のチェック機能が強みです。処方内容を自動照合し、併用禁忌や重複投与の可能性をリアルタイムに警告したり、前回処方からの変更点(剤形・用量など)を画面上にハイライト表示して見落としを防止したりできます。紙では人間の目に頼っていた確認作業をシステムが支援し、ヒューマンエラーの削減に寄与します。
また薬歴データを蓄積することで、患者毎の投薬傾向の分析や重複処方の発見も容易になります。さらにセキュリティ面でも、アクセス権限の設定やパスワード保護で第三者の不正閲覧を防ぎ、災害時もクラウド型ならデータ消失リスクを低減できます。紙薬歴は紛失・破損のリスクがありますが、電子化により薬歴の紛失は起こらなくなります。

業務負担の軽減機能

電子薬歴システムには薬剤師の記録負担を減らす様々な工夫が盛り込まれています。例えば入力漏れを防ぐ仕組みや、自動で文章を提案する機能があります。実際に、一部の電子薬歴では未記載の薬歴があるとアラートを出す、グループ店舗間で患者情報を共有して重複入力を省く、といった機能が搭載されています。服薬指導の際に定型文をボタン一つで挿入したり、音声認識で指導内容を記録したりできる製品もあり、こうした機能が薬歴記入の効率を高めています。
また調剤監査システムやお薬手帳アプリとも連携し、バーコード読み取りで薬歴へ投薬記録を自動取り込みするなど二重入力を省く仕組みも広がっています。

紙薬歴との比較した電子薬歴のデメリット

コスト・導入ハードル

デメリットとしては、まず導入コストが挙げられます。電子薬歴システムの導入にはパソコンやサーバ、ソフトウェアライセンスの購入費用がかかり、一般に100万円~200万円程度の初期費用が発生します。さらに毎月の保守・クラウド利用料として1万~3万円程度のランニングコストが必要です。
紙薬歴自体は低コストなだけに、この投資負担が小規模薬局には躊躇されるポイントです。

習熟の必要性

習熟の必要性もデメリットです。ベテラン薬剤師の中にはタイピングをはじめとしたパソコン操作に不慣れな方もおり、新システムの使い方を覚えるのに時間がかかります。導入当初は入力に手間取り逆に残業が増えることもあります。

以上をまとめると、電子薬歴は紙と比べ業務の効率性・正確性・情報活用面で大きなメリットがある反面、導入・運用コストと習熟負担がデメリットと言えます。しかし昨今は費用対効果でメリットが上回るとの認識が広がり、国も「薬局は電子薬歴導入を検討すべき」とするほど推奨されています。紙薬歴では対応しきれない高度なチェック機能やデータ分析機能も備わりつつあり、電子薬歴は単なる記録ツールから「薬局経営のパートナー」へと進化しているとも評されています。

一体型 vs 分離型の比較

電子薬歴システムは大きく分けて、レセコンと一体化した一体型と、レセコンとは独立してクラウド上で動作する分離型があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、薬局の事情に合わせた選択が重要です。

クラウド型と自称する電子薬歴システムの多くは分離型です。しかしながら、一体型にもクラウド技術を活用したものがあるので、ここでは一体型と分離型に区分します。

レセコン一体型は1台のPCで調剤会計(レセコン機能)と薬歴記録の両方を行える統合システムです。
メリットはシームレスな操作性とデータ連携の確実さです。会計入力した処方情報がそのまま薬歴画面に反映されるなど、一元的に扱えるため別システム間のデータ齟齬が起きにくく、操作端末も一箇所で済みます。またメーカーサポートも一括で対応可能です。さらに初期導入費用も比較的安価な傾向があります。
デメリットは端末の増設がしにくいことです。基本的に調剤台に据え置いたPCで操作するため、人員が増えても端末を共有しなければならず、「薬歴記入待ち」のような状況が発生しがちです。複数台導入しようとするとライセンス追加や機器費用が嵩み、コスト増になります。また昨今求められる在宅訪問先での薬歴入力や、店舗外からの閲覧といったニーズにはオンプレ型では対応しづらいので、一体型でもクラウドタイプの薬歴機能があるものを選ぶのが望ましいです。

分離型は、薬歴機能をクラウドサービスとして提供し、レセコンとは別個に運用するタイプです。この場合レセコンと電子薬歴はメーカーが異なることもあります。
メリットは端末や場所の柔軟性です。インターネット経由でどこからでもアクセスでき、調剤室のPCだけでなくタブレットやノートPCから記録できます。店舗にスペースがなくともタブレットで薬歴入力でき、在宅先から直接クラウド薬歴に記録することも可能です。

また、IT企業の立場からすると、電子薬歴だけで一体型からスイッチしてもらうためには、一体型よりも優れた機能を持っている必要があります。具体的には薬歴の入力を効率化することで残業時間を減らす効果をうたえるかどうかが薬局を経営する導入意思決定者にとっては重要です。今後、生成AIを活用したものが増えてくるでしょう。
デメリットとしてはリアルタイム連携やサポート面の課題があります。レセコンと別メーカーの場合、処方情報の受け渡しにインターフェース連携が必要で、トラブル時に「レセコンと薬歴どちらの問題か」切り分けが難しいことがあります。最悪、問い合わせ時に両社間で責任のなすり合い(たらい回し)が起きる恐れもあります。

価格面では、一体型に比べ月額費用が高めですが、レセコン更新(通常5年毎)のタイミングで分離型に移行すると長期的には安く収まるケースもあります。


まとめると、薬歴入力の効率を重視するなら分離型、既存業務フローとの一貫性を重視するなら一体型という傾向があります。現在は両者の差は少しずつ埋まってきています。薬局の規模や働き方(在宅業務の有無、多店舗展開状況など)を踏まえ、最適なタイプを選定することが重要です。

レセコン連携の課題

電子薬歴とレセコンのデータ連携の仕組み

薬局業務では調剤入力(レセコン)と薬歴記録が密接に関連するため、両システムのデータ連携が不可欠です。レセコン一体型の場合は内部でデータが共有されるため特に問題なく情報連携できます。処方内容や患者情報は一度入力すれば会計と薬歴双方で参照され、改めて入力し直す必要はありません。

一方、レセコンと薬歴が分離している場合、連携のためのインターフェースが必要です。現在、多くはNSIPS(日本薬剤師会が定めた調剤システム間の情報共有仕様)やJAHIS(保健医療福祉情報システム工業会)の規約に則り、処方データや薬歴要素をやり取りしています。例えばレセコンから薬歴システムへは処方箋情報(薬品名・用量など)を送信し、薬歴側で服薬指導内容や疑義照会結果を入力後、それを再度レセコン側に送り調剤報酬請求に反映させる、といった双方向のデータ交換が行われます。

連携上の課題

分離型の場合、こうした連携にいくつかの課題があります。第一にリアルタイム性・一貫性の確保です。システム間連携が不十分だと、レセコンに入力した情報が薬歴に即時反映されなかったり、逆に薬歴に入力した服薬フォロー情報がレセコン側に反映されないことがあります。
実際、「電子薬歴の分離型だと取り決め(標準仕様)が無い場合、薬歴側からオンライン資格確認の情報を参照できない」「薬歴に入力した調剤結果をレセコンに再入力しないとオンライン資格確認システムに反映されない」など、二度手間が発生するケースがあります。データの二重入力や齟齬は現場の負担となり得ます。
第二にベンダー間の相性・責任の切り分けの問題があります。レセコンと薬歴が別メーカーだと、不具合発生時に原因の切り分けが難しく、サポート対応が遅れる懸念があります。「レセコンから送られるデータがおかしいのでは?」と薬歴メーカーに問い合わせても「レセコン側の問題では」とたらい回しにされる、といった事態です。このためサポート体制の評価や実績のある組み合わせかどうかが導入時の検討ポイントになります。

統合型と分離型での違い

統合型(同一メーカー)では上述のように基本的にスムーズな連携が可能です。一元管理によってリアルタイムにデータ同期され、患者待ち時間の中で処方入力~薬歴記載まで完結させる運用もしやすいです。

一方、分離型では連携プロトコルの標準化と進化がカギとなります。現在、厚労省とJAHISが中心となってレセコン-電子薬歴間の情報連携標準仕様の整備が進められており、異なるベンダー間でも調剤録や疑義照会結果などのデータ共有が円滑になることが期待されています。実現すれば、分離型でも統合型と遜色ないリアルタイム連携・データ整合性が確保されやすくなるでしょう。

現状の課題をまとめると、分離型ではデータ連携の手間とリスクが懸念点ですが、業界として標準化対応が進んでおり改善傾向にあります。一方、統合型はベンダーロックインの代償として安定した連携を享受できます。薬局としては、自社のIT環境やベンダーサポート力も勘案しつつ、こうした連携面の課題に対処したソリューションを選択する必要があります。

本部システムとの連携課題(チェーン薬局向け)

チェーン展開する薬局では、各店舗のデータを本部で集約・分析して経営に活かすことが重要です。電子薬歴を含む店舗システムと本部システムの連携には次のようなポイントと課題があります。

本部での経営管理・分析への活用

チェーン本部は売上や処方せん件数、在庫、顧客数など様々なKPIを常時把握し、経営判断に役立てます。本部向け経営支援システムを導入すれば、各店舗およびエリアブロック別の詳細な売上データ等を日々自動収集し、ダッシュボードでリアルタイムに確認できます。
これにより本部はタイムリーに各店の状況を把握し、意思決定や施策実行を迅速化できます。また薬歴データそのものも、個人情報管理を適切に行なった上であれば、本部での分析価値があります。
例えば服薬指導記録や患者フォロー状況をデータマイニングし、サービス品質の向上策を検討したり、ハイリスク患者の抽出に役立てたりできます。実際、一部のシステムではレセコン+薬歴データに基づくBIツールで患者動向や投薬傾向を分析できるようにしています。

店舗間・本部間でのデータ共有仕組み

チェーン薬局では患者が複数店舗を利用することもあり、個人情報管理と利用者個別の許可管理を適切に行なった上で店舗間で薬歴情報を共有できると利便性が高まります。クラウド電子薬歴を導入しているチェーンでは、グループ全店舗で患者薬歴を共有し、どの店舗でも過去の記録を参照できる仕組みを整えている例があります。また本部薬剤師が各店舗の薬歴を横断的に閲覧・管理できるサービスも登場しています。
例えばユニケ社のクラウド薬歴連携システム「P-CUBE + g」では、本部で全店の薬歴情報を一元管理することで「24時間の問い合わせ対応の効率化」「他店薬歴を参照した処方監査」「本部による薬歴マネジメント」が可能になるとされています。このように、本部が店舗の薬歴にアクセスできれば、夜間や休日に他店の患者から問い合わせがあった際も迅速に対応したり、店舗間で服薬指導のバラツキをチェックするといった応用ができます。

本部連携の課題

一方で、本部と店舗システムの連携には技術的・運用的課題も存在します。

チェーン統合やM&Aで店舗毎に異なるレセコン・薬歴を使っている場合、データ形式がバラバラで本部集約が困難です。このため多くのチェーンではシステム標準化を図りますが、切替にはコストと労力がかかります。

全店のデータをオンラインで本部サーバーに集約する場合、通信回線やサーバーに負荷がかかります。レスポンス遅延を避けるため、本部集約は一日数回のバッチ処理に留めているケースもあります。

薬歴データは個人情報の塊であり、本部でどこまで閲覧するか慎重な運用が必要です。患者さんのプライバシー保護やセキュリティの観点から、アクセス権限やログ管理を適切に設定しなければなりません。例えば本部の特定担当者だけが特定の部屋に設置した特定のPCで個別薬歴を見られるよう制限し、分析用途の場合は匿名化・集計化したデータのみ利用するなどの対策が求められます。

総合評価

チェーン薬局では、本部-店舗間のデータ連携により経営の効率化とサービス向上が期待できますが、実現するにはシステム統合と適切なデータガバナンスが不可欠です。
経営支援システムはこれら課題に対応した設計の必要性が高まっています。特に既存本部業務(会計・人事等)とのデータ連携に関しては、調剤以外の物販を重要視したものが必要になるでしょう。今後ますますチェーン薬局の大型化・統合が進む中で、本部システムと現場システムの円滑な連携は競争力を左右する重要要素となるでしょう。

薬局業界のシステム費用と売上比率

各システムの導入・運用コスト

薬局システムには様々な種類があり、それぞれ導入費用とランニングコストが発生します。主なものについて相場を整理します

レセコン

レセプトコンピュータ本体の価格はメーカーにより様々ですが、一般に数百万円規模の初期費用がかかります(正確な相場は非公開が多い)。筆者の感覚ですと電子薬歴一体型で200万円中盤〜300万円です。
レセコンは5年ごとの更新が目安で、その際にハード更新費用が発生します。保守契約料(月額数万円)が必要で、法改正(診療報酬改定)のたびにプログラム更新料が別途請求されることもあります。
近年はクラウド型レセコン(サブスクリプション型)が登場し、初期費用ゼロ・月額定額で利用できるプランも増えています。薬局の規模に応じて最適なプランを選ぶことが重要です。

電子薬歴システム

導入時に必要なハード・ソフト費用はおおむね数十万~200万円程度です。この中にはソフトウェアライセンス料、PCやサーバ等の機器代、初期設定費用などが含まれます。クラウド型の場合は初期費用が抑えられる傾向にあります。運用コストとしては月額利用料・保守料が発生し、おおむね1~3万円/月程度が相場です。複数端末利用やオプション機能追加で月額費用が増える場合もあります。

調剤機器類

全自動分包機や監査システムなどの機器は高価なものが多いです。レセコンと連動した全自動錠剤分包機は機種によりますが数百万円から高いものでは1000万円前後する場合もあります。枚数が非常に多い薬局ではさらに多くの薬のピックアップが自動化できるロボットの導入も視野に入ります。
画像鑑査装置(監査システム)は数十~200万円程度が目安です。これら機器は減価償却しながら長期的に使う資産であり、保守点検費用も別途かかります。またリース契約で月額払いとしている薬局もあります。一般に機器類の実態価格は大手チェーンが大幅に安く導入していることがあります。
監査システムは高額ですが、薬剤師が1人勤務する時間が多い小規模な薬局ではニーズが高く、採用や離職防止にも寄与するため、大手チェーンでなくても導入されることはあります。

その他システム

在庫管理システムや経営支援システムは、単体で導入する場合は数十万~百万円規模の初期費用+月額数万の利用料というケースが多いです。在庫管理はPOSレジやレセコンに付随機能として最初から組み込まれている場合もあります。いずれもどこまで要件を必要とするかによって費用感が変動します。既存製品にない要件を実現したい場合はスクラッチで開発する必要があります。
電子お薬手帳は患者向けサービスですが、薬局側で既存システムを導入する際は月額数千円~数万円程度の負担(プロバイダによる)となります。電子お薬手帳としての機能よりも処方箋画像事前送信機能が評価されて導入されることが多いです。

システム投資の売上比率

薬局は売上に対してどの程度システム投資しているのでしょうか。
厚生労働省の調査によれば保険薬局の設備投資額は総収入の1~2%程度のケースが最も多く、全体の8~9割が2%未満に収まっています。
例えば年商1億円の薬局であれば年間100~200万円程度がシステム関連支出ということになります。

しかしながら、大手チェーンの一部はIT投資に積極的であり、AIやクラウドを駆使したシステム導入を進めているところもあります。大手の中には年間数十億円単位でDX投資を行っている企業も存在し、これは各店舗あたりに換算すると一般薬局の平均を大きく超える割合になります。こういった企業を加味すると、業界全体では保険調剤薬局の設備投資額は総収入の数%といえるでしょう。

薬局におけるシステム関連コストの内訳としては、
・ソフトウェアライセンスおよび利用料

・ハードウェア購入費(PC、サーバ、分包機等)

・保守・サポート費用

・法改正対応費用

・ネットワーク通信費

などが挙げられます。ソフトとハードを一括購入する場合は初年度に費用が集中しますが、クラウドサービスを活用する場合は初期費用を抑えてランニングコストに振り替わります。

薬局経営上は、人件費や家賃と比べればITコストは小さいものの、無視できない経費です。

調剤報酬が年々厳しくなる中で、IT投資の費用対効果(人件費削減や業務効率化による利益への貢献)を意識して、最適な投資額に抑える工夫が求められます。例えば端末追加費用が不要なプランを選んで将来の人員増に備える、複数システムを一体化して重複コストを削減する、といった取り組みが考えられます。

まとめると、薬局のシステム投資は売上の数%程度が一般的で、限られた範囲で最大の効果を上げるため各社工夫しています。大規模薬局では先行投資で最新システムを導入する動きもありますが、中小薬局ではコストに見合った効果をより重視します。

紙やExcelが残る業務

薬局DXが話題となる現在でも、なお紙やExcelで行われている業務が残っています。その具体例と、DX以前に、なぜデジタル化されていないのでしょうか。

残存している紙・Excel業務の例

業務日誌の管理

調剤薬局では「(薬局)業務日誌」という帳簿を毎日記録し、管理薬剤師が押印することが義務付けられています。多くの薬局でこの日誌は紙で保管されていますが、一部ではExcelで記録して印刷し、押印して保存するという運用も行われています。Excelであれば転記ミスの防止や検索が容易になりますが、最終的には紙に印刷して署名保管する必要があり、完全な電子化とはなっていません。

各種法定帳簿・報告書

薬局には麻薬帳簿や毒劇物の管理簿など紙での記録保存が求められる帳票があります。例えば麻薬年間報告書は様式が決まっており、現在でも紙またはExcelで作成・提出する運用が一般的です。「会社印が不要になるなど簡素化されたものの、結局紙やExcelなのが残念」という薬剤師の声もあり、行政手続きとしてデジタル化が進んでいない現状が伺えます。これらは公的書類ゆえに電子データのみで保管することに慎重で、いまだ紙原本の提出・備置きを求めるケースが残っています。

患者対応の記録

服薬指導中のちょっとした聞き取り事項や、次回来局時にフォローすべき点などを、紙のメモやExcelリストで管理している場合があります。電子薬歴に備考欄として記録する方法もありますが、システム上の正式記録とは別に独自にメモを残す運用をしている薬局もあります。特に患者からの電話相談内容やクレーム対応記録など、薬歴とは直接結び付かない情報はExcelで管理している例も多くあります。このような情報はフォーマットが定まっておらず、システムへの入力欄がないためにExcel等で管理せざるを得ない状況です。

その他の帳票

在庫管理に関して、一部の小規模薬局ではシステムを使わずExcelで発注管理を行っている例もあります。在庫システムを導入していない場合、月1回の棚卸表をExcelで作成し、在庫数量を手入力していることもあります。また薬局内の勤務シフト表や顧客名簿などもExcelで管理するのが一般的です。これら内部管理資料は市販ソフトよりExcelの方が柔軟に扱えるため、デジタル化はしていてもExcelでの属人的管理から脱せていない領域です。

このレベルの薬局は医薬品の補充発注に関しても、箱が空くと段ボールに溜めておいて、発注時間に空き箱を卸から借りたハンディターミナルなどの発注端末でスキャンして発注する箱発注というレベルにとどまります。


デジタル化されない理由と課題

厚労省や都道府県の指導により原本を紙で残すことが求められる帳票があります。例えば前述の業務日誌は紙への押印保存が前提となっており、電子データだけでは不十分です。麻薬帳簿も書面備え置きが義務です。こうした制度上の制約が電子化を阻んでいるケースが少なくありません。近年、電子署名を活用した電子帳簿保存法の整備なども進んできており、将来的には完全電子化も検討されていますが、まだ年数がかかります。

薬局向けシステムが対応していない業務はどうしてもExcel等に頼ることになります。メーカーも汎用的ニーズが高い部分からシステム化を進めるため、ニッチな帳票や薬局ごとに異なる管理項目まではカバーしきれません。その結果、「現場でExcel管理しているものをシステムに取り込めないか」というニーズが後を絶ちません。カスタマイズ開発には費用がかかるため、多くは現状Excelのまま運用されています。

全ての業務をデジタル化しようとするとシステム導入コストが膨らみます。限られた予算の中、経営に直結する調剤・薬歴部分から投資するのが普通で、周辺業務は後回しになりがちです。紙やExcelで特に支障が出ていない業務については、「現状のままでも大きな問題がない」「投資対効果が低い」と判断され、敢えて電子化していない場合もあります。

年配の薬剤師ほど長年の紙文化に慣れており、「とりあえず紙にメモしてあとで清書」といったクセが抜けないことがあります。またExcelは多くの人にとって身近なツールで、ちょっとした表や一覧を自作できるため重宝されています。そのため専用システムに頼らずExcelで管理し続けるケースもあります。これ自体はデジタル活用しているとも言えますが、属人的で引き継ぎしにくい問題があります。

以上のように、法律面の制約とシステム未対応領域が紙やExcel運用の主因となっています。課題としては、紙やExcel管理では情報が分散し活用しづらい、紛失や漏洩リスクもある、属人化しやすい、といった点があります。

業界全体で見ると主要業務はほぼデジタル化されましたが、末端の帳票類や特殊業務については今後行政手続きのオンライン化やシステム機能拡充により解決を図っていく必要があります。薬局内でも紙で残っている業務を洗い出し、デジタル化のニーズが高いものから提案・改善していくことが今後のDXの深化に繋がるでしょう。DXの前提としてのデジタル化が必要です。

薬歴システム導入の意思決定プロセス

スイッチしにくいレセコンに比較して、電子薬歴を分離型にすることで薬歴記載をはじめとする業務効率をあげようという動きがあります。これは提供するIT企業が売上をあげるために創意工夫をすることで、ベンダーロックできているレセコン主体の企業よりも薬歴に関しては優れたシステムを開発していることが背景にあります。筆者も過去に新発想の電子薬歴システムの企画を引き受けたことがあります。

誰が導入を決定するか

薬歴システムの導入・変更における意思決定者は、薬局の規模や組織形態によって異なります。個人経営・中小規模薬局では、経営者である薬局オーナーや管理薬剤師が中心となって判断します。

日々現場を仕切る管理薬剤師の意向が強く反映され、「現場で使いやすいもの」「信頼できる業者かどうか」といった点を重視して選定されます。

大手チェーン薬局では、本部の情報システム部門や経営陣が全社方針として導入を決定する場合が多いです。複数店舗にまたがる統一システムとなるため、各店舗の薬局長の意見も参考にしつつ、最終的には本部が契約・決裁します。

チェーンではM&A等をきっかけにレセコン・薬歴をパッケージで一斉に入れ替えることもあり、薬局現場から見ると「上から与えられる」形になることもしばしばです。ただ大手ほど資金力があるため、最新機能のシステム導入に前向きであり、店舗側も受け入れるケースが多いようです。

システム選定に影響を与える要素

導入検討にあたっては、以下のポイントが重視されます。

薬剤師や事務スタッフが日常的に使うため、「画面が見やすく直感的に操作できるか」「処方箋の内容に沿ってスムーズに入力できるか」が重要です。複雑すぎるシステムは敬遠され、現場の誰もが扱えるユーザーフレンドリーさが求められます。

必要な機能を満たしているか精査します。薬局の業務内容によっては在宅訪問支援や多言語対応、音声入力、在庫管理連携などの機能が不可欠な場合があります。自局のニーズを洗い出し、各製品の機能一覧を比較して選定します。例えば在宅業務が多い薬局ならタブレット対応のクラウド薬歴が有力候補になります。

ハード・ソフトの費用やランニングコストが見合うか検討します。特に中小薬局では投資余力が限られるため、「○○万円出すだけの効果(残業削減や業務効率向上)が得られるか」を慎重に見極めます。IT補助金が活用できるかも判断材料です。最近はクラウド型で初期費用を抑え、月額課金で導入しやすくしたサービスも多いため、そのようなプランも検討します。

システム障害時や使い方の問い合わせに迅速に対応してもらえるか、メーカーや販売店のサポート体制も重視されます。全国展開している大手ベンダーはサポート拠点が多く安心感があります。また導入実績や他薬局の評判といった業界内の口コミも参考にされます。

既存のレセコンや他のツールとスムーズに連携できるかも重要です。例えばすでに使っているレセコンと相性が悪い電子薬歴だと導入してもうまく連動できません。このため、レセコンと同じメーカーの一体型を選ぶ、あるいはNSIPS対応で実績豊富なクラウド薬歴を選ぶなど、連携面のチェックが行われます。

一度導入すると長く使うため、システムのアップデート計画や提供企業の経営状況も考慮されます。例えばクラウドサービスの場合、サービス停止のリスクが低い信頼できる企業かどうか(上場企業か、大手グループか等)を見る薬局もあります。また今後の電子処方箋やオンライン資格確認との連携開発状況など、将来の展開を見据えて評価するケースもあります。

これらの要素を総合的に判断し、最終的には「現場の使い勝手」と「経営上の損得」のバランスで意思決定されることが多いです。
例えば、ある薬局では最新クラウド薬歴に興味があっても、現場スタッフが使い勝手が変わることに抵抗があるため見送り、といったことがあります。一方で、本部が強力に推進して全店で電子薬歴を刷新し、現場も結果的に効率が上がって満足している例もあります。意思決定プロセスには現場と経営の双方の視点が関与し、調整が行われています。

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診療報酬改定による影響

服薬管理指導料の新設と電子薬歴の活用

2022年4月の調剤報酬改定で、「薬剤服用歴管理指導料」が廃止され、新たに服薬管理指導料が新設されました。これは点数を引き上げた代わりに、服薬期間中の継続的なフォローアップを行うことを算定要件に加えたものです。

具体的には「患者の薬剤使用期間中の状況を継続的かつ的確に把握し、必要な指導を実施すること」が求められ、要件を満たせば従来より高い報酬が得られます。この改定により、薬局は調剤時の服薬指導だけでなく、調剤後~次回受診までの間にも患者をフォローすることが事実上義務化されました。

電子薬歴はこのフォローアップ業務の管理に不可欠です。フォローの実施内容や日時を薬歴に記録し算定の根拠とする必要があるため、電子薬歴上にフォローアップ専用の入力欄やチェックリストが設けられるようになりました。

薬歴を提供する各社も改定に合わせ、フォローアップ記録機能やアラート機能を強化しています。例えば患者ごとにフォロー予定日を設定し、期限になると通知してくれる機能などが追加されました。電子薬歴によってフォローアップ業務を漏れなく実施し、その結果をエビデンスとして残すことが容易になり、適切に算定要件を満たせるよう支援しています。この先チャットツールなどと連携してより効率的にフォローアップするCRM要素の強化が進むのではないかと筆者は考えます。

患者フォローアップの現状

服薬期間中のフォローアップの具体的な手段としては、電話連絡が古くから一般的です。調剤後数日~1週間程度で薬剤師が患者に電話し、服薬状況や体調変化、副作用の有無を確認するケースが多いです。また一部ではメールやSMS、専用アプリを用いたアンケート送信なども行われています。注目しているのはLINE等のチャットツールの活用です。

例えば、ある薬局では「あなたの調剤薬局」というシステムを導入し、患者とLINEでつながってメッセージによるフォローを実施したところ、患者の信頼関係が深まり業務効率も向上したという報告があります。LINE公式アカウントで処方箋予約を受け付け、服薬期間中も患者から気軽に相談メッセージを受け付けたり、服薬のリマインドを送ったりする試みです。こうしたデジタルツールは若年層だけでなく高齢の患者にも利用が広がっており、フォローアップに有効とされています。

しかしながら現状では、フォローアップを十分に実施できていない薬局も多いです。ある調査によると、薬剤師の9割以上が「服薬フォローは必要」と認識している一方、実際に実施できているのは7割強に留まりました。この手の調査では業務に前向きな回答者が多くなるため、いずれの数値も実態よりも高い比率になりますが、出来ていない薬局が多いことの参考にはなります。

実施が進まない理由として「多忙で時間が取れない」「患者への案内が難しく同意を得にくい」ということがあります。特に人手不足の薬局では、調剤業務で手一杯でフォローの電話までは手が回らないのです。また患者側も見慣れない番号からの電話に出たくないであったり、単に面倒であるということがあります。
そのため、効率よくフォローアップする仕組みが有効です。電子薬歴システム各社は、LINE連携のほか、服薬フォロー専用アプリとのデータ連携、患者が入力した体調変化を薬歴に自動取り込みする仕組みなどを提供し始めています。

2022年改定の評価

フォローアップの有用性は現場からも報告されています。ある調査では、フォローアップを行ったケースの95%で何らかの有益な成果(服薬アドヒアランス向上や副作用発見等)に繋がったとの結果が出ており、フォローアップの高い有効性が裏付けられています。
こういった成果は電子薬歴を通じて蓄積されたデータから分析されたものです。今後も報酬面でフォローアップ重視の流れは続くと考えます。したがって薬局も、フォロー体制を整え効率的に行うため、ITを積極的に活用する方向へ動きやすい状況といえるでしょう。患者フォローアップが電子薬歴導入・変更の新たな原動力にもなりえます。

電子薬歴未導入薬局の現状と今後の展望

電子薬歴を未だ導入していない薬局は全体の2割強存在します。そうした薬局が紙薬歴を使い続ける主な理由は以下の通りです。

コストの問題

電子薬歴導入にかかる費用負担が大きく感じられることです。調剤報酬が伸び悩む中、小規模薬局では「数百万円の投資に見合うだけの処方箋枚数がない」という判断で見送りになるケースがあります。紙であればほぼコスト0で運用できます。特に零細な薬局では売上に占める設備投資割合を1~2%未満に抑えるところが多く、電子薬歴導入は優先度の低い支出と見られてしまうのです。

慣習・オペレーションの問題

長年のあいだ紙薬歴で運用してきた薬局では、そのやり方が定着しており不便を感じていないことがあります。経験豊富な薬剤師ほど紙の方が書きやすい、患者と対面しながらメモを取るのにタブレットだとやりにくい、といいます。紙薬歴でも十分回せる程度の処方箋枚数しかなく、無理に電子化する必要性を感じていないのです。

規制上の強制力がない

法律上は、薬局に「電子薬歴を導入せよ」という義務はありません。薬剤師法では調剤録(調剤した内容)の記載保管義務はありますが、薬歴については明確な法的義務規定はありません。紙で薬歴を書いていても違法ではなく、行政的にも「電子化は努力目標」程度の位置付けです。このため、うちは紙で十分という認識で未導入のところがあります。

人的リソース・ITスキルの不足

電子薬歴を使いこなす自信がない、人手が少なく研修の時間が取れない、といった声もあります。パソコンが苦手なスタッフばかりだと導入しても混乱するだけ、との懸念から二の足を踏んでいる場合もあります。また一人薬剤師体制だと新システム導入作業を進める余裕がないという現実的な問題もあります。

しかしながら、業界全体として電子薬歴未導入薬局は今後減少していくと見込まれます。その主な要因は次の通りです。

外部環境の変化

電子処方箋の本格運用やオンライン資格確認の普及により、紙中心の運用が困難になっていきます。電子処方箋対応では、薬局側で専用システムを用いて処方データを管理する必要があり、それに連動する形で薬歴も電子化せざるを得ません。実際、電子処方箋の運用開始率は店舗数が多い薬局ほど高い(IT対応余力がある)ですが、小規模薬局でも徐々に導入が進む可能性があります。この流れに取り残されないため、未導入薬局も電子薬歴を導入する動機が高まります。

行政の後押し強化

厚労省は繰り返し「薬局DX推進」を打ち出しており、今後電子薬歴の導入を促進する施策(補助金・加算など)が講じられる可能性があります。
例えば2021年度からはIT導入補助金の対象に電子薬歴システムも含まれています(公募により適用)。2025年には調剤報酬でも電子的な服薬情報連携を評価する方向性が検討されています。こうした政策面の誘導で、電子薬歴未導入層のハードルを下げていく可能性があります。

世代交代とM&A

薬局の新規開業や世代交代により、デジタルネイティブな薬剤師が増えてきます。若い経営者ほどIT活用に前向きで、最初から電子薬歴ありきで開局するケースがほとんどです。また、小規模薬局が大手チェーンにM&Aされると、チェーン標準の電子薬歴が導入されるため未導入薬局が一つ減ることになります。業界再編が進むにつれ、電子薬歴未導入の薬局は自然と淘汰・吸収されていく可能性もあります。

メリットの周知拡大

電子薬歴の利点が年々高まっており、未導入の薬局でも「やはり導入すべきだ」という認識に徐々になっています。特に業務効率の差や、薬歴未記載による指導リスク(監査で減点される等)を目の当たりにすると、投資回収判断がしやすくなります。
電子薬歴市場は2022年時点で約300億円規模に達し、2025年には330億円に成長すると予測されています。市場拡大に伴い製品も安価で高機能になってきており、遅れていた薬局も導入に踏み切りやすくなるでしょう。

以上の理由から、紙薬歴の薬局は今後さらに減少し、電子薬歴への置き換えが進むと考えられます。2025年時点で90%超、2030年にはほとんどの薬局で電子薬歴が導入される見込みです。もっともゼロにはならず、一部には特殊な事情で紙運用を続ける薬局も残るでしょう。

DXの進展に取り残されないよう、未導入の薬局も近い将来には何らかの形で電子薬歴を取り入れていくのではないかと考えます。

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