スーパーマーケットほど素敵な商売はない

スーパーの女原作者

サミット元社長である荒井伸也氏は安土敏のペンネームを持つ作家でもあります。
安土敏名で映画スーパーの女の原作(小説スーパーマーケット)および制作アドバイザーも務めた方です。

安土敏氏による著作の中に「スーパーマーケットほど素敵な商売はない」という本があります。2009年発売の本ですので、すでに絶版なのですが中古本を入手して読んでみたところ、スーパーマーケット経営者ならではの金言に溢れていました。

最も魅力のないものが、その店の魅力を決める

車の場合に「一つのトータルシステム」として総合力の満足を求めた人が、スーパーマーケットの話となると「他社との差別化としてどんな商品を揃えるか」「とにかく美味しい商品を揃えたい」「高級な商品を揃えたい」「売上は維持しつつ、コストを下げたい」「とにかく安く売れるようにしたい」…とすべての車は高級車か趣味性の車、低価格車でなければならないと言い出す。

スーパーマーケットにとって、商品は重要だが、「店舗というトータルシステム」からみれば一要素にしか過ぎない。エンジンさえ良ければ…という車選択基準をする人は少ないだろうに。

ボトルネック(筆者は樽の例えをしている)は最も弱い要素がシステム全体のスループットを決定する。レクサスにプリウスのドアをつけても、レクサス・プリウス双方の価値以下の代物になる。

・店にある商品(カテゴリ)の中で、もっとも魅力のない商品(カテゴリ)がその店の魅力を決める。

・こだわりの商品をいくら品揃えしても、基本的な商品の中に劣るものがあれば、その商品の意味はない。

・1年中の、または、1日中の最も悪い状態が、その店の評価になる。時期・時刻によって生活者の要求水準は異なるので、要求水準というものさしを持っての評価である。

・品切れは最大の問題である。それが店の限界的基準を示している。

・スーパーマーケットにおいては、「いいものを置こう」と考える前に「悪いものを置かないで、完璧な品揃えをする」という考えが大切である。

・何処かの部門に弱点があってはならない。「うちは肉はセントラルパッケージだから品揃えに限界があるが、其の点は魚や惣菜でカバーできるだろう」などという考え方は通用しない。

店全体の機能が優れば、後は価格水準で劣ることがなければ、以下な競合にも勝つ。「何か優れたことがあるかどうか」より店全体の機能に照らして劣るところのない方が強いのである。

世の中のセミナー・コラム等で「価値ある商品なら消費者は価格で判断しない」というような言説を見聞きすることが多いですが、現地現物で直接生活者と向き合ってきた安土氏の上記の考えが私にはしっくりきます。

所得水準は客単価にほとんど影響しない

出店予測ははずれる。なかでも、特にひどいのがふたつあった。
ひとつは、一日あたり2300人の店があるはずだったのに、実際に店を出してみたら、 1200人しか来店していない。
もうひとつは、出店して半年後に大型店が出た結果、実績予想の35%と永遠に黒字にならないということが、誰にでも分かった。

「どうやら、この会社の出店調査の方法や意思決定方法には大きな問題がある。この点を改善せずに進めば会社は滅亡してしまう」と私は感じた。
いろいろな本を読んでみたがあまり参考にならない。
やむなく私は、自社から教訓を引き出そうとして、既存店の立地を分析することにした。

既存店のうち、1年以上のデータがある7店舗を対象に選び、客数と客単価が地域のどういう要因によって決まっているかを調べて見た。

まず客数である。それまで、サミットの予想数を算出していた算式はきわめて複雑だった。
町丁別の人口に対して、それぞれに予想占拠率を掛け、合計して数を求めていた。 しかし、その占拠率には何も実証的がなかったから、一見細かい計算をしているように見えるが、実際には山勘計算にしかならず、しかも、 町丁別に計算しているから、それぞれの占拠率を適当にいじれば、いかようにも数字を作ることができるのである。
開発部はトップの顔色を見て数字をいじっていた節がある

そこで私は、実証的に実績とチェックできる、もっと単純な計算方法はないものかと考えてみた。
具体的には、すべての店の周辺を1店舗につき数時間ずつかけて歩き回り、商圏のなかを実際に調べてみたのである。その結果、そんな複雑な計算をする必要がないし、むしろ、するべきではないという結論に達した。
問題は「我が店に来店する範囲にどれだけの数が住んでいるか」ということに絞れるのだ。

そして、既存の7店について、ひとつひとつ、その点をチェックしてみると、大ざっぱに言っ て、商圏内に5000世帯の人口があれば、店を採算に乗せるに足る客数が得られることが分かった。

客単価も既存店の実績から傾向を出してみた。
棒グラフを作り、単価の高い店から順に並べてみる。次に、そのグラフは、単価に関係すると思われる要因をできるだけ書き入れてみる。たとえば、所得水準の高低、売り場面積の大小、駐車場の有無、買い回りできる競合店の強弱等々。

結果として、客単価に最も影響を与える要因は、第一に買い周りの出来る競合店の有無・強弱、第二に駐車場の有無であった。それに対して、所得の高低は、客単価にほとんど影響していない

最後のことは驚きであった。それまでは住友商事社内でも、サミット社内でも客単価は所得に比例すると考えられており、それを根拠として高額所得者の多い世田谷・杉並を中心に出店したからである。

「理論の姿をした迷信や常識」に惑わされない
既存店を分析して様々な実証データを取ってみることが決め手になる。
こういった努力の結果が、そのとおりに成果に結びつくのが不特定多数を相手にする小売業のありがたい特性である。

私が特に響いたのは、このあたりです。ご興味のある方は中古本を探されて目を通されることをお勧めします。

あまりに良著だったので、20うん年ぶりにスーパーの女も見直しました。古い映画はPrimeVideo等サブスクに載っていないのですよね。

お読みいただき、ありがとうございました。
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