米国ドラッグストア売上ランキングTOP3|CVS統合・Walgreens非公開化・Rite Aid閉鎖

アメリカのドラッグストア業界は、かつて日本のドラッグストアが目指すべき先進モデルとされていた。

しかし2025年時点で、その評価は大きく変わった。

米国第1位のCVS Healthは、薬局・PBM・保険・診療を束ねる統合ヘルスケア企業へ進化した。

米国第2位のWalgreens Boots Allianceは、2025年8月にプライベートエクイティのSycamore Partnersによる買収が完了し、上場企業としての歴史を終えた。

米国第3位だったRite Aidは、2025年5月に2度目の破産申請を行い、同年10月までに全店舗を閉鎖した。

結論から言えば、アメリカのドラッグストア不振の本質は「DX不足」ではない。

本質は、処方薬事業のPBM償還問題、オピオイド訴訟、インフレによる物販離れ、ECと専門店への顧客流出が同時に起きたことである。

DXは必要条件である。しかし、事業構造そのものが崩れている場合、DXだけでは企業を救えない。

目次

記事の要点|米国ドラッグストア売上TOP3はこの3社

2025年時点の米国ドラッグストア業界における売上規模で見たTOP3は、次の通りです。

  1. CVS Health — 2025年通期売上4,021億ドル。薬局・PBM・保険・診療を統合した米国最大級のヘルスケア企業。
  2. Walgreens Boots Alliance — 2025年8月にSycamore Partnersが買収完了し非公開化。米国50州に約8,000店舗。
  3. Rite Aid — 2025年5月に2度目のChapter 11を申請、同年10月に全店閉鎖。歴史的3位の位置づけ。

順位の根拠は売上規模および店舗数です。CVS Healthが圧倒的首位、Walgreens Boots Allianceが第2位、かつて第3位だったRite Aidは2025年に事業継続を断念しました。詳細は本文で各社の戦略と斜陽の構造的要因を解説します。

アメリカドラッグストア業界の最新動向

2025年のアメリカドラッグストア業界は、明確に3つの方向へ分かれた。

順位企業2025年時点の状況主な戦略評価
1CVS Health売上高4,021億ドル薬局・PBM・保険・診療の垂直統合最も生き残りに近い
2Walgreens Boots AllianceSycamore Partnersが買収し非公開化薬局回帰、店舗整理、ヘルスケア事業の分離再建局面
3(撤退)Rite Aid2度目の破産申請後、全店閉鎖資産売却、処方箋ファイル売却事業継続を断念

CVS Healthの2025年通期売上高は4,021億ドルで、過去最高となった。

同社は2025年末時点で約9,000の小売薬局、1,000超のウォークイン・プライマリケア診療拠点、約8,700万人のPBM加入者を持つ。

一方、Walgreensは2025年8月28日にSycamore Partnersによる買収が完了した。

買収完了後、Walgreens、The Boots Group、Shields Health Solutions、CareCentrix、VillageMDは、それぞれ独立会社として運営されることになった。

Rite Aidは2025年5月5日に2度目のChapter 11を申請した。

申請時点では約1,250店舗を運営していたが、同年10月までに全店舗を閉鎖した。

アメリカドラッグストア業界の特徴と日本との違い

アメリカのドラッグストアを理解するには、日本のドラッグストアと同じ業態として見ないことが重要である。

最大の違いは、売上の中心が処方薬である点である。

CVSやWalgreensの店舗売上は、概ね70〜75%を処方箋調剤が占める。

残りの25〜30%がOTC医薬品、化粧品、日用品、食品、季節商品、写真サービスなどの物販である。

日本のドラッグストアは、食品、日用品、化粧品、OTC医薬品で来店頻度を作り、調剤を併設する形が多い。

一方、アメリカの大手ドラッグストアは、処方薬が収益の中心であり、物販は来店頻度とついで買いを補完する役割だった。

この前提が崩れた。

処方薬はPBMによる償還圧力で利益が出にくくなった。

物販はWalmart、Target、Amazon、Aldi、Dollar General、Sephora、Ulta Beautyに奪われた。

つまり、アメリカのドラッグストアは「本業の調剤」と「補完事業の物販」の両方で圧力を受けたのである。

PBMとは何か|アメリカ薬局不振の最大要因

アメリカのドラッグストア不振を理解するうえで、PBMの存在は避けて通れない。

PBMとはPharmacy Benefit Managerの略で、日本語では薬剤給付管理会社と訳される。

PBMは保険会社や企業と契約し、処方薬の給付管理、薬価交渉、フォーミュラリ管理、薬局への償還額決定を行う中間業者である。

日本にはPBMに相当する巨大中間業者は存在しない。

日本では薬価を国が決める。

アメリカでは薬価も償還も民間交渉で決まる。

この違いが極めて大きい。

FTCによると、2023年時点で上位3 PBMが米国薬局で調剤された約66億件の処方の約80%を処理している。

上位6 PBMでは90%超である。

この寡占構造により、薬局側の交渉力は弱くなる。

PBMは保険者に対して薬剤費削減を約束する。

その結果、薬局への償還額を抑える力が働く。

処方箋枚数が増えても、1件当たり利益が下がれば薬局の収益は悪化する。

この構造的な圧力が、Rite Aidを追い込み、Walgreensの収益も圧迫した。

オピオイド訴訟が財務を直撃

アメリカのドラッグストア大手は、オピオイド危機をめぐる訴訟でも大きな負担を抱えた。

CVSは約50億ドル、Walgreensは約57億ドル、Walmartは約31億ドルの和解金支払いに合意している。

1ドル150円換算では、Walgreensの負担は約8,550億円である。

CVSやWalgreensは巨大企業であるため、店舗閉鎖やコスト削減で吸収を図る余地があった。

しかし、Rite Aidにとっては致命傷に近かった。

Rite Aidは2023年時点で年商約240億ドル規模だった。

この規模でPBM償還圧力、物販不振、オピオイド訴訟、借入負担が重なった。

1度目の破産申請後に再建したものの、2025年に再び破産申請することになった。

物販不振|インフレで生活者はドラッグストアから離れた

アメリカでは2021年以降、激しいインフレが続いた。

BLSによると、2025年12月時点の消費者物価指数は前年同月比2.7%上昇した。

2022年の高インフレ期を経て、生活者の購買行動は大きく変わった。

インフレ下では、消費者は「近くて便利」よりも「安く買える」を優先する。

同一のナショナルブランド商品であれば、WalgreensやCVSよりもWalmartやTargetでまとめ買いする。

さらに価格志向が強まると、AldiやLidlのようなハードディスカウント型スーパーに向かう。

低所得層ではDollar Generalのようなバラエティ・ディスカウント業態の利用が増える。

ドラッグストアは、かつて「近くて便利」な小商圏業態として成立していた。

しかし、インフレ下ではその利便性プレミアムが弱まった。

消費者は多少遠くても安い店を選ぶ。

その結果、ドラッグストアのフロントエンド、つまり物販部門の競争力が落ちた。

化粧品はSephoraとUlta Beautyに奪われた

アメリカのドラッグストアは、かつて化粧品販売でも一定の存在感を持っていた。

しかし現在は、SephoraとUlta Beautyがこの領域を大きく奪っている。

SephoraはEC、アプリ、会員データ、AI活用、店舗体験を組み合わせ、化粧品購買を高度にパーソナライズしている。

Ulta Beautyはマスブランドからプレステージブランドまでを横断し、美容サービスと小売を融合した。

この2社は、単に商品を売っているわけではない。

顧客が「試す」「学ぶ」「選ぶ」「共有する」体験を設計している。

ドラッグストアの化粧品売場は、品揃えでも体験でも専門店に劣後した。

この点は日本のドラッグストアにも示唆が大きい。

化粧品は棚に置くだけでは売れない時代である。

関連記事:AI活用でEC売り上げ伸長 コスメ世界大手「セフォラ」が進める、攻めのデジタル戦略とは?

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第1位:CVS Health|売上4,021億ドル、薬局を超えた統合ヘルスケア企業

企業基本情報と市場ポジション

CVS Healthは、米国最大級のドラッグストアチェーンCVS Pharmacyを持つ企業である。

2025年通期売上高は4,021億ドルで、前年比7.8%増だった。

同社は約9,000の小売薬局、1,000超のウォークイン・プライマリケア診療拠点を持つ。

PBMであるCVS Caremarkは約8,700万人のプランメンバーを抱える。

また、Aetnaを通じて3,700万人超に医療保険関連サービスを提供する。

CVSの強さは、薬局単体ではない。

薬局、PBM、保険、診療、在宅ケア、デジタルを一体化している点である。

CVSの垂直統合戦略

CVSは2007年にPBM大手Caremarkを買収した。

2018年には医療保険大手Aetnaを買収した。

この2つの買収により、CVSは「保険者」「PBM」「薬局」「診療接点」を自社内に持つ企業になった。

これはアメリカの医療用医薬品流通において極めて大きい。

PBMの償還圧力を完全に消せるわけではない。

しかし、グループ全体で利益を最適化しやすい。

薬局単体ではなく、保険・PBM・診療を含めた全体最適で収益を設計できる。

これがWalgreensやRite Aidとの決定的な差である。

CVS CostVantageとTrueCost

CVSは2025年、薬局償還モデルの透明化も進めている。

CVS Pharmacyは、商業保険、第三者ディスカウント、Medicare、Medicaid領域で、コストベース償還への移行を完了したと発表した。

同社はCVS CostVantageやCVS Caremark TrueCostを通じて、薬価と薬局償還の透明性を高める方向に動いている。

これはPBM批判が強まる中で、規制リスクを下げる意味もある。

同時に、CVSが市場ルールを自社に有利な形で再設計しようとしているとも見られる。

CVSのアプリと会員制度

CVSのアプリは、単なる買い物アプリではない。

処方薬のリフィル、処方状況確認、MinuteClinic予約、医療保険情報、バーチャルケア、ウェルネス商品の購入までを一体化している。

2025年の年次報告書では、CVS HealthアプリがAetna、CVS Pharmacy、CVS Caremark、CVS Specialtyをまたいで家族のヘルスケア管理を可能にすると説明している。

これは「ヘルスケアのスーパーアプリ」を目指す動きである。

会員制度ではExtraCareが中核である。

従来の紙クーポン中心から、アプリベースのパーソナライズドオファーへ移行している。

CVSのDXは、クーポン配信では終わらない。

医療接点、処方薬、保険、購買データをつなぎ、顧客の健康行動全体を囲い込む設計である。

第2位:Walgreens Boots Alliance|上場の歴史を終えた超大手ドラッグストア

企業基本情報と市場ポジション

Walgreensは、アメリカを代表するドラッグストアチェーンである。

2025年時点で米国50州とプエルトリコに約8,000店舗を持つ。

1日あたり約900万人の顧客・患者が利用し、アメリカ人の78%が5マイル以内にWalgreens店舗を持つ。

規模だけを見れば、依然として巨大な企業である。

しかし、収益構造は厳しくなっている。

Walgreens Boots Allianceの2025年度第3四半期売上高は390億ドルで、前年同期比7.2%増だった。

一方で、同社CEOは米国フロントエンド売上の弱さが続いていると述べている。

つまり、調剤売上は薬価上昇や処方数量で伸びても、物販は苦戦している。

Sycamore Partnersによる非公開化

Walgreens Boots Allianceは2025年3月、Sycamore Partnersによる買収で合意した。

2025年8月28日に買収は完了した。

これにより、WBA株はNasdaqでの取引を停止し、同社は非公開企業となった。

買収条件は、1株あたり11.45ドルの現金と、VillageMD関連資産の将来売却益に応じた最大3.00ドルの追加価値である。

かつて日本のドラッグストア幹部が視察した世界有数の成功企業が、上場企業としての歴史を終えた。

これはアメリカのドラッグストア業界における象徴的な出来事である。

VillageMD戦略の失敗

Walgreensは、CVSに対抗するためにVillageMDへ大きく投資した。

狙いは、薬局にプライマリケア診療所を併設し、地域医療ハブになることだった。

方向性自体は間違っていない。

しかし、運営コストと資本負担が想定以上に重かった。

2025年度第2四半期には、VillageMD関連の非現金減損として30億ドルを計上している。

さらに米国小売薬局事業でも23億ドルの非現金減損を計上した。

同社はVillageMD事業の売却・価値最大化を検討する局面に入った。

買収完了後、Walgreens、Boots、Shields、CareCentrix、VillageMDは独立会社として運営される。

これは、垂直統合の夢を一度分解する動きとも言える。

WalgreensのDXと会員制度

Walgreensは、myWalgreensアプリと会員制度を軸にデジタル化を進めてきた。

アプリでは処方薬管理、リフィル、ワクチン予約、店舗受け取り、配送、クーポン利用が可能である。

会員制度ではWalgreens Cashを付与し、アプリ上で管理する。

同社はリテールメディア事業にも取り組んだ。

会員データを活用し、メーカー向け広告収益を得る狙いである。

しかし、リテールメディアは「会員数が多い」だけでは成立しない。

高頻度で使われるアプリ、強い購買データ、メーカーが投資したくなる売場影響力が必要である。

物販が弱くなると、広告媒体としての価値も弱くなる。

Walgreensの事例は、リテールメディアを収益化する難しさも示している。

第3位(撤退):Rite Aid|DX投資をしても全店閉鎖に至った理由

Rite Aidは2025年に全店舗を閉鎖

Rite Aidは、かつてアメリカ第3位のドラッグストアチェーンだった。

しかし2025年5月5日、2度目のChapter 11を申請した。

同年5月時点で約1,250店舗を運営していたが、10月までに全店舗を閉鎖した。

Rite Aidの公式サイトには「All Rite Aid stores have now closed」と掲載された。

同社の処方箋ファイルや一部店舗は、CVS、Walgreens、Albertsons、Kroger、Giant Eagleなどに売却された。

CVSはRite Aid 625店舗分の処方箋ファイルを取得し、アイダホ州、オレゴン州、ワシントン州の64店舗を取得・運営することで合意した。

Rite Aidは無策ではなかった

Rite Aidは、決してDXに無関心だったわけではない。

2020年にはAdobeと提携し、Adobe Experience Cloudを活用したデジタル変革を進めた。

新しいWebサイトとモバイルアプリを投入した。

処方箋のバーコードスキャン、ワンクリック更新、ロイヤルティプログラム、パーソナライズドプロモーションを導入した。

デジタル棚札やモバイルチェックアウトのテストも行った。

さらにRite Aid Performance Mediaというリテールメディア事業にも参入した。

薬剤師をApple StoreのGenius Barのような存在にし、健康相談の中心に据える構想も打ち出した。

つまり、表面的なDX施策は一通り実施していた。

それでも破綻した。

なぜRite AidのDXは失敗したのか

Rite Aidの問題は、DXの有無ではなく、事業構造そのものだった。

第1に、PBMに対する交渉力が弱かった。

第2に、CVSのような強い垂直統合を作れなかった。

第3に、Walgreensのような規模もなかった。

第4に、オピオイド訴訟と借入負担が重かった。

第5に、物販の価格競争力も専門性も弱かった。

Rite AidはEnvisionRxというPBMを買収していた。

しかし、規模が小さく、CVS CaremarkやExpress Scripts、OptumRxに対抗できるほどの交渉力はなかった。

中途半端な垂直統合は、かえって経営資源を分散させた。

DX投資も継続できなければ成果は出ない。

2023年の1度目の破産、2024年の再建、2025年の2度目の破産という混乱の中で、長期的なDX戦略を推進する余力は失われた。

薬局が代替医療に注力するリスク

Rite Aidは「Whole Health」を掲げ、代替医療やホリスティックな健康志向にも踏み込んだ。

薬剤師が生活者とのヘルスケア接点の入口になることは重要である。

しかし、薬局が科学的根拠の弱い代替医療に過度に注力することには慎重であるべきだ。

薬局の信頼は、エビデンスに基づく医療提供によって成立する。

この軸がぶれると、薬剤師の専門性も薬局の社会的信頼も損なう。

関連記事:薬局が代替え医療に注力することについて

Rite Aid撤退後|米国ドラッグストア第3位の座を引き継ぐのは誰か

Rite Aidが2025年10月に全店舗を閉鎖したことで、長らく「CVS・Walgreens・Rite Aid」と並んで語られてきた米国ドラッグストア専業の三強体制は終わりました。

では現在の第3位はどこなのか。結論からいえば、純粋なドラッグストア専業チェーンとしての明確な「第3位」は存在しません。代わりに、ディスカウントストアやスーパーマーケットの薬局部門が、処方箋発行数で第3位以下を占める形になっています。

処方箋市場シェアで見る米国薬局TOP6(Rite Aid撤退後)

順位企業業態米国薬局店舗数処方箋市場シェア(推定)
1CVS Healthドラッグストア専業約9,000約26%
2Walgreens Boots Allianceドラッグストア専業約8,000約17%
3Walmart Pharmacyディスカウントストア併設約4,500約6%
4Kroger Health(Pharmacy)スーパーマーケット併設約2,200約5%
5Albertsons Pharmacyスーパーマーケット併設約1,700約3%
6Costco Pharmacy会員制ホールセール併設約600約2%

出典:処方箋市場シェアはDrug Channels Institute(DCI)2025年版、米国IQVIA等の業界推定値です。店舗数は各社公式情報および業界レポートに基づきます。Walmartは2024年にWalmart Health Clinics(プライマリケア併設)から撤退しましたが、Walmart Pharmacy(処方薬調剤)本体は継続しています。

Walmart Pharmacyが実質的な第3位

処方箋発行数のシェアで見ると、Rite Aid撤退後の第3位はWalmart Pharmacyです。

Walmartは米国内に約4,500の薬局を持ち、低価格処方薬プログラム(4ドル処方)とディスカウントストアの集客力を組み合わせて処方箋市場を着実に拡大してきました。同社は2024年にWalmart Health Clinicsからの撤退を発表しましたが、これは「プライマリケア診療所」事業の撤退であり、Walmart Pharmacy(処方薬調剤)は継続しています。

スーパーマーケット系:Kroger・Albertsons

第4位以下はスーパーマーケット系の薬局部門が並びます。

Kroger Healthは米国最大の食品スーパーKrogerの薬局部門で、約2,200の店舗内薬局を運営します。Kroger Health Plus等のサブスクリプション型サービスも展開し、医療プラットフォーム化を進めています。

Albertsons Pharmacy(傘下にSafeway、Vons、Jewel-Osco等を含む)は約1,700の店舗内薬局を持ちます。Kroger-Albertsons合併計画は2024年に頓挫しましたが、両社それぞれが独自の薬局戦略を継続しています。

会員制ホールセール:Costco Pharmacy

Costco Pharmacyは会員制ホールセールクラブの店舗内薬局として独自の存在感を持ちます。米国内約600店舗の薬局ながら、低価格と効率的なオペレーション、Costco Member Prescription Programによる薬価透明化で会員から高い支持を得ています。

構造変化|「ドラッグストア」概念そのものが崩れている

この構造変化は単なる順位の入れ替わりではありません。米国の処方箋市場は、もはや「ドラッグストア専業 vs それ以外」という二分法では捉えられない段階に入りました。

  • ドラッグストア専業:CVS、Walgreens
  • ディスカウントストア併設:Walmart、Target
  • スーパーマーケット併設:Kroger、Albertsons、Publix
  • 会員制ホールセール:Costco、Sam’s Club
  • メールオーダー薬局:Express Scripts、OptumRx等のPBM自社薬局
  • EC・新興:Amazon Pharmacy、Mark Cuban Cost Plus Drugs

これらが処方箋市場を多面的に競合する構造へ移行しています。

日本企業がアメリカの「ドラッグストア」を参考にする際は、CVS・Walgreensという専業大手だけでなく、Walmart、Kroger、Costco、Amazon Pharmacyを含めた多業態の競合を視野に入れる必要があります。専業ドラッグストアという業態自体が、米国では成立しにくい時代に入りつつあるとも言えます。

アメリカドラッグストア斜陽の本質

アメリカのドラッグストアが苦境に陥った要因は、1つではない。

複数の構造変化が同時に起きた。

要因内容影響
PBM償還圧力薬局への支払いが抑えられる調剤利益の低下
オピオイド訴訟数十億ドル規模の和解金財務悪化
インフレ消費者が安い業態へ移動物販売上の低下
ECの伸長Amazonなどに日用品需要が流出来店頻度の低下
専門店の成長Sephora、Ulta Beautyが化粧品を奪取高粗利カテゴリーの弱体化
店舗過多低収益店を抱え続けた固定費負担の増加
DXの遅れアプリやECの差別化が弱い顧客接点の弱体化

最も重要なのは、DX以前に「どこで利益を出すのか」が曖昧になった点である。

調剤はPBMに圧迫される。

物販は価格競争と専門店に負ける。

医療サービスは投資負担が重い。

この状態でアプリやリテールメディアに投資しても、企業全体を救うほどの効果は出にくい。

アメリカドラッグストアDXから学ぶポイント

1. DXは事業構造の上に乗る

DXは万能薬ではない。

儲からない事業をデジタル化しても、儲からないデジタル事業になるだけである。

Rite Aidはこの典型である。

Adobeとの提携、アプリ刷新、リテールメディア、デジタルクーポンを実施した。

しかし、PBM償還問題と財務悪化を解決できなかった。

日本企業が学ぶべきは、DX投資の前に利益構造を分解することである。

どの顧客に、どの価値で、どの粗利を得るのか。

この設計が弱いDXは、投資回収できない。

2. 垂直統合は強いが、日本での単純コピーは危険

CVSは、薬局、PBM、保険、診療を統合した。

この戦略はアメリカでは合理的である。

PBMと保険を押さえることで、薬局単体ではなく医療費全体を最適化できるからだ。

ただし、日本で同じことはできない。

日本は国民皆保険であり、薬価も診療報酬も国が決める。

そのため、CVSモデルをそのまま模倣するのは現実的ではない。

日本で考えるべきは、医療機関、自治体、保険者、介護、予防、生活支援との連携である。

垂直統合ではなく、地域ヘルスケア・ネットワークの中で薬局とドラッグストアの役割を広げることが望ましい。

3. リテールメディアは「売場の強さ」が前提

アメリカのドラッグストア各社はリテールメディアに取り組んだ。

しかし、リテールメディアは魔法の新収益源ではない。

広告主が投資したいのは、購買に影響を与えるメディアである。

物販の来店頻度が落ち、アプリ利用率が弱く、カテゴリー影響力も弱ければ、広告価値は高まらない。

日本でもリテールメディアを始める企業は多い。

だが、まず見るべきはメディアメニューではない。

見るべきは、顧客接点の頻度、購買データの質、売場での購買決定力である。

関連記事:日本のリテールメディアが攻めあぐねる、3つの理由

4. 薬剤師の価値は対人業務に移る

CVSもWalgreensも、薬剤師を単なる調剤作業者からヘルスケア接点へ変えようとしている。

この方向性は日本でも重要である。

調剤業務、在庫管理、受付、会計、服薬フォローの一部は、デジタル化・集約化・自動化できる。

その分、薬剤師は服薬支援、重複投薬確認、生活習慣改善、セルフメディケーション支援、受診勧奨に時間を使うべきである。

ただし、薬剤師の対人価値は「何でも健康相談」ではない。

薬学的専門性に基づく判断と介入である。

日本のドラッグストア業界への示唆

日本のドラッグストアは、アメリカの失敗を他人事として見ない方がよい。

日本でも同じ構造変化が遅れて起きる可能性がある。

食品・日用品はディスカウント業態やECと競合する。

化粧品は専門店、百貨店、EC、SNSコマースと競合する。

調剤は報酬改定と薬価改定の影響を受ける。

人件費、物流費、家賃、電気代は上がる。

この環境で必要なのは、単なるアプリ導入ではない。

必要なのは、以下の5点である。

  • 収益源をカテゴリー別・顧客別に分解すること
  • 調剤と物販の相互送客を設計すること
  • 価格で戦う商品と専門性で戦う商品を分けること
  • 薬剤師・登録販売者の対人価値を再定義すること
  • DX投資を業務効率化と顧客体験向上の両方に接続すること

特に重要なのは、全体最適である。

EC、アプリ、調剤、店舗、物流、会員制度、リテールメディアを個別最適で進めると、投資が分散する。

アメリカのRite Aidは、そのリスクを示した。

一方、CVSは事業全体をヘルスケアプラットフォームとして再設計した。

勝敗を分けたのは、デジタル施策の有無ではない。

全体設計の有無である。

まとめ|アメリカのドラッグストアDXは「成功例」ではなく「警告」である

アメリカのドラッグストア業界は、もはや単純な成功モデルではない。

CVSは統合ヘルスケア企業へ進化した。

Walgreensは非公開化し、再建へ向かう。

Rite Aidは全店舗を閉鎖した。

この差は、DX投資の有無だけでは説明できない。

CVSは、PBM、保険、薬局、診療を束ね、事業構造そのものを変えた。

Walgreensは、VillageMD投資で統合ヘルスケアを目指したが、資本負担と物販不振に耐えられなかった。

Rite Aidは、DX投資を行ったが、PBM償還問題、規模の劣位、財務負担を跳ね返せなかった。

したがって、日本の小売・薬局業界が学ぶべき教訓は明確である。

DXは必要条件である。

しかし、十分条件ではない。

まず事業の勝ち筋を定義する。

次に、顧客体験と業務効率を再設計する。

最後に、その実現手段としてデジタルを使う。

この順番を間違えると、DXは成果を生まない。

アメリカのドラッグストア斜陽は、日本のドラッグストアにとって貴重な警告である。

よくある質問(FAQ)

Q1. 米国最大のドラッグストアチェーンはどこですか?

CVS Healthです。2025年通期売上4,021億ドル、約9,000の小売薬局、1,000超のウォークイン・プライマリケア診療拠点、約8,700万人のPBM加入者を持つ統合ヘルスケア企業として米国最大の規模を誇ります。

Q2. 米国ドラッグストアTOP3はどこですか?

CVS Health、Walgreens Boots Alliance、Rite Aidの3社です。ただしRite Aidは2025年に2度目の破産申請を経て全店閉鎖済みのため、実質的にはCVSとWalgreensの2強体制になっています。

Q3. なぜRite Aidは破綻したのですか?

PBM償還圧力、オピオイド訴訟、物販不振、借入負担、規模の劣位が同時に重なったためです。DX投資(Adobe提携、アプリ刷新、リテールメディア参入)は実施していましたが、事業構造そのものの劣化を跳ね返せませんでした。

Q4. Walgreensはなぜ非公開化したのですか?

Sycamore Partners(プライベートエクイティ)が2025年8月に買収を完了し、Nasdaqでの取引を停止しました。VillageMDへの大型投資の失敗、米国フロントエンド売上の弱さ、オピオイド訴訟負担などで上場企業として再建が難しくなり、非公開化による事業再構築の道を選びました。

Q5. PBMとは何ですか?

Pharmacy Benefit Manager(薬剤給付管理会社)の略です。保険会社や企業と契約し、処方薬の給付管理、薬価交渉、フォーミュラリ管理、薬局への償還額決定を行う中間業者です。米国では上位3社で処方箋の約80%、上位6社で90%超を処理しており、この寡占構造が薬局側の交渉力を弱める要因になっています。

Q6. CVS Healthの強みは何ですか?

薬局、PBM(CVS Caremark)、医療保険(Aetna)、診療接点(MinuteClinic)を自社内に統合している点です。グループ全体で利益を最適化でき、PBM償還圧力を相対的に吸収しやすい構造を持ちます。CVS CostVantageやTrueCost等の透明化施策も進めています。

Q7. 日本のドラッグストアは米国の失敗から何を学ぶべきですか?

DXは必要条件であって十分条件ではないという点です。Rite Aidが示したように、事業構造そのものが崩れている状態でDX投資を続けても収益化は困難です。日本企業は、収益源のカテゴリー別分解、調剤と物販の相互送客設計、薬剤師・登録販売者の対人価値の再定義など、事業構造の見直しと並行してDXを進める必要があります。

Q8. Rite Aid撤退後の米国ドラッグストア第3位はどこですか?

処方箋市場シェアで見ると、Walmart Pharmacyが実質的な第3位です。米国内に約4,500の店舗内薬局を持ち、処方箋市場シェアは約6%でWalgreensに次ぐ規模です。続く第4位はKroger Health(約2,200店舗、約5%)、第5位はAlbertsons Pharmacy(約1,700店舗)です。ただしいずれもドラッグストア専業ではなく、ディスカウントストアやスーパーマーケットの薬局部門であり、米国の薬局市場は専業 vs 併設の業態境界が崩れる構造変化に入っています。

参考情報・出典

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