視察2日目はニューヨーク北部の有力スーパーマーケットから始まり、奇跡のスーパーマーケットMarket Basketまで往復600km以上の視察を行いました。前回書いたWegmans Harrison Grocery Storeもこの途中で見た店舗です。
https://ngunji.com/work/2022ny7/
Shop rite of New Rochelle
Shop riteは300店舗ほどの中堅スーパーです。
多くの店舗が個人で小売店を営んでいた家族経営で、地域の生産者から直接仕入れをすることが特色で、各店舗が独自の店舗デザイン、レイアウト、商品ディスプレイから仕入れも行っています。
健康重視型の品揃えで糖分控えめのお菓子なども売っています。
ピックアップロボットのテストをするなどDXに積極的な中堅企業です。
STOP & SHOP
1914年創業。406店舗。平均1400坪の店舗を展開。
早期に「Scan it」というセルフスキャンのモバイルチェックアウト端末を導入した企業。
現在は年商500億$超のオランダ企業Koninklijke Ahold Delhaize N.V.傘下となりましたが、6〜7年前に視察した時と大きな変化はありませんでした。
DeCicco & Sons
8店舗を展開するローカルチェーンでイタリア色が強いグルメスーパーです。
カット野菜やフルーツが綺麗に陳列されており、魅力的でした。
Doller General
バラエティ商品をロープライスで販売するダラーストア業界1位。
地方の小商圏ニッチマーケットが中心に200坪前後の店を17,000店舗超展開している。年商337億$でダラージェネラルしか買い物をする店がない地域も存在する。
見切り商品等を安く売る低所得層ターゲットの店で、日本の百円ショップとは異なり、プライスラインはバラバラ。
Bass Pro Shops BRIDGEPORT, CT
日本人が連想するものとは異質な「アウトドアショップ」でアメリカ小売業ランキング56位で年商は1兆円を超える。
元々釣り餌屋だったが、釣り専用ボートを開発して、船舶業界にも話題になった。現在は釣りだけでなく、アウトドアをテーマにしたカテゴリーキラーで152店舗存在する。
フィッシングのカタログを1974年から発行していた歴史があり、小売:EC=2:1とEC売上比率が高いのも特徴。
正直、ここは自分の目と体で体験しないと説明が難しい店舗です。多少イメージが浮かぶように動画を上げておきます。
Market32
1932年創業。ニューヨーク郊外のリージョナルチェーンで131店舗で年商35億$。
魅力あるデリ、洗練された売り場が特徴。
特売日設定ではなく、地元メディアを活用したプロモーション。
Market32 Linkedinの一部和訳:「地元のフェアやフェスティバル、大学やユースのスポーツチーム、募金活動用の無料チケット印刷や無料カップ・ナプキンまで、国や地域、草の根の活動に対して資金や現物支給、プロモーション支援を提供」
1992年に世界初のセルフレジを導入。
2021年同じくニューヨーク拠点に162店舗を展開しているTops Marketsと合併し、新たな親会社はNorteast Grocery Inc.となる。それぞれの店舗は従来通りの店舗バナーで営業を継続する。
MARKET BASKET
Market32からハイウェイに戻る途中、イェール大学付近の渋滞が酷く、予定していたWalmartのスーパーセンター等をスキップしてMARKET BASKETについたのは17時半過ぎでした。この視察の後300km以上を戻るので必然的にマンハッタン帰着は22時過ぎとなりました。
MARKET BASKETは、それだけの苦労をしても行く価値のある店でした。
奇跡のスーパーマーケット
マーケットバスケットは、79店舗を展開する家族経営の株式非公開チェーン。2017年度の売上高は約50億ドル(6,500億円)なので。1店舗の年商が約82億円にもなる。
低価格と顧客に信頼されるサービスが特徴。
2008年に社長についたアーサー・T・デモーラス氏の経営方針は商売よりも人に重きをおいて会社を支える従業員の賃金は他より高く、福利厚生も充実させています。どの店よりも安く顧客に提供する方針を取ることで顧客の支持を得て、社長就任後売上高と従業員数が大幅に増加しました。また、外部取引先の人間に対しても、協力を惜しまずに穏便に問題解決を行っていました。
アーサー・Tの従兄弟にアーサー・S・デモーラスがいます。アーサー・Sは、アーサー・Tを2014年6月に解任し、追放してしまいました。アーサー・S達取締役会は外部からCEOを雇い入れましたが、業績は下降します。アーサー・Tを信頼していた幹部8人が職場放棄をするという事態から、従業員も仕事をボイコットするようになり、顧客が大規模なデモ活動を行うような事態となりました。さらに、取引先の社員にまで運動は広がり、物流を担うトラック運転手もボイコットは広がり、商品は店舗に届かなくなります。
マーケットバスケットの従業員は顧客に「アーサー・Tが会社に戻ってくるための抗議活動がかなうまで、マーケットバスケットで商品を買わないでください。」と宣言しました。この騒動は全米に波及して社会現象化しました。
結果として知事などの政治家を巻き込んだことで、政治家の仲裁交渉により、アーサー・Sを含めた親族株式の55.5%をアーサー・Tが15億ドルで買うことで鎮静化しました。アーサー・Tの15億ドルはマーケットバスケットを支持する人達と投資会社による資金援助です。
アーサー・Tは2014年8月に返り咲き、すぐに顧客も戻りました。
商品差別化のポイントは青果
豊富な商品が並ぶマーケットバスケットですが、日用雑貨や肉、牛乳等は比較的安価に提供する代わりにWegmansのように圧倒的ではありません。地域密着という点がより強固なこの店舗で最も品揃えの素晴らしさを感じたのは青果でした。
Market32やShop Riteのように美しい什器に並んでいるわけではありませんが、リーズナブルで物量が多く迫力があります。いかにも田舎の人気スーパーという風情です。
感動の接客
MARKET BASKET にはセルフレジがありません。全て有人レジで、サッカーが袋詰めまでやってくれます。レジを変えて3回会計をしましたが、いずれもテキパキとしてにこやかな接客でした。
制服といい、日本の成城石井と非常に近いレジ接客です。
Market Basketでは新人のアルバイト達がカートの回収など店舗メンテナンスをしています。
そして体が不自由な方やご年配の顧客が車に荷物を積み込むサポートもしていました。リーズナブルなスーパーなのに、こういうことが当たり前にやられているのですから、顧客の圧倒的支持を得て奇跡をおこしたこともうなづけます。