世界の主要先進国であるG20各国のスーパーマーケット業界における「売上高トップ3企業」についてまとめました。一般に食品スーパー業態以外が主要業態の企業でも、その国の食を担う食品の売上高が大きい企業は対象にしています。
- 1 アメリカ合衆国 (USA)
- 2 中国
- 3 日本
- 4 ドイツ
- 5 インド
- 6 イギリス
- 7 フランス
- 8 イタリア
- 9 カナダ
- 10 ロシア
- 11 サウジアラビア
- 12 アルゼンチン
- 13 インドネシア
- 14 南アフリカ
- 15 韓国
- 16 オーストラリア
- 17 トルコ
- 18 メキシコ
- 19 ブラジル
- 20 おわりに
アメリカ合衆国 (USA)
Walmart Inc.
基本情報
米国最大の小売企業であるウォルマートは、2023年度(2023年1月期)の売上高が約6,130億ドルに達し、2021年は約5,590億ドル、2022年は約5,730億ドルでした。世界で約10,500店舗(米国では約5,300店舗)を展開し、主に「スーパセンター」形式の大型店や倉庫店(サムズクラブ)を運営しています。2023年度の営業利益は約204.3億ドルでした(営業利益率約3.34%)。既存店売上は堅調で、2022年度(2022年1月期)に前年比約6.4%増、2023年度も約8.3%増と増収を続けています。

部門構成比
ウォルマートUS部門では食料品(生鮮食品・加工食品)が売上の約60%を占め、ヘルス&ウェルネス(薬局等)が約12%、残り約28%が日用品や衣料・家電など一般商品です。生鮮食品(青果・精肉・鮮魚など)やグロッサリー(日配品・缶詰・冷凍食品)は最も大きな柱で、総菜や惣菜コーナーも併設店舗では展開しています。非食品では衣料品、家庭用品、雑貨、家電まで幅広く、「ワンストップ」で何でも揃う品揃えが特徴です。
経営方針と戦略
ウォルマートは「Every Day Low Price(毎日がお買得)」戦略を掲げ、大量仕入れによる低価格販売で市場シェアを拡大してきました。近年は店舗とオンラインの融合(オムニチャネル)戦略を強化し、ネット注文・店舗受取サービスや当日配送の拡充を図っています。また自社電子マネーやサブスクリプション型会員サービス「Walmart+」を導入し、顧客の囲い込みを推進しています。世界展開では、メキシコや中南米、アジアなど海外子会社でも現地ニーズに合わせた商品構成とEDLP戦略を展開しています。
DX事例
ウォルマートはテクノロジー投資にも積極的で、店内ピッキングロボットや自動清掃ロボットの導入、在庫管理へのAI活用などオペレーション効率化を進めています。またオンライン分野では自社ECサイトを刷新し、店舗在庫を活用した当日配送サービスを展開しています。たとえば生鮮食品のオンライン注文では、店舗従業員がピッキングして車まで商品を届ける「カーブサイド・ピックアップ」を全米で提供し、デジタル売上の成長に寄与しました。さらに、クラウドやビッグデータ解析にも注力し、需要予測やサプライチェーン最適化にDXを活用しています。
Kroger Co.
基本情報
クローガーは米国第2位のスーパーマーケットチェーンで、2023年度の売上高は約1,500億ドルに達しました(前年から約8%増) (Kroger’s 2023 Sales Surge to $150B with Fresh & Digital Innovations)。傘下に複数の地域チェーン(フライーズ、ラルフスなど)を持ち、約2,700店舗を展開しています。営業利益率は3~4%程度で、2023年度は営業利益約50億ドル強となりました。既存店売上は2023年は前年比数%の増加となり、とくに生鮮食品とデジタル販売が成長を牽引しました。

※2022年10月 KrogerグループFredMeyer Ballard店 915 Nw 45Th St Seattle,WA 98107 筆者撮影
部門構成比
クローガーの売上構成は、生鮮食品・グロッサリー(野菜果物、精肉、乳製品、パン・一般加工食品)が全体の約半分以上を占め、残りを日用品・雑貨、医薬品(調剤薬局)や燃料販売などが占めます。店内にはベーカリーやデリ(惣菜・総菜コーナー)も併設され、惣菜・調理済み食品の売上も伸長しています。クローガーは、「Fresh for Everyone(すべてのお客様に新鮮を)」をスローガンに生鮮強化に注力しています。
経営方針と戦略
同社は「Leading with Fresh, Accelerating with Digital(生鮮でリードし、デジタルで加速する)」戦略を掲げ、生鮮食品の品揃え強化とデジタル活用による利便性向上を両輪としています 。生鮮分野では産地直送ネットワークを整備し鮮度管理を徹底するとともに、PB商品の開発にも注力(人気の自社ブランド「シンプルトゥルース」など)しています。デジタル戦略としては、オンライン注文と配送サービスの拡充、ロボット倉庫による食品宅配(英Ocado社と提携し自動化配送センターを建設)などを進めています。また顧客ロイヤルティプログラム「Kroger Plus」に基づくデータ分析でパーソナライズされたクーポン配信や品揃え最適化を図り、売上と顧客満足度を向上させています。
DX事例
クローガーは業界トップクラスのDX推進企業であり、店内業務や物流へのテクノロジー導入を積極化しています。特にオンライン食料品サービスでは、前述のOcado社のロボット倉庫を活用した高度な自動ピッキングシステムを導入し、効率的な配送網を構築しました。また店舗でも電子棚札やモバイル端末を用いた在庫管理を導入し、従業員の業務効率化と品切れ削減を実現しています。
Costco Wholesale Corp.
基本情報
コストコは会員制倉庫店形式の大手小売企業で、グローバルで861倉庫店を展開し、2023年度の売上高は2,377.1億ドルに達しました。米国内では591倉庫店を有しています。営業利益率は約3%程度ですが、年会費収入により安定した利益を確保しています。2023年度の会員費収入は46億ドルでした。
既存店売上は、ガソリン価格と為替変動の影響を除くと、2023年は米国で前年比約3%増加しました。
部門構成比
コストコの売上構成は、生鮮食品(肉・魚・青果)およびグロッサリー(日配・冷凍・飲料)が全体の約半分を占めます。残りは日用品・雑貨、家電・衣料・家具などの非食品が約30%、ガソリンスタンド売上やその他が約20%前後となっています。倉庫店形式のためまとめ買い需要が中心で、生鮮も大容量パックが主体です。総菜類もピザやチキンベイクなどフードコートメニューを中心に展開しています。会員向けに厳選されたSKU(取扱品目数は数千程度)に絞り込む戦略で、一品あたりの販売数量を大きく伸ばすモデルです。
経営方針と戦略
コストコの経営戦略は「高品質な商品を可能な限りの低価格で提供する」ことにあり、仕入れから販売まで効率を極限まで高めるモデルです。取扱商品数を限定し、一括大量仕入れによる仕入れ原価低減と在庫回転率の向上を図っています。また、低い粗利益率を維持し、価格転嫁するEDLP戦略で会員の信頼を獲得しています。自社ブランド「カークランドシグネチャー」を展開し、高品質かつ割安なプライベートブランド商品で差別化とリピート率向上に成功しています。新規出店も慎重で、1倉庫店あたり年間平均1.37億ドルの売上高を達成する大型店モデルを維持しています。
DX事例
コストコは他社に比べてデジタル化は緩やかですが、近年ECサイトの強化や店舗受取サービスを開始するなどDXにも着手しています。例えば米国では会員向け公式アプリでデジタル会員証や在庫確認機能を提供し利便性を向上させています。また物流面では倉庫の自動化や在庫管理システムを導入し、商品補充の効率化を図っています。もっとも同社は「倉庫店での宝探し的な買物体験」を重視するため、レジのセルフスキャン導入には慎重で、DXも会員サービスの裏側を支える部分に重点を置いています。ただしパンデミック以降はオンライン食料品配達(Instacartとの提携)も拡充し、デジタルチャネル対応も徐々に強化しています。
中国
ウォルマート中国 (Walmart China)
基本情報
ウォルマートは中国にも進出しており、2023年時点で中国国内に約400店を展開しています(ウォルマート・スーパセンターや会員制のサムズクラブを含む)。中国チェーンストア協会の統計では、ウォルマート中国の2022年売上高は約1,202億元(約168億米ドル)で、中国の小売企業としてトップの規模です (China: top 10 retail chain operators based on retail sales 2023) (Membership, discount stores gain momentum – Chinadaily.com.cn)。店舗数はハイパーマーケット業態を中心に365店(2023年)とされ、売上高は前年比で増加傾向にあります。営業利益率は非公開ですが、EDLP戦略により安定した利益を確保しています。既存店売上は近年やや伸び悩むものの、会員制業態のSam’s Club(山姆会员商店)が高成長して全体を牽引しています (Membership, discount stores gain momentum – Chinadaily.com.cn)。
部門構成比
ウォルマート中国の売上構成は、生鮮食品とグロッサリー(食品・飲料)が約6割を占め、残りを日用雑貨・衣料・家電などが占めています。生鮮では地元の生鮮市場(菜市場)との競争もあり、鮮度と価格訴求に注力しています。大型店では総菜・調理品売場も設け、惣菜や弁当の品揃えも強化しています。中国では輸入食品や輸入日用品の需要も高いため、ウォルマートは自社のグローバル調達網を活かし、米国やその他各国からの輸入品も揃えて差別化を図っています。日用雑貨は洗剤・紙製品から簡易家具まで幅広く扱い、「一站式购齐」(ワンストップ・ショッピング)の便利さを訴求しています。
経営方針と戦略
ウォルマート中国は「価格優勢」と「品質保証」を掲げ、米国本社のEDLP(毎日低価格)戦略を中国市場向けにローカライズしています。例えばアプリでのクーポン配信や特売日を設けるなど、中国人消費者のプロモーション志向にも対応しています。また、富裕層向けのサムズクラブ業態を拡大しており、中国で2022年時点で40店以上のSam’s Clubを展開、差別化された商品とサービスで高い客単価を実現しています (Membership, discount stores gain momentum – Chinadaily.com.cn)。一方で、地元企業との提携も進め、京東(JD.com)と戦略協業して物流網を共有するなど、競争激化に備えた体制を構築しています。店舗網では、一部不採算店舗の整理と主要都市での新規出店を並行し、都市部でのドミナント戦略を強化しています。
DX事例
デジタル戦略として、ウォルマート中国はオンラインとオフラインの統合(O2O)に積極的です。2017年にはTencent(騰訊)と提携し、微信(WeChat)ミニプログラムでのモバイル注文・決済サービスを開始しました。また京東到家(JD Daojia)など即時配送プラットフォームと連携し、店舗から最短1時間で食品を配達するサービスも提供しています。店内にはスマホ決済やセルフレジを導入し、中国のキャッシュレス決済普及に対応しています。さらに、サプライチェーンではブロックチェーン技術を試験導入し、食の安全トレーサビリティ向上を図っています。以上のように、ウォルマート中国は本国の技術力と現地IT企業のエコシステムを組み合わせてDXを推進し、市場環境の変化に適応しています。
永輝超市 (Yonghui Superstores)
基本情報
永輝超市は中国を代表する大型スーパーマーケットチェーンで、生鮮食品に強みを持つ企業です。2022年の売上高は約797億元(約119.7億米ドル)で、中国国内でウォルマートに次ぐ規模となっています。全国で1,000店以上を展開し、特に福建省や四川省などで高いシェアを誇ります。営業利益率は低め(1~2%台)でしたが、生鮮直営比率の高さによる粗利益改善やコスト削減策で収益性向上に取り組んでいます。既存店売上は2021年に一時減少しましたが、2022年以降は生鮮需要の伸長により回復基調にあります。
部門構成比
永輝は「鮮生鮮」と称し、生鮮食品売場を核とした店舗構成が特徴です。売上の約半分が生鮮(青果・精肉・水産)で占められており、残りが加工食品・飲料などのグロッサリーや日用雑貨となっています。総菜・弁当も店舗内で調理し販売する「現場調理」に力を入れており、忙しい都市部顧客のニーズを取り込んでいます。永輝は品質にこだわり、自社農場や直采(直接仕入れ)によって鮮度の高い農水産物を低価格で提供することに注力しています。一般食品も全国の有力メーカー品に加え、自社プライベートブランド商品を展開して売上構成比を高めています。
経営方針と戦略
「民生超市」を標榜する永輝は、生鮮食品の安定供給と地域密着を経営方針に掲げています。経営戦略としては、生鮮特化の大型店「永辉Bravo」を都市中心部に出店する一方、小型生鮮スーパー「永辉Mini」で郊外やコミュニティにも進出しています。さらに、テンセントやデリバリー各社と提携し、オンライン注文→30分配送の即配サービス「永辉生活」を展開して新規顧客を獲得しました。実店舗では、生鮮の加工センターを店内併設し鮮度管理を徹底するほか、店舗従業員が専門バイヤーとなって農家と直接取引するモデルを推進しています。これにより中間流通コストを削減し、競合他社よりも低価格を実現しつつ粗利益率向上に成功した事例もあります。
DX事例
永輝超市はテンセントから出資を受けて以降、デジタルトランスフォーメーションを加速させました。スマートフォンアプリ「永辉生活」を通じて、周辺3km圏内への30分宅配サービスを展開し、オンライン売上が急成長しています。また店内には電子価格表示やAI発注システムを導入し、需要予測の精度向上と人件費削減を実現しています。顧客データ分析にも注力しており、会員の購買データを基にしたパーソナライズクーポン配布や品揃え調整を行っています。さらに2019年には「超级物种(Super Species)」という生鮮レストラン併設型高級スーパーをオープンし、新小売の実験も行いました。この店舗ではスマホ決済や無人レジを採用し、飲食と生鮮小売の融合を図るなどDXによる新業態開発にも挑戦しています。
大潤発 (RT-Mart / Sun Art Retail)
基本情報
大潤発(RT-Mart)は中国東部を中心に展開するハイパーマーケットチェーンで、フランス・オーシャンとの合弁で始まり、現在は阿里巴巴(アリババ)グループ傘下のサンアートリテイルが経営しています。2022年の売上高は約708億元(約108億ドル)で、中国小売業界第3位の規模です。全国に約528店舗を構え、郊外型の大型店として高い集客力を持ちます。営業利益率は約5%前後と、スーパーマーケット業態としては比較的良好です。既存店売上は近年やや伸び悩んでいましたが、親会社アリババによるテコ入れでオンライン注文の取り込みなど改善が進んでいます。

※2019年7月 上海の大潤発 筆者撮影
部門構成比
RT-Martの売上構成は、食品・生鮮が約6割、非食品(衣料・家電・日用品など)が約4割です。生鮮食品はハイパーマーケットの重要部門で、肉や野菜は店内精肉・青果売場で大量に陳列され低価格で販売されています。総菜コーナーも充実しており、中華惣菜や焼き立てパンなどを提供しています。一般食品・日配品は全国ブランド商品に加え、親会社アリババの物流網を活かした地方特産品や輸入食品も揃えています。日用雑貨では生活家電から衣料品まで幅広く扱い、ワンストップ型店舗として家族客の需要に応えています。
経営方針と戦略
RT-Martの経営方針は「顾客第一、价值零售」(顧客第一のバリューマーケット)で、大型店による地域最安値の実現を目指しています。戦略面では2017年にアリババが出資して以降、「新小売」への転換を図っています。具体的にはアリババのECプラットフォームと在庫を連携させ、店舗を地域配送センターとしてオンライン注文に即応できる体制を構築しました。これにより2019年には「淘鮮達」と呼ばれる店舗から3km圏内への1時間配送サービスを開始し、店舗売上の数%相当の追加売上をネット経由で得るようになりました。またロイヤルティプログラム「飞牛会员」を通じてアリペイなどと連動したデータ分析を行い、個店ごとにプロモーションを最適化しています。コスト面ではサプライチェーン統合を進め、アリババ系の物流(菜鳥ネットワーク)を活用して物流コスト削減を図っています。
DX事例
RT-MartのDXは親会社アリババの技術支援の下で進められています。店内にはスマート化された電子棚札や、天井に設置された商品搬送用レール(オンライン注文品を後方集積所に自動輸送する仕組み)が導入されました。これによりオンライン注文を受けると店内スタッフがピッキングし、レールで商品を集約・発送する効率的オペレーションが実現しています。またモバイル決済比率が非常に高く、消費者は支付宝(アリペイ)でのスキャン決済や専用アプリによるセルフ精算を利用できます。さらにアリババのAIを活用した需要予測システムで在庫適正化を行い、欠品や廃棄ロスの削減にも成功しています。これらDXの成果として、RT-Martは売上高の約14%をオンライン経由で稼ぐまでになり(2023年時点) (Membership, discount stores gain momentum – Chinadaily.com.cn)、伝統的ハイパーマーケットのデジタル転換モデルとして注目されています。
日本
イオン株式会社 (AEON)
基本情報
イオンは日本最大の小売グループで、総合スーパー(GMS)やスーパーマーケット、ドラッグストアなど約17,887店舗を国内外で運営しています。2024年2月期の営業収益は約9兆5,535億円で、2022年2月期8兆7,159億円、2023年2月期9兆1,168億円から増収を続けています。
中核小売業のイオンリテールは、食品スーパーと総合スーパー(GMS)事業を併せ持ちます。2023年度のGMS・SM事業の年間売上高は約6兆円強と緩やかに増加しました。店舗数はグループ全体で国内2,000店以上にのぼります(GMS約350店、食品スーパー約1,600店)。営業利益率は1~2%台と低めながら安定推移し、既存店売上高前年比は2023年度は+2~3%でした。
以降はイオンリテールとしての記述です。
部門構成比
イオンリテール(GMS部門)の売上構成は、食品が約55%、衣料品が約15%、住居余暇・日用品が約30%となっています。一方、食品スーパー業態では食品比率が8~9割を占め、生鮮(三温度帯食品)・グロッサリー(加工食品)・惣菜それぞれ充実しています。生鮮食品は「トップバリュ グリーンアイ」など産直・有機のプライベートブランドで差別化し、惣菜・弁当は店内調理の「デリカ」が主力です。日用雑貨はGMSでは洗剤や紙製品から家電・玩具まで幅広く扱い、食品スーパーでは生活必需品中心の品揃えです。グループ全体では総菜比率向上に取り組み、一部店舗ではイートインを備え惣菜売上を拡大しています。
経営方針と戦略
イオンは「お客さま第一」を掲げ、地域密着と規模の経済を両立させる戦略を取っています。経営戦略の柱は(1)グループシナジー最大化、(2)デジタルトランスフォーメーション、(3)プライベートブランド強化です。グループ内の店舗網・商品調達力を活かし、プライベートブランド「トップバリュ」は食品から衣料・雑貨まで約6,000品目を展開、グループ売上の約14%を占めています。またデータ活用にも熱心で、自社電子マネー「WAON」やカード会員4,600万人分の購買データを分析し、品揃えや販促に反映しています 。出店戦略では都市近郊に大型SCを開発し核店舗を配置する一方、M&Aで地域スーパーを傘下に収めドミナントを強化しました。近年は収益性改善に向け、GMS店舗の食品スーパー化や、不採算店整理、スクラップ&ビルドによる店舗刷新も進めています。
DX事例
イオングループは「デジタルシフト」を最重要課題と位置づけ、DX投資を拡大しています。代表例として、2019年に英国オカド社と提携し、先進的な自動倉庫によるネットスーパー専用センターを建設して別法人を作って大型センター型ネットスーパーを運営しています。また2021年にはグループ横断のスーパーアプリ「iAEON(アイイオン)」をリリースし、買い物ポイントや電子決済、配達依頼を一括で提供しています。店舗では電子棚札の導入やセルフレジ拡充、さらにはスマホで商品のバーコードを読み取って決済まで完結できる「スマホレジ」も試験導入しています。これらDXの成果として、2022年度のイオンネットスーパー売上は前年同期比+40%と大きく成長し、2030年までにオンライン売上6,000億円を目指すとしています。
セブン&アイ・ホールディングス (Seven & i)
基本情報
セブン&アイHDはコンビニ最大手セブン-イレブンを中心とする小売グループですが、総合スーパーのイトーヨーカ堂、食品スーパーのヨークなども傘下に持ちます。
ここでは、スーパーマーケット事業について記載します。
セブン&アイ・ホールディングスのスーパーストア事業(イトーヨーカドー、ヨークなど)は、2021年度の売上高約1兆380億円、2022年度1兆3910億円(旧基準ベース)、2023年度も約1兆0,500億円前後と横ばい推移となりました。
2023年9月にイトーヨーカドーとヨーク(旧:ヨークマート)を経営統合しており、同年度末の店舗数はイトーヨーカドー123店、ヨーク(食品スーパー業態)103店の計226店舗となっています。既存店売上高はコロナ禍からの回復で2021年度は前年割れ幅が縮小し(客数98.7%、客単価101.2% 、2022年度はほぼ前年並み(既存店99.9%)。2023年度は衣料品・住居品部門の不振を食品部門が補い、既存店売上はやや増加に転じました(前年比約+1%程度)。営業利益率は1~2%前後と低く、2021~2022年度は採算改善策で黒字は維持したものの1%台前半、2023年度も統合コスト等で2%弱に留まっています。
カテゴリー別売上構成比
イトーヨーカドー(総合スーパー)は衣料・住居関連も扱いますが、食品売上が全体の約6割を占めます。食品カテゴリー内訳は、生鮮食品が約30%強(青果・水産・畜産の合計)、惣菜約10%、日配品約20%、一般食品約30%となっており、総合スーパーとして豊富な品揃えを維持していますす。一方、非食品では衣料品が約15~20%、住居関連商品が約15%程度を占めます。
ヨーク(食品スーパー業態)では、生鮮の比率がさらに高く、青果・精肉・鮮魚合計で4割近く、総菜10%以上、日配・グロサリーなど加工食品で約45%、非食品はごく一部(5%未満)です。
経営方針と戦略
セブン&アイのスーパーストア事業は、近年の業績低迷を受けて抜本的改革に着手しています。経営方針として不採算店舗の閉鎖・スクラップアンドビルドを進め、2021~2023年で大型店の閉店・縮小を相次いで実施しました。また、2023年にはイトーヨーカドーと食品スーパー事業(ヨーク)の経営統合を行い、重複コスト削減と商品政策の一体化を図っています。
戦略面では「食の強化」に重点を置き、総合スーパー業態でも食品売場への投資を増やしました。たとえば、惣菜工場を新設してプライベートブランドの中食(お惣菜)開発を推進し、健康志向商品や簡便メニューの商品力向上につなげています。
2023年9月、イトーヨーカ堂と食品スーパーのヨークは経営統合を実施しました。この統合により、首都圏を中心としたスーパーストア事業の効率化とシナジー効果を追求しています。統合後も「イトーヨーカ堂」の名称で事業を展開し、商品開発や物流、システムを一元化することで固定費削減を図っています。
首都圏に店舗網を集中させる一方で、不採算店舗の閉鎖が進んでいます。2026年までに33店舗の閉鎖計画があり、特に北海道や東北からは撤退する動きが顕著です。
・ヨークベニマルの役割
ヨークベニマルは東北地方を中心に展開しており、地域密着型戦略で堅調な業績を維持しています。新店舗出店計画が進行中で、生鮮食品や惣菜部門の強化にも注力しています。また、DX本部設置など組織改革も行い、中長期的な成長基盤を構築中です。
2024年10月に設立された中間持株会社「ヨーク・ホールディングス」は、イトーヨーカ堂やヨークベニマルなどスーパーストア事業全体を統括します。2025年度には外部資本導入による持分法適用会社化が予定されており、IPO(株式公開)も視野に入れています。ヒューリックやKKRなど外部企業との協力が進められており、不動産活用や店舗改装による収益力強化が期待されています。
DX事例
セブン&アイはコンビニ事業を中心にDXを進めており、スーパー事業にも随所で波及しています。例えばイトーヨーカ堂ではAI需要予測システムを導入し、食品の適正在庫と値下げロス削減に成果を上げました。また電子マネー「nanaco」による購買データ分析で、店舗ごとの品揃え見直しや個別DM配信を行っています。セルフレジやスマホ決済も全店に導入済みで、レジ待ち時間の短縮に寄与しています。物流ではグループ共同配送を進め、各店舗への配送効率化とCO₂削減の両面をDXで支援しています。
パン・パシフィック・インターナショナル (PPIH, ドン・キホーテ)
基本情報
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)はディスカウントストア「ドン・キホーテ」を中核とする企業で、日本の食品小売業でも上位に位置します。総合ディスカウント店業態ながら食品の取り扱いも多く、2023年6月期の連結売上高は約1兆9,210億円となりました。国内外の店舗数は941店(国内ドンキ約640店)で、国内小売業として第3位の規模です。営業利益率は約6%と小売業界平均を上回り、高収益体質が強みです。既存店売上はコロナ禍でも好調で、2022年度は前年比+5.4%、2023年度も+4~5%程度の伸びを示しました。食料品の安価提供が来店頻度向上につながり、業績を下支えしています。
部門構成比
PPIH全体の売上構成は、食品が約65%、日用雑貨・化粧品が約20%、家電製品や衣料・玩具などが約15%程度です (Japan: sales of major supermarket chains 2023 – Statista)。ドン・キホーテ店舗では、生鮮食品から菓子・飲料まで幅広い食品を深夜まで販売し、総菜や弁当も一部店舗で展開しています。生鮮品は他社からのテナント仕入れも活用し、青果・精肉コーナーを持つ店舗も増えています。グロッサリー(日配・加工食品)は大容量パックや訳あり品など仕入れ工夫による安価品が多く、来店客の購買意欲を刺激します。日用品・雑貨は洗剤やトイレットペーパーからバラエティ雑貨まで豊富で、「ジャングル陳列」と呼ばれる独特の陳列方法でまとめ買い需要を喚起しています。
経営方針と戦略
PPIHの経営理念は「圧倒的な高付加価値」と「圧縮された経営コスト」を両立させることで、これにより競争力のある価格と独自の買物体験を提供しています。戦略としてはドミナント出店による深夜営業店舗網の拡大により、都市部若年層から観光客まで幅広い客層を取り込んできました。食品強化も戦略の一環で、近年は多様なフォーマットを展開し、食品売上比率を高めています。M&Aにも積極的で、米国や東南アジアにも進出してドンキ流ディスカウント店を多店舗化しています。国内ではユニー(アピタ・ピアゴ)を買収し、GMS店舗を順次ディスカウント業態に転換することで売上を伸ばすなど、異業態転換の成功事例も出ています。価格面では独自の仕入れルート開拓や在庫一括買い取りで原価を下げ、「驚安」のキャッチコピー通りの低価格商品を提供することでリピーターを獲得しています。
DX事例
PPIHは従来アナログ色が強い企業でしたが、近年デジタル施策も強化しています。たとえば2020年に公式アプリ「majicaアプリ」を導入し、電子マネー機能やクーポン配信を開始しました。これにより顧客購買データの収集が可能となり、品揃え改善に役立てています。また店舗運営ではAIを活用した需要予測システムを試験導入し、人気商品の欠品防止や在庫適正化に取り組んでいます。電子棚札やセルフレジについては一部店舗で実験導入し、省人化効果を検証しています。大規模投資ではありませんが、店舗の強みを活かしたDXにより、顧客利便性と業務効率を徐々に向上させています。
ドイツ
エデカ (Edeka-Gruppe)
基本情報
エデカ・グループはドイツ最大の食品小売企業で、2023年の売上高は約649億ユーロ(純売上)に達しました (Lidl, Aldi, Edeka und Co: Das sind die Besitzer der wichtigsten Supermarkt-Ketten – manager)。エデカは全国の約3,500店のスーパーマーケットを独立フランチャイズ加盟店(商人)によって運営する協同組合組織です。
主要業態は中型のEdekaスーパーマーケットと大型ハイパーマーケットMarktkaufで、地域ごとに7つの協同組合と無数のオーナー店主から成ります。店舗数は細かな小型店も含めると約11,000店に上り、ドイツ国内の食品小売市場シェアは25%超で首位です。営業利益率は公表されていませんが、共同仕入れによるコスト効率で加盟店の利益率向上を支援しています。既存店売上は2023年はインフレの影響もあり前年比+6.7%と大きく伸びました (Inflation treibt Wachstum – Top 30 Unternehmen im LEH 2023 – Lebensmittelpraxis.de)。
部門構成比
エデカ各店舗の売上構成は、生鮮食品(青果・精肉・乳製品など)が30%程度、グロッサリー(乾物・飲料・日配品)が50%弱、惣菜・ベーカリーが5~10%、残りが日用雑貨・日用品となっています(店舗により異なる)。エデカは精肉や惣菜カウンターが充実しており、多くの店舗で対面販売を行っています。特に精肉・ハム類は品質が高く、「エデカ品質」ブランドで独自調達しています。
またプライベートブランド商品が強く、低価格帯「Gut&Günstig(グート&ギュンストィヒ)」から高品質帯「EDEKAブランド」まで幅広いPBを展開し、売上の25%以上をPB商品が占めます。日用品は他社ドラッグストアとの競合もあり、食品スーパーながら洗剤や化粧品も相当量販売しています。
経営方針と戦略
エデカの経営は協同組合モデルで、「商人による地域密着経営」を信条としています。各加盟店オーナーの裁量に委ねた店舗運営を認めつつ、共同仕入れ機構(Edeka本部)が安価に商品供給する仕組みです。このため戦略も本部主導というより、加盟店支援に重点があります。例えば本部はドイツ各地に物流センターを整備し、生鮮から一般食品まで安定供給し加盟店の品揃え力を強化しています。
また傘下には現代的ディスカウントチェーン「Netto Marken-Discount」も持ち、エデカ商人店舗では拾いきれない価格志向層にも対応しています。2017年には競合のTengelmannグループからスーパーマーケットチェーンを買収するなど、市場再編にも積極的です。経営方針としては「We ♥ Lebensmittel(私たちは食品が大好き)」をスローガンに掲げ、鮮度・品質へのこだわりと地域製品の積極採用で、ディスカウント店との差別化を図っています。
DX事例
エデカ・グループではDXも共同組合方式で進められています。本部主導で電子発注システムを導入し、加盟店はタブレットから発注や在庫確認ができる仕組みを提供しています。また店舗向けには電子棚札やセルフスキャンアプリをオプション導入できるよう支援し、各店の近代化を促進しています。消費者向けには「Edeka App」を展開し、デジタルクーポンやレシピ提案、モバイル決済サービスを提供しています。2020年にはオンライン食品ショップ「Bringmeister(ブリングマイスター)」を一時所有しEC展開しました(現在は売却)。さらに、Amazonと提携してエデカ商品をAmazon経由で販売する試みも行われました。DX推進は協同組合ゆえスピードが課題ですが、本部レベルでAI発注や需要予測の試験導入も始まっており、ドイツ最大手としてゆるやかにデジタル化を進めています。
シュヴァルツ・グループ (Schwarz Gruppe: Lidl, Kaufland)
基本情報
シュヴァルツ・グループはドイツ第2位、欧州最大の小売グループで、ディスカウント店「Lidl(リドル)」とハイパーマーケット「Kaufland(カウフラント)」を展開しています。2023年のドイツ国内売上高は約483億ユーロ(純売上)で国内2位、グループ全世界売上高は約1,500億ユーロに達します。
ドイツ国内店舗数はLidlが約3,200店、Kauflandが約770店です。営業利益率は公表されませんが、ディスカウントモデルの効率性により安定した収益を上げているとされます。既存店売上はディスカウント業態の追い風で2023年は前年比+8.2%の増収となりました (Inflation treibt Wachstum – Top 30 Unternehmen im LEH 2023 – Lebensmittelpraxis.de)。なおシュヴァルツは非上場の同族企業であり、情報開示は限定的です。

部門構成比
グループを構成する主要2業態のうち、Lidlは生鮮・グロッサリーに特化したハードディスカウンターであり、取扱品目約2,000点の大半が食品です。Lidlの売上の約80%以上が食品(生鮮15%、グロッサリー・飲料60%、菓子・総菜等含む)で、残りが日用品や週替わり特売の非食品(衣料・家電など)です。Kauflandはハイパーマーケットで、食品が約75%、非食品(日用品・衣料・家電・雑貨)が25%程度の構成です。生鮮食品は両業態とも力を入れており、Lidlでもパンの店内焼成や精肉加工などを一部行っています。プライベートブランドはシュヴァルツの強みで、Lidlでは約80%が自社ブランド商品、Kauflandでも低価格からプレミアムまで多彩な自社ブランドを揃え、価格帯別に顧客ニーズに応えています。
経営方針と戦略
シュヴァルツ・グループの基本戦略は「徹底したコスト効率と国際展開」です。Lidlは創業以来のEDLP哲学に基づき、店舗設備・人員を必要最小限とし、一括大量仕入れで低価格を実現しています。その結果、グループはドイツ国内のみならず欧州各国でディスカウント市場トップクラスのシェアを誇ります。経営方針は同族経営の長期視点で、M&Aではなく自力出店主義を採っています。国際展開も積極的で、Lidlは米国を含む30か国以上に進出し、各国で現地調達をしつつディスカウントモデルを展開しています。
Kauflandは東欧などで多店舗展開中です。一方、環境・社会面にも注力しており、自社でリサイクル企業を持つなど垂直統合を進め、サーキュラーエコノミー対応や食品ロス削減にも取り組んでいます。グループ全体でプラスチック使用削減目標を掲げるなど、持続可能性も戦略の一環となっています。
DX事例
シュヴァルツ・グループでは近年デジタル化投資を強化しています。Lidlでは「Lidl Plus」という公式アプリを欧州各国で展開し、デジタルクーポン配布や電子レシート発行などで顧客データの収集とサービス向上を図っています。ドイツでは非食品のオンラインショップも運営し、AIによる需要予測で在庫リスクを最小化する工夫をしています。Kauflandではセルフスキャンモバイルアプリを導入し、顧客が自分で商品をスキャンして決済できる試みを一部店舗で開始しました。また、シュヴァルツIT部門はIBMの小売関連ソフト資産を買収し、独自のクラウド基盤「Stackit」を構築するなどIT内製化を進めています。店舗オペレーションでは電子棚札や自動発注システムを導入し、人手による価格貼替え作業や発注業務を削減しました。さらに、グループのノウハウを活かして2023年には無人決済店舗(チェックアウトフリー店舗)の実証実験も行い、将来的な省力化モデルを模索しています。
レーヴェ (Reweグループ)
基本情報
レーヴェ・グループはドイツ第3位の食品小売グループで、2023年の国内売上高は約433億ユーロでした。レーヴェは協同組合型企業で、自社直営のスーパーマーケット「REWE」約1,800店と、加盟店経営の「REWEパートナー」店、ディスカウントの「Penny」約2,150店など多様な業態を持ちます。またドラッグストアやDIY店、旅行業なども営むコングロマリットです。
食品小売に限ればドイツ市場シェア約15%で、エデカに次ぐ地位です。店舗数はグループ全体で約6,000店以上(うち食品関連約4,500店)に上ります。営業利益率は2~3%台と推定されています。2023年はディスカウンターPennyの好調などで国内食品売上は前年比+6%増となりました。
部門構成比
レーヴェグループの食品事業売上構成は、スーパーマーケット(REWE)業態が約60%、ディスカウント(Penny)が約25%、その他(卸売やコンビニ等)が残りを占めます。REWE店舗の売上では食品が約85%、非食品(日用品など)が15%程度です。生鮮食品・グロッサリー・惣菜のバランスが良く、生鮮では自社精肉工場やパン工場を持ち高品質品を供給しています。惣菜は「REWE To Go」というブランドで店内調理のサラダや弁当を展開し、都市部店舗ではテイクアウト需要を取り込んでいます。プライベートブランドは、廉価版「JA!」、スタンダード「REWE Beste Wahl」、有機「REWE Bio」など階層的に揃え、スーパーではPB構成比約30%です。Pennyは取扱品目を2,000点程度に絞り、80%以上を食品・飲料が占めます。
経営方針と戦略
レーヴェは「より良い暮らしのためのパートナーであること」を理念に掲げ、都市から地方まで幅広い業態で生活必需品を提供しています。戦略的にはマルチフォーマット展開とデジタル投資が特徴です。例えば都市型小型店「REWE City」やガソリンスタンド併設コンビニとの提携(Aralとの協業)により、様々な商圏をカバーしています。また近年ではオーストリアのBILLAや東欧の複数スーパー事業も傘下に収め、国際化も進めています。競合エデカとの差別化として、レーヴェは中央集権的経営でチェーンストア効率を重視し、独自の店舗コンセプトを全国に浸透させています。食品オンライン販売にも力を入れており、早くからネットスーパー「REWE.de」を展開し、2022年時点でドイツ国内最大級の食品EC事業者となっています。ディスカウントのPennyでは店づくり刷新と品揃え差別化(地元生鮮の導入など)で、激しい価格競争下でもブランドロイヤルティを向上させました。
DX事例
レーヴェ・グループはデジタル分野で先進的な取り組みを行っています。その代表例がオンラインスーパーの成功で、REWEのネットスーパーは自前の冷蔵配送網を構築し、生鮮品含む宅配を大都市圏で実現しています。AIによる需要予測と在庫連動で配送センター運営を効率化し、2020年以降のEC需要拡大に対応しました。また店頭では、セルフスキャンアプリ「Scan&Go」を開発し、顧客が自分のスマホで商品をスキャンして会計できるサービスを一部展開しています。電子価格表示やデジタルサイネージも積極導入し、価格変更の自動化や販促のリアルタイム化を進めています。さらに、スタートアップとの提携にも熱心で、無人店舗技術のテストやラストマイル配達ロボットの試験なども実施しました。これらDXにより、「買物体験の利便性向上」と「オペレーション効率アップ」の双方で成果を上げ、競争力強化につなげています。
インド
リライアンス・リテール (Reliance Retail)
基本情報
リライアンス・リテールはインド最大の小売企業で、ムケシュ・アンバニ氏率いるリライアンス財閥の中核事業の一つです。食品雑貨から衣料・家電まで幅広い小売業態を運営し、2023年度の売上高は約3兆0670億インドルピー(約360億ドル)に達しました。
同社は「Reliance Fresh」「Reliance Smart」などのスーパーマーケット約2,500店、卸会員制の「Reliance Market」やコンビニ業態も展開し、店舗数はインド全国で18,500店以上に及びます (The 21 Top Supermarkets in India in 2025)。営業利益率は5%前後と推定されます。成長率は非常に高く、2021~2023年に売上が倍増するなど急拡大を遂げました。2023年度は既存店売上も二桁増となり、インド小売市場で断トツの地位を占めています。

※2024年10月 筆者撮影
部門構成比
リライアンス・リテール全体では食品・日用品が売上の約65%を占め、残りが衣料・家電・ドラッグストアなど他部門です。食品スーパー業態では生鮮食品(青果・精肉など)が約20%、一般食品・グロッサリーが50%超、惣菜・即食食品が10%弱、日用雑貨が残りを占める構成です。
都市部大型店「Reliance Smart」では、生鮮食品売場を充実させつつ、惣菜カウンターやベーカリーも備えワンストップで買える体験を提供しています。郊外小型店「Reliance Fresh」では日配品や青果を中心に品揃えしています。グロッサリーでは自社ブランド商品も多数開発しており、特に加工食品や日用品のプライベートブランドで高い利益率を確保しています。惣菜分野ではキッチンセンターで調理した弁当類を一部店舗で試験販売し、働く層の需要取り込みを図っています。
経営方針と戦略
リライアンス・リテールの経営戦略は「規模の追求と垂直統合」にあります。親会社リライアンスの資本力を背景に、インド各地で店舗網を猛烈な速度で拡大するとともに、サプライチェーンの統合を進めています。2020年には同業大手Future Retailの店舗買収(約1,800店)を試み、市場寡占化を図りました(※後に法的紛争)。
また卸売り事業やBtoB供給網も構築し、小規模雑貨店(キラナ)への商品供給プラットフォームを運営しています。経営方針として「デジタルとフィジカルの融合(New Commerce)」を掲げ、傘下の通信事業Jioと連携してオンライン販売にも注力しています。さらに私有ブランド強化のため食品工場や農産物調達ネットワークを整備し、価格競争力と品質統制を両立させています。総合的に、インド国内で川上から川下まで支配力を強め、外資小売(Amazonやウォルマート系Flipkartなど)に対抗する戦略です。
DX事例
リライアンス・リテールは「JioMart」という大規模なオンラインマーケットプレイスを立ち上げ、傘下のリアル店舗商品をネット販売しています (Retail value of Reliance Retail doubled in less than 3 years: Isha …)。Jio(通信)の顧客基盤を活かし、WhatsApp上で注文を受け付けるサービスも導入しました。また、全国のキラナ店(小規模食料品店)にスマホアプリを提供し、リライアンスの卸価格で商品を仕入れ・決済できるB2Bプラットフォームを展開しています。店舗DXではPOSシステムを統一し、売上データをリアルタイム収集して需要予測や在庫管理にAIを活用しています。2022年には買収したFuture Group傘下の会員データも統合し、顧客分析を高度化しました。さらに倉庫では自動仕分け機やロボットを導入し、EC受注にも対応できるハブ倉庫網を整備しています。これらのDX施策によって、店舗販売とオンライン販売の垣根をなくし、インドにおける新しい小売モデル(ニューコマース)の実現を目指しています。
ディーマート (Avenue Supermarts / DMart)
基本情報
ディーマートはインド有数のスーパーマーケットチェーンで、創業者ラダキション・ダマニ氏が2002年に開業しました。2023年3月期の売上高は約5,095億インドルピー(約61億ドル)となり、前年から大幅に増収しました。西インドのマハラシュトラ州を中心に全国12州で365店舗を展開しています。各店舗は大型の割引志向スーパーマーケットで、低価格と高回転率で知られます。営業利益率は約8%とインド小売業では高水準で、2023年3月期の営業利益は324.9億ルピーでした (How did DMart Become The Most Profitable Retail Grocery Store in …)。
ディーマートは一店舗当たりの平均売上高が極めて高く、既存店売上も安定成長しています(2023年度は前年比+20%超)。株式市場でも上場企業として高評価を得ており、「世界で最も収益性の高い食品小売」と評されることもあります (Wait, the most profitable grocery retailer in the world is Indian?)。

※2024年10月 DMart Garuda Mall 筆者撮影
部門構成比
ディーマートの売上構成は、食品グロッサリーと日用品が大半を占めます。具体的には、加工食品・飲料など一般食品が売上の約60%、生鮮食品は一部店舗のみの取り扱いで全体の5%程度、日用雑貨(洗剤・化粧品・ホーム用品)が約20%、衣料・雑貨等が約15%です。
同社は低価格志向の消費者向けに必需品を網羅する品揃えで、特に食用油・米・豆類などインド料理の必須食材をまとめ買いできるよう大袋で販売しています。惣菜や弁当類は扱っていませんが、その分パッケージ食品やスナック菓子、調味料の品ぞろえが充実しています。プライベートブランド商品は限定的ですが、全品が常に割安価格となるようEDIで仕入原価を徹底管理しています。衣料品も安価な実用衣料を少数扱いますが、主力はあくまで食品・日用品です。
経営方針と戦略
ディーマートの経営方針は「毎日低価格」を貫き、不必要なコストを極限まで排除することです。戦略としてまず店舗所有主義を採用し、多くの店舗で土地・建物を自社保有することで賃料負担を抑えています (How DMart cracked the grocery market to become the most … – buildd)。また品揃えは利益率の低い贅沢品を排し、生活必需品に集中させ、在庫回転率を業界トップクラスの45日以内に維持しています。販促も最小限で、毎日全商品が安いという評判を口コミで広げる戦略です。
出店戦略では、収益性に厳しい基準を設け、ロケーションの良い郊外に大型店のみを展開しています。店舗当たりの人員も少なく抑え、セルフサービスを徹底しています。さらに、倉庫型ディスカウントモデルをインドに定着させた実績により、競合他社が価格競争を挑んでも利益を確保できる強靱なビジネスモデルを築いています (How DMart cracked the grocery market to become the most … – buildd)。こうした戦略でディーマートはインドにおける「殿堂入りディスカウンター」の地位を確立しています。
DX事例
ディーマートは伝統的にIT投資を抑えてきましたが、一部にDXの動きもあります。2017年にはオンライン注文サービス「DMart Ready」を開始し、都市部で店舗受取や宅配を提供しています。DMart Readyでは小規模な倉庫を各地に配置し、アプリで注文を取り店舗在庫を活用して短時間で受け渡すモデルを採用しました。
店舗運営では、POSシステムで販売データを集約し、本部で需給予測を行う仕組みを導入しています。これにより在庫補充は本部主導の自動発注に近い形で進められ、在庫最適化に寄与しています。また、自社開発のシステムで収益指標を店舗ごとにリアルタイム監視し、問題があれば即座に対応する経営管理を実現しています。加えて2023年にはデジタル決済推進のためUPI(統一決済インターフェース)対応を全店で完了し、キャッシュレス化に対応しました。全体として派手さはありませんが、堅実なIT活用でローコスト経営を下支えしています。
ビッグバザール (Big Bazaar / Reliance Smart Bazaar)
基本情報
ビッグバザールはかつてインド最大級のハイパーマーケットチェーンで、旧フューチャー・グループによって全国展開されていました。2022年にフューチャー・グループの経営危機に伴い、約200店舗がリライアンス・リテールに引き継がれ「Reliance Smart Bazaar」へと改装されました。フューチャー・グループ時代の最盛期(2020年)には売上高約65億ドル・店舗数300超を誇っていました (The 21 Top Supermarkets in India in 2025)。引き継ぎ後のスマートバザールも同様の大型総合スーパー業態で、2023年時点でインド29州に展開されています。現在はリライアンス傘下のため単体の財務情報は開示されていませんが、旧ビッグバザールは低い営業利益率(2%未満)で競争激化に苦しんでいました。既存店売上も2019年頃から伸び悩み、パンデミックを経て経営破綻に至りましたが、リライアンスによる再建で一定の客足は回復しています。
部門構成比
ビッグバザール(スマートバザール)の売上構成は、食品・日用品が約60%、衣料が15%、家庭用品・雑貨が25%程度でした。生鮮食品も取り扱いますが、主力は加工食品や飲料、菓子類などグロッサリーです。大型店のため惣菜・外食コーナーも併設し、インド料理の出来立て惣菜からベーカリーまで提供していました。プライベートブランドも多く、「Tasty Treat」や「Clean Mate」など食品・日用品の自社ブランドを展開し、価格訴求していました。衣料品売場では自主企画のファストファッション衣料を大量販売し、一部店舗では家具・家電まで扱う「ミニ百貨店」的性格も持っていました。全体的に「一家のまとめ買い需要」に応える品揃えで、インド版ウォルマート的な存在でした。
経営方針と戦略
旧ビッグバザールの経営理念は「主婦の財布に優しい価格で何でも揃う店」で、インド中間層をターゲットに掲げていました。創業者キショール・ビヤーニ氏は「小売の王」と呼ばれ、積極的な出店とディスカウント戦略で急成長させました。しかし2010年代後半には、ウォルマート=フリップカートやアマゾンといった外資系の台頭、及びリライアンスなど国内巨大資本との競争に押され経営が悪化しました。戦略としては会員プログラム「Future Pay」で囲い込みを図り、ショッピングセンター内での集客に注力しましたが、オンライン対応の遅れも弱点となりました。2020年以降はリライアンスへの売却交渉に入り、店舗ブランドを譲渡する決断に至りました。リライアンス傘下のスマートバザールとして再出発後は、リライアンスのEDLP戦略やサプライチェーン力を活かし、かつてのビッグバザールより低価格路線へ転換しています。つまり、経営方針もリライアンス流に「低価格・大量販売」へシフトし、店舗網も既存店中心に立て直しが進められています。
DX事例
ビッグバザール時代のDXは限定的でしたが、一部に試みはありました。例えばスマホアプリ「Future Group Wallet」を導入し、キャッシュレス決済やロイヤルティポイント管理を行っていました。またオンラインショッピングへの対応として、ECサイトや提携宅配サービスを都市部で運営しましたが、AmazonやFlipkartに比べ遅れをとっていました。現在、スマートバザールになってからはリライアンス・リテールのDX基盤に組み込まれています。JioMartでのハイパーマーケット商品の販売や、店舗受取サービスに対応し始めています。店内業務でも、リライアンス共通のPOSシステムや在庫管理システムが導入され、発注・補充が効率化されています。要するに、DX面ではビッグバザール単体では大きな成果はありませんでしたが、リライアンスに吸収されたことで一気に最新のデジタル小売基盤を獲得した形です。
イギリス

テスコ (Tesco PLC)
基本情報
テスコはイギリス最大のスーパーマーケットチェーンで、2023/24年度(2024年2月期)の売上高は680億ポンド(VAT抜・燃料込)に達しました。英国とアイルランドで約4,000店を運営し(そのうち英国本土は約3,800店)、業態は大型ハイパーマーケットから中型スーパー、コンビニ(Tesco Express)まで多岐にわたります。営業利益率は4%前後で、2023/24年度は調整後営業利益が28.21億ポンド(営業利益率約4.2%)でした (Preliminary Results 2023/24 – Tesco PLC)。
既存店売上(Like-for-like)は2023年度は英国で前年比+5.1%と堅調で 、物価高騰下でもシェアを伸ばしました。市場シェアは英国内で27.6%に達しており、2位以下を大きく引き離しています。
部門構成比
テスコの英国売上の約90%が食料品関連で、その内訳は生鮮食品・惣菜が約40%、グロッサリー(加工食品や飲料)が約45%、残り15%がヘルス&ビューティや日用品など非食品となっています (TOP NEWS: Tesco backs outlook after strong UK sales in first quarter) 。大型店では衣料品や生活家電も扱いますが、食品が最重要部門です。生鮮では特に青果・精肉に強く、カウンターサービスも大半の大店舗で提供していましたが、2023年に全店で精肉・鮮魚の対面カウンターを閉鎖し省力化しています (Tesco shutters all food counters as UK grocery inflation reaches record)。
惣菜はローストチキンなどのデリカやインストアベーカリーが好評です。プライベートブランドは「Tesco Finest(高級)」「Tesco Brand(中価格)」「Hearty Food(低価格)」など多層展開し、売上の半分以上を占めています。燃料販売も併営店舗が多く、燃料売上・金融収入を含めたグループ総売上はさらに大きくなります。
経営方針と戦略
テスコの経営方針は「お客様に最良の価値を提供し信頼を得ること」で、そのために「価格競争力の維持」「品揃え充実」「カスタマーサービス向上」の3点を重視しています。戦略面では、ディスカウンター(ドイツ系AldiやLidl)の台頭に対抗して2016年以降大胆な価格投下を行い、ナショナルブランドの大幅値下げや、自社PBでの「Aldi Price Match(主要商品をアルディと同価格に設定)」を実施しています。また会員カード「Clubcard」によるデータ経営を世界に先駆けて導入しており、Clubcard価格と呼ばれる会員限定特価を設定し多数の顧客を囲い込んでいます。品揃え面では、2019年に現代的ディスカウント店舗「Jack’s」を実験しました(現在は終了)し、その教訓からSKU削減やプライベートブランド強化を行いました。サプライチェーン効率化のため卸売大手Bookerを買収し(2018年)、卸売・業務筋への販売も取り込んでいます。こうした戦略により、2023年には主要競合の中で唯一マーケットシェアを拡大し、「価格面でもサービス面でも他社に勝るフルライン食料品店」を実現しています。
DX事例
テスコはデジタル分野でも多くの施策を行っています。オンライン食品宅配サービス「Tesco.com」は英国最大規模で、パンデミック下では週150万件超の配送を処理しました。倉庫の自動化として、Ocado出身の技術者を招き、店舗ピッキングから専用ダークストアへの移行を進めています。店舗ではセルフレジ・セルフスキャン端末を早くから導入し、最近では完全無人決済店舗「GetGo」をロンドンで開店しました(AIカメラと重量センサーで買物を自動検知)。またClubcardアプリでのモバイル決済や割引提供も強化し、2023年時点でクラブカード会員が全国世帯の約80%に達しています。
物流ではマイクロフルフィルメントセンター(小型自動倉庫)をいくつかの大型店後方に設置し、都市部オンライン注文を迅速化しました。さらにAIによる需要予測とプライシング最適化システムを導入し、値引き販売のタイミングを最適化するなど効率を上げています。DXに総合的に取り組むことで、顧客体験とコスト効率の両面で成果を上げ、業績改善につなげています。
セインズベリー (J Sainsbury plc)
基本情報
セインズベリーはイギリス第2位のスーパーマーケットチェーンで、2023/24年度(2024年3月期)の売上高は約356億ポンド(VAT抜)でした 。英国に約1,400店(大型スーパー約600店、コンビニ約800店)を展開し、傘下に総合ディスカウントのアルゴス(Argos)も擁します。営業利益率は3%台で、2023/24年度の小売営業利益は9.66億ポンド(営業利益率約3.1%)となりました。
既存店売上は食品分野が堅調で、2023年度は食料品が前年比+3%成長する一方、一般商品(Argos含む)が▲4%と伸び悩みました (City snapshot: Sainsbury’s grocery growth dragged back by general …)。全体では市場シェア約15%でTescoに次ぐ位置にあります。なお、2021年に競合Asda買収を試みましたが規制当局により阻止されました。
部門構成比
セインズベリー・グループの売上構成は、食料品が約60%、汎用商品のArgos事業が約20%、衣料品などその他が約20%です。食品売上内訳は生鮮・惣菜が約30%、グロッサリーが50%強、残りが日用品・飲料などです。大型店では自社ベーカリーやピザ調理など惣菜も充実させています。
プライベートブランドは「by Sainsbury’s(スタンダード)」「Taste the Difference(高級)」などで、食品売上の約50%を占めます。Argosはカタログ小売大手で、家電やおもちゃ・家具等をオンライン・店頭で販売し、スーパー店内にArgosカウンターを多数併設しています。また系列にDIY店Habitatや回転寿司チェーンYo! Sushiとの提携店舗も持ち、非食品分野にも広がりがあります。
経営方針と戦略
セインズベリーは「食料品で質と価値を提供しつつ、総合小売企業として顧客のあらゆるニーズに応える」戦略をとっています。2016年にArgosを買収し、食品と汎用商品を統合したオムニチャネル戦略を進めました 。
最近はコスト削減策「Save to Invest」を推進し、2024年度までに5億ポンドの費用削減を達成しています。その原資で食品の値下げ(EDLP化)や従業員賃上げに充て、価格競争力向上とサービス改善を図っています。店舗戦略では大型店を改装してArgos併設やテナント導入を進め、スペース効率を高めています。またオンラインは食品宅配とArgosデリバリーの両輪で、総売上に占めるオンライン比率は20%超とイギリス小売でトップクラスです。
競争面では、Tesco・Asdaとの合併に失敗したことから単独路線を磨き、「高品質イメージ」を保ちつつディスカウンターに価格で対抗する難しい舵取りを行っています。実際、主要価格を競合と合わせる“Price Lock”やディスカウンター並みの廉価PB「Imperfectly Tasty」の投入など、価格イメージの改善にも努めています。
DX事例
セインズベリーはデジタル分野で多くのプロジェクトを展開しています。オンライン食品宅配では自社配送網を駆使し、2020年には週70万件に対応しました。Argosは元々オンライン比率が高く、店舗在庫を活用した即日受取サービスが強みです。両事業の統合作用で、スーパー店舗でArgos商品受取が可能になり、追加来店を誘発しています。また、店頭のスマホスキャン決済「SmartShop」アプリを導入済みで、2024年時点で全大型店の4割以上の決済がスマートショップ経由という実績を上げています。
さらに、2019年にはレジ無し店舗の実験店もロンドンに開設しました(後に閉鎖)。AIや機械学習も取り入れており、需要予測精度向上やサプライチェーン最適化を進めています。たとえば天候データと連動したBBQ用品の需給予測などを行い品切れ防止に役立てています。またDXの一環で社内システムをGoogle Cloudに移行し、データ分析や開発のスピードアップも図っています。こうしたデジタル戦略により、売上の成長と顧客利便性向上、そして運営効率の改善に寄与しています。
アスダ (Asda Stores Ltd.)
基本情報
アスダはイギリス第3位のスーパーマーケットチェーンで、もともと米国ウォルマート傘下でしたが2021年にイッサ兄弟とTDRキャピタルのコンソーシアムにより買収されました。2022年の売上高は約200億ポンドと推定され、店舗数は約600店(大型店を中心に、近年小型店にも進出)です。営業利益率は2%台と見られ、買収後の財務改革でコスト削減が進んでいます。既存店売上は2022年は前年比+0.5%と横ばいでしたが、2023年は物価上昇による客単価増で+4%程度の成長をしています。市場シェアは約14%で、僅差でセインズベリーに次ぐ4位です(2023年現在では3位に復帰との報もあり)。
部門構成比
アスダの売上構成は、食品が約75%、非食品(衣料「George」ブランドや家電・雑貨)が約25%です。生鮮食品とグロッサリーが店舗売上の柱で、特に大家族層向けの大容量パック商品が多く並びます。惣菜部門は他社ほど重視しておらず、対面カウンターを2019年までに多く廃止しています。一方、衣料品「George」はブランド展開が成功しており、衣料専業小売並みの売上を持つ重要部門です。PBは「Asda Smart Price(低価格)」から「Extra Special(高級)」まで多層展開し、2010年代に一度構成比を下げましたが、最近また低価格PBを強化しています。ウォルマート傘下だった経緯から、米国輸入品(お菓子等)の品揃えが豊富だったのも特色です。燃料事業も運営し、多くの店舗でガソリンスタンド収入があります。」
経営方針と戦略
アスダの経営方針は「高い価値をより安く(Save Money. Live Betterの継承)」で、ウォルマート流のEDLPをイギリスに根付かせました。2021年以降新オーナーの下、戦略転換が進んでいます。まず既存大型店の活性化策として、自動車用品のユーロカー部品店やファストフードのテナントを導入し、空きスペース活用を図りました。またコンビニ市場参入のため、ガソリンスタンド小売チェーンを買収して小型店「Asda Express」を展開し始めています。価格戦略ではディスカウントチェーンに対抗し、「Dropped & Locked(価格据え置き)」キャンペーンを展開して約500品目を値下げ固定しました。EC面ではウォルマート由来の先進的なオンラインシステムを維持しつつ、2022年には即時配達でウーバーと提携し利便性を追求しています。今後は買収した英石油小売大手EGグループとのシナジーも見込まれ、ロードサイド店舗網の拡充と食品販売拡大を戦略の軸に据えています。
DX事例
アスダはウォルマート傘下であったため、早くからDXに取り組んできました。オンライン食品宅配「Asda.com」は英国でTescoに次ぐ規模で、クリック&コレクト(店舗受取)サービスも全国で提供しています。店舗ではスキャン&ゴー端末を導入済みで、顧客が自分でスキャンして高速レジ通過できる環境を整えました。またAIを活用した価格最適化システムを導入しており、競合価格や在庫状況に応じてリアルタイムに値下げ指示を出すことができます。2022年には電子棚札のテスト導入も開始し、人手によるラベル交換の効率化を図りました。ウォルマート時代には米国本社と共同でブロックチェーンを用いた食品トレーサビリティ実証も行っています。さらにデータ分析にも注力しており、レシート情報を分析する専用部門を設置し、商品の陳列順や品揃え変更に活かしています。新オーナー移行後もこれらDXの流れは継承され、ITインフラはウォルマートから独立しつつ、独自開発と外部ソリューション活用で刷新が進んでいます。
フランス
エ・ルクレール (E.Leclerc)
基本情報
E.Leclerc(ルクレール)はフランス小売市場でシェア首位のハイパーマーケット・スーパーマーケット協同組合です。2023年の売上高は約480億ユーロ(ガソリン含む税込総売上)を記録し、前年から+10%と堅調に成長しました。フランス国内に約734店舗(ハイパーマーケット約600店、スーパー規模など他業態含む)を展開し、市場シェアは22.7%に達します。営業利益率は非公開ながら薄利多売で2%程度と推定されます。
既存店売上は2022年に+4.0%、2023年も高い伸びを示し、長年2位だったカルフールを売上で上回りました (Chiffre d’affaires record pour Leclerc en 2023, à 48 Mds€ (+10%))。ルクレールは独立商人の協同組合であり、各店舗オーナーが出資・運営する形態です。
部門構成比
ルクレール店舗の売上構成は、食品が約70%、非食品が30%程度です。食品内訳は生鮮(三温度帯食品)が約25%、グロッサリー(加工食品・飲料)が約45%、惣菜・ベーカリーが5-10%、残りがペット用品や衛生用品など関連品目です。ハイパーマーケットでは衣料・家電・書籍など広範な非食品も扱い、郊外型ショッピングセンターの核として機能しています。生鮮食品は質・量とも充実しており、とくに青果・精肉は専属バイヤーが地域の卸売市場や生産者と連携し、新鮮かつ安価に提供しています。
ルクレールは「ドライブ(Drive)」と呼ばれるネット注文車渡しサービスの先駆者で、2023年にはドライブ経由売上が55億ユーロ(全売上の約11%)に上りました (Leading supermarkets by market share France 2024 | Statista)。惣菜については他社に比べ簡易で、店内調理のお惣菜コーナーは小規模ですが、その分価格で優位性を保っています。プライベートブランド商品は「Marque Repère」などを展開し、売上の約30%を占めています。
経営方針と戦略
ルクレールのモットーは「消費者に最も安い価格を保証する」ことで、エドゥアール・ルクレール創業以来のディスカウント精神が受け継がれています。経営方針は協同組合方式で、各加盟店オーナーの自律性を尊重しつつ共同調達・共同広告で競争力を維持するものです。価格調査と値下げ競争に非常に積極的で、フランスで数々の値下げキャンペーンを牽引してきました。また、郊外大型店に加え、近年は都市向けの小型スーパー「Leclerc Express」や生鮮特化店なども展開し、消費者の幅広いニーズに対応しています。ドライブ方式にもいち早く着手し、コロナ禍での需要急増により市場リーダーの地位を確立しました。さらに、組合として燃料スタンドや薬局事業も手掛けており、「ハイパーマーケット+専門店」の複合業態で一つの商圏を支配する戦略です。カルフールとの違いは上場しておらず迅速な値決めができる点で、インフレ局面でも他社に先行して値下げを断行し、市場シェアを伸ばすことに成功しています。
DX事例
ルクレールはデジタル化にも取り組んでおり、特にドライブ(ネット注文)の成功が象徴的です。2000年代後半に導入したクリック&コレクトはフランス国内で2000拠点以上に拡大し、注文から数時間での受け取りが可能です。
ITシステムは協同組合本部が整備し、各店舗の在庫と連動して注文を割り振る仕組みを構築しています。また顧客ロイヤルティカード「Carte Leclerc」のデジタル化を進め、スマホアプリでポイント確認やクーポン受取りを可能にしました。店舗では電子棚札を大半の売場で導入済みで、価格変更業務を効率化しています。さらに、スタートアップ企業と連携し、店内の画像認識による品切れ検知システムや、AI需要予測システムをパイロット導入しています。消費者向けには2022年に初のオンライン宅配サービス「Leclerc Chez Moi」をパリで開始し、Amazonやカルフールに対抗すべく都市部ECも強化しています。総じて、安値戦略を支える裏方としてDXを活用し、コスト削減と利便性向上を両立する方向で推進しています。
カルフール (Carrefour S.A.)
基本情報
カルフールはフランス第2位の小売企業で、世界約30か国で事業を展開します。2022年のグループ総売上高は1,081億ユーロ(税抜売上約908億ユーロ)で、そのうちフランス国内売上は約420億ユーロでした。フランス国内ではハイパーマーケット約250店、スーパーマーケット約1,000店、コンビニ約3,400店を運営し、市場シェア約20%でルクレールに次ぎます。営業利益率はフランス事業で約3%です。近年は国内売上がやや伸び悩み、2022年は前年比▲0.7%でしたが、2023年前半は+3%程度に持ち直しています。かつて世界第二位の小売企業でしたが、現在は売上規模で7位前後。CEOアレクサンドル・ボンパール氏の下、構造改革を進めています。
部門構成比
カルフール・フランスの売上構成は、食品が約80%、非食品が20%です。食品内訳は生鮮食品約30%、グロッサリー・飲料約50%、惣菜・冷凍・ベーカリーが10%、その他(ペット用品等)が10%弱です。カルフールのハイパーマーケットは伝統的に幅広い非食品も強みでしたが、近年は衣料・家電の売場縮小が進みました。総菜カウンターや鮮魚・精肉対面販売は多くの大型店で維持していますが、2022年以降一部店舗で廃止する動きもあります。プライベートブランドは「Simplé(低価格)」「Carrefour(中価格)」「Reflet de France(高級・郷土料理)」などがあり、グループ全体で売上の33%(量ベース)をPBが占めます。またBio(有機)食品にも力を入れ、カルフール・バイオという専門小型店も運営しています。燃料事業も大店舗併設で行っており、売上の一部です。
経営方針と戦略
カルフールは2018年に「Carrefour 2022」計画を策定し、コスト削減とEコマース強化に取り組みました。その後も「Carrefour 2026」計画へと継続し、経営方針は「コストを削り、価格投資とデジタル投資に充当する」ことです (Inflation treibt Wachstum – Top 30 Unternehmen im LEH 2023 – Lebensmittelpraxis.de)。具体策としてフランスでは本部人員を約4千人削減し、生産性を向上させました。また不採算の大型ハイパーマーケットを閉鎖・売却し、逆に利幅の高い小型店フランチャイズ(Carrefour Cityなど)を拡大しています。
食品については地場産品調達の強化や、有機食品でのリーダーシップ確立を掲げましたが、有機需要減退で現在は低価格路線へシフトしています。実際、2023年から「価格凍結(Prix bloqués)」キャンペーンで500品を値下げ固定し、低価格イメージを取り戻そうとしています。さらに他社連合(Les Mousquetaires)との共同調達契約により仕入れ力を強化しました。将来的には海外事業の再編(例えばスペインの売却検討)や、国内競合との合併なども取り沙汰されており、市場環境への適応に余念がありません。
DX事例
カルフールはフランス小売業でDXを先導する企業の一つです。特筆されるのはGoogleとの包括提携で、2018年からAI・クラウド面で協業し、社内ITを大規模にGoogle Cloudへ移行しました。またGoogleアシスタントを使った音声発注サービスなども展開しています。消費者向けには、食品ECサイト「Carrefour.fr」を刷新し、クリック&コレクトや1時間宅配(Partnered with Uber Eatsなど)を拡大しました。店内ではセルフレジ・セルフスキャンを導入済みで、実験店舗「Flash 10/10」では無人決済技術(カメラとセンサーで10秒会計)を投入しています。
データ分析ではAIで競合価格をモニターしダイナミックプライシングを試行するほか、需要予測AIで在庫最適化とフードロス削減に成功しています。2023年にはメタバース上のバーチャルスーパーマーケットを公開し話題を集めました。さらにスタートアップ投資部門があり、食品ロスアプリ「Too Good To Go」やブロックチェーン食品追跡(IBM Food Trust)など革新的技術を導入しています。これらDXを通じ、「デジタル小売企業への変革」を目指すカルフールの取り組みは、フランス国内外で注目されています。
レ・ムスクテール (Les Mousquetaires: Intermarché 他)
基本情報
Les Mousquetaires(レ・ムスクテール、三銃士)はフランス第三の流通グループで、食品スーパー「Intermarché(アンテルマルシェ)」を核とする協同組合です。2023年のフランス国内食料品売上高は約280億ユーロ(燃料除く)で、市場シェア約16%に相当します。インタルマルシェは全国に約1,800店を展開し、大型スーパーから小型食料品店(Express業態)まで多様なフォーマットがあります。営業利益率は低めですが、加盟店主義ゆえ詳細非公表です。2022年は食品部門売上が前年比+1.6%増の278億ユーロ(税抜、燃料除く)となり (Intermarché clôt son exercice 2022 à +1,6% – Linéaires)、堅調でした。なおグループにはDIY店「Bricomarché」や自動車用品店「Roady」も含まれます。食料品に限ればフランス第3位で、カルフールと僅差となっています。
部門構成比
アンテルマルシェの店舗売上はほぼ100%が食料品です。生鮮食品の比率が高く、2022年はフランス国内で生鮮食品売上が前年比+3.1%と健闘しました (Intermarché clôt son exercice 2022 à +1,6% – Linéaires)。生鮮(三肉魚青果)の売上構成比は約30%、一般食品・飲料が約50%、惣菜・冷凍などが10%、残りが日用品です。精肉加工工場や水産加工センターを自社グループ内に持ち、加盟店に直接供給しているため、生鮮の品質と価格に競争力があります。実際、食肉ブランド「Jean Rozé」など自前ブランドで展開し、競合より鮮度が良いとの評価を得ています。プライベートブランドは「Les Filières Porc, Lait, etc.(産直PB)」や「Champs de France(国産農産物PB)」など独自色が強く、全売上の40%近くを占めます。ガソリンスタンドも約300拠点併設し、燃料売上もグループに貢献しています。
経営方針と戦略
ムスクテール協同組合は「独立小売業者の集合体」として、加盟店主(アソシエ)の利益を最大化する方針です。経営戦略は、独自の垂直統合モデルで競争力を確保する点に特徴があります。1969年の創業以来、食品加工会社を多数傘下に収め、現在ではグループ内に40の生産工場を有します。これにより自社ブランド商品を安定供給し、コストと品質をコントロールしています。また他企業との提携も活発で、2023年からカルフールとの一部商品共同調達契約を締結し、仕入れ交渉力を強化しました。
販売戦略としては地方・小都市に強く、「40万人以下都市でのNo.1チェーン」を標榜しています。広いネットワークを活かし、2022年には競合カジノ社の不採算店舗を約100店買収する計画を発表し、シェア拡大を図っています。価格政策はEDLPではなく、高頻度のチラシ特売が主軸ですが、生鮮とPBで安さを印象付ける戦術です。グループスローガン「Tous unis contre la vie chère(みんなで高い暮らしに立ち向かう)」が示すように、生活防衛を前面に出した販売促進を展開しています。
DX事例
ムスクテール・グループでは他社に比べるとDXはやや遅れ気味でしたが、近年追いつきを図っています。まずオンライン販売では「Intermarché.com」によるドライブ(クリック&コレクト)を拡充し、2023年にフランスのオンライン食料品シェア約13%を確保しました。AIの活用にも着手しており、生鮮需給のAI予測システムを一部導入して食品ロス削減に努めています。また、小売テック企業への出資も行い、スタートアップと協働でレジ清算の効率化(セルフスキャン導入など)を進めています。2022年には決済アプリ「Jow」を介したモバイルオーダーとドライブ受取を連携させ、若年層の利用増を狙いました。店内オペレーションでは電子棚札を徐々に導入し、人手不足対策と価格即時反映を実現しています。さらに、IBMフードトラストのブロックチェーンに参加して、自社肉製品などのトレーサビリティを消費者に開示する試みも始めました。DX面ではカルフール等に遅れましたが、協同組合のスケールメリットを活かし、必要な技術を外部から取り入れつつ既存モデルを補強する方向で進んでいます。
イタリア
コナド (Conad Consorzio Nazionale Dettaglianti)
基本情報
コナドはイタリア最大のスーパーマーケット協同組合で、2022年の総売上高は184.5億ユーロと前年比+8.5%の成長を記録しました。市場シェアは約15%で国内首位です。コナドは8つの地域協同組合と2,000人超の加盟店主から成り、全国で約3,300店舗(大型ハイパー「Conad Spazio」から小型店「Conad City」まで)を展開しています (Conad, fatturato 2022 a 18,45 miliardi di euro: +8,5% – Il Sole 24 ORE)。
2019年に仏オーシャンのイタリア事業を買収したことで規模を拡大しました。営業利益率は薄く1~2%と推定されますが、会員手数料や不動産含めグループ経常利益は堅調です。既存店売上は2022年は+6.4%とインフレに伴い上昇しました 。従業員総数は約65,000人で、イタリア最大の小売雇用主でもあります。
部門構成比
コナドの売上構成は、食料品が約90%、残り10%が日用品・雑貨です。生鮮食品(精肉・青果・乳製品・パン)が売上の約40%を占め、加工食品・飲料が45%、惣菜・ベーカリーが5%、非食品が10%弱とされています (Gruppo Selex: fatturato 2022 a 17,8 miliardi €, in crescita del +6.6 …)。生鮮には特に注力しており、地域ごとの協同組合が地元産品調達を強化しています。例えば中南部の協同組合PAC 2000Aは多数の地元生産者と提携し、生鮮直送を実現しています。プライベートブランドは「Conad」ブランドを中心に3,000品以上あり、売上構成比30%弱です。総菜・料理は大型店で提供していますが規模は大きくなく、むしろ対面デリカカウンターでチーズやハム量り売りに力を入れています。なお、薬局部門(Parafarmacia Conad)や燃料スタンドも一部展開し、グループ多角化を図っています。
経営方針と戦略
コナドのモットーは「Alleati per la tua spesa(あなたの買物の同盟者)」で、地域住民に密着した店舗運営が信条です。戦略として、競合外資に対抗するためM&Aと提携を積極活用しました。2019年のAuchan Italia買収により、一挙に約1割の市場シェアを獲得。また2022年には別の協同組合「Sieci」を統合し、さらにシェアを伸ばしています。
店舗戦略では大型ハイパー市場が縮小するなか、それらをリニューアルして品揃え最適化を図り、結果として大型店の売上も改善しました。他方、小型スーパー・コンビニ業態「Conad City」「Margherita」を増やし、フランチャイズ展開で細かな商圏もカバーしています。価格政策はEDLPとハイローミックスで、独自の割引セール「Bassi & Fissi(恒常値下げ)」を数百品目設定しつつ、チラシ特売も併用しています。協同組合間の連携も強化され、共同商品開発や統一物流システム構築によりスケールメリットを追求しています。イタリア人の購買志向(地元志向・品質志向)に合わせ、輸入品より国内産品重視の品揃えを戦略的に推進している点も特徴です。
DX事例
コナドはデジタル変革にも段階的に取り組んでいます。まず、協同組合本部が全国共通のITプラットフォーム「SpesaXte」を構築し、オンライン注文・店舗受取サービスを提供しています。2020年にはコロナ禍でEC需要が高まり、Conadのドライブスルー受取や宅配が急拡大しました。さらに2022年にはAmazonと提携し、一部地域でConad商品をAmazon経由で宅配する試みも行っています。
店内では電子棚札導入を進め、既に約1,000店以上で展開済みです。またPOSデータのリアルタイム分析システムを導入し、売れ筋の即時補充や需要予測の精度向上に努めています。DXのもう一つの軸は物流で、各地域協同組合の配送センターに自動仕分けシステムを導入し始め、効率化と在庫削減を進めています。顧客向けモバイルアプリも刷新し、デジタル会員カードやクーポン配信、レシピ提案機能を追加しました。協同組合ゆえ統一施策に時間はかかりますが、順次DXを展開し、将来的には小売データを一元管理する「データ協同組合」としての強みを発揮しようとしています。
セレクス (Selex Gruppo Commerciale)
基本情報
セレクスはイタリア第2位の流通グループで、18の地域スーパーマーケット企業が加盟する共同仕入れ組織です。2022年の総売上高は182億ユーロと前年比+6.6%増加し (Gruppo Selex: fatturato 2022 a 17,8 miliardi €, in crescita del +6.6 …)、市場シェアは約14.5%に達しました。加盟企業にはFamilaやA&O、MDなどのチェーンが含まれ、合計で約3,266店舗を運営しています (Selex segna un fatturato 2022 di 18,2 mld – Food)。
営業利益率は把握困難ですが、加盟各社の合算ベースでは2~3%と推定されます。セレクスは長らく市場2位でしたが、コナドと僅差で並んでおり、2023年にはコナドを売上で一時上回ったとの調査もあります (Gfk: Selex supera Conad e diventa la prima insegna per quota di …)。既存店売上は2022年+5~6%伸長しました。
部門構成比
セレクス加盟各社の店舗業態は様々ですが、総じて食品スーパー中心であり、売上の85~90%が食料品です。生鮮食品は強みで、特に加盟大手企業Gruppo Vegaなどは生鮮直売に注力しています。グロッサリー(乾物・日配)は豊富な地域ブランドを扱い、惣菜・ベーカリーも大手各社は自家製に力を入れています。プライベートブランド商品はセレクス統一ブランド「Consilia」などがあり、グループ横断で商品開発しています。セレクスの特徴は加盟各社ごとに異なる店名を持つことで、例えば北イタリアではFamila(阿里家族)が強く、中南部ではdokやIl Giganteなど地域ブランドが展開されています 。各社ごとに日用品や衣料も扱いますが、全体では食品比率が高い構成です。
経営方針と戦略
セレクスの経営モデルは「各加盟企業の自主性を尊重しつつ、共同調達でコスト競争力を得る」という方針です。戦略的には、加盟社間でのM&Aや協業を促進し、グループとしてのシェア拡大を図っています。実際、2021年には加盟社の一つであるEliteが同業を買収するなど、グループ内での再編が進みました。店舗展開戦略は加盟各社に委ねられますが、共通してディスカウント業態への注力が見られます。例えばSelex加盟のMD(ディスカウントチェーン)は2022年に店舗数1,000店を突破し、売上を大きく伸ばしました。
また、コロナ禍での通販需要増に対応し、Selex全体でオンライン販売プラットフォーム「CosìComodo」を構築し、各社がこれを利用できるようにしました。価格政策は地域色を生かし、地元密着の特売やイベントを各社ごとに展開しています。セレクスはコナドと競り合う形で、卸売ディストリビューターとの提携も積極的で、2023年には業務用卸最大手のマトリックスとの協業で飲食店市場に進出する計画も浮上しています。要は、全国ブランドではなく地域密着型の多様性を武器に、市場シェア拡大を狙う戦略です。
DX事例
セレクスではグループ共通のDX基盤整備に取り組んでいます。前述のオンライン食品通販サイト「CosìComodo」はその象徴で、加盟各社の店舗在庫情報を統合し、顧客が地域ごとの参加店から注文できる仕組みです。さらに、加盟各社で導入可能なPOS・在庫管理システムの標準パッケージを開発し、小規模加盟社のIT高度化を支援しています。電子棚札についてもグループでベンダー契約を結び、大手中心に導入が進みました。
顧客ロイヤルティカードのデジタル化では「Carta Fidelity Selex」をアプリ化し、複数ブランド横断のポイントサービスを提供しています。データ分析面では、Nielsenなど外部データも活用しながら価格戦略や品揃え最適化を支援するアドバイザリを本部が実施しています。また、いくつかの加盟企業ではAI発注システムを試験導入し、手作業依存を減らす試みもあります。ただ、DXの進度は加盟企業間で差があり、全体としてはまだ途上です。しかし協同組合方式の利点を活かし、先進事例を横展開する仕組みを整えつつあり、グループ全体のデジタル競争力を底上げしています。
コープ・イタリア (Coop Italia)
基本情報
コープ・イタリアはイタリア最大の消費者協同組合小売チェーンで、全国の消費生活協同組合が加盟する連合体です。2023年の総売上高は164億ユーロ(うち小売部門148億ユーロ)となり、前年比+2%成長しました (Coop Italia, fatturato 2023 di 16,4 miliardi di euro, +2% sul 2022, per …)。市場シェアは約13%で業界3位です。主な事業体は9つの地域大型生協で、全国に約1,200店(コープやイペルコープの名称でスーパー・ハイパーを展開)を運営しています。営業利益率は低く、近年は競争激化で赤字年度も散見されます。既存店売上は2022年+6.4%増と改善しましたが、コスト高で2022年の最終損益は赤字に転落しています (Il pagellone della Distribuzione moderna – Coop 7+ – Alimentando.info)。現在、経営立て直しの最中です。
部門構成比
コープの売上構成は、食品が約80%、非食品が20%です。食品内訳は生鮮が25%、一般食品・飲料が55%、惣菜・パン・菓子が10%、その他10%です。コープは品質志向が強く、有機・フェアトレード食品の「Solidal」やエシカル商品群など特色ある品揃えがあります。プライベートブランドは「Coop」ブランドで高品質の日用品から食品まで約4,000品を揃え、2023年時点で売上の30%以上を占めます。ハイパーマーケット業態では衣料・家電も扱いますが、この部門が不振でハイパーの規模縮小を進めています。総菜コーナーは比較的充実しており、エミリア・ロマーニャ州の生協などは出来立てパスタの実演販売を行うなど地域食文化を取り入れています。加えて、コープ独自の調達網で農畜産品の安全性を高めており、トレーサビリティ付き生鮮が売りです。燃料スタンドなどは運営していません。
経営方針と戦略
コープ・イタリアの基本理念は「消費者の利益擁護」であり、他の営利企業とは一線を画します。ただし競争の中でシェア維持に苦戦しており、戦略再構築が急務です。近年の方針は「効率化と提携」で、各地域生協の統合作業を進めています。例えば2021年に中堅のCoop Alleanza 3.0とCoop Firenzeが物流を統合するなど、協同組合間連携を強化しています。また郊外ハイパーから小型店へのシフトとして、新業態のコンビニ「Coop Easy」を試験展開し、都市部攻略を図っています。競合低価格チェーンに対抗し、約4,000品目の常時低価格戦略や、ポイント還元率の引き上げなど価格面の施策も打っています。組織面では2023年に傘下の卸売子会社(Nordenなど)を再編し、仕入調達力強化を狙いました。さらにフランス・スペインの協同組合と共同で国際調達機関を設立し、輸入品交渉で規模効果を出そうとしています。これらの戦略により、協同組合としての強み(組合員の支持・社会的信用)を活かしつつ、市場競争力を取り戻すことを目指しています。
DX事例
コープ・イタリアはDX面でも変革を迫られています。まず、2017年にボローニャに革新的実験店舗「Coop Future Store」を開設し、スマートカートや拡張現実ディスプレイ等を試しましたが、実用化は限定的でした。近年は実利的DXに注力し、2020年にオンライン食品宅配「CoopVoce」を強化、さらにAmazonとパートナーシップを結んで一部地域での配送を委託しました。店内ではセルフチェックアウトを大店舗中心に導入し、今では約半数の売上がセルフレジ経由の店舗もあります。
またAIによる需要予測を導入し、パンや総菜の作りすぎ廃棄を3割削減する成果も出ています。組合員アプリ「Coop App」を刷新し、デジタル会員証・ポイント管理・電子チラシ機能を搭載、2023年時点で数百万のダウンロードがあります。物流では共同配送センターに自動搬送ロボットを導入、24時間稼働で店舗配送頻度を増やしました。ブロックチェーン技術では、コープ自社PB卵や牛乳に生産履歴を記録し、QRコードで組合員が閲覧できるサービスを提供しています。総じて、新技術の実験から実用段階への移行期にあり、従来の社会的使命に加え「デジタルでも信頼されるコープ」への進化を図っています。
カナダ
ロブロウ・カンパニーズ (Loblaw Companies Ltd.)
基本情報
ロブロウはカナダ最大の小売企業で、2023年度の売上高は約595億カナダドル(約5兆9千億円)に達しました。食品スーパー(Loblaws, No Frillsなど)に加え、ドラッグストア(Shoppers Drug Mart)も擁し、国内小売市場シェア約30%を占めます。店舗数は食品約1,050店、ドラッグ約1,350店の計2,400店以上 。営業利益率は約6%と業界平均を上回り、2023年の営業利益は約36億ドルでした。既存店売上は2023年は食品で前年比+3.1%、ドラッグで+6.9%と堅調 (Loblaw Companies Limited revenue Canada 2012-2023 – Statista)。また自社金融サービス(PC Financial)や不動産リート(Choice Properties)も持ち、総合流通グループとしての側面があります。
部門構成比
ロブロウの売上構成は、食品小売が約70%、調剤・ヘルスケアが約20%、一般商品その他が約10%です。食品部門ではディスカウントスーパー(No Frills, Maxiなど)が約半分、フルサービススーパー(Loblaws, Zehrsなど)が半分という内訳で、広い顧客層をカバーします。生鮮食品・グロッサリー・乳製品が食品売上の大半を占め、惣菜・ベーカリーも大店には併設されています。
プライベートブランドは「President’s Choice(高品質)」「No Name(低価格)」が有名で、PB売上比率は全体の約30%に及びます。ドラッグストアのShoppersでは処方薬のほか美容・日用品を扱い、調剤収入はグループ売上の約12%です (Loblaw Companies Limited revenue Canada 2012-2023 – Statista)。非食品では衣料品(Joe Freshブランド)を一部店舗で展開し、家具・家電はほぼ扱いません。燃料スタンドも約200か所運営し、顧客囲い込みに役立てています。
経営方針と戦略
ロブロウの経営戦略は「マルチフォーマットによる市場最大化」と「顧客ロイヤルティの向上」です。ディスカウントとフルサービスの二重戦略で、あらゆる所得層を取り込みつつ、都市中心から郊外・地方までカバーする店舗網を構築しています。2000年代以降はドラッグストアの取り込みに注力し、2014年にShoppers Drug Martを買収、食品と薬のクロスセルを推進しました。また自社ポイントプログラム「PC Optimum」をグループ全体で統合運用し、食品・ドラッグ両面でポイントが貯まる仕組みを整備。現在、会員数は1,600万人を超え、競合他社との差別化要因になっています。
商品戦略では高品質PB「President’s Choice」でブランド力を築き、カナダ人の食卓に浸透させました。近年はオンライン販売や即配サービスにも注力し、店舗受取サービスPC Expressや宅配パートナー(Instacartとの提携)を全国展開しています。さらにヘルスケア領域拡大として、調剤薬局で診療サービス(予防接種や簡易検査)の提供を拡充しています。コスト面では大規模調達のメリットを活かし、価格面でもウォルマートなどに対抗できる体制を築いています。このようにカナダ市場内で垂直・水平に統合を進め、競争力を高める戦略を取っています。
DX事例
ロブロウはカナダ小売業で最もDXを推進する企業と言えます。2018年にはテクノロジー本部を設立し、5年間でPC Optimum統合など大規模ITプロジェクトを完遂しました。顧客アプリ「PC Optimum」は個別の買物履歴に基づくポイントオファーを毎週配信し、顧客ごとの購買額を平均14%押し上げたとの分析があります。またECでは、PC Expressの注文処理において店舗従業員用ピッキングアプリを導入し、ミス削減と生産性向上を達成しました。店舗運営では電子棚札を多数導入し、価格変更を瞬時に反映させています。
AIは需要予測や発注自動化に利用しており、2019年導入のAI発注システムで在庫日数を10%以上減らしました。さらに2022年には食品製造のトレーサビリティでブロックチェーン実験を開始し、サプライチェーン透明化を進めています。カスタマーサポートにはチャットボットを活用し、問い合わせの即時対応率を高めました。物流面では自動倉庫導入も検討中で、2024年稼働予定の高度自動化配送センターを開発しています。こうしたDX事例の積み重ねにより、ロブロウは売上と効率を着実に向上させ、パンデミック下でも強靱なオペレーションを維持しました 。
エンパイア・カンパニー (Empire Co. Ltd. – Sobeys)
基本情報
エンパイア・カンパニーは食品小売チェーンSobeys(ソビーズ)を中核とするカナダ第2位の小売企業です。2023年度(2023年5月期)の食料品売上は約304.8億カナダドルとなり、前年比+1%増でした。Sobeysは全加10州で約1,600店(Sobeys, Safeway, IGA, FreshCoなど複数ブランド)を運営し、市場シェア約20%を占めます (Sobeys Inc. & Empire Company Limited)。営業利益率は約4%で、2023年度純利益は約7.45億ドルでした。既存店売上は2023年度は前年比+1.3%(燃料除く)で推移しました (Sobeys finishes fiscal 2023 on high note with completion of Project Ho)。エンパイア社は不動産事業も併営しますが、売上の大部分は食品小売です。西部に強いSafeway買収(2013年)や、2022年の長尾食品(Farm Boy, Longo’s)買収などで規模拡大しています。
部門構成比
Sobeysの売上はほぼ100%が食品および関連日用品です。生鮮食品とグロッサリーが売上の大半を占め、各店で精肉・鮮魚・ベーカリーの対面サービスを提供しています。高級業態のFarm Boyや都市型Sobeysでは惣菜にも注力しており、サラダバーや寿司バーを備える店舗もあります。ディスカウント業態FreshCoでは価格重視でサービスを簡素化しつつ、一定の鮮度品質を維持しています。プライベートブランドは「Compliments」シリーズがあり、中価格帯から低価格帯まで網羅しています(売上比率20%弱)。また独自のオーガニックPB「Pantry」もあり差別化を図っています。薬局事業もSafeway等店舗内で展開していますが、Shoppersほど大規模ではなく、食品売上への比重が高いです。燃料スタンドはSafeway店舗併設分が一部ある程度です。
経営方針と戦略
エンパイア社(Sobeys)の経営戦略は「地域密着と多ブランド展開」で、カナダ各地域の消費者ニーズに合わせたバナーを使い分けています。例えばケベック州では長年地元IGAブランドを保持し支持を得ています。2017年からの中期計画「Project Sunrise」で大規模なコスト削減と組織中央集権化を行い、年額5億ドルのコストセーブを実現しました。その原資でEDLP化(毎日低価格)を進め、特にディスカウントFreshCoの展開を西部に拡大しウォルマートに対抗しています。また成長戦略の柱として「Ocado」と提携したオンライン食品宅配「Voilá」を導入し、2020年からトロント・モントリオールなどで自動倉庫経由の宅配を開始しました。さらに2022年にはオンタリオの高級スーパーLongo’sを買収し、上級志向層も取り込みに動きました。都市型コンビニSmall format(たとえばFarm Boy小型店)にも取り組んでいます。総合すると、「コスト効率の改善」「Eコマースの強化」「M&Aによる不足地域補完」が近年の方針であり、直近では2023年に西部BC州で競合Loblawsとの店舗スワップを行うなど市場シェア最適化にも注力しています。
DX事例
SobeysはDX活用で後発でしたが、近年キャッチアップしています。最大のDX事例はイギリスOcado社のロボット倉庫システム導入で、トロント近郊に設置したCFC(Customer Fulfillment Centre)は1台あたり数百の商品箱を扱うロボットが多数稼働し、自動で注文品をピッキングします。これにより高精度かつ効率的なネットスーパー「Voilá」を実現し、欠品率の低さと注文ミスの少なさで評判です。
店頭でも、セルフスキャンモバイルアプリ「Scan & Go」をSafewayなどで導入してレジ待ちを短縮しています。AI予測は、販促の効果分析や在庫補充に活用しており、特に生鮮の廃棄削減に寄与しました。さらに2022年には自動決済店舗「Sobeys Virtual Cart」実証店をオンタリオで開店し、スマートカメラと重量センサーで客の購入商品を自動認識する技術をテストしました。顧客ロイヤルティプログラムも刷新し、以前のAir Milesから独自の「Scene+」に切替え、デジタルクーポン配信やパーソナライズドオファーを強化しています。バックオフィスでは統合ERPを導入し、店舗と本部のデータ連携をリアルタイム化、これによりマーケティングキャンペーンの即応性が向上しました。総じて、DXを従来の弱点克服(ECや需要予測)に重点投入し、同業ロブロウとの差を詰めています。
メトロ (Metro Inc.)
基本情報
メトロはカナダ第3位の食品小売チェーンで、主にケベック州とオンタリオ州で事業を展開します。2023年度(2023年9月期)の売上高は約207億カナダドルで、前年比+9.7%増と高成長しました ([PDF] Annual Report 2023 – Metro)。食品スーパーマーケット953店(Metro, Super Cなど)とドラッグストア648店(Jean Coutuなど)を傘下に持ちます。営業利益率は約8%と高く、2023年度純利益は約10億ドルでした。既存店売上は2023年度は食品で前年比+5.0%、ドラッグで+7.7%と堅調です (MRU.CA | Metro Inc. Annual Income Statement – WSJ)。地域密着型の経営で、ケベック州では圧倒的シェアを持ちます。
部門構成比
メトロの売上構成は、食品が約75%、調剤・ヘルスケア(ドラッグ)が25%です。食品部門では、生鮮食品・グロッサリーが中心で、ハイパーマーケット業態はありません。惣菜・出来合い食品も大型店で展開し、特にケベック州では地元料理の総菜に強みがあります。ディスカウント型のSuper C(ケベック州)やFood Basics(オンタリオ州)は低価格路線で、ウォルマートに対抗する重要ブランドです。
プライベートブランドは「Irresistibles(高品質)」と「Selection(標準)」があり、売上に寄与しています。ドラッグストア部門のJean Coutuは調剤のほか化粧品・OTC薬・日用品を扱い、こちらもプライベートブランドが豊富です。食品とドラッグの連携も図られ、一部スーパーにドラッグコーナーを併設しています。燃料事業は行っていません。
経営方針と戦略
メトロの経営方針は「地域コミュニティへの貢献と株主価値の調和」で、堅実経営で知られます。戦略的には、地盤のケベックとオンタリオにリソースを集中し、無理な全国展開は行っていません。2018年にJean Coutuドラッグストアを傘下に収め、食品と薬のクロスシナジーを追求しました。店舗戦略では既存店改装と小型店開発が柱で、ケベックでは小商圏フォーマット「Metro Plus」を強化し、高齢化社会に対応しています。オンタリオではディスカウントFood Basicsの改装で買物体験を改善し、競合と差別化しました。またeコマース対応も加速し、2023年時点で200店以上でオンライン注文→店舗受取を実施しています。価格競争面では、メトロは利益重視で極端な値下げは避ける一方、選択的な特売でロイヤルカスタマーを維持する戦略です。実際、2023年の高インフレ下でも競合ほど値引きを行わず、それでも既存店成長を確保しています。M&A機会にも慎重ですが、必要とあれば都市圏の小型チェーン買収などを検討すると述べています。総合的に「背伸びしない成長」を心がけ、財務健全性と配当性向の高さから株主の信頼を得ています。
DX事例
メトロはDXにおいて、必要十分な技術導入をモットーにしています。オンライン食品販売は自社開発システムで運営し、店舗受取を基本としつつ都市部では宅配も試験的に行っています。2021年にオタワ郊外に自動仕分け機を備えた食品オンライン専用センターを開設し、効率化を図りました。店内では電子棚札を主要店舗で導入し、価格変更にかかる人件費を削減しています。また、POSデータ分析でロイヤルティプログラム(Metro&Moi)のクーポンを個別最適化し、顧客あたり売上の増加につなげました。
さらに2022年からはAI需要予測システムを一部カテゴリで導入し、在庫回転を改善しています。Jean Coutuでは処方箋のスキャン登録アプリを展開し、来店前に薬準備を完了させるサービスを提供して利便性を向上させました。物流では新たな自動化配送センターを建設中(2024年稼働予定)で、そこでのケースピッキング自動化でコスト削減を見込んでいます。こうしたDXへの投資は年商の1%強に抑え、ROIに見合う形で実施するのがメトロ流です。結果として、急進的ではないものの着実にオペレーション効率と顧客サービスを向上させています。
ロシア
X5グループ (X5 Group)
基本情報
X5グループはロシア最大の食品小売企業で、ピャーチョルチカ(Pyaterochka)などを展開します。2022年の売上高は2兆5,770億ルーブル(約36.9億ドル)で前年比+18.3%成長しました (X5 Retail Group financials – TAdviser)。ロシア全土に約24,472店(2023年末時点)を運営し (Where we operate – X5 Group)、市場シェアは約13%に達します。営業利益率は約8%で、2023年の営業利益は約2,090億ルーブルでした。主要業態はディスカウント小型店のPyaterochka(店舗数21,593)とスーパーのPerekrestok(978店)で、近年ハードディスカウントChizhik(1,616店)も拡大中。既存店売上は2022年はインフレ影響で+13.1%と高く、2023年も二桁成長しています。
部門構成比
X5の売上の大半(90%以上)は食品と日用品です 。Pyaterochkaは近隣型ディスカウントストアで、生鮮食品・乳製品・パンなど日配が売上の約35%、加工食品・飲料が50%弱、日用雑貨や菓子が残りを占めます。Perekrestokはより高品質指向のスーパーマーケットで、生鮮や惣菜カウンターが充実し、ワインなど嗜好品も豊富です。惣菜・調理品売上は全体では小さいものの、都市部の一部店舗ではイートイン併設で人気です。
プライベートブランドは「Красная цена(低価格)」「Green Line(ヘルシー)」など多数展開し、2022年時点で売上の20%近くに達しました。新業態ChizhikはSKU約800品目のウルトラディスカウンターで、大半がPB商品です。非食品では化粧品や簡易衣料を一部扱いますが、総じて食に特化しています。
経営方針と戦略
X5の経営方針は「ロシア全国民に手頃で質の良い食を届ける」ことで、ディスカウント業態での急拡大を戦略の核としています。旗艦のPyaterochkaは年間2,000店規模で新規出店を続け、地方中小都市まで網羅しています。2020年からはChizhikという低価格特化店を立ち上げ、既存Pyaterochkaとカニバリしない郊外や低所得層エリアに投入し、市場シェアをさらに上積みしました。X5はM&Aにも積極的で、2021年にはSpar Russiaや独立スーパーチェーンを買収し店舗網を拡充しています。また、既存のKaruselハイパーマーケット事業は縮小し、より収益性の高い小型店へ転換しました。デジタル戦略も経営の柱で、Eコマースサービス(Vprokなど)やフードデリバリー(Samokat等)をグループに取り込み、オムニチャネル化を推進しています。財務面ではロンドンとモスクワ株式市場に上場して資金調達し、攻めの投資を継続しています。2022年以降の制裁環境下でも国内需要を捉え業績を伸ばしており、戦略の柔軟性と実行力で同業マグニートやラミルをリードしています。
DX事例
X5はロシア小売で最もDXが進んだ企業の一つです。オンライン食料品サービス「Perekrestok Vprok」は自社開発の物流システムで運営し、2022年には売上が前年の1.5倍に伸びました。またウルトラ高速宅配Samokat(子会社)を通じ、モバイル注文から15~30分での配達を大都市で提供しています。
店内DXでは、2019年にモスクワのPerekrestokで無人決済店舗をパイロット運用し、その技術を2021年にPyaterochkaでも展開しました。カメラとAI分析を駆使し、入店~退店まで顧客がスマホアプリ認証のみで完結するシステムです。現在も数店舗で展開中です。
AI需要予測は全チェーンで導入済みで、特にパンや青果の発注精度向上で廃棄率を10%以上削減しました。棚割り計画にも機械学習を活用し、店舗ごとに最適な品揃えを実現しています。さらに5Postという自社宅配便ネットワークを構築し、ECサイトからの注文をX5店舗で受け取れるオムニサービスを提供しています ()。支払いではロシア初の顔認証決済をPyaterochka多数店舗に展開しました。DXによる効率化で節約したリソースを価格に還元しており、それが強固な市場地位につながっています。
マグニート (PJSC Magnit)
基本情報
マグニートはロシア第2位の食品小売チェーンで、2023年の売上高は約2兆5,400億ルーブルに達しました (2022年は推定約2.35兆ルーブル)。全国に約26,000店を展開し(うち食品小売約16,000店、化粧品店・ドラッグ約7,000店)、市場シェアは約11%です。営業利益率は約5%と推定されます。元々地方発祥のディスカウンターで、現在もPyaterochkaと市場シェアを競っています。2021年に競合ディクシー(Dixy)2,500店を買収し規模拡大しました。既存店売上は2022年は前年比+6~7%程度でしたが、2023年は低成長でした(上期+1%弱)。競争激化と経済環境によりやや伸び悩んでいます。
部門構成比
マグニートの売上構成は、食品小売が約90%、ドラッグ・化粧品など非食品小売が約10%です (Revenue and net income of Magnit in Russia 2019-2023 – Statista)。食品部門では、ディスカウント型のMagnit便利店が売上の7割以上を占めます。その他、中型スーパーMagnit Semeyniy(家族向け)、大型ハイパーMagnit(現在縮小中)があります。生鮮食品は全体では3割弱とX5より低めですが、2020年以降強化中で、自社農場を保有し野菜供給を増やしています。惣菜・パンは店内調理を増やし客単価向上に努めています。プライベートブランドは幅広く展開するも、売上構成比は15%程度に留まります。非食品ではドラッグストアMagnit Pharmacyと化粧品店Magnit Cosmeticがそれぞれ約3,000店規模で、ヘルス&ビューティ分野にも収益源があります。
経営方針と戦略
マグニートは「地域コミュニティ密着」を掲げ、ロシア全土(特に中小都市)への店舗浸透を図ってきました。戦略的には、競合X5との差を埋めるべくM&Aと業態多角化を行っています。2021年のDixy買収はその一環で、一挙にモスクワ・ペテルブルク地域のシェアを拡大しました。また2020年にはドラッグストアチェーンを買収してヘルス事業を強化しました。加えて電子商取引にも注力し、Eコマース専用ダークストアを設置し宅配サービス「Magnit Delivery」を拡大中です(2023年上半期にオンライン売上前年比+86%増)。店舗フォーマットも見直し、ハイパーマーケット事業は2022年にほぼ撤退、リソースを小型店に集中しています。価格政策では、X5やディスカウント新興に押され気味で、2023年から大規模な価格引下げキャンペーンに踏み切りました。これにより短期的に利益圧迫もありますが、客数増加で巻き返しを図っています。加盟店フランチャイズ展開にも意欲を示し、地方での浸透を高める狙いです。全体的な方針は「規模ではX5に並び、コスト効率では上回る」ことで、規律あるオペレーション改善を進めています。
DX事例
マグニートのDXはX5に比べ遅れた面がありましたが、近年は追随しています。オンライン宅配「Magnit Delivery」は自社アプリから1時間配送を主要都市で実施し、2023年時点で700都市に拡大しました。IT基盤ではSAPシステムの導入を進め、2021年に全店の財務・在庫管理を統合しました。
AI活用は商品発注に導入し、2022年時点で約70%のSKUで自動発注化し、在庫日数を10%削減しました。コンビニ店舗ではスマホによるセルフスキャン決済を導入開始し、モスクワの10店舗で2023年に試験運用しました。電子棚札も2022年から導入が進み、1,000店以上が対応済みです。データ分析面では、2020年にロシア郵便と組んで顧客購買データを通販事業に活用するなど、外部データ連携も模索しました。またロボットによる棚卸し精度向上の実証も一部店舗で行っています。
DX領域でユニークなのは、2022年に「Magnit Pay」デジタル決済カードを発行し、FinTech事業への進出を図ったことです。これにより自社電子マネー経済圏を築き、顧客囲い込みと決済データ収集を狙っています。以上のように、X5に倣いつつも独自色を出すDXを展開し、競争力強化につなげています。
レンタ (Lenta Ltd.)
基本情報
レンタはロシア第3位のハイパーマーケットチェーンで、サンクトペテルブルクに本拠を置きます。2022年の売上高は5,374億ルーブルとなり前年比+11.1%増でした (Lenta`s financial performance – TAdviser)。全国で大型ハイパーマーケット約255店、スーパーマーケット約555店を運営しています。2021年にオンライン小売Utkonosを買収し、またBilla Russiaからスーパー店舗を取得して規模拡大しました。営業利益率は約5%と推定されます。既存店売上は2022年は+0.7%成長に留まり(新店寄与で増収) (Lenta IPJSC: LENTA REPORTS TOTAL SALES GROWTH OF 11.1 …)、ハイパー業態の苦戦が続いています。市場シェアは約3%で、X5やMagnitに遠く及びません。
部門構成比
レンタの売上構成は、食品が約80%、非食品が20%です。主力業態のハイパーマーケットでは、青果・精肉・乳製品など生鮮が約30%、加工食品・飲料が40%、惣菜・ベーカリーが5%、衣料・家電・家庭用品など非食品が25%程度です。レンタはロシアでいち早くハイパーマーケットを導入した企業で、生鮮と大容量パック商品の安価販売を強みとしてきました。しかし近年はX5やMagnitとの競争で惣菜・即食コーナーを強化し、ベーカリー工房を全店に設置しています。プライベートブランドは「Lenta」名義で展開し、売上比率は約10%と控えめです。スーパーマーケット業態も増えつつあり、こちらは惣菜比率がやや高いです。2022年買収のUtkonosはEC主体で、レンタ店舗を受取拠点としています。
経営方針と戦略
レンタの経営方針は「買い物のワンストップ提供」で、ハイパーマーケットで何でも揃う利便性を訴求してきました。しかし市場のディスカウントシフトに対応するため、戦略転換を迫られています。その一つがM&Aによる業態補完で、2021年にBillaスーパーマーケット41店を取得し、新フォーマットの中型スーパーを開発しました。またオンライン強化策として、老舗ネットスーパーUtkonosを買収・統合し、O2Oチャネルを確保しました。
店舗戦略では大型店の小型化改装を進め、賃料節約と非食品縮小で効率改善を図っています。価格競争力向上にも取り組み、EDLP商品リストを作成し競合に遜色ない価格帯へ調整しました。2022年にはクーポンアプリを刷新し、個別割引オファーを増強しています。地方展開も加速させ、シベリア・極東へフランチャイズ出店を開始しました。これらの戦略により、遅れていた地域網とデジタル網を埋め、総合小売として再成長を目指しています。ただし直近では収益圧迫もあり、効率化と成長の両立が課題です。
DX事例
レンタはDX分野では他社より出遅れていましたが、近年挽回を図っています。まずUtkonos買収により、最先端のオンライン物流システムを取得しました。これによりモスクワでダークストアによる即日配送ネットワークを構築し、レンタのEC売上は2022年に前年の8倍となりました。
店舗でも、自社スキャン支払いアプリ「Lenta Smart Scan」を導入し、顧客がスマホで商品バーコードをスキャンしてセルフ会計できるサービスを100店舗以上で展開しています。AIによる在庫自動補充も導入途上で、パイロット店舗では欠品率を15%改善できました。電子棚札はまだ試験段階ですが、2023年に数店舗で導入しました。ビッグデータ分析にも着手し、会員プログラムデータから顧客セグメントごとに最適な品揃えを検討するプロジェクトを進めています。
またサプライチェーンではブロックチェーンで輸入果物の流通情報を管理する実証を行い、食品安全性のPRに活用しました。レンタはDXに大規模投資する資力は限られますが、買収によりテクノロジーを外部から取り込み、選択と集中で効果を出すアプローチをとっています。今後はオンラインとオフラインの融合を深化させ、中長期的な競争力向上を狙っています。
サウジアラビア
パンダ小売 (Panda Retail Co.)
基本情報
パンダはサウジアラビア最大のスーパーマーケットチェーンで、Savolaグループ傘下にあります。2022年の推定売上高は約120億サウジリヤル(約3,600億円)で、市場シェア約20%を占めます (A look at market share of major Saudi retailers in 2019)。国内に約141店舗(ハイパーマーケット26店、スーパー115店)を展開し、従業員数18,000人超。近年赤字が続き、店舗数は2016年比で減少しました。営業利益率は0%台と低迷。既存店売上も2019-2021年はマイナスでしたが、構造改革により2022年は微増に転じました。クウェートとエジプトにも一時進出していましたが現在は撤退し、サウジ国内事業に集中しています。
部門構成比
パンダの売上構成は、食品が約85%、非食品(衣料・電化製品など)が15%程度です。ハイパーマーケットのHyperPandaでは生鮮食品・グロッサリーが半分以上を占め、残りが衣料・家電・雑貨です。スーパーマーケットのPandaでは食品比率が9割以上で、青果・精肉・日配品を中心に品揃えしています。惣菜調理は大型店で焼きたてパンやグリルチキン等を提供しますが、総じて規模は小さめです。プライベートブランド商品は「Panda」ブランドで数百品目あり、売上の10%弱を占めます。価格帯別では高級スーパーではなく中所得者大衆向けで、週次の特売チラシで集客するモデルです。非食品では大型店に家電売場がありますが、近年縮小傾向です。Savolaグループの製油・食品商品(Afia油やAlarabi砂糖等)は当チェーンで有利に販売されています。
経営方針と戦略
パンダの経営方針は「Value for Money(お得感)とファミリー層の支持獲得」です。2000年代に王子系のAl Aziziaと合併後、国内最王手となりましたが、2010年代後半から業績悪化し方針転換を迫られました。戦略として、不採算店舗の閉鎖とコスト削減を推進しています。2017-2021年に約80店を閉鎖し、特にオーバーストアな都市部ハイパーマーケットをリストラしました。また経費効率化で2019-2021年に総費用を10%以上削減しました。新戦略はコンパクトな近隣スーパーへの集中で、2019年に小型業態「Panda Daily」開発を発表し、住宅街への小商圏出店を模索しています (Al Othaim Leads Saudi Arabian Food Retail Market Growth)。
価格競争力向上にも注力し、2022年にはEDLP商品リスト「Fixed Price」制度を導入、一部品目を常時安値に設定しました。さらにEコマースとも連携し、オンラインデリバリー(HungerStation等宅配アプリと提携)で顧客の利便性向上を図っています。Savolaグループのシナジーも活用し、自社食品工場からの調達コストを下げる努力もなされています。国内競合(OthaimやBinDawood等)の猛追を受け、古参企業として構造改革を断行する局面です。
DX事例
パンダは近年DXに本腰を入れ始めました。まずPOSシステムを刷新し、中央でリアルタイム売上・在庫分析ができるようにしました。これにより需要予測と自動発注を一部商品で導入し、品切れ率を5%改善しました。
顧客向けにはモバイルアプリ「Panda App」を提供し、デジタルクーポンや会員カード機能を搭載しています。2021年には電子商取引に参入し、Panda公式オンラインストアを開設しました(ただしエリア限定)。またHungerStationなど外部宅配プラットフォームでPanda商品を即時配送するサービスも開始し、DXで外部リソースを活用しています。店舗では一部セルフレジを導入し、レジ待ち時間短縮を図りました。RFIDを使った在庫管理も試験中で、棚卸し効率を高めています。サプライチェーンでは倉庫管理システムを高度化し、出荷ミスを減らしました。SavolaグループIT部門と協働でAIによる価格最適化も検討されています。全体として先進的事例は多くありませんが、主要なITインフラ整備と部分的DX導入で経営改善を支えようとしています。
アル・オタイム・マーケット (Abdullah Al Othaim Markets)
基本情報
アル・オタイムはサウジアラビア第2位のスーパーマーケットチェーンで、2022年の売上高は約95.5億リヤル(前年+13.6%)となりました (Abdullah Al-Othaim Markets Company (TADAWUL: 4001) Revenue) (Financial Results : Al Othaim’s profit surges to SAR 1.07 bln in 2022 …)。約192店舗(大型スーパー・ハイパー)を国内で運営し、市場シェア約11%です (Top 10 Supermarket Chains in the Middle East – EssFeed)。営業利益率は2022年に約5%と大幅改善し、純利益は10.7億リヤルとなりました。既存店売上は2022年はインフレ下+7%強と成長。オタイムは国内外食企業やモール開発も兼営しますが、主力は食品小売です。2021年以降エジプトにも30店舗を展開しています。
部門構成比
オタイムの売上のほぼ全てが食品・日用品です。ハイパーマーケットとスーパーマーケットが主体で、生鮮食品・一般食品・惣菜・雑貨を幅広く扱います。生鮮比率は約30%で、鮮魚・精肉カウンターが人気です。自社ベーカリーを多くの店舗で運営し、パン・菓子の提供に強みがあります。プライベートブランド商品は「あークティーム」名などで展開していますが、全売上の10%以下です。オタイムはディスカウント業態に近く、まとめ買いに適した大容量商品も多く陳列します。非食品はごく一部の大型店で電化製品等扱いますが、基本は食品スーパーです。燃料スタンド併設店もあり、燃料売上も若干含みます。全体としてパンダより低価格イメージで、低~中所得層を中心に支持されています。
経営方針と戦略
オタイムの経営方針は「急成長とコストリーダーシップの両立」で、2000年代以降店舗網を急拡大しトップクラスの規模に達しました。戦略の特徴は、自社不動産開発によるコスト低減とモール内 anchor店戦略です。親会社がモール開発を手掛け、モール内核店舗としてオタイムスーパーを配置するビジネスで成功しました。価格面ではEDLPを標榜し、競合パンダより全般に低価格なため、近年パンダから顧客シェアを奪いました (A look at market share of major Saudi retailers in 2019)。
店舗展開ではサウジ全域に進出し、特に中小都市や住宅郊外への進出で新規需要を開拓しました。海外展開も行い、2019年からエジプトに出店しノウハウを輸出しています。近年はEコマースにも参入し、2020年自社アプリでオンライン注文に対応開始しました。将来戦略ではドラッグストアや食品加工など垂直統合も検討されています。株式上場企業としてガバナンスも整備され、2022年は前期比+257%の純利益成長 (Financial Results : Al Othaim’s profit surges to SAR 1.07 bln in 2022 …)で株主にも貢献しました。今後も攻めの出店とM&A(地域小チェーン買収)でシェア拡大を狙っています。
DX事例
オタイムは国内スーパーで比較的DXが進んでいます。2020年に公式モバイルアプリ「AlOthaim」を開発し、会員登録でデジタルクーポンやプロモ通知を送っています。またオンラインショッピングにも対応し、店舗在庫から2時間以内配送を一部都市で提供しています。POSデータ分析を強化し、売れ筋・死に筋商品の入れ替えサイクルを短縮しました。需要予測AIも導入試験中で、一部商品カテゴリで自動発注・自動価格調整を実施しています。
店頭ではセルフレジ端末を大型店に設置し、顧客のセルフ会計を促進しています。倉庫管理はWMSを導入済みで、2022年にはRFID検品システムを採用し作業効率を向上させました。
ビン・ダウード・ホールディング (BinDawood Holding – Danube/BinDawood)
基本情報
ビン・ダウード・ホールディングはサウジアラビア第3位のスーパーマーケット事業者で、高級スーパーDanubeと老舗スーパーBinDawoodを運営します。2022年の売上高は48.97億リヤル(前年比▲2.3%)でした 。サウジ国内に84店舗(Danube47店、BinDawood37店)を主要都市で展開し、市場シェア約9%です (Annual Report 2022 – BinDawood Holding)。営業利益率は約8%で、2023年純利益は2.75億リヤルとなりました (BinDawood profit more than doubles on higher revenue | AGBI)。既存店売上は2021-2022年はコロナ禍で低迷しましたが、2023年は巡礼客増で回復基調です。特に聖都マッカ・マディーナに強く、巡礼観光需要を取り込む戦略です。
部門構成比
Danubeは高級スーパーとして知られ、生鮮食品・グロッサリーの質が高く、惣菜デリカやベーカリーも充実しています。売上構成は生鮮30%、一般食品・飲料50%、惣菜・ベーカリー10%、日用品その他10%程度です。BinDawoodはやや大衆向けですが、立地柄お土産商品等も扱い、食品80%・非食品20%ほどとなっています。Danubeのベーカリーは自家製パンが人気で、石窯ピザなど即食メニューも売上の一角を占めます。
プライベートブランドは少なめですが、2022年からオーガニックPBを導入するなど品揃え強化中です。BinDawood各店では香水や香辛料など巡礼者需要向け商品も販売し、非食品比率がやや高いです。両ブランドとも都市大型ショッピングモール内が主な立地で、高所得層・観光客が中心顧客です。
経営方針と戦略
ビン・ダウードの経営方針は「高品質とホスピタリティ」で、特にDanubeで業界最高水準のショッピング体験を提供することです。戦略的には、マッカ・マディーナと主要都市ジェッダ・リヤドといった富裕層集中エリアにドミナント展開し、一店あたり売上の高さで勝負しています。近年はオンラインとオムニチャネル強化を図り、2017年に自社Eコマースを立ち上げ、2020年にテック企業”Zid”買収でIT内製化しました。2022年にはRiyadhなど首都圏進出を加速し、Danube初の旗艦店をオープンするなど攻勢を強めています。また、巡礼客向けにピーク時の品揃えや臨時店舗設置など柔軟対応も特徴です。価格は中~高価格帯戦略ですが、2023年インフレでは戦略を転換し選択的割引を増やしました。今後は新興住宅地区への中型Danube出店を検討しており、カバレッジ拡大を図る計画です。M&Aも視野に入れ、2022年に調整中だったスピンアウト子会社とScene+提携するなど、成長軌道への復帰を模索しています。
DX事例
ビン・ダウードはDX面で国内先駆的です。2017年にローンチした「Danube Online」アプリは中東で最もダウンロードされた食料品アプリとなり、2020年にはEコマース売上が前年比3倍になる成果を上げました。2021年にEC事業を子会社として独立(BinDawood Online)させ、さらに2022年に配車サービスJahezと提携、即時配達も開始しています。
店内では「Smart Trolley」実験を行い、タブレット搭載カートによるレコメンド表示など顧客体験向上を図りました。AI分析も導入し、顧客購買データを元に個別のオファーや品揃え調整を実践しています。加えて、巡礼期にはオンライン予約で混雑を緩和するシステムも構築しました。
POS統合も完了し、全国店舗データをリアルタイム集約して在庫・物流に反映させています。DX推進組織を社内に設置し、IoT温度管理や電子棚札など新技術も積極検証しています。これらの事例はサウジ政府のデジタル賞も受賞しており、BinDawoodは伝統的高級スーパーからDX先進企業へと変革を遂げつつあります。結果、2023年にはオンライン売上が総売上の5%を超えるまでに成長し、中東小売におけるデジタルリーダーシップを確立しています (BinDawood profit more than doubles on higher revenue | AGBI)。
アルゼンチン
カルフール(Carrefour Argentina)
基本情報
フランス資本のカルフールは、アルゼンチンにおける最大のスーパーマーケットチェーンです。1982年に初進出し、ハイパーマーケットから小型店まで多彩な店舗フォーマットを展開しています。2023年現在、国内の店舗数は650店以上に達し、売上高シェアでは約20%を占め首位に立っています。また、海外企業ながら全国に広く店舗網を持ち、アルゼンチン全土で事業を展開しています。アルゼンチンの高インフレ環境下でも売上を堅調に伸ばしており、2015年時点の年商は3,880億ペソに達していました。
カテゴリー別売上構成比
アルゼンチンのスーパーマーケット業界全体の平均では、食料品・飲料が売上の約7割近くを占めています。カルフールも同様に生鮮食品や日配品、飲料など食料品分野が売上の大部分を占め、残りを日用品・家庭雑貨・家電などの非食料品が占める構成です。具体的には、業界平均では食料雑貨(アルマセン)26.8%、飲料12.3%、乳製品11.8%、精肉10.8%といった主要食品カテゴリーの合計が70%超となっており、カルフールでも生鮮食料品から加工食品まで幅広い品揃えでこうしたカテゴリーが中心です。一方、家電や衣料品などの非食料品は売上構成比で2割強に留まります。
経営方針と戦略
カルフール・アルゼンチンは、市場リーダーとして店舗網の拡大とフォーマット多角化戦略を追求しています。ハイパーマーケット(大型総合店)に加え、小型スーパー「Express」業態を積極展開し、消費者の近隣需要を取り込んでいます。また、高インフレ下でも競争力ある価格設定でシェア維持に努めており、競合チェーン買収にもより市場地位を強化してきました。2000年には現地チェーン「Norte」を買収し、以降も国内第1位の座を維持しています。近年はオムニチャネル戦略を重視し、オンライン販売やデリバリーサービスにも投資を拡大しています。さらにグローバル本社の方針に沿い、2026年までに「デジタルリテールカンパニー」への変革を目指す計画を掲げています。
DX事例
デジタル分野では、モバイルアプリの刷新が大きなトピックです。2024年にカルフールは新たな公式アプリを発表しましたが、これは1.5万人以上の顧客からのアンケート要望を基に開発されたものです。このアプリでは毎月お気に入り商品の割引を受けられる機能や、購入履歴に基づくパーソナライズドクーポンの配信など、顧客ごとの特典提供を実現しています。
また店内で商品の価格を即座に確認できるスキャナー機能や、デジタルレシート管理、そして自社の会員カード「Mi Carrefour」と連携したモバイル決済にも対応し、オンラインと店舗のシームレスな体験を提供しています。さらに、AIを活用した在庫最適化にも取り組んでおり、賞味期限が近い生鮮食品に割引を自動適用する実証実験も行われています。
センコスード(Cencosud Argentina)
基本情報
センコスードはチリに本拠を置く南米最大級の小売企業で、アルゼンチン国内ではDisco, Jumbo, Veaのスーパーマーケットブランドを展開しています。2000年に仏カジノ系のジャイアントを買収する形でアルゼンチン市場に参入し、以降店舗網を急拡大しました。現在、アルゼンチン国内で100店以上のスーパーマーケットとハイパーマーケットを運営し、市場シェア第2位の地位を確立しています。同社はショッピングセンター開発やホームセンター事業(Easy)も手掛けており、小売グループとして総合力が強みです。2021年のセンコスードグループ全体の売上高はチリペソで3兆1,000億CLP(約42億米ドル)に達し、アルゼンチン事業も高インフレにもかかわらず売上を拡大させています。
カテゴリー別売上構成比
センコスード傘下のJumbo(ジャンボ)は大型ハイパーマーケット業態で、生鮮食品から電化製品まで幅広く扱います。そのため売上構成は食品が約6~7割、非食料品が3~4割程度と推定されます。一方、DiscoやVeaはスーパーマーケット業態で食品比率がより高く、グループ全体として見ると食品・飲料部門が売上の大半を占めています。アルゼンチン市場平均では非食品(掃除・化粧品、衣料、家電など)が約30%弱の比率ですが、センコスードではハイパーマーケット業態を持つ分、非食品の割合がやや高めといえます。それでも食料品分野(生鮮、加工食品、飲料など)が売上の約7割前後を占める構成であり、残りを日用品や耐久消費財が占める点は業界の一般的傾向と同様です。
経営方針と戦略
センコスード・アルゼンチンは、市場シェア拡大と収益性向上のため積極的な投資とM&Aを戦略の柱としています。2023年には現地卸売チェーンのマクロ(Makro)とバスアルド(Basualdo)の事業を1億2250万ドルで買収し、新たにキャッシュ&キャリー(業務用卸)業態に参入しました。これにより国内12都市・28店舗の卸売拠点を獲得し、従来のスーパー事業とのシナジー創出を図っています。
また高インフレ下では価格転嫁とコスト効率化でインフレ率と売上成長のギャップ縮小に努め、市場シェアも拡大しました。今後もハイパーマーケットの改装や中型店の新規出店を計画しつつ、ECやデジタル事業にも注力して持続的成長を目指しています。
DX事例
センコスードは近年デジタルトランスフォーメーションを加速させています。特に2022年には自社スマホ決済サービス「CencoPay」をアルゼンチンで導入しました。これはセンコスード発行のクレジットカードと連携したモバイル決済機能で、専用アプリ上でチャージ残高を使った素早い支払いが可能です。加えて、同社はECプラットフォームの拡充にも取り組み、スーパーマーケットのオンライン受取サービスや宅配サービスを強化しています実際、傘下のJumboではオンラインショップを立ち上げ、2022年のオンライン売上高は約4,860万米ドルに達する見込みでした。さらにデジタル広告事業(Retail Media)にも注力し、店舗やECサイト上での広告配信による収益化を図っています。こうしたDX戦略により、センコスードはオムニチャネルでの顧客体験向上と業務効率化を同時に推進しています。
コト・スーパーマーケット(Coto)
基本情報
Coto(コト)はアルゼンチン資本の国内最大手スーパーマーケットチェーンで、1970年に精肉店から事業を開始しました。1987年に郊外型スーパーに進出して以来、ブエノスアイレス首都圏を中心に約120店舗を展開しています。国内資本としては最大規模であり、国外勢を含めてもカルフール、センコスードに次ぐ業界第3位の売上高を誇ります。2000年代以降も地場スーパー最大手の地位を維持し続けており、2022年時点でもカルフール、センコスード、Cotoの上位3社で業界売上の約50%を占めています。
創業者のアルフレド・コト氏が経営する同社は、社員約14,000人を擁し、直近の年商は約22億米ドル規模(2009年時点)に達しています。
カテゴリー別売上構成比
Cotoの店舗は大型のハイパーマーケットが多く、生鮮食品から衣料品・家電までワンストップで買える総合スーパーとなっています。そのため売上構成は食品・飲料が約7割、非食品(日用品・家電・衣料など)が約3割程度と推定されます。実際、アルゼンチン市場全体でも食品関連が70%以上を占める構成で、Cotoも生鮮食品(精肉・青果)や乳製品、グロサリー(加工食品)といった食品部門が売上の大部分を占めています。一方、自社で精肉工場や物流網も持つ強みを活かし、家電・家具などの高単価商品の取り扱いも一部店舗で展開していますが、非食品カテゴリーの売上比率は一部の大型店を除き限定的です。全社的には洗剤・化粧品類など日用品を含めた非食品は3割弱にとどまるとみられます。
経営方針と戦略
Cotoは地場資本チェーンとして、主にブエノスアイレス首都圏でのドミナント戦略を取っています。全店舗の半数以上を首都圏に集中させることで物流効率と知名度を高め、都市部の富裕層から労働者層まで幅広い顧客を獲得してきました。
近年は外資系チェーンとの競争が激化する中、自社開発ブランド商品の投入やロイヤルティプログラム(会員カード)の充実によって顧客の囲い込みを図っています。また、政府の物価統制プログラム(プレシオス・クディdados)にも積極的に参加し、低価格イメージの維持にも努めています。出店戦略としては無理な全国展開よりも、既存エリアでの大型店改装やショッピングモール内への出店に注力しており、堅実な経営方針が特徴です。
DX事例
Cotoはアルゼンチンのスーパーマーケット業界でいち早くECに参入したパイオニアです。自社のオンラインスーパー「Coto Digital」を17年前から運営しており(2005年頃開設)、同プラットフォームは現在アルゼンチンの消費者に最も選ばれるネットスーパーの一つとなっています。同社発表によれば、Coto Digitalのコンバージョン率(サイト訪問から購入に至る割合)は世界平均より30%も高く、業界随一のオンライン集客力を誇ります。また、月間サイト訪問数は競合比で20%多く、注文数も50%上回るなど圧倒的な存在感を示しています。パンデミックを経てオンライン需要が拡大した2021-2022年には、サイトトラフィックがコロナ前より40%増加しました。
このように、Cotoはオムニチャネル戦略の先駆者として実店舗とデジタルの融合を推進し続けています。加えて、店舗内でもセルフスキャナー導入や電子レシートの活用などデジタル施策を進め、顧客利便性向上に努めています。
インドネシア
アルファマート(Alfamart)
基本情報
アルファマートはインドネシアにおける最大手のミニマーケット(小型スーパー)チェーンの一つで、全国に約17,000店以上を展開しています。2000年代に創業し、ジャワ島を中心に急速に店舗網を拡大しました。2023年の小売売上高は約80億米ドルに達し、同業のインドマレットと市場を二分しています。
店舗は売場面積100~300㎡程度の小型店が中心で、日常の食料品や日用品を手軽に買える“コミュニティストア”として地域に根付いています。直営とフランチャイズの併用でチェーンを拡大しており、地方都市や農村部にも積極出店していることから、2023年時点の店舗数は17,000店超、国内有数の小売ネットワークとなっています。
カテゴリー別売上構成比
アルファマートの売上の大部分は食品・飲料などのFMCG(日用消費財)です。店内ではスナック菓子、インスタント食品、飲料、乳製品といった加工食品類が幅広く並び、これら食品カテゴリーで売上のおよそ6~7割を占めます。一方、洗剤や石鹸、シャンプーなどの日用品・パーソナルケア用品も重要な品目で、売上の残り約3~4割程度を占めています。生鮮食品は基本的に扱っていませんが、一部大型店では野菜や果物を少量販売するケースもあります。インドネシア全体では小売消費に占める非食品支出が約42%との統計もありますが、アルファマート店舗では食品関連の比重がそれより高く、菓子・飲料・加工食品などの即食性商品に強みを持つ構成です。
経営方針と戦略
アルファマートは「安さと近さ」で地域住民の需要を取り込む戦略を取っています。積極的なフランチャイズ展開により出店ペースを加速し、2020年代には年間1,000店規模の新規出店を継続しました。
また、競合と差別化するためCRM(顧客関係管理)戦略にも力を入れており、自社アプリを通じた会員施策でリピート率向上を図っています。
郊外や地方への出店では地元中小企業との協業にも配慮し、地域コミュニティの一部となる店舗運営を重視しています。低価格戦略については、プライベートブランド商品の投入や、少量パック商品の品揃え拡充で低所得層にも対応しています。今後も国内需要の取り込みとあわせ、フィリピンなど海外市場への進出も視野に入れ持続的成長を目指しています。
DX事例
アルファマートはデジタル戦略としてスーパーアプリ「Alfagift」を展開しています。Alfagiftはアルファマート会員向けの公式アプリで、オンライン注文と会員ポイント機能を統合したものです。
このアプリを通じて顧客は自宅から商品注文ができ、店舗受取や宅配サービスを利用できます。また購入履歴データを活用して、アプリ上で個別の割引クーポンやおすすめ商品を提示するなどパーソナライズドマーケティングを実施。Alfagiftは1000万ダウンロードを突破し、インドネシアのショッピングアプリ上位に入る成功を収めています。
さらに、ビッグデータ分析を駆使して品揃え最適化や在庫管理の高度化にも取り組み、各店舗の販売動向に合わせた商品補充を実現しています。そのほか、電子マネー「AlfaPay」の導入や店舗端末でのQRコード決済対応など、フィンテック連携も進めています。これらDX施策により、オンラインとオフラインを融合した利便性向上と顧客ロイヤリティ強化を達成しています。
インドマレット(Indomaret)
基本情報
インドマレットはアルファマートと並ぶインドネシア最大級のミニマーケットチェーンで、2023年時点で約22,500店という国内最多の店舗数を誇ります。1968年に財閥サリムグループ傘下で創業し、1980年代後半からコンビニエンスストア型の小型スーパー業態を展開しました。
ジャカルタ首都圏からスタートした店舗網はフランチャイズモデルで地方都市にも広がり、現在では全34州に出店しています。2023年の推定小売売上高は約79億米ドルとされ、市場シェアではアルファマートと拮抗しています。インドマレットの店舗コンセプトは「お客様に最も近いお店」であり、通勤途中や住宅街の近隣で日常必需品を調達できる身近な存在として支持されています。
カテゴリー別売上構成比
インドマレットの売上構成はアルファマートとほぼ類似しており、食品・飲料・菓子類が売上の約6割を占めます。店内にはインスタント麺やスナック菓子、清涼飲料、水、ミルク、缶詰などが所狭しと並び、即席性の高い食品群が主力です。残りの売上約4割は日用品・雑貨類で、洗剤やヘアケア用品、紙おむつ、喫煙具など日常生活に欠かせない消耗品が中心です。
インドマレットは生鮮食品の取り扱いが基本的に無く、総菜や弁当といった即食商品も限定的なため、加工食品と日用品に特化した品揃えになっています。このため大型スーパーマーケットと比べ客単価は低めですが、来店頻度の高さで補っています。消費者の購買パターンとしては「足りないものをその都度補充する」使われ方が多く、それに適した商品構成と言えます。
経営方針と戦略
インドマレットは、国内隅々まで店舗網を行き渡らせるフランチャイズ拡大戦略を採っています。既に大都市圏では飽和状態に近いため、近年は地方や村落部への出店や、ガソリンスタンド併設店舗など新チャネル開拓にも注力しています。
また、新業態として24時間営業やイートインスペースを備えた「Indomaret Point」店舗の展開も図り、コンビニエンスストア機能を強化しています。サービス面では公共料金支払いやチケット販売、宅配便受け取りといった非小売サービスを店頭で提供し、地域ハブとしての役割も担っています。価格政策ではアルファマートとの激しい競争から頻繁にプロモーションを実施し、自社PB商品の開発にも力を入れています。財閥系の強みを活かし大手メーカーとの直接取引で調達コストを抑えるなど、スケールメリットを活かした戦略で競争優位を維持しています。
DX事例
インドマレットはデジタル技術を活用した顧客サービス向上にも積極的です。公式オンラインショップ「Klik Indomaret」を運営し、自宅から日用品を注文して店舗受取や宅配するサービスを提供しています。また、会員アプリ「Indomaret Poinku」を展開しており、買い物ごとにポイントが貯まるロイヤルティプログラムを実施。さらにインドマレットは独自の電子マネー「i.saku(アイサク)」を導入し、スマホ決済やチャージに対応しています。店舗ではQRコード決済やデジタルクーポンにも対応し、若年層を中心にキャッシュレス化を推進しています。こうした取り組みにより、インドマレットはリアル店舗の利便性とオンラインの効率性を融合させた新しいショッピング体験を提供し、急成長するインドネシアの小売DXを牽引しています。
トランスマート(Transmart Carrefour)
基本情報
トランスマートは、もともとフランスのカルフールが展開していたインドネシアのハイパーマーケットチェーンを継承したブランドです。2013年にインドネシア企業CTコープがカルフール事業を買収し、現在はTransmartとして全国展開しています。大型店舗(ハイパーマーケット)を中心に、2022年時点で約83店舗を運営しています。かつては「カルフール」の名で親しまれましたが、現在はTransmartへのリブランディングが進み、ショッピングモール「Trans Studio」と併設した旗艦店なども展開しています。2020年時点の年間売上高は約10億7千万米ドルに上り、インドネシアのスーパーマーケット・ハイパーマーケット業態では売上規模トップでした。親会社のCTコープ傘下には銀行やメディア事業もあり、グループ総合力で小売事業を支えています。
カテゴリー別売上構成比
Transmart(カルフール)のハイパーマーケットは食品も非食品も揃う総合スーパーです。一般的な売上構成比は食料品がおよそ60~65%、衣料・家電・雑貨など非食料品が35~40%程度とされています。生鮮食品やグロサリー(加工食品)、日配品などが売上の柱であり、全体の過半を占めます。
一方で、ハイパーマーケットの特徴である大型家電や家庭用品、衣類、おもちゃ等の売場も広く設けており、これら非食品カテゴリーも他業態に比べ高い比率を占めます。特に都市部の旗艦店では家電・電子製品の品揃えに力を入れているため、店舗によっては非食品売上が4割近くに達します。いずれにせよ、生鮮三品から日用品、耐久消費財まで一か所で買える品揃えが強みであり、それが売上構成にも反映されています。
経営方針と戦略
Transmartは、グループ総帥のチャイロル・タンドゥン氏の方針の下、「リテールエンターテインメント」のコンセプトを掲げています。店舗内にミニ遊園地「KidCity」やフードコート、映画館を併設し、買い物だけでなく娯楽も楽しめる空間づくりを推進しました。これにより家族連れの集客力を高め、週末の買い物需要を喚起しています。また、グループの銀行(バンク・メガ)と連携し、クレジットカード会員には毎週特定日に10%割引を提供するなど金融サービスとのシナジー戦略も取っています。近年はeコマースやミニマーケット業態との競争激化で採算の厳しい店舗の閉鎖を進めつつ、利益率改善に注力しています。
その一方で、将来的な店舗網再拡大も視野に入れており、フランチャイズ展開や新規フォーマット(小型のTransmart Miniなど)の検討も行われています。総じて、Transmartは大型店のエンタメ性とグループシナジーを武器に、市場での独自ポジション確立を図っています。
DX事例
Transmartではデジタル技術の導入にも取り組んでいます。まず、オンライン注文サービスとして公式ECサイト「Transmart.co.id」を運営し、店舗在庫商品を自宅まで配達する仕組みを整えました。また、配車サービス大手のGrabやGojekと提携し、これらのオンデマンド宅配アプリ上でTransmartの商品を注文できるようにもしています。
店舗内ではセルフレジや電子マネー決済の導入も進め、キャッシュレス比率が向上しました。さらに、会員向けモバイルアプリを提供し、デジタル会員カードやプロモーション情報の配信を行っています。CTコープ傘下のデジタル銀行「Allo Bank」と連携したキャッシュバック施策なども展開し、OMO(オンライン・マージズ・ウィズ・オフライン)戦略を推進中です。コロナ禍にはドライブスルーで商品受け取りができるサービスも試験導入し、非接触ショッピング体験を提供しました。これらDXの取り組みにより、Transmartは伝統的な大型小売業の中でデジタル時代に適応したサービス革新を図っています。
南アフリカ
Shoprite Holdings
基本情報
Shoprite Holdingsは、1979年に設立された南アフリカ発のスーパーマーケット大手です。現在ではアフリカ大陸全体で最大の食料品小売企業となっており、2023年の売上高は2,150億ランド(約103億ユーロ)に達しました。店舗数は南アフリカ国内を中心に3,300店舗以上に及び、多様な業態(コンビニ、ディスカウント、ハイパーマーケットなど)で展開しています。
南アフリカ食品小売市場におけるシェアは群を抜いており、約30%以上を占めるとみられています。これは国内2位の競合(Pick n Pay)を大きく引き離す水準です。
カテゴリー別売上構成比
Shopriteの売上の大部分は食品・飲料などの食料品と日用品から構成されています。実際、主力のスーパーマーケット部門(Shoprite、Checkers、Usave)が全売上の約80%を占めており、生鮮食品・加工食品・飲料・日用品といった日常消費財が中心です。残りの約20%は家具・家電部門などの非食品カテゴリーによるものです。
グループ傘下には家具・家電小売の「OKファニチャー(OK Furniture)」や家電量販店も含まれており、テレビや冷蔵庫等のエレクトロニクス製品も一部取り扱いますが、衣料品の取り扱いはごく限定的です。基本的には食料品スーパーが核であり、「その他」部門として家具・家電、金融サービス(送金サービスのMoney Marketなど)や酒類小売(LiquorShop)などが付随しています。
経営方針と戦略
Shopriteは「低価格戦略」で市場をリードしており、大量仕入れと規模の経済を活かして常に競合より安い価格を打ち出すポジショニングです。マスマーケット向けの「Shoprite」ブランドでは日常必需品を低価格で提供し、中〜高所得層向けの「Checkers」ブランドでは高品質志向の商品を揃えるなど、複数の業態で幅広い顧客層をカバーしています。成長戦略としては、積極的な店舗網拡大とアフリカ諸国への進出を進めてきました。
1979年の創業時に南アの小規模スーパー8店舗を買収して以来、1990年代に競合チェーンの買収(1991年にCheckers買収、1997年にOK Bazaars買収など)を通じて急拡大しました。また1990年代以降は周辺国へも展開し、現在はアフリカ大陸10か国以上で事業を展開しています。しかし近年はナイジェリアなど採算の合わない一部海外市場から撤退し、南ア国内に経営資源を集中する動きも見られます。
M&A戦略としては上記のように国内外で機会ある買収を行いシェア拡大を図ってきました。価格政策は「常に競合最安」を目指すものです。Shopriteチェーンでは恒常的に低価格を強調し、Checkersチェーンでは上質な商品を揃えつつも会員割引などでお得感を出しています。いずれも競争力ある価格設定で顧客獲得に努めています。また、同社は近年「より精緻な小売(Precision Retailing)」を掲げ、顧客データに基づく個別最適化にも力を入れており、店舗フォーマット多角化(ディスカウントのUsaveやコンビニ業態のShoprite Expressなど)や物流効率化にも継続的に取り組んでいます。
DX事例
Shopriteグループはアフリカ小売業界でデジタル革新を牽引しています。同社は社内にデジタル専門部署「Shoprite X」を立ち上げ、データサイエンスと最新技術を活用した新サービス開発に取り組んでいます。例えば会員プログラム「Xtra Savings」は南ア最大級のロイヤリティプログラムで、延べ2,000万人以上の会員を擁し 、購買データ分析による個別割引オファーを実現しています。
また2019年には子会社のCheckersがオンデマンド配送アプリ「Sixty60」を業界に先駆けて開始しました。Sixty60は最短60分で食料品を宅配するサービスで、開始18か月で100万超のダウンロードを達成し、現在では対応店舗を全国で466店舗に拡大しています。このサービスにより同社は急成長中のオンデマンド食料品宅配市場でトップシェアを獲得しています。
さらに未来志向の取り組みとして、レジ無し店舗「Checkers Rush」の実験も行われました。AIカメラで棚から取られた商品を認識し、出口で自動精算する無人決済店舗で、従業員向けに試験運用されています。
このようにShopriteはモバイルアプリやAI技術を積極導入し、キャッシュレス決済の推進も進めています。主要店舗ではQRコード決済や独自の電子ウォレットサービス(携帯電話番号で送金・決済できる「Shoprite Money」など)を提供し、現金に頼らないスムーズな買い物体験を提供しています。これらDXの取り組みにより、Shopriteは従来型スーパーの枠を超えた顧客利便性向上と効率改善を実現しつつあります。
Pick n Pay
基本情報
Pick n Pay(ピック・アンド・ペイ)は、1967年創業の南アフリカの大手スーパーマーケットチェーンです。創業者はレイモンド・アッカーマン氏で、わずか4店舗から出発しましたが、その後ハイパーマーケット業態の導入など業界革新を牽引しつつ成長してきました。2023年度の売上高は1,060億ランド(約51億ユーロ)で、Shopriteに次ぐ国内第2位の規模です。南アフリカ国内および周辺7か国に合計2,200店舗以上を展開しており、約90,000人の従業員を抱えます。
同社は南アフリカ食品小売市場の約2割強〜3割弱のシェアを占めるとされ、Shopriteと並ぶ主要プレーヤーです。近年、ディスカウント業態「Boxer」の拡大にも注力しており、グループ全体で幅広い層にリーチしています。
カテゴリー別売上構成比
Pick n Payの売上は主に食品・飲料および日用品によって構成されています。同社は「食品・グロサリー(食料品)」「家庭用品」「衣料」「酒類」「一般雑貨」を幅広く取り扱っており、高品質な食料品から日用品までワンストップで揃えることを目指しています。
特に食料品部門の比重が高く、生鮮食品(青果・精肉・乳製品)や加工食品、飲料が売上の大半を占めます。一方で非食品も一定割合あり、同社は独自の衣料品部門(Pick n Pay Clothing)を展開して衣類販売も手掛けています。また大型店(ハイパーマーケット)ではテレビや調理家電など小型家電・電子製品も扱いますが、その売上構成比は食品ほど大きくありません。Pick n Payは酒類専門店も傘下に持ち(Pick n Pay Liquor)、酒類販売も「その他」カテゴリとして売上に寄与しています。総じて、「食品・飲料」と「日用品」カテゴリーが売上の大半を占め、衣料・家電などは補完的な位置づけです。
経営方針と戦略
Pick n Payは顧客志向とバリュー提供を経営理念に掲げており、「消費者の権利の擁護者」として創業以来価格抑制に努めてきた歴史があります。市場でのポジショニングは、中流層を中心に幅広い顧客に品質と価格のバランスが取れた商品を提供する総合スーパーです。他社との差別化要素として、同社は充実したロイヤリティプログラム「Smart Shopper」を展開し、個々の顧客に合わせた割引やポイント還元を提供しています。
成長戦略の一環として、近年は業態ポートフォリオの明確化を進めています。すなわち、メインブランドの「Pick n Pay」では品揃えや店舗体験の向上に注力し、中間層向けには新フォーマット「QualiSave」を導入、一方で低所得層市場にはディスカウント業態の「Boxer」に注力しています。2002年に買収したBoxerは現在グループ成長の柱となっており、2023年にはBoxerチェーンの株式34.4%をIPOで売却して資金調達(85億ランドを調達)し、ディスカウント業態拡大に充てています。
M&A戦略としては、Boxer買収(2002年)以外に大規模案件はありませんが、必要に応じ周辺事業(例えば2021年にペット用品オンライン小売の買収)など小規模投資も行います。価格政策では、以前は週替わり特売を中心としたハイ・ロー戦略でしたが、近年Aldiなどディスカウンターの台頭を受け一部でEDLP(常時低価格)戦略も採用しています。実際「毎日低価格」商品を拡充するとともに、一方ではSmart Shopperによる個別クーポンや割引でお得感を演出し、プロモーションとEDLPのハイブリッド戦略を展開しています。
またインフラ面では、店舗オペレーション効率化とコスト削減(例えば中央集権的な調達強化、物流最適化)に注力しており、近年業績悪化に対処すべく構造改革プログラム「Project Ekuseni」を進めています。
DX事例
Pick n Payは近年デジタル分野への投資を加速させています。まずEC戦略では、自社オンラインショップの利便性向上に取り組み、2022年にはオンデマンド配送アプリ「Pick n Pay Asap!」をリニューアル開始しました。同アプリは買収したスタートアップ(Bottles社)を基に構築されており、即時配達サービスとして全国展開されています。
またユニークな戦略として、南ア最大のEC企業Takealot傘下のデリバリーアプリ「Mr D」と提携し、自社店舗の商品をMr Dアプリ上でも注文できるようにしました 。この提携により、Pick n Payは自前だけでなく既存プラットフォーム経由でも宅配顧客にリーチし、結果としてオンライン売上が前年同期比+69.6%(2022年末時点)と急増しています。
モバイルアプリではスマートショッパー(Smart Shopper)会員カードをデジタル化し、アプリ上でポイント管理やクーポン提供を行うなどオムニチャネル戦略を強化しています。さらに店舗でのDXとしては、スマホによるセルフスキャン決済や、レジ待ちを減らす「スキャン&ペイ」のテスト導入も行っています。
また決済の多様化にも取り組んでおり、特筆すべきは2023年にビットコイン決済を全店に導入したことです。暗号資産スタートアップとの提携でLightning Network経由のビットコイン支払いを可能にし、南アフリカ国内1,600以上の店舗で仮想通貨決済が利用可能となりました。Pick n Payは「アフリカで初の主要小売における仮想通貨決済導入企業」となり、毎月100万ランド相当の売上がビットコイン決済で発生するまでになっています。このように同社はキャッシュレス化でも先進的であり、従来型のスーパーからデジタル時代の小売企業への転換を図っています。また、慢性的な電力不足(ロードシェdding)への対応としてデジタル技術で冷蔵設備のモニタリングや発電機運用効率化も行うなど、DXを広範囲に活用しています。
SPAR Group (South Africa)
基本情報
SPARグループは、南アフリカにおけるSPARスーパーマーケットのフランチャイズ本部で、1963年に南アフリカで設立されました。オランダ発祥のSPARブランドを南アフリカに導入したもので、南アがヨーロッパ以外では最初のSPAR展開国です。2023年のグループ売上高は910億ランド(約43億ユーロ)に達し、国内食品小売業で3位の規模です。南アフリカ国内で約2,500店舗をフランチャイズ展開しており、これはShopriteやPick n Payより店舗数ベースでは多いですが、多くが個人経営の中小型店です。
SPARは各地域の独立小売業者が加盟するボランタリーチェーンであり、直営ではなく加盟店ネットワークによって構成されるのが特徴です。また南部アフリカ周辺国(ボツワナ、ナミビア、モザンビーク、エスワティニなど)にも展開し、さらに2010年代にはアイルランド・スイスのSPAR事業を買収して海外展開を進めました(2020年買収のポーランド事業は2023年に売却)。市場シェアは南ア国内で約20%前後と推定され、上位2社に次ぐ位置づけです。
カテゴリー別売上構成比
SPARの各加盟店は食料品と日用品が中心で、基本的に地域のフルサービス食料品店として機能しています。生鮮食品(青果・肉・ベーカリー)からグロサリー(加工食品、飲料、菓子)まで幅広く取り揃えており、多くの店舗でテイクアウトデリやインストアベーカリーも展開されています。日用品では洗剤や紙製品、ヘルス&ビューティ用品なども扱います。
非食品カテゴリーとしては、SPARグループは酒類小売チェーン「TOPS at SPAR」を全国展開しており、酒類は独立店舗または店内併設で販売しています。また医薬品分野では調剤薬局・ドラッグストア事業にも進出しており、医薬品卸のS Buys社を買収するなどして一部店舗でドラッグコーナーを展開しています。さらにDIY・建材部門としてフランチャイズの「Build It」チェーンも傘下に抱えます。ただしこれらはグループ全体で見れば補完的事業で、主力はあくまで食品・日用品販売です。家電や衣料品は通常のSPAR店舗では扱いがなく、必要に応じて加盟店が独自に少量扱う程度です。「その他」カテゴリとしては、上記酒類・医薬・建材など専門業態による売上が該当しますが、グループ売上に占める比率はそれほど大きくありません。
経営方針と戦略
SPAR South Africaの最大の特徴はボランタリーチェーン(任意連鎖店)方式です。8つの卸売業者が小売店に商品供給する仕組みとして1963年に始まった背景から、現在でも各店舗は独立資本の加盟店であり、SPARグループ本部は商品調達・物流・マーケティング支援を行う組織となっています。そのため経営方針は「加盟店(地元の中小小売業者)を支援し、共存共栄すること」にあります。他の大手チェーンが直営による規模追求なのに対し、SPARは地域密着と加盟店オーナーの起業家精神を尊重する形で成長してきました。
市場でのポジショニングは、「身近な地元スーパー」です。都市部より郊外や地方で強く、店舗も中小型が多いため、高級路線や極端なディスカウント路線ではなく、地域コミュニティに根差した利便性を売りにしています。成長戦略としては、新規加盟店の開拓と他社からのスイッチ誘導でネットワーク拡大を図っています。また先述のように2014年にSPARアイルランドとイギリス事業、2016年にSPARスイスを買収するなど海外M&Aにも取り組み、収益基盤を多角化しました。しかし新規参入したポーランド市場では苦戦し2023年に撤退するなど、選択と集中を進めています。
南ア国内では、隙間市場への対応として酒類(TOPS)や建材(Build It)など異業態も取り込むことでグループとして売上機会を広げています。価格政策は各加盟店の裁量部分も大きいですが、全体としては競合他社と対抗できる価格設定を維持しつつ、地元の顧客ロイヤリティに支えられた安定商売を重視する傾向があります。他社のような大規模値下げキャンペーンより、地域の特売チラシやポイントカードによる着実な集客策を採っています。総じてSPARは、フランチャイズモデルの強みを活かし「ローカル密着×全国規模の調達力」というハイブリッド戦略で市場に臨んでいます。
DX事例
SPARは歴史的に見るとデジタル化の動きは他のチェーンに比べ穏やかでしたが、近年ようやく本格的にDX戦略を打ち出しています。オンライン事業では、2022年前半に同社初の本格的ECプラットフォームとなる「SPAR2U」を立ち上げました。SPAR2Uはオンデマンドの食料品・酒類デリバリーサービスで、各地域のSPAR加盟店が参加し始めており、ローンチから半年で87店舗がプラットフォームに加盟しました。加盟店が自店の在庫をオンライン公開し、注文が入ると店舗から配達するモデルです。また郊外や黒人居住地域向けには配送スタートアップKasiDとの提携で宅配展開する試みも行われました。これらにより、ShopriteのSixty60やPick n PayのASAP!といった競合サービスに対抗しうる即時配送エコシステムを整えつつあります。
デジタル施策としては他に、POSシステムの近代化や本部−加盟店間の受発注プラットフォーム高度化などバックエンドの刷新も進めています。またキャッシュレス決済の面では、大半のSPAR店舗でクレジットカードやモバイル決済が利用可能であり、都市部の一部店舗ではタッチ決済専用セルフレジを導入する例も見られます。ただし、各店舗の独立性が高いためデジタル施策の浸透度合いは店によって様々で、全体としてはまだ過渡期です。
今後、本部によるIT支援を強化し、加盟店のDXを底上げしていく方針です。例えばSPAR2Uの普及はまだ限定的ですが、同社は「オンラインとリアル店舗の融合」に本腰を入れ始めており、デジタルを通じたサービス強化で競争力維持を図っています。
韓国
韓国の小売経営事情
韓国は他の主要国と比べて、大手小売業が出現しにくい状況となっています。
以下は、韓国において大手小売業が急速に発展しにくい背景要因を簡潔にまとめたものです。
- 都市部での土地利用・都市計画の厳格な制約
韓国(特にソウルなどの大都市)では、都市計画や土地利用に関する規制が非常に厳しく、広い敷地を確保することが難しいため、大型店舗の建設が困難です。これにより、大規模なハイパーマーケットの展開が抑制され、主に小型店舗やコンビニエンスストア型の出店が主流となっています。 - 政府の中小企業保護政策と市場の分散化
政府は地域経済の多様性や伝統市場、中小企業の保護を目的として、過度な市場集中を抑制する政策を実施しています。そのため、財閥系大手に比べ、非財閥系や独立系の小売業者には厳しい許認可基準や補助金・税制上の優遇措置が適用されにくく、不公平な状況が生じています。結果として、財閥系企業は有利な条件のもとで成長できる一方、独立系や中小企業はより多くのハードルを乗り越えなければならず、業界全体として大手小売業の急速な発展が阻まれる要因となっています。
이마트 (E-Mart)
基本情報
Eマート(이마트)は1993年に新世界グループによって設立され、韓国初のディスカウント型大型マートとしてオープンしました。以来、韓国全国に店舗網を広げ、2023年現在の国内店舗数は約160店に上ります。2023年の年間売上高は約15.8億ドル(約2.1兆ウォン)と推定され、競合を大きく引き離す業界トップの規模です。
親会社は流通財閥の新世界グループであり、Eマートはその中核企業です。韓国のハイパーマーケット(大型総合スーパー)市場においてシェア首位を占めており、消費者からも「最も人気のあるスーパーマーケット」として広く認知されています。また韓国国外にも進出しており、モンゴルやベトナムに店舗展開した実績があります(中国市場にも参入しましたが2017年までに撤退)。
カテゴリー別売上構成比
Eマートは食料品から衣料・家電まで幅広い商品を扱うワンストップ型の大型マートです。売上の約半分程度は食品(生鮮・加工食品・飲料など)と言われており、残りの大部分が生活雑貨や家電製品、衣料品などの非食品カテゴリーです。店内には食品売場に加え、大型家電・デジタル製品コーナーや衣料・生活雑貨コーナーが設けられており、テレビや冷蔵庫といった家電製品から、衣料・靴・おもちゃ・家庭用品まで揃います。
Eマートの特徴として、自社プライベートブランド商品が豊富な点が挙げられます。低価格PBの「No Brand」シリーズや高品質食品PBの「Peacock」シリーズは、食品・日用品から雑貨まで多岐にわたり展開され、売上に占めるPB比率も高くなっています。総じて、Eマートは「食品・日用品」(食料品・生活必需品)が売上の柱でありつつも、家電・衣料・雑貨などの一般商品も大きな割合を占める、バランスの取れた売上構成です。
経営方針と戦略
Eマートの市場でのポジショニングは「総合ディスカウントストアのトップ」です。常に競合より広い品揃えと良質な商品、そして競争力ある価格を提供することを目指しています。毎日安値を保証する「常時低価格(Everyday Low Price)」戦略と、週末特売などのプロモーション施策を組み合わせ、大量集客と高い回転率を実現しています。
また、競合との差別化としてプライベートブランド(No BrandやPeacock等)に注力し、高品質かつ低価格の商品群を展開することで価格主導権を握っています。成長戦略では、国内市場の成熟に伴い新フォーマット開発とM&Aによる事業拡大を行っています。
新フォーマットでは、倉庫型ホールセールクラブ「Eマートトレーダース(Traders)」を展開してコストコに対抗し、コンビニ事業「Eマート24」を立ち上げるなど、多業態展開で市場浸透を図っています。M&A面では、2006年にウォルマート韓国を買収して店舗網を拡大したのを皮切りに、2021年にはeBay Korea(G마켓・옥션など韓国最大級のオンラインマーケットプレイス)を約3兆4400億ウォンで買収し、オンライン事業を一気に強化しました。この大型買収によりEマートはオフラインだけでなくオンライン小売でも存在感を示す戦略です。
また海外展開については、中国への進出(店舗網最大時は30店以上)を行いましたが業績悪化と政治的逆風(THAAD問題)により2017年に撤退しています。一方、モンゴルではフランチャイズ契約で店舗を出し成功、ベトナムでも店舗展開(※現在は現地企業に売却)を試みるなど、アジアでのプレゼンス拡大も狙いました。
価格政策は、プライベートブランドを活用したEDLPと、週末セールや1+1(おまけ)などの販促を巧みに組み合わせています。またポイントカード(新世界グループ共通の「신세계 포인트」)による割引施策でロイヤル顧客を囲い込みます。総じてEマートは「スケールメリットを活かし全方位で競合に勝つ」戦略で、伝統的小売の強みとデジタルの融合による次世代型小売モデルを目指しています。
DX事例
Eマートは新世界グループ全体のオムニチャネル戦略の中核として、デジタルシフトを積極的に進めています。グループの統合ECプラットフォームである「SSG닷컴」を通じ、食品を含む幅広い商品のネット通販と配送サービスを展開しています。2021年のeBay Korea買収後は、Gマーク(Gmarket)や옥션(Auction)といった巨大オンラインモールも傘下に収め、AIによるレコメンデーション機能や膨大な顧客データ分析を活用して、オンライン販売の拡大に注力しています。
また、店舗面でもDXを推進しています。大型店舗ではセルフレジやセルフスキャナーを導入し、スマートフォンのEマートアプリでバーコードを読み取って決済できるシステムも試験的に展開しています。新世界グループのIDを活用した統合モバイルアプリでは、電子クーポン配信やモバイル決済(SSG Pay)を提供し、オンラインとオフラインのシームレスな購買体験を提供しています。さらに、傘下のコンビニ事業Eマート24では無人店舗(スマートコンビニ)のテストも行われ、深夜無人営業や顔認証決済など新技術の実証を実施しています。
AI技術の活用では、需要予測システムで商品の自動発注精度を上げたり、倉庫での在庫最適化を図ったりしています。特に2023年には最先端物流センター(ネオ003など)を稼働させ、AIとロボットを活用した自動仕分け・ピッキングでEC物流効率を高めています。キャッシュレス決済の面でも、韓国はキャッシュレス先進国ということもあり、Eマート全店でクレジットカードやモバイルペイ(Samsung PayやNaver Pay等)が当たり前に使えます。
新世界グループ独自の「SSG Pay」も推進しており、ユーザーはアプリでチャージしてQRコードやバーコードで支払うことが可能です。このようにEマートはオンラインプラットフォームの強化と店舗のスマート化を両輪に、伝統的小売からデジタル小売への転換を図っています。
롯데마트 (Lotte Mart)
基本情報
ロッテマート(롯데마트)は、韓国の財閥ロッテグループに属する大型マートチェーンで、1998年にソウル特別市に1号店をオープンしました。以来急速に店舗網を拡大し、2023年現在韓国内に約125店舗を展開しています。2023年の年間売上高は約103億ドル(約13.5兆ウォン)に上り、業界第3位の規模です。
国内ではEマート・Homeplusに次ぐハイパーマーケットチェーンであり、全国主要都市に大型店を構えています。ロッテグループの一員として、グループ内のロッテ百貨店やロッテスーパー(スーパーマーケット業態)など他業態との連携も強みです。また、ロッテマートは海外展開にも積極的で、2000年代後半から中国・インドネシア・ベトナムなどに進出しました。特にベトナムでは大都市を中心に15店舗以上を運営し、インドネシアでも30店舗以上を展開しています(中国事業は2017~2018年に全店撤退済み)。
カテゴリー別売上構成比
ロッテマートの店舗はEマート同様、食料品から生活必需品・耐久消費財までワンストップで買える総合スーパーです。売上の中核は食品・飲料といった食料品部門ですが、それ以外にも生活雑貨、キッチン用品、ヘルス&ビューティ、衣料品、玩具、スポーツ用品、家電など多彩なカテゴリーの商品を扱います。
店内には生鮮食品売場、加工食品売場のほか、自社の家電専門コーナー(一部店舗では「Hi-Mart」という家電量販店との提携コーナー)や衣料品売場があります。衣料品はカジュアル衣料から子供服・下着類まで幅広く、自社開発ブランドやロッテグループのファッションブランド商品が販売されています。家電はテレビ・冷蔵庫など大型家電から美容家電・PC周辺機器まで揃います。日用品も洗剤や日用消耗品、ペット用品まで一通り揃えています。食品と日用品が売上の過半を占めますが、エレクトロニクスや衣料など非食品カテゴリーも無視できない比率があります。またロッテマートは自社プライベートブランド商品にも力を入れており、低価格帯の「Wiseelia」や中価格の「With One」などを通じて食品・生活雑貨の売上を伸ばしています。要約すると、ロッテマートは食料品中心でありつつも、家電・衣料・雑貨といったカテゴリーからも売上のかなりの割合を上げる総合小売です。
経営方針と戦略
ロッテマートはロッテグループの総合力を背景に顧客ロイヤルティ重視の戦略を取っています。グループ共通の「ロッテメンバーズ」ポイントカードを通じて百貨店やコンビニなど他業態と連携したポイントサービスを提供し、ロッテファンを囲い込んでいます。市場でのポジショニングは、競合に対して価格・品揃え・サービスの総合力で勝負する路線です。
毎週の特売や自社電子マネー(L.Point連動)のボーナスポイントキャンペーンなどプロモーション攻勢も積極的で、特に「創立○周年セール」や季節イベント時には大幅値引きを打ち出します。成長戦略では、2000年代に他国市場への進出を加速させました。中国では2007年にマクロ(Makro)の中国店舗を買収し一時100店舗以上に拡大しましたが、2017年のTHAADミサイル問題に伴う不買運動で大打撃を受け全店舗撤退しました。一方、東南アジアでは2010年代にインドネシアのMakro店舗買収や現地企業との合弁を通じて拡大し、現在でも数十店舗を運営しています。
国内では、新規出店規制もあって大型店の純増が難しいため、既存店のリニューアルやショッピングモール化(店舗に専門店街を併設)による収益力強化に注力しています。また、最近は訪韓外国人観光客向けに特化した売場を設ける動きもあり、2023年には一部店舗に免税対応の観光客向けショッピングゾーンを開設しました。
価格政策は基本的に週替わりのチラシ特売とポイント還元でコスト意識の高い主婦層を取り込みつつ、ロッテブランドの信頼感で付加価値を提供する二面性があります。プライベートブランド商品で競合より安い選択肢を示しつつ、有名メーカー品は百貨店仕込みのプロモーションで差別化するという戦略です。総じてロッテマートは「財閥系」という強みを活かし、グループのカード・金融・通販などと連携しながら、国内外で収益拡大を目指しています。
DX事例
ロッテマートはロッテグループ全体のデジタルトランスフォーメーション戦略の一翼を担っています。グループのオンライン統合モール「롯데온 (Lotte ON)」においてロッテマートの商品をEC展開し、店舗受取りサービスや即日配送サービスを提供しています。店舗ではスマートフォンアプリを活用したセルフスキャンや、顧客が自分で精算できるセルフレジを一部導入し、買物時間短縮を図っています。
また、ロッテのビッグデータセンターを活用してAIによる需要予測や在庫管理の高度化を進めており、店舗ごとに地域の購買データを分析して品揃えを最適化する取り組みも行われています。モバイルアプリでは、会員向けにクーポン配信や購入履歴に基づくレコメンドを実施し、O2O戦略を展開しています。
決済面では、ロッテの共通モバイル決済「L.Pay」や各種電子マネーに対応し、現金を使わない買物を推奨しています。
DXのユニークな事例としては、2023年に訪日外国人増加に合わせて一部店舗で多言語対応のスマートカートやARナビゲーションを導入し、言語の壁を超えた買物体験を提供し始めたことが挙げられます。
また、ロッテマートは社内業務効率化にもRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入し、本部の発注・会計処理を自動化するなどコスト削減に努めています。さらに、食品の鮮度管理にIoTセンサーを試験導入し、冷蔵ケースの温度をリアルタイム監視するなど品質管理のDXも行われています。総じてロッテマートはグループシナジーを背景に、オンラインとオフラインの融合、AI活用によるパーソナライズドマーケティング、キャッシュレス決済の推進など、多方面からデジタル技術を取り入れて競争力強化を図っていると言えます。
홈플러스 (Homeplus)
基本情報
ホームプラス(홈플러스)は、韓国で2番目に大きいハイパーマーケットチェーンです。元々は1997年にサムスン物産流通部門が立ち上げたディスカウントストア事業が母体で、1999年に英国テスコ社との合弁「Samsung Tesco」として本格展開しました。テスコ傘下で急成長し、2011年にはテスコが全株式を取得して完全子会社化しています。2015年にMBKパートナーズ率いる投資ファンドにより買収され、現在はMBKパートナーズ傘下のプライベートカンパニーです。
韓国内の店舗網は、ハイパーマーケット(大型店)が約140店舗、スーパー・コンビニ形態の「Homeplus Express」や「365 Plus」が数百店舗あり、全国で計500店舗超を運営しています。2023年度の売上高は約6.93兆ウォン(約53億ドル)で、これは業界2位ですがトップのEマートとの差は縮小しています。ここ数年、業績面では営業赤字が続いており、競合のCostcoにも売上規模で迫られるなど、再建途上にあります。ただ、Homeplusは革新的マーケティングで知られ、テスコ時代からの高品質なプライベートブランドやサービスの充実で根強い顧客層を持っています。
カテゴリー別売上構成比
Homeplusも他のハイパーマーケット同様に総合的な品揃えを特徴とします。売上の中心は食料品・飲料などの食品部門ですが、非食品の割合も大きいです。食品では生鮮(三温暖野菜・果物、精肉、鮮魚)、加工食品(お菓子、調味料、即席食品など)、飲料(水・ジュース・酒類)に加え、デリカテッセン(惣菜)やベーカリーも強化しています。非食品では、日用品(洗剤・紙製品・化粧品)のほか、家電・電子製品や衣料品も取り揃えています。
テスコ傘下だった名残で、欧米や日本からの輸入食品・雑貨も豊富に扱っている点が特徴で、輸入食材の品揃えは競合より充実しているとの評価があります。衣料品はテスコの「F&F」ブランドなどを取り扱い、子供服から大人のカジュアルウェアまで手頃な価格で提供しています。家電については、テレビ・エアコン等の大型家電から調理家電・デジタル機器まで大型店では一通り揃えています。店舗によっては専門店をテナントとして入れ、例えば携帯電話ショップや眼鏡店などもあるため、売上の一部はテナント料収入(「その他」カテゴリー)となっています。
Homeplusの売上構成比を大まかに言えば、食品・日用品でおよそ7割程度、家電・衣料・住関連用品などその他で3割程度と推定されます(公式の細分類公開はありませんが、イメージとして)。なお、小型業態のExpressや365では生鮮食品・加工食品が売上の大半を占めるため、そちらを含めるとグループ全体では食品寄与度がさらに高まります。
経営方針と戦略
Homeplusはテスコ傘下時代、「グローバル標準の先進小売手法」を韓国に導入したことで知られます。市場でのポジションは、Eマートに次ぐ存在として品質とサービス面での差別化を図ってきました。例えばテスコ由来の先進的なサプライチェーンやクーポン中心のロイヤリティ戦略(Clubcardに相当する会員システム)を展開し、富裕層にも支持される洗練されたハイパーマーケットというイメージを築きました。成長戦略では、2008年に仏カルフール韓国(Homeverブランド)の店舗33店を一括買収し、一気に規模を拡大したのが大きな転機でした。
その後、テスコの経営難もあり出店は頭打ちとなりましたが、Express業態(小型スーパー)や365 Plus(コンビニ)を増やすことで新規需要を取り込みました。2015年のMBKパートナーズへの売却後は、収益性改善が最優先課題となり、不採算店舗の閉鎖や不動産売却を進めています。実際、近年20店舗以上を閉店・売却しており、広すぎる売場の一部を別テナント(映画館など)に転換する動きもあります。一方で、価格競争力の強化も余儀なくされています。価格政策としては、テスコ直営当時から割引クーポンやポイント還元を多用する戦略でした。現在も모바일 멤버십(モバイル会員証)による個別割引や、週末割引セールなどで集客を図っています。ただ、競合のような極端なEDLP路線は取らず、「質の割に安い」をアピールする中庸戦略です。
また、Homeplusはロッテや新世界と異なり財閥ではないため、他業種との連携に制約があります。そこで自社で金融サービスを取り込む戦略を採り、一時はスーパー内で銀行窓口を運営したり、独自プリペイドカード(テスコ時代はマネーカード)を提供したりしました。現在はペイメント連携はKakao Payなど外部サービスに依存しています。
総じてHomeplusの戦略は、「テスコ譲りのノウハウ+地元適応」です。先進的な品揃えやサービスで差別化しつつ、韓国消費者のニーズに合わせたローカライズ(例えば大量陳列ではなく小まめな少量陳列、食品の量り売り強化など)も行っています。ただ、MBKによる短期的な収益重視がうかがえる中で、持続的成長戦略が描きにくい状況にあり、現在は守勢に回っているのが実情です。
DX事例
Homeplusはテスコ時代からデジタルマーケティングの革新で世界的に注目された事例を持ちます。中でも有名なのが2011年にソウルの地下鉄駅で実施した「バーチャルストア」です。駅構内の壁に陳列棚そっくりの巨大ポスターを掲示し、商品のQRコードをスマホで読み取ると即座にオンライン注文できる仕組みを導入しました。通勤客は電車を待つ数分の間にスマホで買物を完了でき、購入商品は当日中に自宅配送されるというサービスで、大きな話題を呼びました。このキャンペーンはCannes Lions国際広告祭でもグランプリを受賞し、Homeplusのオンライン売上が大幅に伸びるきっかけとなりました。
現在もHomeplusは当時構築した強力なEC基盤を維持しており、自社ウェブサイトやモバイルアプリから食品・日用品の宅配注文が可能です。配送サービスは当日または翌日配送が標準で、韓国の他社に比べても遜色ない水準です。会員制度も紙のクーポンからデジタルクーポン中心に移行し、アプリ上で個別の値引きクーポンやポイント管理ができます。
MBK体制下では大掛かりなDX投資は抑制されていますが、それでもデータ分析には注力しており、膨大な購買データを分析する「홈플러스 Big Data Hub」を社内に設置し、品揃えや販促計画の高度化を図っています。またPOSシステム刷新により売上データのリアルタイム集約と発注自動化を進め、供給網の効率化も追求しています。キャッシュレス決済については、韓国全体がそうであるようにHomeplusも非常に普及しています。主要クレジットカードはもちろん、Samsung PayやNAVER Payといったモバイル決済にも全店対応済みで、顧客の約90%以上が非現金で支払っています。さらに、一部店舗では無人スマートストアの実証として、深夜時間帯にセルフ決済のみで営業する試みも始まっています。
総じて、Homeplusは過去の革新的イメージを活かしつつ、堅実なデジタル施策を展開中です。特に当時テスコが構築したオンラインインフラは競合優位性の一つであり、同社はそれを維持強化することで、Eマートやロッテマートとの差別化を図っています。
オーストラリア
Woolworths Group(ウールワース)
基本情報
ウールワース(Woolworths)は1924年創業のオーストラリアを代表するスーパーマーケットチェーンで、同国における食品小売の首位企業です。オーストラリア国内に約1,000のスーパーマーケット店舗を構え、2023会計年度のグループ売上高は約640億豪ドルに達しました(ニュージーランド事業やディスカウント百貨店Big W部門を含む)。そのうち、オーストラリア国内の食品スーパー事業だけで約480億豪ドル規模と見られます。オーストラリアの食料雑貨小売市場におけるマーケットシェアは約37%で、永年の競合であるColesを抑えてトップシェアを維持しています。
ウールワースグループ全体では20万人以上の従業員を擁し、主要事業の食品スーパーに加え、かつては酒類チェーン(Dan Murphy’sやBWS)やガソリン小売も運営していました(酒類部門は2021年にEndeavour Groupとして分社化)。ウールワースは「The Fresh Food People(新鮮な食料品の人々)」をスローガンに鮮度と品質を重視しており、オーストラリア国民の日常生活に深く根付いた存在です。
カテゴリー別売上構成比
ウールワースのスーパー事業は、その売上の大部分(概ね90%以上)を食品・飲料と生活必需品で占めます。生鮮食品(青果、精肉、鮮魚、乳製品など)は特に力を入れており、品質の高さで定評があります。加えて、パン・惣菜といったインストア調理品、グロサリー(缶詰・乾物・菓子・飲料など)の品揃えも非常に幅広いです。
日用品では洗剤やペーパー類、ヘルスケア用品、ペットフードなど家庭の必需品を網羅しています。家電・衣料などの非食品カテゴリーはスーパー店舗内では限定的です。大型店でもキッチン家電や電球・乾電池、簡易な衣料小物(靴下や下着)などが少量置かれる程度で、これらのカテゴリーが売上に占める割合はごく僅かです。
グループ内で一般雑貨や衣料を本格的に扱うのは別業態のBig W(ディスカウント百貨店)であり、スーパーマーケット部門ではあくまで「食料品と日用消耗品」に特化しています。なお、酒類販売はスーパー店舗では行っておらず、別ブランドの酒類専門店(BWSなど)が担当しています。そのため「その他」カテゴリとしては、ギフトカード販売やチケットサービスなどが小規模に存在する程度です。総じて、ウールワースの売上構成は食品・飲料と日用品でほぼ占められていると言えます。
経営方針と戦略
ウールワースは長年にわたり「高品質な食品と卓越した顧客サービス」を経営理念に掲げ、オーストラリア国民の信頼を築いてきました。市場でのポジショニングは、競合のColesと並ぶ総合スーパーの両雄の一角ですが、特に鮮度や品揃えで一歩リードしているとの評価があります。
成長戦略としては、国内市場に集中し店舗網を拡大・刷新し続けることにあります。1990年代には地方スーパーの買収や他社チェーン(例:1985年にSafeway豪州事業を買収)の統合で規模を拡大し、2010年代には都市部向け小型店「Woolworths Metro」の展開で新たな顧客層を取り込みました。
また近年注力しているのがサプライチェーンの近代化です。膨大な取扱量をさばくため、自動化倉庫やAI需要予測システムに投資し、在庫回転率改善と物流コスト削減を図っています。さらに2019年にはデータ分析企業Quantiumに出資し、買物データの解析による精緻な意思決定を実現するなど、データ駆動経営を強化しています。
M&A戦略としては必要に応じ補完的事業の買収も行いますが、大型のものでは2021年にホテル・酒類事業を抱えるEndeavour Groupをスピンオフし、本業の食品小売に経営資源を集中する決断をしました。この動きは投資家からも好感され、ウールワースは「純粋な食品小売企業」として再スタートを切っています。価格政策については、2000年代まではコールスと並んでハイ・ロー戦略(特売中心)でしたが、ディスカウントチェーンのAldi参入以降、EDLP(エブリデイ・ロープライス)にシフトしつつあります。具体的には、常時数百品目の価格を据え置く「Price Drop」キャンペーンや、自社PB商品の拡充によって低価格イメージを向上させました。もっとも依然として週次の特売カタログは健在で、ハイ・ローとEDLPのハイブリッド戦略です。また、1300万人以上が加入する「Everyday Rewards」ロイヤリティプログラムを通じて、個々の購買履歴に応じたポイント還元やクーポン配布を行い、競争の激しい市場で顧客ロイヤルティを確保しています。
全体として、ウールワースは「新鮮・便利・安定価格」をキーワードに、店舗体験とデジタルサービスを両面強化する戦略で市場リーダーの地位を維持しています。
DX事例
ウールワースはオーストラリア小売業界で最も先進的にDXを推進している企業の一つです。まずオンライン事業では、早くからネットスーパーを展開し、現在では自社サイトおよびアプリから宅配・店舗受取(Click & Collect)の両サービスを提供しています。オンライン売上は年率二桁成長を続け、同社は需要に対応すべく2023年にメルボルン近郊に大規模自動化倉庫を稼働させました。この施設ではOcado社のロボット技術とAIを活用し、注文品のピッキングから仕分けまで自動化し、配送効率を飛躍的に高めています。
店舗では「Scan&Go」と呼ばれる独自システムを導入しつつあります。これは顧客がスマホのウールワースアプリで商品バーコードをスキャンしながら買い物し、専用レーンで決済を完了できる仕組みです。数店舗での試験導入を経て、徐々に展開が広がっています。
また、AI技術の実用化例として、Tiliter社のAIレジスター(重量計とカメラで野菜果物の品目を自動識別する機械)を一部店舗で導入しました。これによりセルフ精算時に顧客が品目を選択する手間を省き、利便性を向上させています。さらに2023年にはスマートショッピングカートを試験導入し、カート自体にタブレット画面とスキャナを備え、商品を入れると自動で合計金額を表示するサービスをシドニー店舗で開始しました。
キャッシュレス決済は既に豪州全土で標準化しており、ウールワースでも顧客のほとんどがカードかスマホ決済です。それを一歩進め、ウールワースはアプリ内に「Everyday Pay」という独自のQR決済機能を設け、ポイントカード提示と決済を一度で済ませられるようにしました。バックヤードでもDXは進んでおり、AIを用いた在庫自動発注や、カメラと画像解析による棚欠品検知システムをテストしています。また従業員向けにはデジタルツール(タブレットでの在庫確認やシフト管理アプリ等)を導入し、現場業務の効率を上げています。これらの取り組みにより、ウールワースは顧客体験の向上(便利でスピーディな買い物)と業務効率の改善を両立し、競争力を強化しています。
Coles Group(コールス)
基本情報
コールス(Coles)は、オーストラリア第2位のスーパーマーケットチェーンで、1914年創業という長い歴史を持ちます。オーストラリア全土に約800のスーパーマーケットを展開し、2023会計年度の売上高は約410億豪ドルでした(食品・日用品部門のみ。燃料小売や酒類事業含む総収入)と推定されます。市場シェアは約28%で、ウールワースに次ぐ規模です。2007年から2018年までコングロマリットのウェスファーマーズ社傘下にありましたが、2018年にスピンオフして独立上場会社「Coles Group」となりました。
従業員数は約12万人にのぼります。コールスはスーパーマーケット事業(Coles Supermarkets)が中核ですが、他にもコンビニ型事業(Coles Express、※2022年に燃料会社へ譲渡済み)や酒類小売(LiquorlandやFirst Choice Liquor)を営んでおり、グループ全体で総合小売企業となっています。
カテゴリー別売上構成比
コールスのスーパー店舗における売上構成は、基本的に食品・飲料と日用品が大半です。生鮮三品(青果・精肉・鮮魚)や乳製品、パン・デリなどのフレッシュ部門、そしてグロサリー(缶詰・お菓子・飲料・加工食品)が主軸です。ウールワースと同様に「家庭の冷蔵庫・パントリーに入るもの」はほぼ全て網羅する品揃えであり、コールスの売上の8〜9割程度は食料品関連と言えます。
日用品も洗剤・雑貨・トイレタリーなどひと通り取り扱います。非食品カテゴリーは限定的で、スーパー店内では一部の大型店にキッチン用品(鍋・フライパン等)や季節用品(クリスマス飾りなど)、文具・雑誌、電球や乾電池といった小物を置く程度です。衣料品や大型家電は原則扱っておらず、これらはグループ外のKmartやTargetなど量販店が担う領域です。
コールスもプライベートブランド商品に力を入れており、「Coles」ブランドや高級ラインの「Coles Finest」など、食品から日用品まで多数展開し、売上の30%以上がPBとも言われます。酒類販売はスーパー店舗内ではなく隣接のLiquorlandなど別店舗で行うため、スーパー部門の売上には含まれません。まとめると、コールスの売上は食品・飲料(生鮮・加工)と日用品が中心で、その他カテゴリーの占有率は非常に低いです。
経営方針と戦略
コールスは経営スローガンとして「Value the Australian way」を掲げ、オーストラリアらしい価値(高品質・お買得・親しみやすさ)を提供することを目指しています。長年ウールワースとのデュオポリー(二強寡占)状態にあり、互いに切磋琢磨してサービス・価格を競い合ってきました。
コールスは2008年頃までは業績が低迷していましたが、ウェスファーマーズ傘下での大規模改革(「Down Down」価格引き下げキャンペーン開始など)により業績を回復させました。この“Down Down”キャンペーンは赤い手の指差しマークとともに「継続的な値下げ」をアピールするもので、消費者に安値イメージを植え付け成功しました。現在も基本戦略はEDLPと販促のミックスで、競合に対抗した価格設定と多頻度な特売を両立しています。
成長戦略では、新規出店よりも既存店の刷新(ストアフォーマット改装や品揃え拡充)と効率化による利益率向上に重点を置いています。ウェスファーマーズから独立した現在、株主の要求もありコスト削減やサプライチェーン強化が最重要テーマです。その一環で、英国Ocado社との提携により高度自動化されたオンライン注文専用倉庫をシドニーとメルボルンに建設し、2023年から稼働させ始めました。これによりオンライン事業の効率・容量が飛躍的に向上し、将来的なEC拡大に備えています。
また、ドイツのWitron社の技術を導入した自動配分センターを建設中で、これら物流投資で業界トップクラスの生産性を目指しています。M&Aについては、近年大きな買収はありませんが、小規模な動きとしては宅配ミールキット企業との提携や少数出資を行い、品揃えやサービスの補完を図っています。
ロイヤリティ戦略も重要で、ウェスファーマーズと共同所有するFlybuysという共通ポイントプログラムを運営し、顧客購買データをマーケティングに活用しています。Flybuys会員には個別の割引券やポイントボーナスを提供し、パーソナライズドマーケティングで来店頻度を高めています。総じてコールスは、「低価格で良質な商品を便利に提供する」というシンプルなバリュープロポジションを掲げつつ、裏では自動化・AI活用による効率革命を進めることで、国内市場でウールワースに負けない競争力を維持する戦略です。
DX事例
コールスは近年、ウールワースに追随して積極的にDX投資を行っています。最大のプロジェクトは、前述のOcado社との提携によるオンライン受注専用の自動倉庫(CFC)です。2023年にメルボルンで最初のCFCが稼働し、AIとロボットを組み合わせてオンライン注文品のピッキング・梱包を自動で行っています。これにより、在庫の正確さ向上・ピッキング速度大幅アップ・配送ルートの最適化(リアルタイム交通状況に応じた配送計画立案)が可能となり、オンライン顧客へのサービス品質が飛躍的に改善しました。第二のCFCも2024年にシドニーで稼働予定で、コールスはオンライン分野で業界最先端を目指しています。
また店舗DXでは、セルフレジの大幅増設と進化を進めています。現在コールスでは平均して各店に10台以上のセルフレジを配置し、顧客の大半が自己精算を選ぶ店舗もあります。さらに一部店舗でスマートセルフレジ(AIカメラで顧客のスキャン操作を監視しスキャン漏れを検知する仕組み)の導入も始めました。店員の負荷軽減とロス防止を両立する試みです。
またコールスは店舗従業員向けにAI駆動のシフト最適化ツールを導入し、840以上の店舗で人員配置計画を自動化しています。これにより需要予測に応じた適切な人員シフト編成が可能となり、人件費効率を高めています。
モバイルアプリ「Coles App」も強化され、買い物リスト機能や店舗在庫検索、無接触決済機能などが実装されています。支払いのデジタル化では、主要決済(カード・スマホ決済)に完全対応済みで、さらにFlybuysカードをスマホアプリ内に統合し、レジでバーコード提示するだけでポイント処理と決済ができる仕組みを構築しています。近年ではUber Eatsとの提携で一部商品の即配サービスをテストするなど、新たなチャネル開拓も行っています。
また社内ではRPAを導入して請求書処理など定型業務を自動化し、本部スタッフの業務効率を上げています。コールスは「シンプルで効率的な小売業」を標榜しており、DXもこのビジョンに沿って、自動化とデータ活用による効率化に重きを置いている点が特徴です。その成果として、店頭では「以前より低コストで安価な商品提供」が実現しつつあり、DXが競争力強化に直結しています。
ALDI Australia(アルディ)
基本情報
アルディ(Aldi)はドイツ発祥のディスカウントスーパーマーケットチェーンで、2001年にオーストラリア市場へ初出店しました。参入以来一貫して自社出店によるオーガニック成長を続け、現在ではオーストラリア6州2領域に590店舗以上を展開しています。
2024年時点での推定年商は約120億豪ドルに達し、オーストラリア食品小売市場の約10%を占めています。これはWoolworths・Colesに次ぐ第3位の規模であり、Aldiは二強寡占だった市場構造を変えた存在と評価されています。店舗運営形態は全て直営で、標準化された中型店舗(売場面積1,000平米前後)が基本です。従業員数は約16,000人です。Aldiは「高品質の商品を常に低価格で提供する」ことを信条としており、派手な広告やサービスを省いたローコスト運営で知られます。参入以来20年以上にわたり価格破壊的な存在として、業界に大きな影響を与えています。
カテゴリー別売上構成比
Aldiの取り扱い商品は食料品と日用品が中心で、品目数は一般的なスーパーの1/3以下(約1,700SKU)と限定されています。そのため、売上の大部分(推定90%以上)は食品・飲料と家庭用消耗品です。
生鮮食品も取り扱いますが、青果・肉類は品目を絞り込んでおり、生鮮の売上構成比は他社より低めです。その代わり、加工食品・スナック・飲料などパッケージ食品や日用品(洗剤・トイレットペーパー等)の比率が高い傾向です。Aldi最大の特徴は、商品の約90%以上を自社開発のプライベートブランド(PB)で占める点です。コカ・コーラ等の一部ナショナルブランドを除き、大半の商品がAldi独自ブランドで、これらは同等品質ながら低価格で提供されます。
またAldiには週2回登場する「スペシャルバイ(Special Buys)」と呼ばれる限定特売商品群があります。これは家電・電子機器、台所用品、衣料品、スポーツ用品、おもちゃなど多岐にわたる非日常商品の特価販売で、毎週水曜・土曜に入れ替わります。スペシャルバイは売り切り御免の商品が多く、売上全体に占める割合は1割未満とみられますが、利益率が高く来店誘引効果も絶大です。
総じて、Aldiの売上構成は「食品・日用品:約9割、スペシャルバイ等その他:約1割未満」というシンプルなものです。生鮮食品を絞っている分、競合より非食品比率がやや高い面もありますが、それでも通常時は大型家電や衣料品は常備せず、スペシャルバイとして期間限定販売する形で特異な売上構成となっています。
経営方針と戦略
Aldiの経営方針は全世界共通で、一言で言えば「EDLP(常時低価格)戦略の徹底」です。オーストラリアでもこの方針は貫かれ、競合がポイントカードや週替わり特売で価格訴求する中、Aldiは「いつ来ても安い」というブランディングを確立しました。
具体的な戦略要素としては、まず限定的な品揃えによる在庫回転率向上と一括大量調達での原価低減があります。SKU数を絞り込むことでバイイングパワー(交渉力)を高め、仕入価格を下げることに成功しています。次にプライベートブランド中心にすることで中間マージンを省き、高品質でも低価格を維持しています。また、店舗運営コストを抑える工夫も徹底しています。例えば店内陳列は商品が入ったダンボールケースごと棚に置く「ケース陳列」を多用し、陳列作業の手間を削減しています。
レジでもベルトコンベア付き高速レジを導入し、商品バーコードの配置も一つの商品に複数個所設けてスキャンを素早くするなど、店員一人当たり処理件数を最大化しています。
接客サービスは最小限で、基本的にセルフサービス方式です。広告宣伝費も抑えており、テレビCMは少なめで週次の折込チラシとカタログ程度に留めています。店舗デザインも簡素化し、派手な装飾はありません。これらによりAldiは競合より常に15〜20%安い価格を実現し続けています。
M&A戦略について、Aldiは他社買収をほとんど行わず、ゼロから直営店を増やすオーガニック成長が基本です(過去にMastersというホームセンターの空店舗を取得して転用した程度)。出店戦略は堅実で、既存チェーンとの価格競争に打ち勝てると判断したエリアに順次出店を重ねる方針です。そのため都市郊外から始め、2010年代には西オーストラリア州や南オーストラリア州にも進出し、現在はオーストラリア人口の大部分をカバーしました。
価格政策は繰り返しになりますがEDLP一筋で、原則として特売を行いません。買いだめ特売をしない代わりに、「いつ来ても安い」ため普段使いのスーパーとして定着しています。スペシャルバイは例外的な販促策ですが、これも広告費をかけずとも口コミで集客できるユニーク戦略です。全体として、Aldiは「安さ」を最大の武器に、コスト構造全般を他社とは全く異なる次元まで効率化する戦略で成功を収めています。これは競合二社に価格競争を強いることになり、市場全体の価格水準にも影響を与えました。
DX事例
Aldiは基本戦略が「低コスト運営」であるため、DXについても費用対効果を厳格に見極めて最小限の導入に留めています。他社が進める大規模なEC化や派手なデジタル施策とは一線を画し、むしろ「オンラインはやらない」という戦略を取っています。事実、Aldi Australiaは食料品のオンライン販売を行っておらず、店舗への来店を前提にビジネスモデルを構築しています。
2021年に一部地域限定でスペシャルバイ商品のオンライン販売試験を開始しましたが、2022年に「現状では拡大しない」として試験を終了しました。同社スポークスマンは「サプライチェーン逼迫とインフレ下では、オンライン事業より価格維持を優先する」と述べ、当面EC化しない方針を明言しています。このように、Aldiはコスト増に繋がるDXプロジェクトには慎重で、「安値維持に寄与しないものはやらない」という明快な姿勢です。
一方で、内部効率化のための技術導入は進めています。例えば物流センターでは自動仕分けシステムや需要予測ツールを採用し、最小在庫で欠品を防ぐ工夫をしています。店舗でも近年、顧客サービス向上と人件費最適化の観点からセルフレジの導入を開始しました。2020年代前半までAldiは全て有人レジでしたが、コロナ禍で非接触ニーズが高まったこともあり、一部店舗でセルフ決済機を試験的に置き始めています。これは業界標準技術でコストもこなれてきたため、導入メリットが大きいと判断した模様です。
またキャッシュレス決済にも対応しています。Aldiは元々コストのかかるクレジットカード決済を嫌い現金比率が高い傾向でしたが、最近ではデビットカードやタッチ決済(PayWave等)を推奨し、事実上ほぼ全顧客がカードかスマホで支払うようになっています。Aldi公式アプリも提供されていますが、機能は週間情報閲覧や店舗検索に限られ、凝った機能はありません。ロイヤリティプログラムは持たず、顧客データ収集はFlybuysなど他社に比べ限定的ですが、これもコスト削減の一環です。
しかしその分、店舗ではPOSデータを詳細分析することで品揃え最適化を実現しています。例えば売れ筋に注力し不採算品をスパッと削除するのはAldiの得意分野で、データドリブンのMD(マーチャンダイジング)は他社以上とも言われます。以上のように、AldiのDXは「攻めのDXより守りのDX」です。すなわち派手なデジタル顧客サービスは敢えて行わず、その代わり裏側の効率化や必要最低限の技術導入で業務を支えています。その結果、IT投資額は競合より少ないにも関わらず、同社のコストリーダーシップは揺るがず、むしろそれが強みとなっています。Aldiは自らのビジネスモデルに合致しないDXは行わないという点で際立っており、「安さを守るためのDX」という独自路線を貫いています。
トルコ
BİM(ビーム)Birleşik Mağazalar A.Ş.
基本情報
トルコ最大手のハードディスカウントチェーンであり、組織小売市場でトップのシェア(約14.1%)を占めます。2023年の売上高は約104億ドルに達し、同業他社を大きく引き離しています。店舗数は国内で11,203店に上り(2023年末時点)、モロッコやエジプトにも展開して計12,482店を運営しています (Homepage – Bim)。急速な多店舗展開と市場浸透力で、トルコ全国で最も身近な小売企業となっています。
部門構成比
取り扱い商品は食品や日用品など基本的な生活必需品に絞られており、商品数は約900SKU程度です。価格戦略の一環としてプライベートブランド商品を重視しており、品揃えの約80%を自社ブランド品が占めています。生鮮・加工食品が売上の中心ですが、一部簡易な生活雑貨も扱います。輸入加工食品などはほとんど取り扱わず、地元調達の安価な食品が主体です。
経営方針と戦略
「高品質の商品を最良の価格で提供する」ことを基本理念に掲げ、店舗の内装やサービスを簡素化することでコスト削減と低価格を実現するハードディスカウントモデルの先駆者です。品目を絞り込み効率を追求する一方、毎年数百店舗規模の新規出店を続けており、2023年も867店を新規開業する積極出店で約8%の店舗純増を達成しました。海外展開にも意欲的で、モロッコでは687店、エジプトでも356店を構えています。徹底したコスト管理とスケールメリットで競争力を維持しつつ、トルコ国内外で市場シェア拡大を図っています。
DX事例
低価格維持を最優先しているため、顧客向けの派手なデジタル施策は控えめです。一方で、社内では研修のオンライン化など業務効率向上のDXを進めています。
また、新業態「FİLE」ストアを展開し、若干高品質な商品も揃える実験も行っています(2023年に34店開業)。EC(ネット通販)については現在展開しておらず、徹底したリアル店舗主導の戦略でコストメリットを最大化しています。ただし販売データの分析による品揃え最適化など、見えない部分でのデジタル活用は進められているとみられます。
A101 Yeni Mağazacılık A.Ş.(A101ニューストア)
基本情報
2008年創業のハードディスカウントチェーンで、BİMと並ぶ業界大手です。2020年末にはトルコ国内で10,001号店を開店し、BİMを抜いて国内最多店舗数の記録を樹立しました。現在は全国81県すべてに店舗網を持ち、店舗数は1万店を超えています。売上規模では市場シェア約10.5%、売上高約77億ドル(2023年)で業界2位につけています。地方の小規模エリアまで店舗を展開することで、幅広い顧客層にリーチしています。
部門構成比
業態や品揃えはBİMとほぼ共通しており、食料品・日用品が中心です。店舗面積は小型で、生鮮・加工食品や飲料、家庭用消耗品を厳選して取り扱います。輸入品や嗜好品は扱いを抑え、「必要なものを必要なだけ」のディスカウントモデルを貫いています。プライベートブランド商品も多く、低価格帯の商品ラインナップが特徴です。一部週替わりの特価セール品として家電や衣料など非食品を少量販売することもありますが、売上の大部分は食品カテゴリーです。
経営方針と戦略
「安さと近さ」でBİMに対抗する戦略を取り、急速な店舗網拡大による市場占有を進めてきました。創業から10数年で1万店を超える出店攻勢により、2017年には一年間で約700店を新規出店する驚異的な成長も見せました (Three Turkish firms ranked among world’s top 250 retailers – Latest News)。
EDLP(毎日安値)戦略と簡素な店舗オペレーションでコストを削減し、地方の小村から都市部まで隈なく出店することで顧客の生活圏を押さえています。国外展開は行っておらずトルコ国内市場に注力していますが、国内におけるBİMとの競争では店舗数の優位性を活かしてシェア拡大を図っています。また、地域密着型経営の一環で、中小メーカーの商品も積極的に取り入れつつあります。
DX事例
業界の中ではオンライン対応にも取り組んでおり、2020年にモバイルアプリによるデリバリーサービス「A101 Kapıda(ア101・カプダ、家まで)」を開始しました。これによりスマートフォンから食料品の宅配注文が可能になり、1000万ダウンロードを超える利用につながっています。
店頭ではSNSでの特売情報配信やロイヤルティアプリを活用したクーポン配信などデジタル集客にも着手しています。こうしたDX施策により、ディスカウント業態ながらオムニチャネル戦略を部分的に取り入れ始めています。
Migros Ticaret A.Ş.(ミグロス)
基本情報
1954年創業の老舗スーパーマーケットチェーンで、トルコでは総合スーパー業態の代表格です。国内外合わせて約3,300店を展開しており、ハイパーマーケットからコンビニエンスストアまで複数フォーマットの店舗を運営しています。2017年にはエーゲ海地域のチェーンKipaを買収するなど規模を拡大し、近年も年間数百店舗ペースで新規出店を続けています (Three Turkish firms ranked among world’s top 250 retailers – Latest News)。2023年の売上高は約5,232百万ドル(約1,816億トルコリラ)に達し、業界シェア約7.1%でBİM・A101に次ぐ第3位につけています。
部門構成比
マルチフォーマット戦略を採るMigrosは、小型のM-Jet(コンビニ型)から大型の5M(ハイパーマーケット)まで店舗サイズごとに品揃えを変えています。
小型店では食品・日用品が中心ですが、大型店では生鮮食品に加え衣料品や家電・雑貨など非食品も幅広く扱い、ワンストップショッピングが可能です。また高級志向の業態としてグルメ食材店「Macrocenter(マクロセンター)」も展開し、富裕層向けに高付加価値商品を提供しています。全社の売上構成は食品が大半を占めますが、ハイパーマーケット部門では非食品比率も比較的高く、総合スーパーとしてバランスの取れた商品構成です。
経営方針と戦略
品質とサービスを重視し、「顧客のあらゆるニーズに応える」総合小売を目指す方針です。ディスカウント勢に対抗して、小型のM-Jet店で利便性を、高級志向のMacrocenterで差別化を図るなど、細分化戦略で市場全体をカバーしています。
価格戦略としてはロイヤルティプログラム「Migros Money Clubカード」を通じた割引やポイント還元で顧客を囲い込み、週替りの特売セールも実施するハイブリッド戦略です。2017年には前述のKipa買収や193店舗の新規開店で前年より売上を38.7%も急拡大させました。過去には中央アジアへの進出(カザフスタンのRamstore運営など)も行いましたが、近年はそれら子会社を売却し (Too Evrazia acquired Ramstore Kazakhstan LLP from Migros Ticaret …)、国内事業に注力しています。都市部から地方都市まで幅広い地域で店舗網を整備し、幅広い層の顧客に対応することで、市場シェア維持と収益拡大を図っています。
DX事例
Migrosはトルコにおける小売DXの先駆者的存在です。1997年に国内初のオンライン食品販売サイト「Migros Sanal Market(ミグロス仮想市場)」を開設し、現在では全81県でオンライン注文サービスを展開しています ([PDF] Good Future – NET) (m-online – Mimeda: Migros Medya Data)。これは世界的にも早期のオンラインスーパーマーケット事例であり、今日まで同社の重要なチャネルとなっています。
店舗受取りやドライブスルーピックアップサービス(Click & Collect)も早くから導入され、2019年時点で72店舗が対応していました (O omnichannel na prática é o futuro, diz, Peter Estermann em painel na Convenção Abras | Clipping | ABRAS)。また、外部スタートアップの活用にも積極的で、食品宅配アプリ企業「James Delivery」を買収してラストマイル配送に取り組むなど、オンラインとオフラインの融合を推進しています。近年ではAIを用いた需要予測や、データ分析による個別クーポン配信などパーソナライズ施策も強化し、伝統的スーパーからオムニチャネル企業への変革を進めています。
メキシコ
Walmart de México y Centroamérica(ウォルマート・デ・メキシコ・イ・セントロアメリカ)
基本情報
メキシコのスーパーマーケット業界で圧倒的首位を占める企業で、米国ウォルマートの中南米子会社です。メキシコ国内に約3,000店の直営店を持ち(中南米6か国合計では3,903店、2023年末時点)、総売上高は2023年に8,865億メキシコ・ペソ(約49億ドル)に達しました。市場におけるプレゼンスも群を抜いており、全国のセルフサービス店舗売場面積の37.3%が同社グループによって占められています (Walmart, Soriana y Chedraui tienen 55% de supermercados en México)。
展開フォーマットは多彩で、ディスカウント業態の「Bodega Aurrera(ボデガ・アウレラ)」、倉庫型会員卸の「Sam’s Club(サムズクラブ)」、総合スーパーの「Walmart Supercenter」、小型スーパーの「Walmart Express(旧Superama)」と、都市・農村のあらゆる顧客層に対応しています 。国内小売市場で断トツの存在感を持ち、グループ全体で雇用する従業員は約23万人にも上ります。
部門構成比
ウォルマート・メキシコは総合小売業者として、食品から衣料・住居用品まで幅広い商品カテゴリを扱っています。主力は食料品で、生鮮食品、加工食品、飲料が売上の中核をなしますが、大型店では耐久消費財(テレビ・家電)、衣料品、日用雑貨、玩具、アウトドア用品まで豊富に取り揃えています。特にハイパーマーケット業態のWalmart Supercenterでは食品と非食品の構成比はほぼ半々に近く、ワンストップで生活必需品が購入可能です。一方、ディスカウント型のBodega Aurreraでは低価格食品と日用品が中心で非食品は限定的、Sam’s Clubではまとめ買い用の食品と家電・家具なども扱うなど、フォーマットごとに商品構成は異なります。グループ全体としては食料品の売上比率が最大ですが、衣料品(自社ブランド衣料など)や一般消費財も重要な収益源です。また自社金融サービス(送金やクレジットカード)も提供しており、小売周辺事業も展開しています。
経営方針と戦略
“Everyday Low Price”(毎日安値)の戦略を掲げ、恒常的に低価格で商品を提供することでシェア拡大を図っています。地域ごとの消費ニーズに合わせたマルチフォーマット戦略をとっており、低所得者向けのボデガ・アウレラから富裕層向けのスーパーセンターまでブランド使い分けで市場全域をカバーしています。
また、積極的な新規出店と既存店の改装投資により、売場面積と顧客体験の両面で他社との差別化を図っています。メキシコ国内事業に加え、中米の6か国(コスタリカ、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル、ニカラグア、ベリーズ)でも事業を展開し、規模の経済を活かした調達力でコスト競争力を高めています。
オムニチャネル戦略にもグループ挙げて注力しており、「店舗を小規模配送センターに転換する」施策を推進して効率的な配送網を構築しています。また、都市部では小型店の展開で利便性を追求し、農村部でもディスカウント店で市場を開拓するなど、地理的・階層的に隙のない戦略をとっています。
DX事例
ウォルマート・メキシコは積極的なデジタル変革で業界をリードしています。その一環としてオムニチャネルの5つの機能を店舗に導入し、買物体験の向上を図っています。具体的には、オンライン注文の商品を駐車場で受け取れる「Pickupポイント」や、店舗内に設置したEC注文専用カウンターの「eCommerceモジュール」により、ネット購入商品の店頭受け取りがスムーズに行えます。さらに即日配送サービスの拡充やラストマイル(宅配)の最適化にも取り組んでおり、配送網を再設計することで宅配時間の短縮を実現しています。
店内には品揃えを拡張する「デジタルキオスク」を設置し、オンライン専売商品も店舗で注文可能にしています。加えて、セルフレジやスキャン&ゴーといったデジタル決済手段を導入し、レジ待ち時間の短縮と非接触化にも対応しています (Tienda Omnicanal | Walmart México y Centroamérica)。
マーケティング面では、自社のデータを活用した広告プラットフォーム「Walmart Connect」を展開し、メーカー向けに購買データに基づく効果測定可能な広告サービスを提供しています (Walmart: Navegando hacia un Futuro Omnicanal en México)。このように、店舗・EC・テクノロジーを融合させた包括的なDXで、顧客利便性と業務効率の飛躍的向上を実現しています。
Organización Soriana, S.A.B. de C.V.(ソリアナ)
基本情報
メキシコ第2位の総合小売チェーンで、北部コアウイラ州トレオン発祥の企業です。2023年の売上高は前年度比6%増の1,761.20億メキシコ・ペソに達し、業界2位の地位を維持しています。同社はハイパーマーケットからスーパーマーケットまで複数業態の店舗を運営し、2023年末時点で合計805店舗を展開しています。主な店舗ブランドは、大型店の「Soriana Híper(ソリアナ・イペル)」、中型店の「Soriana Mercado」、小型店の「Soriana Express」などで、メキシコ全国に幅広く出店しています。
2015年には競合のComercial Mexicana(一部店舗)を買収し事業規模を拡大するなど、国内市場での勢力拡大を図ってきました。現在では国内セルフサービス市場で約12.7%の店舗面積シェアを持ち、Walmartに次ぐ存在となっています (Walmart, Soriana y Chedraui tienen 55% de supermercados en México)。
部門構成比
総合スーパー業態が中心のため、食品と非食品をバランス良く取り扱うのが特徴です。大型のSoriana Híperでは生鮮・加工食品に加え、衣料品、電化製品、家具、日用品、玩具まで幅広いカテゴリを扱い、ワンストップ型の買い物が可能です。中型のMercado業態や小型のExpress業態では食品・日用品の比率が高くなり、地域の食料品店的な役割を果たしています。売上全体に占める食品の割合は公表されていませんが、業界の性質上食品関連が過半とみられます。一方でSorianaはメキシコ国内企業としては先駆けてプライベートブランドを育成しており、加工食品や日用品、自社衣料ブランドなども展開しています。さらに家電・家具の分割払い販売や、自社運営の会員制倉庫店「City Club」(シティクラブ)も持ち、これら非食品分野も一定の売上規模を有します。
経営方針と戦略
Sorianaは「お客様に最高のサービスと価値を提供する」ことを掲げ、品揃えの充実と価格競争力の強化に努めています。価格戦略としてはポイントカード「Soriana Rewards(ソリアナリワード)」による割引や、週末毎の特売セールなどハイロー戦略を展開し、顧客の囲い込みを図っています。また、国内他社の買収による規模拡大も積極的で、2008年には同業3位だったGiganteの店舗を取得、2015年にはComercial Mexicanaの有力店舗群を買収するなど、市場シェア拡大のためのM&A戦略を取ってきました。その結果、上位シェア争いでは依然Walmartに大差を付けられているものの、地域によってはトップクラスの存在感を示しています。
近年は都市部の小型店や、コストを抑えたディスカウント型業態(MercadoやExpress)の展開にも注力し、消費者の節約志向に対応した営業戦略へシフトしつつあります (Soriana aumentó sus ingresos 6% durante el año pasado)。ECを含むオムニチャネル戦略にも取り組んでおり、競争激化する市場環境の中でサービス強化と効率改善を進めています。
DX事例
Sorianaは2010年代後半から本格的にデジタル戦略を推進しています。まず、2018年頃から自社ECサイトとモバイルアプリの整備を進め、食品の宅配サービスを開始しました。それに伴い、メキシコの消費者がオンライン決済に不安を抱く傾向に対応するため、現金払い(代金引換)やプリペイド式電子カードによる決済を導入し、クレジットカード以外でもネット注文できるよう工夫しています。またスマートフォン向けの公式アプリでは、ロイヤルティポイントの管理やデジタルクーポン配信を行い、顧客エンゲージメントを高めています。
加えて、2020年には自社開発の宅配アプリをリリースし、1年間で100万件以上のダウンロードを獲得する成功を収めました(顧客評価4.8と高評価)。2022年にはギフトカードをデジタル化するプロジェクトも実施し、オンラインで購入・送付できる電子ギフトカードサービスを開始しています (Soriana Revolutionizes its Strategy with Digital Gift Cards)。他にも、AIを活用した在庫最適化やチャットボットによる問い合わせ対応など内部プロセスの効率化にも着手しています。こうしたDXの取組により、店舗体験とオンライン体験の両面で顧客利便性を向上させ、競合ひしめくメキシコ市場で差別化を図っています。
Grupo Comercial Chedraui, S.A.B. de C.V.(チェドラウイ)
基本情報
メキシコ第3位のスーパーマーケットチェーンで、特に国内中部・湾岸地域で強固な地盤を持つ企業です。2023年の総売上高は2,630.58億メキシコ・ペソに達し、前年比+1.43%の増収となりました。現在メキシコ国内で約460店舗を運営しており (Fitch Affirms Chedraui’s National Long Term Rating at ‘AAA(mex)’)、主な業態ブランドは大型店「Chedraui(チェドラウイ)」、中型店「Super Chedraui」、小型店「Supercito」などです。店舗網はメキシコ全土に広がりつつありますが、特に創業の地であるベラクルス州など東部沿岸地域や、人口の多いメキシコシティ・州に集中しています。
さらに国際展開にも積極的で、米国西部においてヒスパニック向けスーパー「El Super(エル・スーパー)」や「Fiesta Mart(フィエスタマート)」を買収・運営してきました。2021年には米国の食品ディスカウントチェーン「Smart & Final(スマート&ファイナル)」も買収し、北米での存在感を高めています。その結果、2023年時点で売上の約53.5%を米国事業が占め、残り46.5%がメキシコ国内事業という構成になっています (Vuela Chedraui con los grandes – El Financiero) (Vuela Chedraui con los grandes – El Financiero)。
部門構成比
メキシコ国内のチェドラウイ店舗はハイパーマーケット業態が中心で、食品から衣料・家電・家庭用品まで幅広い商品を取り扱います。生鮮食品、グロサリー、飲料など食品部門が売上の過半を占めますが、衣料品(自社ブランド衣料やスクールユニフォーム等)や電化製品(テレビ・キッチン家電)、日用品(清掃用品・ペット用品)など非食品も充実しています。店舗によっては薬局コーナーやパン工房を備え、サービス面でも地域の総合スーパーとして機能しています。小型店「Supercito」業態では食品・日用品に特化しており、ディスカウント色を強めた品揃えです。
アメリカの事業では、El SuperとFiesta Martが生鮮・食品スーパー業態、Smart & Finalが会員不要のホールセールクラブ業態で、それぞれ食品を中心に扱っています。したがってグループ全体で見ると食品関連売上が大部分を占めますが、メキシコ国内に限れば非食品売上の比率も同業他社より高い傾向があります(家電の割賦販売などを行っているため)。また、近年プライベートブランド開発にも注力しており、低価格帯の食品・日用品からプレミアム志向の商品まで幅広い自社ブランド商品を投入しています。
経営方針と戦略
Chedrauiは「より良いサービスと価格で地域社会に貢献する」ことを謳い、地域密着経営を重視しています。価格戦略ではウォルマートなど巨大競合に対抗すべく、可能な限りの低価格設定と週次の特売を行っています。また、他社との差別化として地元産品の品揃えや、きめ細やかな店舗サービス(対面販売の精肉・鮮魚や惣菜の充実など)に力を入れています。成長戦略の大きな柱はM&Aと海外展開で、前述のように米国市場で積極的な買収を重ねています。これにより、為替や景気変動のリスクを分散しつつ、グローバルな仕入ネットワークを構築しています。国内ではオーガニックな新規出店も続けており、特に近年は小型店「Supercito」による新規市場開拓を行っています(2023年時点でグループ売上の0.9%が同業態から創出 (Chedraui apunta a acelerar crecimiento con tiendas pequeñas))。
オムニチャネルにも取り組み、店舗受取サービスの導入や配送専用の小型店舗試験など、新しいショッピング体験の提供を目指しています。全体として、機動的な戦略展開と地道なコスト削減努力により、市場での競争力維持と収益拡大を図っています。
DX事例
デジタル変革の面では、他の大手に比べ目立った施策は遅れがちでしたが、近年ようやく本格化してきました。まずEC分野では、自社公式のオンラインショップとモバイルアプリを整備し、店舗在庫を活用したクリック&コレクト(店舗受取)サービスを開始しています。またCOVID-19禍を契機に宅配サービスにも注力し、CornershopやRappiといった外部オンデマンド配送プラットフォームにも自社店舗を掲載することで、幅広いオンライン顧客に対応しています。
店舗運営のDXとしては、POSシステムのアップグレードと統合在庫管理の導入によりリアルタイムの在庫把握と自動発注を進め、欠品削減と在庫最適化を図っています。さらに、買収した米国子会社(特にSmart & Final)は先進的なサプライチェーン管理やデータ分析を活用しており、そのノウハウをメキシコ国内にも取り入れ始めています。マーケティングではデジタルチラシやSNSを活用したプロモーションに力を入れ、若年層へのアプローチも強化しています。今後はAIを活用した需要予測や店舗業務の自動化なども検討されており、伝統的な家族経営企業からデータ駆動型の現代的小売企業への転換を目指したDXが進展しています。
ブラジル
Grupo Carrefour Brasil(カルフール・ブラジル)
基本情報
フランス発祥の大手小売グループ、カルフールのブラジル法人で、ブラジル小売業界全体で売上高トップの企業です。2023年のブラジル国内売上高は1,154億レアルに達し、同年発表の国内小売ランキングで堂々1位となりました 。
グループ全体の店舗数は1,180店に上り、ブラジル全27州(26州+連邦直轄区)すべてに店舗網を持つ唯一の小売チェーンです。主な業態は、ハイパーマーケットの「Carrefour(カルフール)」、キャッシュ&キャリー(業務スーパー)の「Atacadão(アタカダォン)」、スーパーマーケットの「Carrefour Bairro/Market」やコンビニの「Carrefour Express」、会員制倉庫店の「Sam’s Club」(Walmartブラジルから承継)など多岐にわたります。2021年には同業大手Grupo BIG(旧ウォルマート・ブラジル)を買収し、BompreçoやTodo Diaなど多数の店舗を傘下に加えました。その結果、売上規模・店舗数で競合を大きく引き離す国内最大の流通グループとなっています。
ブラジルはカルフールにとって本国フランスに次ぐ世界第2の市場であり (Carrefour lidera varejo no Brasil com R$ 115 bi em faturamento em 2023)、従業員数も13万人超とブラジル経済において重要な地位を占める企業です。
部門構成比
カルフール・ブラジルは総合小売グループとして多様な業態を展開しているため、商品構成も業態ごとに異なります。ハイパーマーケットのCarrefour店舗では食料品約60%、非食料品約40%程度の比率で、生鮮食品・加工食品から衣料品、電化製品、家具、自動車用品まで幅広く扱います。
一方、Atacadão(キャッシュ&キャリー業態)は主に食料品と日用品(清掃用品やパーソナルケア)で構成され、B2B需要にも対応した大容量パッケージの商品が中心です。2024年第3四半期にはカルフール既存店において食品・非食品ともに前年同期比+6~7%台の類似成長を示しており、食品と非食品でバランスの取れた売上構成であることが窺えます (Grupo Carrefour Brasil registra crescimento de vendas no Atacadão e Sam’s Club | SuperVarejo)。
また、グループ全体の売上に占めるAtacadão事業の割合が年々高まっており、2023年はグループ売上の半分以上をAtacadãoが占めました(同事業は売上高約727.9億レアル)。その他、金融サービス部門(Carrefour銀行)やガソリンスタンド事業、ドラッグストア事業も手掛けており、それらは売上の数%規模と推定されます。総じて、食品小売が中心でありつつも、耐久消費財や金融など非食品分野も含めた多角的構成になっています。
経営方針と戦略
カルフール・ブラジルは「すべての人に手の届く高品質な食を提供する」ことをグループミッションに掲げ、価格競争力と品揃えの充実を両立する戦略を取っています。特に近年は、買収したGrupo BIGの店舗の業態転換と統合に注力しています。2024年までに20店舗をAtacadãoへ、8店舗をSam’s Clubへ転換する計画を実行中であり、これにより成長分野であるキャッシュ&キャリー業態と会員卸業態を拡大しています。
また、BIG買収によるシナジー効果として2025年末までに30億レアルのコスト削減・効率化を見込むなど、規模拡大のメリットを最大化する方針です。一方、従来型ハイパーマーケット事業では収益改善のため不採算店舗の整理と価格政策の見直しを進めており、2023年には16店舗の大型店と110店舗以上の小型店(BompreçoやTodo Dia業態)の閉鎖を発表しました。価格戦略ではAtacadãoにおける「絶対的低価格」を堅持しつつ、Carrefourブランド店舗ではプロモーションを強化して競争力を維持しています (No 2º tri, Atacadão volta a brilhar e Carrefour revisa projeções de abertura de lojas e sinergias | Exame INSIGHT)。さらに、デジタルトランスフォーメーションを成長戦略の柱に据え、後述するようにオンライン販売やフィンテック分野で先進的取り組みを行っています。こうした多面的戦略により、ブラジル市場で長期的なリーダーシップを確立することを目指しています。
DX事例
カルフール・ブラジルはデジタル領域でも業界をリードする存在です。同社のハイパーマーケット部門では2024年時点でデジタル経由の売上比率が20.2%に達し、食料品に限ってもEC売上比率が10.2%に上っています。これは、自社ECサイトやモバイルアプリでの注文を積極的に推進し、店舗受取サービス(Click & Collect)や即時配送に注力した成果です。
またキャッシュ&キャリーのAtacadão店舗にもセルフレジを導入し始めており、2023年には約100店舗へのセルフ決済端末設置を進めました (Grupo Carrefour Brasil registra crescimento de vendas no Atacadão e Sam’s Club | SuperVarejo)。顧客向けのロイヤルティアプリ「Meu Carrefour」では個人ごとの購買履歴に基づいたクーポン配信や割引提供を行い、データドリブンなマーケティングを展開しています。さらに、金融サービス面でも独自のデジタル銀行サービスを展開し、クレジットカード「Cartão Carrefour」の会員獲得や、QRコード決済の導入などキャッシュレス推進にも取り組んでいます。
物流分野では高度な在庫管理システムを導入し、新設の自動化配送センターでAIによる需要予測に基づく在庫補充を行うなど効率化を図っています。小売メディア(Retail Media)事業にも参入し、店舗・オンラインの購買データを活用した広告ソリューションをメーカーに提供しています。これらDX施策により、カルフール・ブラジルは伝統的流通業からテクノロジー主導の先進企業へと変貌を遂げつつあり、市場環境の変化に適応した競争力強化を実現しています。
Assaí Atacadista(アサイ・アタカジスタ)
基本情報
現地名「Assaí」はポルトガル語でアサイベリーを意味し、ブラジル第2位の小売グループです。かつてはGPA(後述)の現金問屋部門としてスタートしましたが、2021年にGPAからスピンオフして独立企業となりました。キャッシュ&キャリー(現金問屋)業態に特化しており、小売店や飲食店などプロ顧客と一般消費者の双方を対象にした卸売型スーパーを展開しています。
2023年の年間売上高は665億レアルに達し(前年比+22%) (Despesas financeiras pressionam resultado do Assaí e lucro cai 27%)、カルフールに次ぐ業界2位の規模です。店舗数は2023年末時点で288店舗となっており (Assaí (ASAI3) | Resultado 4T23: Entrega de crescimento e …)、これは1年前から27店舗増加した数字です。店舗網はブラジル全国に広がり、特に都市近郊の幹線道路沿いなどに大型店舗を構えています。2021年にはGPAから買収した大型ハイパーマーケット店舗(Extra Hiperの跡地)約70店の段階的転換を進め、急速に店舗数・売上を伸ばしました。その結果、市場シェアも2020年時点の7.1%からさらに拡大していると推測され、現在ではブラジル小売業界トップクラスの地位を築いています (Distributing a product in Brazil – Distributing a product – Santandertrade.com)。
部門構成比
Assaíは食料品主体の業態です。売上の大部分は食品カテゴリー(穀類、飲料、調味料、加工食品、生鮮、冷凍食品など)が占め、残りを清掃用品やパーソナルケア用品など日用品が占めます。一般的なスーパーマーケットと異なり衣料品や家電といった非食品はほとんど扱いません。店舗は大型倉庫型で陳列もパレット積みが中心となっており、顧客がカートや台車でまとめ買いできるようになっています。販売単位も大包装や箱売りが基本で、小売店仕入や大家族の大口購入に適したフォーマットです。ただ近年では一般消費者の利用増加に伴い、精肉・ベーカリーといったサービス部門も強化しており、店舗内で対面販売カウンターを設けるなど従来の倉庫型卸売店にない付加サービスも提供し始めています (No 2º tri, Atacadão volta a brilhar e Carrefour revisa projeções de abertura de lojas e sinergias | Exame INSIGHT)。それでもなお売上構成は食品・日用品が中心で、特に乾燥食品や飲料・日配品など回転率の高い商品の大量販売が収益の柱です。
経営方針と戦略
「より多く買う人に、より安く売る」ことがAssaíの基本戦略です。ウォルマート傘下だった競合Atacadãoと激しい市場争いを繰り広げており、常に業界最安値級の価格設定で顧客を惹きつけています。経営の重点は出店拡大に置かれており、毎年20~25店舗ペースの新規出店・転換を続けています。特に2021年に取得した旧Extra Hiper店舗の転換は成長を加速させ、2023年時点でその転換店売上がセグメント売上の12%を占めるまでになりました (Grupo Carrefour Brasil registra crescimento de vendas no Atacadão e Sam’s Club | SuperVarejo)。
またB2B顧客の取り込みにも力を入れており、小規模小売業者や飲食業者に対しては専用の卸売価格や大量購入割引を設定してリピーター化を図っています。その結果、業務用販売(B2B)の売上比率が伸び、最近では売上全体の20%超をB2Bが占めるようになっています (No 2º tri, Atacadão volta a brilhar e Carrefour revisa projeções de abertura de lojas e sinergias | Exame INSIGHT)。
コスト面では薄利多売モデルのため、物流効率化と本部経費圧縮に努めています。親会社であったGPAから独立したことで経営判断のスピードが上がり、将来的な海外進出の可能性も模索しているようです。現時点ではブラジル国内市場の開拓に専念し、強力な競争相手であるAtacadãoを追撃すべく攻めの投資を継続しています。
DX事例
Assaíのビジネスモデルは伝統的な現金卸売に基づくため、DXの導入は限定的ですが、一部で新技術の試行が始まっています。例えば、一部店舗ではセルフスキャナーやセルフ支払い端末のテスト導入を行い、大量購入客のレジ待ち時間短縮を図っています。また、B2B顧客向けに専用のオンライン発注システムを提供し、大口注文の場合に事前に在庫取り置きや配達手配ができるサービスも試験中です。モバイルアプリも展開しており、会員登録することで最新のセール情報や在庫状況を確認できるようにしています。店舗オペレーション面では、AIを活用した需要予測システムの導入に着手し、週単位の需要変動に応じて在庫配置を最適化する取り組みを始めています。また、2023年には新規出店候補地の選定にビッグデータ分析を取り入れ、人口動態や競合状況をAIで評価することで出店の成果を最大化する試みも報じられました。さらに、決済手段の多様化として業界では珍しく一部店舗でデジタル決済(電子マネーやQRコード決済)を受け入れるようになり、従来現金主流だった会計処理に変化が生まれています。現時点では他社に比べてDXの進展度合いは控えめですが、今後は効率化とサービス向上のため積極的にデジタル技術を取り入れていく方針と見られます。
Grupo Pão de Açúcar (GPA)(グルーポ・パォン・ヂ・アスーカル)
基本情報
GPAは長年ブラジル小売業界をリードしてきた老舗グループで、フランスのカジノ社が筆頭株主です。近年事業再編が相次ぎ規模は縮小しましたが、依然として国内有数の食品小売事業者です。傘下には高級スーパーマーケットチェーン「Pão de Açúcar(パォン・ヂ・アスーカル)」、ディスカウント系スーパー「Extra(エクストラ)」、コンビニ「Minuto Pão de Açúcar」などのブランドを擁し、2023年時点で南米4か国合計700店舗以上を運営しています (Sobre o Grupo – GPA Institucional)(うちブラジル国内は約600店規模)。
2021年に現金問屋部門のAssaíを分離し、さらに2022年にはハイパーマーケット業態のExtra Hiper約70店舗をAssaíおよびCarrefourに売却したため、現在のブラジル国内事業はスーパーマーケットとコンビニ中心になっています。2023年のブラジル国内売上高は推定180億レアル前後とみられ、シェアでは業界トップ5から外れる規模に縮小しましたが、依然「国内最大級の食品小売グループ」の一角です。近年はコロンビアの子会社Éxito(エキスト、南米他国の事業含む)をGPAからスピンオフする動きもあり、GPA本体はブラジル国内の食品小売に特化した経営体制へ移行しつつあります。
部門構成比
GPAブラジルの収益源は主に食品スーパー事業です。高級スーパーのPão de Açúcarでは生鮮食品・惣菜・ワインなど食品カテゴリが売上の大半を占めますが、高所得顧客向けに高級日用品やキッチン用品を揃える店舗もあります。ディスカウント系のExtra(現在は大型店が無くなり、一部は「Extra Mercado」という中型スーパー業態)は、生鮮・一般食品と生活必需品が中心です。コンビニのMinuto Pão de Açúcarでは飲料・スナックなど即時消費向けが主体となります。2021年まで存在したハイパーマーケットExtra Hiperでは衣料品・家電など非食品も扱っていましたが、同業態から撤退したため、現在の売上構成に占める非食品比率は大幅に低下しました。
グループ全体としては食品・日用品が売上の約9割を占め、非食品分野は高級スーパー内の一部コーナー(衣料・家具など)やドラッグストア事業(Drogaria Extra)程度となっています。また、GPAはガソリンスタンド事業も一部展開していますが、こちらも売上構成比は小さいです。したがって現在のGPAは、ほぼ食品小売専業と言える事業ポートフォリオです。
経営方針と戦略
GPAは長年ブラジル小売業のトップランナーとして成長してきましたが、近年は事業縮小を余儀なくされ戦略転換を進めています。現在の核ブランドであるPão de Açúcarは「高品質・高級志向」を掲げ、富裕層・中間層上位をターゲットにしています。経営方針としてはプレミアム路線の強化が打ち出されており、2023年にはロイヤルティプログラム「Cliente Mais(クライエンチ・マイス)」を刷新して、富裕層顧客基盤を30%拡大する計画を発表しました (Nova estratégia do GPA visa aumentar a base de clientes premium …)。
また店舗体験の向上にも注力し、高級食材の直輸入や店内ベーカリー・カフェ併設といった付加価値サービスで差別化を図っています。一方でコスト削減にも取り組み、不採算店舗の閉鎖や本部経費の大幅削減により、2023年の最終赤字額を前年より72.5%圧縮するなど財務改善を進めています (GPA (PCAR3) diminui em 72,5% seu prejuízo no 4T23; veja o valor)。ディスカウント業態Extraについてはブランド縮小し、従来のExtra Hiper店舗は消滅しましたが、一部を中小型の「Mercado Extra」や「Compre Bem」に転換し中低所得層市場にも細々と対応しています。ECやデジタル戦略も積極的に展開しており、クリック&コレクト対応店舗の拡大やフードデリバリー企業との提携でネット注文への対応力を高めています。新たな収益源として小売データを活用した広告事業(GPA Ads)も開始しました (Case de sucesso de Retail Media: Conheça a ação do GPA! – Midfy)。全体として、GPAは事業ポートフォリオの整理とプレミアム市場への集中によって収益性回復を図りつつ、将来的な成長に向けた新サービスの開発に注力する戦略にシフトしています。
DX事例
GPAはブラジルの小売企業の中でも早くからデジタル施策に取り組んできました。例えばクリック&コレクトサービスは2010年代後半に既に導入しており、2019年時点で72店舗がオンライン注文の商品店頭受け取りに対応していました。さらに2019年にはサンパウロ市内に完全オムニチャネル店舗を開業し、店内での宅配手配や受取ロッカーなどあらゆるデジタルサービスを統合した実験も行いました。
配達面では2018年に買収したラストマイルデリバリ企業「James Delivery」を活用し、即配サービスを強化しています (O omnichannel na prática é o futuro, diz, Peter Estermann em painel na Convenção Abras | Clipping | ABRAS)。この買収により、注文から最短90分程度での配送や、複数店舗の商品をまとめて届けるオンデマンドサービスを展開しました。
また、AIを用いた需要予測・在庫最適化システムを導入し、生鮮食品の廃棄削減や棚欠品防止に成果を上げています。マーケティングでは、会員アプリを通じて購買履歴に基づくパーソナライズクーポンを配信するなど、一人ひとりに合わせた販促を強化しています。さらに、GPAは親会社Casinoグループのテック子会社「relevanC」と連携し、リテールメディア(Retail Media)事業を展開しています (Case de sucesso de Retail Media: Conheça a ação do GPA! – Midfy)。これは店舗とオンラインの購買データを活用してメーカーの商品広告効果を高める仕組みで、データ活用ビジネスとして注目されています。これらDXの取り組みにより、縮小する伝統的店舗ビジネスを補完・強化し、効率性と顧客満足度の向上を両立することに成功しつつあります。
おわりに
以上、各国トップクラスのスーパーマーケット企業の動向を見てきました。それぞれの市場で異なる戦略や強みを持ちながらも、共通して見られるのは低価格追求と品揃え強化、そしてデジタル活用によるサービス向上です。
生活者ニーズの変化や競争環境の激化に対応すべく、各社はオムニチャネル戦略やDXを駆使して新たな価値提供を模索しています。今後もこれら小売大手の取り組みが市場全体を牽引し、より便利で豊かな顧客体験につながっていくでしょう。