アメリカのドラッグストアDX|TOP3のデジタル戦略と会員制度

目次

アメリカドラッグストア業界の最新動向と戦略転換

アメリカのドラッグストア市場は今、大きな変革期を迎えています。単なる「薬を売る店」から「地域医療の拠点」へと進化を遂げようとしているのです。本記事では、米国トップ3のドラッグストアチェーン(CVS Health、Walgreens Boots Alliance、Rite Aid)のビジネスモデル、デジタル戦略、会員制度について詳しく解説します。日本の小売業・薬局チェーンが参考にすべき先進的な取り組みをご紹介します。

アメリカドラッグストア業界の特徴と日本との違い

アメリカのドラッグストアは日本とは異なる独自の発展を遂げてきました。最大の特徴は「処方薬の存在感」です。売上の約70〜75%を処方箋調剤が占め、OTC医薬品やコスメティック、日用品などのフロント売上は全体の25〜30%にとどまります。この構造は日本の調剤薬局やドラッグストアとは大きく異なります。

また、アメリカのドラッグストアでは「PBM事業」(薬剤給付管理)を展開していることも特徴的です。PBMとは保険会社や企業から委託を受け、処方薬の費用管理、薬価交渉、処方箋管理などを一括して行うサービスです。大手ドラッグストアチェーンはこのPBM事業を強化することで、医療費削減と業績向上の両立を図っています。

CVS Health:統合ヘルスケアへの変革

企業基本情報と市場ポジション

CVS Healthは米国最大のドラッグストアチェーン「CVS Pharmacy」を運営する企業です。全米約9,900店舗を展開し、2022年の売上高は3,224億ドルに達しました。医療保険大手のAetnaを買収するなど、単なるドラッグストアから「統合ヘルスケア企業」への転換を進めています。

近年の営業利益率は約5%前後を維持していますが、店舗減損やオピオイド訴訟関連費用などの特別要因により、2022年は2.4%に低下しました。既存店売上高は2020年から堅調に成長し、2022年は前年比+9%と好調を維持しています。特に処方薬売上が+9.5%と牽引役となっています。

カテゴリー構成と商品戦略

CVSの売上構成は、処方薬が約75%と圧倒的なウェイトを占めています。残りの25%をOTC医薬品、ヘルスケア製品、化粧品、日用雑貨などが構成しています。特にCOVID-19の影響で検査キットやビタミン剤など健康関連製品の需要が高まりました。また美容・パーソナルケアカテゴリーも2021年には二桁成長を記録するなど好調です。

ヘルスケアソリューション企業への転換戦略

CVSの最大の戦略的特徴は「消費者中心の統合ヘルスソリューション企業へ急速に変革している」点にあります。具体的には以下のような施策を展開しています。

地域医療拠点としての機能強化

CVSは店舗に併設する「MinuteClinic」での簡易診療やワクチン接種サービスを拡充し、地域住民の身近な医療拠点としての機能を強化しています。COVID-19パンデミック下ではこの特徴が大きな強みとなり、多くの顧客に医療サービスを提供しました。

また、一部店舗を「ヘルスHUB」として強化し、健康相談や検査ができる医療特化型店舗に転換する取り組みも進めています。保険会社Aetnaとの統合により、医療保険と実際のケア提供を一体化したビジネスモデルを構築しつつあります。

デジタルファースト戦略の推進

CVSはデジタル技術の活用による利便性向上と業務効率化を重視しています。Microsoftとの戦略提携によるクラウド基盤強化やAIの活用を推進し、顧客へのパーソナライズされた提案を強化しています。また、HololensやAIを活用した従業員訓練・遠隔支援など新技術の導入も進めています。

こうしたデジタル変革により、店舗在庫管理の効率化や顧客のケア体験向上(例:ワクチン予約のオンライン簡素化)を実現しました。COVID-19ワクチン予約では、デジタルツールによる円滑な予約・接種管理を実現し、何百万件もの接種を支える基盤となりました。

オムニチャネルと宅配強化

CVSは店舗とデジタルの融合にも注力しています。処方薬の宅配やドライブスルー受け取りは全米で展開しており、処方の自動リフィルや配達をアプリ経由で管理できる体制を整備しています。また、一般商品の当日宅配サービスをDoorDashなどと提携して導入し、パンデミック下でも30分店頭ピックアップや即時デリバリーが可能なサービスを提供しています。

こうしたオムニチャネル戦略により、顧客が「店頭・アプリ・宅配」の好きな方法で買い物や処方取得をできる環境を整え、顧客体験とロイヤルティの向上につなげています。

アプリと会員制度の活用戦略

CVSモバイルアプリの機能と位置づけ

CVSはモバイルアプリをデジタル戦略の中核と位置付け、処方管理から買い物まで一元化しています。アプリでは処方箋のスキャン受付、リフィル注文、処方ステータス確認、ドライブスルー受取予約などが可能です。また店舗在庫検索やクーポン読み取り、支払い・ポイント管理機能も備えています。

2021年にはアプリ体験を刷新し、購入後すぐにリワードを確認・利用できる機能や、毎週無料クーポンが届く「Free Gift」キャンペーンを実施しました。COVID-19下ではワクチン接種予約をアプリ/サイトで簡便化し、円滑な大量接種に貢献しました。このようにCVSアプリはヘルスケアと買い物のスーパーアプリ的存在となっており、利用者数が大幅に増加しています。

ExtraCare会員プログラムの特徴

CVSのExtraCareは2001年に開始された米国ドラッグストア最大級のロイヤルティプログラムで、会員数は7,400万人に達しています。購入金額の2%相当を「ExtraBucks(エクストラバックス)」として還元するのが特徴で、長らく四半期ごとにまとめて付与していましたが、2021年7月からは即時付与に変更されました。

これにより会計後すぐにリワードを受け取り、次回購入時に利用できるようになり、利便性が向上しています。「誕生月に$3相当のExtraBucksをプレゼント」という新特典も追加され、パーソナライズクーポン配信も強化されました。ExtraCareは紙のクーポン券で知られていましたが、近年はアプリ連携によりデジタルクーポン/ポイント管理が可能になっています。

また上位プログラムとして「CarePass」(月額$5で配達無料やヘルスサービス割引を享受)も展開し、サブスクリプション型特典による囲い込みも図っています。

Walgreens:店舗変革とデジタル革命の推進

企業基本情報と市場ポジション

Walgreens Boots Alliance(WBA)は米国2位のドラッグストアチェーン「Walgreens」を傘下に持つ持株会社です。米国内にWalgreensおよびDuane Reade約8,900店、欧州にBoots約4,000店を展開しています。2022年度の売上高は約1,327億ドルで、米国内ドラッグストア事業は全社売上の約8割を占める主力部門です。

営業利益率は2022年度で約1.1%と低水準ですが、調整後ベースでは約3〜4%の利益水準を確保しています。既存店売上高は2021年度に前年比+10%以上と大きく伸びました。2022年度はその反動もあり伸び率は鈍化しましたが、それでも全米既存店売上は前年比+2%前後を維持しています。

カテゴリー構成と商品戦略

Walgreensの米国店舗では売上全体の約72〜75%を処方薬関連が占めています。2022年度も米国内で9億件近い処方を扱い、市場シェア約20%を保持しました。OTC医薬品やビタミン類、衛生用品などの健康関連商品の売上構成比は約10%で、2022年はインフルエンザ流行再開に伴いOTC売上が伸長しました。

美容・パーソナルケア分野にも注力しており、No7やSoap & Gloryといった自社グループブランドも展開しています。2021年度は美容カテゴリーの既存店売上が+16.6%と大きく伸びました。その他、菓子・飲料・雑誌・季節用品・生活雑貨・写真サービスなどを販売しています。

ヘルスケア領域へのシフト戦略

医療サービス事業への本格参入

Walgreensはドラッグストアの枠を超え「地域医療ハブ」への転換を図っています。2021年、調剤薬局を中心にプライマリケア(初期診療)や在宅ケア事業への本格参入を宣言し、医療ベンチャーへの大型投資を実施しました。

具体的には米国のクリニック運営企業VillageMD社に出資し、店内にプライマリケア診療所を併設する試みを拡大しています。2022年度までに全米200店超のWalgreens店内に「Village Medical」クリニックを開設し、患者が処方薬受取と診療を一箇所で完結できる体制を整備しています。また在宅看護のCareCentrix社、特殊医薬品のShields Health社にも出資し、医療サービス分野での統合を進めています。

デジタル活用と業務効率化

Walgreensは大規模チェーンの強みを活かし、テクノロジーによる効率革命を推進しています。処方薬の調剤業務については、ロボット化された集約調剤センター(Micro-Fulfillment Center)を導入し始めており、2022年度までに全米22拠点で集中調剤を行っています。これにより各店舗薬剤師は調剤作業負担が減り、患者ケアに注力できる体制を整えています。

またAI・データ分析にも注力しており、Azureクラウドやデータ解析ツール(Tableauなど)を駆使してサプライチェーンを最適化し、在庫圧縮や品切れ防止を実現しました。加えて電子カルテ連携の強化や遠隔医療プラットフォーム構築にも着手し、医療提供者と患者をデジタルで繋ぐ次世代ヘルスケア基盤を目指しています。

オムニチャネル戦略の展開

Walgreensは「myWalgreensアプリ」を軸としたシームレスな購買体験にも注力しています。2020年末に最速30分店頭受取サービスを打ち出し、アプリから注文すればドライブスルーや店頭で即受け取れる体制を整えました。また宅配では自社配送に加えDoorDashやUberと提携し即時配達を拡充、2022年には2時間以内宅配も開始しました。

アプリでは処方ステータス確認やリフィル依頼、ドクターとのオンライン相談(提携先による遠隔診療)も可能で、店舗-オンライン-ヘルスケアが連動したエコシステムを構築しています。さらに金融サービスにも踏み出し、2021年にはデビットカードやプリペイドカード「Walgreens Mastercard」発行とデジタルバンク口座提供を発表するなど、新たな収益源開拓も図っています。

アプリと会員制度の活用戦略

myWalgreensアプリの機能と特徴

Walgreensは2020年11月にモバイルアプリを全面刷新し、「myWalgreens」として提供しています。このアプリはオンラインショッピングから処方薬管理、ヘルスケアサービス予約、会員ポイント管理まで統合したプラットフォームです。

ユーザーはアプリで商品の注文決済を行い、30分以内の店舗ピックアップ(店内・カーブサイド・ドライブスルー)を指定できます。また処方箋のスキャン受付や服薬リマインダー、ワクチン予約もアプリで完結可能です。健康管理機能として歩数計連携によるウォーキング目標達成でボーナスポイント獲得といったウェルネス機能も搭載しています。

2020年のリニューアル後、アプリ利用者数は急増し、デジタル経由売上も前年比+116%(2021Q1)と飛躍的に成長しました。

myWalgreens会員制度の革新

myWalgreensは2020年11月にスタートした新ロイヤルティプログラムで、従来の「Balance Rewards」を全面的に置き換えました。会員数は開始直後で1億人超と米国最大級規模です。特徴はWalgreens Cashというデジタルポイントによる還元で、購入金額の1%相当(自社ブランド商品は5%)を即時付与します。

貯まったWalgreens Cashは次回以降の支払いに1ポイント=$1として充当可能で、紙クーポンではなくアプリやオンラインでの管理を基本としています。さらに「Only For You」パーソナルクーポン(購入履歴に基づく会員限定割引)や「myW Days」セール(会員向け特売イベント)など、個々の嗜好に合わせた特典提供を強化しています。

また宅配サービス利用時にもポイント加算され、処方薬受取でもボーナスポイントが付与されるなど、ヘルスケア行動を促進するインセンティブも組み込まれています。シニア会員向けには毎月第一水曜にポイント5倍(5%還元)の特典日を設定し、高齢顧客の囲い込みも図っています。

myWalgreens導入後、会員の買い物頻度・デジタル利用率が向上し、同社はロイヤルティデータを活用したリテールメディア事業(Walgreens Advertising Group)も開始するなど、会員基盤を新たな収益源にもつなげています。

Rite Aid:再建に向けた差別化戦略

企業基本情報と市場ポジション

Rite Aid(ライトエイド)は米国第3位のドラッグストアチェーンで、2023年現在は15州に約2,250店舗を展開しています。規模ではCVSやWalgreensに次ぐものの、2018年に約2,000店をWalgreensに売却して以降チェーンは縮小し、現在は東海岸と西海岸を中心に中規模展開となっています。

売上高は2022年度に245.7億ドルと増収を維持していましたが、収益性の低さから最終損益は連続赤字となっており、2023年10月には連邦倒産法11章の適用を申請し、財務再建中です。営業利益率は2022年度で▲1.4%と営業赤字に転落しており、大手2社と比べて収益力に大きな差があります。

カテゴリー構成と商品戦略

Rite Aid全体では調剤(処方薬)売上が約70%を占める調剤偏重型の売上構成です。各店舗に平均1〜2名の薬剤師を配置し、処方箋調剤のほか予防接種や投薬管理相談など薬局サービスに注力しています。

OTC薬、ビタミン・サプリ、医療雑貨など健康関連商品の売上比率は1割強です。Rite Aidは「Whole Health(心身の健康)」を掲げ、処方薬と補完的な健康商品を組み合わせて提案する戦略を展開しています。化粧品・スキンケアやヘアケア製品は売上構成比で約5%程度で、日用品や食品の売上比率は15%弱と推定されます。

差別化戦略と再生への取り組み

RxEvolution戦略の展開

Rite Aidは2020年に発表した「RxEvolution(RXエボリューション)」戦略のもと、企業の再生に取り組んできました。この戦略は「地域のトータルヘルス拠点への変革」を掲げ、薬剤師を健康アドバイザーとして位置付け直すものです。

具体的には薬剤師の役割拡大(処方調剤だけでなく、予防接種・栄養相談・慢性疾患管理など)、店舗改革(「Stores of the Future」と呼ぶ新コンセプト店舗の導入)、PBM事業との連携強化などを通じて、「調剤×臨床サービス×ウェルネス商品のハイブリッド薬局」への転換を目指しました。

実際に店舗では処方カウンターをオープンなカフェ風に改装し、自然志向サプリやエッセンシャルオイル等のホリスティック商品を拡充、相談カウンターを設置するなどの施策が取られました。RXEvolutionにより一部指標(調剤件数やPBM契約)は向上しましたが、十分な業績回復には至らず、2023年には経営破綻に至っています。

「全人的な健康」志向による差別化

Rite Aidは競合との差別化として「ホリスティックな健康志向」を打ち出しています。処方薬に加え、漢方レメディやハーブサプリなども含めた「代替医療」の領域に踏み込み、顧客の心身のケアをトータルで支援する狙いです。

例えば一部店舗ではヨガマットやアロマオイルなどウェルネス雑貨の専用コーナーを設け、薬剤師が睡眠改善やストレス緩和のアドバイスも行う試みをしています。また店内にプライバシー確保したバーチャルケアブース(遠隔診療ブース)を設置し、患者が医師とオンライン診療を受けられるサービスも開始しました。

ただし、医療提供施設である薬局が「代替医療」に注力することには矛盾も指摘されています。薬局の役割は科学的根拠(エビデンス)に基づいた治療法を提供することにあり、十分な科学的根拠がない「代替医療」を積極的に扱うことは、本来の医療の信頼性を損なうリスクもあります。

店舗ネットワーク再編と効率化

長年低収益に苦しむRite Aidは、生き残りに向けて不採算部門のリストラを断行しています。2018年には大型合併(Albertsonsとの統合)失敗後に店舗売却を決断し、全店舗の40%近くをWalgreensに売却しました。さらに近年は毎年数十店舗規模で閉鎖を進め、2023年の倒産申請後は全体の20%以上に当たる500店舗超の閉鎖も視野に入れています。

店舗種類では、大型店よりも処方箋需要の高い小〜中型店に注力し、都市部ではデリバリー特化店舗も検討しています。また本部費用削減や在庫効率化(自動発注システム導入)にも取り組み、PBM事業との統合でスケールメリットを追求しています。これらの構造改革で年間2億ドル超のコスト削減を目標としており、身の丈に合った経営規模への縮小と効率化で財務基盤強化を急いでいます。

アプリと会員制度の活用戦略

Rite Aidアプリの機能と特徴

Rite Aid公式アプリは処方箋管理や買い物機能を備えています。処方リフィル依頼や処方ステータス通知、リマインダー設定が可能で、ファミリー機能により家族の処方も一括管理できるのが特徴です。

買い物面では近隣店舗の在庫検索やバーコードスキャンでの商品情報確認、クーポンのクリップ機能を提供しています。宅配・店頭受取サービスにも対応しており、アプリからデリバリーやカーブサイドピックアップを注文可能です。会員プログラム「Rite Aid Rewards」とも連携し、ポイント残高や獲得状況、”BonusCash”残高をリアルタイムで確認できます。

2022年に進めたデジタル刷新によりアプリは会員証としての機能も強化され、店舗でのスキャン提示だけでポイント蓄積・利用ができるようになりました。小規模チェーンゆえ大手ほど多機能ではありませんが、処方薬のかかりつけ薬局アプリとして一定の支持を得ています。

Rite Aid Rewards会員プログラムの刷新

Rite Aidは2022年3月に新しいロイヤルティプログラム「Rite Aid Rewards」を開始しました。従来の「wellness+」から大幅に刷新されたポイント制プログラムで、買い物$1ごとに10ポイントが付与されます。貯まったポイントは1,000ポイント=$2の「BonusCash」に交換でき、店頭会計時に利用可能です。

特徴はデジタルファーストである点で、会員はオンラインのマイアカウントやアプリ上でポイント管理・BonusCash交換を行います。紙のレシートクーポンは減らし、パーソナライズされた「ショッピングチャレンジ」(特定商品を一定額購入すればボーナスポイント)などデジタルクーポン施策を充実させました。

「シンプルで貯めやすいプログラムにしてほしい」という顧客の声に応えたもので、従来の階級制(ゴールド会員など年間購買額に応じた割引特典)は廃止し、すべての会員が等しくポイントを貯められる方式に改めました。もっとも人気のあった会員限定割引価格やシニア向け特典(毎月第一水曜5倍ポイント)は維持されており、基本的なサービスは引き継がれています。

アメリカドラッグストア業界から学ぶDX戦略のポイント

小売業態を超えたヘルスケアエコシステムの構築

アメリカのドラッグストアは今、従来の「商品販売」の枠を超え、「ヘルスケアサービス」を中心とした新たな価値提供へと大きく舵を切っています。単に処方薬を販売するだけでなく、予防接種や健康相談、簡易診療、遠隔医療など、幅広い医療サービスを取り込むことで、地域住民の健康を包括的に支える「ヘルスケアハブ」へと進化しようとしています。

この動きは日本の薬局・ドラッグストア業界にも示唆に富んでいます。高齢化が進む日本でも、地域包括ケアシステムの中で薬局・ドラッグストアが担う役割は今後ますます重要になるでしょう。処方箋調剤だけでなく、服薬指導、健康相談、フレイル予防など、幅広いヘルスケアサービスを提供できる「かかりつけ薬局」への変革が求められています。

デジタル技術を活用した顧客体験の革新

アメリカのドラッグストア各社は、モバイルアプリを中心としたデジタル戦略に積極的に投資しています。処方箋管理、オンライン予約、宅配サービス、ポイント管理など、様々な機能をアプリに統合し、顧客の利便性を高めています。特にCVSやWalgreensのアプリは「ヘルスケアスーパーアプリ」とも呼べる包括的な機能を備え、顧客の健康管理から買い物までをシームレスにサポートしています。

日本の薬局・ドラッグストアも、単なるポイントカードやクーポン提供だけでなく、顧客の健康管理をサポートするデジタルプラットフォームへと進化することが望まれます。お薬手帳のデジタル化、健康相談のオンライン化、服薬アドヒアランス向上のためのリマインド機能など、テクノロジーを活用した新たな価値提供が競争力の鍵となるでしょう。

オムニチャネル戦略とラストワンマイルの最適化

アメリカのドラッグストア各社は、店舗・オンライン・宅配を組み合わせたオムニチャネル戦略を強化しています。特に注目すべきは、30分以内の店頭ピックアップや2時間以内の宅配など、「スピード」を競争力とした新たなサービス展開です。パンデミックを契機に消費者の購買行動が大きく変化し、ドラッグストアもこの変化に対応した柔軟なサービス提供モデルへと転換しています。

日本の薬局・ドラッグストア業界でも、処方箋のオンライン受付、調剤薬の配送サービス、OTC医薬品のEC販売など、デジタルとリアルを融合させたサービス展開が今後さらに重要になるでしょう。特に高齢者や移動制約のある顧客に対する医薬品のアクセシビリティ向上は、社会的にも重要な課題です。

データ活用による個別化と効率化の両立

アメリカのドラッグストア各社は、膨大な会員データとAI技術を活用した個別化戦略も推進しています。購買履歴や健康データに基づいたパーソナライズドオファー、健康状態に合わせた情報提供など、一人ひとりの顧客に最適化されたサービス提供を目指しています。

同時に、データ分析によるサプライチェーンの最適化や自動発注システムの導入、ロボット化された集約調剤センターの構築など、バックエンド業務の効率化も積極的に進めています。これにより、人手不足の解消や薬剤師の対人業務への集中など、サービス品質と運営効率の両立を図っています。

日本においても、単なるコスト削減だけでなく、顧客体験の向上と業務効率化の両立を目指したデジタル投資が求められるでしょう。特に薬剤師の業務効率化は、対人サービスの充実につながる重要な課題です。

日本の小売・薬局業界への示唆

医療・健康分野への積極的な領域拡大

アメリカのドラッグストア各社の取り組みから学べる最大の示唆は、「医療・健康分野への積極的な領域拡大」です。特にCVSやWalgreensによるプライマリケアクリニックの併設や予防接種サービスの拡充は、ドラッグストアが「地域医療の一翼を担う」という新たな役割を示しています。

日本においても2016年の「かかりつけ薬剤師・薬局」制度導入以降、薬局の役割拡大が議論されていますが、アメリカの事例は一歩先を行く形となっています。日本の薬局・ドラッグストアも、調剤業務だけでなく、健康相談、セルフメディケーション支援、栄養指導など、幅広いヘルスケアサービスを提供する「健康ステーション」へと進化することが期待されます。

会員制度のデジタル転換とパーソナライゼーション

アメリカのドラッグストア各社はいずれも、従来型のポイントカードから「デジタルファースト」の会員プログラムへの転換を図っています。紙のクーポンからアプリベースの即時特典へ、一律の割引から個別化されたオファーへ、という変化が顕著です。

日本の小売業・薬局チェーンも、会員制度のデジタル化とパーソナライゼーションを一層推進することで、顧客ロイヤルティの向上と収益性改善が期待できます。特に購買データと健康データを組み合わせた新たな価値提供は、ドラッグストア特有の強みとなり得るでしょう。

薬剤師の役割転換とテクノロジー活用

アメリカのドラッグストアでは、薬剤師の役割を「調剤作業者」から「健康アドバイザー」へと転換する動きが進んでいます。調剤業務の効率化・自動化を進める一方で、薬剤師がより対人サービスに注力できる環境づくりが進められています。

日本においても、テクノロジーを活用した調剤業務の効率化と薬剤師の専門性発揮の両立が課題となっています。調剤支援システムの導入や一部業務の集約化・自動化などにより、薬剤師がより付加価値の高い患者ケアや健康支援に時間を割けるようになれば、薬局・ドラッグストアの差別化にもつながるでしょう。

まとめ:共存共栄の未来へ向けて

アメリカのドラッグストア業界は今、大きな転換期を迎えています。CVSやWalgreensのような大手チェーンは規模の強みを活かした統合ヘルスケアモデルへの進化を遂げる一方、Rite Aidのような中堅チェーンは差別化戦略による生き残りを模索しています。いずれも共通しているのは、「商品販売」から「ヘルスケアサービス」へと軸足を移しつつある点です。

日本より早くリフィル処方・メールオーダー・電子処方箋が普及したアメリカでは、2025年現在医療と調剤のオンライン比率が上がってきており、実店舗の絞り込みやデジタルチャネルの強化といった課題に取り組んでいます。

日本の薬局・ドラッグストア業界も、単なる「モノ売り」から脱却し、地域住民の健康を総合的に支援する「ヘルスケアプラットフォーム」としての価値を高めていくことが求められています。デジタル技術の活用はそのための重要な手段であり、顧客体験の向上と業務効率化の両方を実現するための戦略的投資が必要です。

アメリカの事例から学ぶべきは、「競争」だけでなく「共存共栄」の視点です。特に医療機関や保険者との連携、地域医療システムの中での役割発揮など、幅広いステークホルダーとの協力関係構築が重要となるでしょう。デジタル技術による医療・健康支援の可能性を追求しながらも、対面での人的サービスという薬局・ドラッグストアの本質的価値を見失わない、バランスの取れた変革が望まれます。

参考情報・出典

  • CVS Health – CVS HEALTH REPORTS STRONG FOURTH QUARTER AND FULL-YEAR 2021 RESULTS, CONFIRMS 2022 FULL-YEAR EPS GUIDANCE
  • CVS Health and Microsoft announce new strategic alliance to reimagine personalized care and accelerate digital transformation – Stories
  • CVS Pharmacy Announces Major Update to ExtraCare Rewards Program, Delivering Simpler, Faster and Recurring Rewards
  • Walgreens Boots Alliance Reports Fiscal Year 2022 Earnings | Walgreens Boots Alliance
  • Walgreens: number of retail stores worldwide 2024, by country
  • How Walgreens is growing beauty sales beyond the coronavirus
  • Walgreens tempers financials for the rest of 2023 – Supermarket News
  • WBA (Walgreens Boots Alliance) Digital Transformation Strategies Report 2023
  • Walgreens Reinvents Nation’s Largest Health and Wellbeing-centered Loyalty Program with myWalgreens to Offer Customers Many More Benefits
  • Walgreens Expands Financial Services Business Strategy
  • Walgreens to launch digital bank accounts this year – Banking Dive
  • Walgreens Announces myW Days, an Exclusive Event Offering
  • Rite Aid Revenue 2014-2023
  • Rite Aid Launches New Look With New Products, Health Services
  • Rite Aid reimagines role of pharmacists with new branding ‘Rx Evolution’
  • Rite Aid Unveils Rite Aid Rewards – A New Loyalty Program That Reaches More Customers and Provides Additional Ways to Save on Products to Support Their Whole Health | Business Wire

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