概要: 在庫管理でどのような発注方式を採用するかは、欠品防止や業務効率に大きく影響します。本記事では、定量発注方式・定期発注方式など主要な発注方式の特徴と長所・短所を具体例とともに解説します。さらに、近年普及が進む自動発注システムのメリットとデメリットを整理し、なぜ場合によっては自動発注が食品の欠品を増やしてしまうのかその理由を探ります。そして最後に、欠品を防ぐための効果的な欠品対策や最新動向についてまとめます。
コロナ禍におけるドラッグストアでの食品欠品の背景
在庫管理の現場では、「いかに欠品を出さず適正在庫を維持できるか」が常に課題です。例えば2020年の新型コロナウイルス禍では、ドラッグストアの食品棚から商品が消えてしまうケースが相次ぎ、企業によって食品の欠品状況に大きな差が生まれました。欠品増加の要因としては以下のようなものが考えられます。
供給不足(メーカー・ベンダー側)
パニック買いや供給網の乱れで、仕入れ時点で商品が確保できないケースがあります。この解消はバイヤーの努力に尽きます。代替え商品を含めた早急な手配が必要です。店舗側では、状況を客観的に報告することと来店客の対応が業務となります。
発注精度の低さ
発注量の予測精度が低く、需要急増に対応できないケースです。過去の販売データに基づく発注では急な需要変化に追いつけず、発注ミスやタイミングの遅れで欠品が発生します。
店頭での品出し遅れ
在庫はあっても棚への補充が間に合わず、一時的に棚が空になるケースです。
本記事では特に発注精度に着目し、発注方式の違いや自動発注システムの運用によって生じる欠品について、その原因と対策を解説します。まずは在庫管理における代表的な発注方式と、その長所・短所を見ていきましょう。
在庫管理における発注の種類
小売業の在庫管理では大きく分けて2つの発注方式が広く使われています。定量発注方式(一定量発注)と定期発注方式(定期サイクル発注)です。この他に簡易的な方式もありますが、需要変動に対応しづらいため大規模な小売ではほとんど採用されていません。以下では各発注方式の概要と、代表的な利用業態、長所・短所を具体例とともに紹介します。
簡易発注方式は保険調剤薬局に多い
簡易発注方式は在庫管理を簡略化した方式で、保険調剤薬局や小規模事業所など、厳密な在庫最適化よりも手軽さが優先される現場で見られます。代表的な手法にダブルビン方式(Two-bin方式)と補充方式があります。
ダブルビン方式はA・Bの2つの箱(ビン)を用意するところから始めます。まずは使用期限の短いAの箱に入っている商品から品出しをはじめ、Aが空になったら初めてBを開封し、新たにAの分を発注する方式です。
在庫が「空になる」という作業者が視覚的に捉えやすい状態を発注のタイミングとするため、分かりやすいという特徴があります。保険調剤薬局の多くはダブルビン方式です。包装単位(100錠が多い)を使い切ったら空き箱をダンボールに貯めておいて、手空き時間にまとめてバーコード発注するわけです。
補充方式は、あらかじめ決めた一定量を使用するごとに、その分だけ補充発注する方式です。必要な補充量の基準は過去の消費データなどから決めますが、実際には担当者の経験に頼るケースも多いです。ダブルビン方式に比べ柔軟に補充できますが、需要の大きな変動には対応が難しい場合があります。保険調剤薬局に例えると、分割販売での仕入れはこのケースが多いです。
定量発注方式(発注点方式) – 小売で最も一般的な手法
定量発注方式(発注点方式)は在庫量が事前に定めた水準(発注点)まで減少したタイミングで、あらかじめ決めた一定量(発注量)を発注する方式です。必要なときに必要量だけ補充する方式で、多くの小売業で広く採用されています。
特に需要が比較的安定しており、単価が安く回転の早い消耗品の発注に適しています。スーパーやコンビニで日常的に販売する食品・日用品などはこの方式で管理されることが多く、欠品防止と在庫最適化のバランスを取りやすい方法です。
発注点と発注量の設定
定量発注では「在庫が○○個以下になったら△△個を発注」のように発注点と発注量を決めて運用します。定量発注方式において、発注点は本来次のように計算します。本来と書いたのは、ここを勘と経験で適当に設定している小売業が多いからです。
発注点 = 調達期間中の平均在庫量+安全在庫量
=(単位期間の平均需要量×調達期間) + 安全在庫量
調達期間とは、注文を出してから納品されるまでの期間です。納品リードタイムともいいます。
例をあげると、
1日あたりの売上数量が3個で、発注してから商品が入荷するまでの調達に2日かかるとした時に、
発注点=(3個×2日)+安全在庫量=6+安全在庫量
です。
安全在庫量は商品の売れ行きのばらつきによって異なりますので、カテゴリーや季節等多くの要因で変動します。一般的には
安全在庫量=安全係数×標準偏差×√(発注間隔+リードタイム)で求めます。
※安全係数:品切れ5%の時の標準偏差1.65を使用することが多い。欠品を1%しか許容しないなら2.33
標準偏差:需要の平均値なので過去の販売量から求めます。カテゴリーによっては定期的に計算し直す必要があります。
ただし、個人的にはドラッグストアなどセールや◯倍デ-で売上の波動が大きな業態の安全在庫量については、単位期間の平均需要量×調達期間が6なら2,3以下なら1程度で決めてしまって後は欠品頻度で調整すれば十分かと思います。
「単位期間の平均需要量」については、過去データからの計算をすることが多いです。季節を考慮して、前年同時期、前月〜直近までの両方の動向を元に計算します。
過去データからの計算では、需要の急激な変化に対応できないことがあります。この改善はAIによる需要予測が活躍しやすい領域です。
売価の変動が大きい場合、売価ごとの実績を管理して計算すると、より精緻なものとなります。これらを考慮して精度の高い需要予測が可能になると、後述する自動発注が有効に機能します。
発注点補充点方式は定量発注の進化型
発注点補充点方式は定量発注方式のバリエーションで、発注点に達した際に在庫をあらかじめ定めた補充点(目標在庫水準)まで一気に補充発注する方法です。同じ定量発注方式でも、発注点方式では常に一定量を発注しますが、発注点補充点方式では都度必要量が変わります。後者の方が需要急増時にも柔軟に対応しやすく優れた方式です。
長所: 需要に合わせたタイミングで発注できるため、欠品をある程度抑えつつ在庫過多も防ぎやすいのが利点です。特に発注点補充点方式を採用すれば納品頻度を最適化できます。同じ商品でも、セルワンバイワン方式(後述)では週3回納品していたものを発注点補充点方式では週1回の納品で済ませる、といったケースもあります。
納品回数が減れば、店舗での品出し作業や倉庫・物流の効率も向上し、結果として作業時間の削減とコストダウンにつながります。多く売れる商品ほど効果は大きく、物流業者と店舗双方にWin-Winのメリットをもたらします。
短所: 発注点や発注量の設定を誤ると欠品や過剰在庫の原因になります。本来は需要データに基づき計算すべきところを、経験則で適当に決めているケースも少なくありません。
また需要変動が激しい商品では、発注点到達までに在庫が尽きて欠品が発生するリスクもあります。需要予測が外れた場合や予期せぬ売れ行きの変化(天候やイベントなど)があった場合には、人手による微調整や緊急発注が必要です。このため定量発注方式であっても、後述するAI等を活用した高度な需要予測や、店舗現場での調整作業が欠品対策として重要になります。
定期発注方式(定時発注方式) – 一定サイクルでの発注管理
定期発注方式はあらかじめ決めたサイクル・日時で発注を行う方式です。毎週○曜日や毎月△日といった定期スケジュールで発注タイミングを設定し、その都度必要量を発注します。
需要の増減に柔軟に対応できますが、毎回発注量を決めるのが手間になります。
需要変動が大きく在庫回転率の低い商品(アパレル・家電等)に使われることが多いです。例えばアパレルでは一般的にシーズンの生産計画に合わせて生地や材料を月次発注します。同様に食品メーカーは原料を週次発注することがあります。
ドラッグストアにおいては、天気で需要変動が大きな(しかも倉庫を圧迫する)ティッシュ・トイレットペーパーに使われることがあります。
長所: 需要の増減を人間が柔軟に判断して発注量を調整できるため、大きな需要変動にも対応しやすい点がメリットです。発注のタイミングが定まっているのでサプライヤー側も計画を立てやすく、発注サイクルに合わせて生産・出荷計画を最適化できます。また、一度の発注で多めに在庫を持つことで欠品リスクを下げる効果もあります。特にリードタイムが長い原材料の調達や、販売機会を逃せない季節商品などでは定期発注が有効です。
短所: 発注タイミングが固定されている分、需要急増時には次の発注日まで追加補充ができず欠品を招く恐れがあります。逆に需要が落ち込んでも発注日には発注してしまうため過剰在庫を抱えるリスクもあります。さらに、毎回の発注量をゼロから計算・判断する必要があるため担当者の負担が大きい点もデメリットです。担当者の経験や勘に依存する部分も大きく、属人的な発注業務になりがちです。このような課題から、近年では定期発注方式であってもシステムによる需要予測支援を取り入れる企業が増えています。
定量発注方式と定期発注方式のイメージ


定量発注方式における自動発注の種類
近年は在庫管理に自動発注システムを導入する小売企業も増えています。自動発注とは、各商品の販売実績データ(POSデータ)や在庫情報をもとにコンピュータが適切な発注数を算出し、システムから自動的に発注処理を行う仕組みです。
発注作業の省力化(人件費削減)を主目的として導入が進められており、加えて発注漏れ防止にも効果があります。特に店舗スタッフが発注を忘れがちな低回転率商品(動きの遅い商品の在庫)でも、自動発注なら適時に補充されるため欠品を防ぎやすくなります。
自動発注とは
自動発注は、商品のID-POSによる販売動向や在庫情報をもとに発注数を自動計算して、ベンダーに自動的に発注するシステムです。発注業務コスト(=人件費)の削減を主な目的とします。また、回転率の低い商品を中心に発注忘れによる欠品を防止する効果もあります。
自動発注導入のメリット
ベテラン担当者の経験に頼っていた発注作業をシステム化することで、発注作業時間を大幅に短縮できます。実際、ある食品卸売企業では需要予測型の自動発注システム導入により、毎日4時間かかっていた発注処理が約30分で完了するようになった例があります。
人手不足への対応策としても、自動化による省力化は大きな利点です。発注漏れや機会損失の防止: システムが販売データを監視しているため、担当者のうっかりミスで発注忘れが起こるリスクを低減できます。「売れた分だけ確実に補充される」仕組みのため、手動発注に比べてヒューマンエラーによる欠品(発注漏れ起因の欠品)は減少します。結果として在庫切れによる販売機会の損失を防げる可能性があります。
また、発注ルールをシステムに委ねることで、店舗ごと担当者ごとにバラついていた発注精度を一定水準に揃えられます。ベテランのカンと経験に頼らずデータに基づく発注が実現できるため、店舗間での欠品率のばらつきを是正し、チェーン全体で安定した在庫サービスレベルを維持できます。
自動発注導入のデメリット
自動発注システム自体は万能ではなく、設定によっては需要の急変に対応できない場合があります。特に導入初期によく採用される単純なロジック(後述の「セルワンバイワン方式」など)の場合、売れた分しか発注しないため需要が急増すると一時的に欠品が発生しやすいです。実際、あるスーパーマーケットチェーンでも当初この方式を導入しましたが、需要変動に対応できず欠品が発生し買い物客の利便性を損なう結果となりました。
この課題に対処するには、後述する需要予測型の高度なシステムへのアップデートが必要になります。しかしながら自動化に頼りすぎると、店舗従業員が発注を通じて市場を読む力を養う機会が減るというデメリットがあります。
手動発注では、商圏の動向、顧客属性、入荷リードタイム、天候やイベント情報など複数要素を考慮し「いくつ発注すれば売上最大・ロス最小になるか」を判断する頭脳労働です。このPDCA(仮説検証)を回す業務を通じて担当者の洞察力や在庫管理の勘所が磨かれていきます。しかし自動発注に任せきりだとこうした現場の知恵が育ちにくくなる懸念があります。人材育成の観点では、適度に人が介在し思考する仕組みも必要でしょう。
自動発注システム導入後は、設定ミスや解除忘れといった新たな問題も発生します。例えば「売り切り終了(終売)にしたい商品の自動発注設定を解除し忘れ、不要な再入荷がかかってしまう」といったトラブルが現実によく起こります。システム任せにせず、商品マスタや発注設定のメンテナンスを徹底しないと無駄な在庫を増やす結果につながりかねません。
また、店舗規模や地域特性によって売れ行きが異なるのに発注設定が全店一律だと、ある店では適正でも他の店では過剰・不足が生じる可能性があります。チェーンストアの場合、店舗グループごとに発注パラメータを調整できる仕組みが望まれます。
自動発注の主な方式とその特徴(セルワンバイワン方式 vs 発注点補充点方式)
ひと口に自動発注といっても、そのロジックには複数の種類があります。小売業で導入される自動発注システムは、基本的に前述の定量発注方式(一定の在庫水準を下回ったら発注)の考え方にもとづいていますが、細かな発注タイミングの制御方法に違いがあります。
一つ売れると一つ発注がかかるセルワンバイワン方式と発注点を下回ったら補充点までの量を発注する方式である発注点補充点方式の2種類が主に採用されています。
いずれも定量発注の自動化ですが、発注頻度や在庫推移が異なるため、メリット・デメリットにも違いがあります。それぞれ詳しく見てみましょう。
セルワンバイワン方式 – 売れた分だけ即時発注
ID-POSにおいて、商品の販売数の累計が、発注単位を超えた時に販売数の累計だけ自動的に発注する仕組みです。
簡単に言えば「売れた分だけ即時に補充発注する」方式で、通常はシステム上需要予測を行わずリアルタイムの販売実績に追随します。
ロジックが単純なので、まず自動発注を導入しようという時によく用いられる方式です。
筆者が30年弱前にドラッグストア大手ココカラファインの前身であるセイジョー(まだ50店舗強でした)に入社した時には、すでに単純なセルワンバイワンの自動発注システムが導入されていました。紙製品など日毎の需要変動が激しい商品は手動発注でしたが、それ以外の定番商品の補充には効果を発揮していました。
メリット
発注作業時間の大幅短縮が可能です。売上データに連動して自動で発注されるため、担当者は細かい発注処理から解放されます。
売れ行きに即応した補充が行われるため、手動発注に比べると「発注漏れ」による欠品が格段に減ります。実際に売れた分しか発注しないため在庫が増え過ぎる心配も少なく、常に適正在庫に近い状態を維持できます。
仕組みがシンプルで分かりやすいため、導入コストや従業員教育のハードルが低いです。新しくシステムを導入する際でも現場が受け入れやすく、短期間で展開できる利点があります。
デメリット
需要が急に増えた場合、一時的に棚から商品が消えてしまうリスクがあります。セルワンバイワン方式では基本的に「売れた分=普段の想定需要」とみなして補充するため、例えば急なまとめ買いなど想定外の売上が起きても即座には在庫積み増しがされません。結果、次々売れて在庫がゼロになった時点でようやく発注がかかりますが、その発注品が届くまでに欠品期間が発生してしまいます。
一方で需要が減少局面に入っても、売れるたびに自動発注がかかるため在庫過多に陥りがちです。例えば一時的な特需で在庫を増やした後、売上が通常水準に戻った際にもシステムは販売実績に応じて発注を続けてしまい、結果として余剰在庫を抱えることになります。これを防ぐには、一時的な需要増と判断した場合はあえて手動発注を行い自動発注をオフにする、需要減少時にはマイナス発注(一定数売れるまで自動発注停止)機能を使う、といった運用上の工夫が必要です。
また、セルワンバイワン方式では発注単位(トリガーとなる販売数量や最小発注ロット)が小さいと、毎日のように発注が発生してしまいます。極端な場合、少しずつ売れる商品に対して毎日1箱ずつ納品されることになり、店舗の品出し作業が増えるだけでなく、ベンダーや自社物流センターの物流効率も低下します。納品頻度が高すぎるとトラックの積載効率も悪くなるため、店舗規模ごとに適切な発注単位を設定するなどの対応が必要です。一般に小売業チェーンにおいて、店舗ごとの売上のバラツキは大きなものです。全店共通の設定では効率が悪いので、発注単位は物流センター毎、もしくは売上規模グループ毎に設定できる必要があります。
発注点・補充点方式 – 納品頻度を最適化する自動発注
発注点補充点方式は、在庫が発注点を下回った時に補充点(目標とする在庫水準)までの数量を一括発注する自動発注方式です。
基本的な考え方は前述の定量発注方式(発注点方式)と同じですが、それをシステム上で自動化したものと言えます。セルワンバイワン方式に比べると多少高度なロジックですが、その分発注・納品頻度を抑制し効率化できるメリットがあります。
この方式では需要予測をある程度組み込んだ運用も可能で、販売ペースに応じて発注点や補充点を調整することで無駄のない発注ができます。
例えば、販売日の翌々日にベンダーから物流センターに納品される場合、在庫6ヶの商品が月曜に1ヶ、火曜に2ヶ、木曜に1ヶ売れたとします。これをセルワンバイワンと発注点補充点(仮に補充点6、発注点5とする)で比較すると、

となり、同じ商品が前者で週3回、後者で週1回納品されることになります。ベンダーから入庫した商品を棚に入れる作業において、棚まで到達する時間が最もかかり、そこで1ヶ並べるか3ヶ並べるかは数秒しか違いません。
納品頻度が最適化されることで短縮される作業時間は売上げが大きいほどに大きくなります。これはベンダー倉庫においても同様であり、1回に納品する商品の種類数をコントロールすることでベンダーのコストを最小化することができ、Win-Winの関係になります。
なお、発注点・補充点方式は発注頻度を需要に応じてコントロールできるため、セルワンバイワン方式の上位互換的な存在と言えます。発注点=補充点と設定すればセルワンバイワンと同じ動き(売れたら即補充)になりますので、効率化を考えるなら最初から発注点・補充点方式の導入をおすすめします。最近では需要予測にAIを活用した高度な自動発注サービスも登場しており、従来は追従が難しかった急激な需要変化にも対応できるケースが増えてきました。
次章では、自動発注を導入したことでなぜ欠品が増えてしまうのか、その理由を掘り下げます。
自動発注で食品の欠品が増える理由
効率化や省力化に貢献する自動発注システムですが、状況によっては欠品を増やしてしまう逆効果が生じることがあります。特に食品分野では、需要の変動要因が多岐にわたるためシステムの予測精度が追いつかず、結果として品切れを起こすケースが多くあります。
主な理由を整理すると以下の通りです。
需要予測の限界と設定ミス
自動発注は過去データや既定のルールに従って発注判断をします。そのため、想定を超える需要急増には対応が遅れ、在庫が追いつかず欠品が発生します。特売や天候変動、流行の変化など、人間なら「いつもと違う売れ行き」と気づける事象でも、システムが需要予測に織り込めていないと発注が平常運転のままになりがちです。COVID-19初期の買いだめ現象時には、平常時のアルゴリズムでは需要爆発に対応できず、多くの店で棚が空になる事態となりました。
例えば、平均日販10個の商品があるとき、実際には時間帯別売上・天候等も加味する必要もありますが、単純に12時間の営業で10個売れるのが通常時とします。ある時、開店時在庫30個が開店から4時間で欠品したとすると、欠品がなければ90個売れていたはずです。
しかしながら、自動発注システムは1日で30個売れたという結果データを使って自動発注の計算をしてしまいます。欠品した時間に棚に並んでいれば売れていたはずの数量も計算に入れる必要があるわけです。
さらに発注点や補充点の設定ミス・調整漏れも欠品要因です。季節商品の補充点を上げ忘れて在庫切れ、といったヒューマンエラーもシステム運用上は起こります。
在庫データの不正確さ
自動発注は在庫数の情報を前提に計算します。もし実在庫とシステム在庫にずれが生じていると、誤った前提で発注してしまいます。
例えば、ロスや盗難で実際は在庫ゼロなのにシステム上は在庫ありとなっている場合、本来必要な発注がかからず欠品します。食品は賞味期限切れ廃棄や棚卸ロスも多いため、在庫精度が低下しやすいカテゴリーです。システム任せにせず、定期的な棚卸しや在庫精度向上施策を講じないと、自動発注でも欠品ゼロにはできません。
店舗オペレーションとの不整合
どれだけシステムが適切に発注していても、店舗での品出しが追いつかなければ棚は空のままです。実際に「欠品」と言ってもバックヤードには在庫があるケースも少なくありません。
在庫が届いた際に迅速に売場へ補充するオペレーション、人手が足りない場合は本部からの応援や陳列簡素化などの対策が必要です。また、自動発注で補充頻度が下がった分、一度の納品量が増えバックヤードでの荷さばきが大変になるケースもあります。これにより品出し遅れが発生すると、せっかく欠品防止のためにまとめ発注したのに店頭では欠品状態…という矛盾も起こり得ます。
サプライチェーン上流の問題
店舗側がどれだけ適切に発注しても、仕入先から商品が入ってこなければ欠品は解消しません。特にコロナ禍ではメーカー在庫不足や物流停滞が発生し、自動発注システムが発注を出しても納品が無いという事例がありましたた。
この場合、代替商品の手配や在庫の融通など、発注システム外での対策が必要になります。自動発注はあくまで「発注」の最適化であり、生産や物流のボトルネックは別途解消しなければならない点に注意が必要です。
以上のように、自動発注で欠品が増える背景には需要予測の難しさと運用面の穴があります。特に需要予測精度の問題は、発注方式の選択やシステムのアルゴリズムと深く関わっています。では、こうした欠品リスクに対しどのような対策が有効なのでしょうか。次に、欠品を防ぐための具体的な方策と業界動向を紹介します。
欠品を防ぐための対策と最新動向
自動発注システム導入下でも欠品を最小限に抑えるには、技術面・運用面の両側からアプローチすることが重要です。
急激な需要変化に対応するには、高度な需要予測モデルの導入が有効です。過去データだけでなく天候や地域イベント、トレンド情報などを加味したAI需要予測を行えば、発注システムが需要の山谷を事前に察知しやすくなります。
需要予測型の自動発注システムに刷新した結果、欠品率が1.5%から0.7%に改善したスーパーマーケットもあります。
食品卸大手の旭食品では、複数の熟練担当者が1日あたり約4時間を要していた発注内容を判断するための調査やチェックなどの業務を約30分に削減できたこと、および欠品を約4割、返品を最大約3割低減できたという結果が出ています。
https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2022/06/0608a.html
このように最新のAI技術は在庫最適化と欠品削減の切り札になりつつあります。
発注パラメータの適切な調整: 自動発注の発注点・補充点や発注単位は、一度設定したら終わりではなく定期的な見直しが必要です。季節や流行で需要構造が変化した際には、本部の在庫管理担当者が各店舗の販売データを分析し、発注点を増減させるなどチューニングを行いましょう。忙しい店舗任せにせず、本部主導で細かな調整を継続することがチェーン全体の欠品率低下につながります。自動発注の調整作業は地味なノウハウですが、ここに手を抜くかどうかで最終的な収益にも差が出ます。
自動発注に完全に任せるのではなく、システムが苦手とする部分を人間が補完する運用も欠品対策として有効です。例えば、新商品や突発的な特売商品はシステムに実績データがないため、発売直後は担当者が需要を見極めながら手動で厚めに発注し、売れ行きが安定してから自動発注に切り替えるといった方法です。また、前述のセルワンバイワン方式のデメリット対策として、一時的な需要増と判断した場合は敢えて手動発注分に相当する数量は自動発注させない設定にすることも挙げられます。このように自動と手動の使い分けをルール化し、臨機応変に対応できる仕組みにしておくと安心です。
店舗での品出し体制を見直し、バックヤード在庫を迅速に売場補充できるようにしておくことも重要な欠品対策です。納品時間帯に余裕を持ってスタッフを配置する、品出しを効率化する道具やレイアウトを導入する、あるいは品出しが間に合わない商品はあえて複数日に分けて小分け納品に切り替えるなど、運用面の工夫で店頭欠品を防ぎます。また本部が各店の在庫状況をモニタリングし、長時間棚空きしている商品があればアラートを出す仕組みを設けるのも有効です。
メーカーや卸との情報共有を密にし、需給逼迫が予想される商品は事前に増産・在庫確保を依頼するなど、サプライチェーン全体で欠品を防ぐ取り組みも必要です。発注システムのデータをサプライヤーと共有し需要予測を連携する「CPFR(需給協業)」のような手法も効果的です。また万一欠品してしまった場合の代替商品の提案や、EC在庫からの取り寄せ対応など、最終的に顧客のニーズを満たすためのバックアッププランも用意しておくと良いでしょう。
小売業界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、需要予測型の高度な自動発注システムを導入する企業が増えています。例えば関東地方で展開するスーパーマーケット大手のヤオコーでは、日立製作所のAI自動発注システムを導入し発注業務のDXを推進しています。このシステムは単純なセルワンバイワン方式から需要予測型方式へと刷新されたもので、発注精度の向上と欠品削減に寄与しました。
また、食品ロス削減の観点からも在庫適正化は注目されており、欠品と過剰在庫の両方を減らす自動発注の事例が数多く報告されています。旭食品の事例にあるように、欠品率の大幅改善は顧客満足度向上と売上増加にも直結します。
今後はAIや機械学習のさらなる進化で、より精緻な需要予測による自動発注が可能になり、欠品ゼロを目指す動きが加速していくでしょう。
おわりに
在庫管理における発注方式にはそれぞれ長所・短所があり、自社の業態や商品特性に合った方式を選択することが重要です。
近年は自動発注システムの活用が進んでいますが、導入にあたっては今回述べたような需要予測の精度向上や運用面の工夫による欠品対策を講じる必要があります。発注業務のデジタル化は省力化と在庫最適化に大きなメリットをもたらしますが、最後は人間の知恵と現場力も融合させてこそ最大の効果を発揮します。
適切な発注方式の採用と、自動化と人手調整のバランスによって、欠品のない効率的な在庫管理を実現していきましょう。
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