急成長するインドネシアのドラッグストア市場:ガーディアン、キミア・ファルマ、K-24の最新動向

インドネシアのドラッグストア市場は急速に成長を続けており、都市部の拡大や中間層の増加に伴いヘルスケア製品への需要が高まっています。本記事では、インドネシアのドラッグストア業界で売上高トップ3となっている「ガーディアン(Guardian)」「キミア・ファルマ(Kimia Farma)」「アポテックK-24(Apotek K-24)」の最新動向を徹底分析します。各社の業績推移、商品構成、デジタル戦略、会員プログラムについて詳しく解説していきます。


ガーディアン(Guardian Indonesia / PT Hero Supermarket Tbk)

業績と店舗展開

ガーディアンは香港系DFIリテールグループ傘下のヘルス&ビューティ小売チェーンで、インドネシア市場において主要都市を中心に急速に店舗網を拡大しています。親会社のPT Hero Supermarket Tbkは2021年に食料品事業から撤退し、ガーディアン(およびイケア)事業に経営資源を集中させる戦略に転換しました。
この戦略転換が功を奏し、2022年度の売上高は4.43兆ルピア(前年比+14.9%)、2023年度は5.09兆ルピア(前年比+14.9%)と堅調な成長を記録しています。コロナ禍からの市場回復に伴い特に既存店売上高が好調で、2022年には前年比30%以上の大幅増となりました。

※5.09兆ルピア≒465億円(109.4ルピア=1円換算)
店舗数も着実に増加しており、2021年末時点で270店超だったネットワークは、2022年末に312店、2023年末には約335店まで拡大。モール内の旗艦店を中心に出店を加速させています。


商品構成とカテゴリー戦略

ガーディアンは「健康と美容の専門店」という明確なポジショニングを取っており、商品構成は以下のような特徴があります:

美容・化粧品類(メイクアップ、スキンケア製品など):売上の約50%
健康関連(OTC医薬品、サプリメントなど):約20%
日用雑貨(ヘアケア、ボディケア用品など):約25~30%
食品(健康志向スナックや飲料):数%未満

このように美容・化粧品カテゴリーが中心となっており、インドネシアの若年層や女性をターゲットにしたマーケティングを展開しています。


デジタル活用と経営革新

ガーディアンは特にデジタル活用による顧客体験の向上に積極的に取り組んでいます。2022年には店舗にSNSで話題の商品を集めた「Product Trending Zone」というコンセプトを導入。市場調査やスタッフのフィードバックを基にバイラル商品を選定し、ピンク色の専用棚で目立つ陳列を行うという革新的な取り組みです。
この施策はSNS上で累計7,000万インプレッション、2,000万以上のデジタルリーチを獲得し、トレンド商品の売上は二桁成長を達成。特に新規の若年顧客層の来店増加に大きく貢献しました。
さらに2024年にはこの取り組みを進化させ、AR(拡張現実)技術を活用。店頭商品の効果をスマートフォンで疑似体験し、そのままオンライン購入できるシームレスな仕組みも導入しています。このように実店舗とデジタルを融合させるオムニチャネル戦略によって、顧客エンゲージメントの向上と売上拡大を実現しています。


会員制度とロイヤルティプログラム

ガーディアンは公式スマートフォンアプリとオンラインストアを運営しており、モバイルから商品検索・注文・店舗受取などがシームレスに行える環境を整備しています。
また「GUARDIAN Family」という会員プログラムでは、購入額の1%キャッシュバックや誕生日月の特別割引、会員限定セールなどの特典を提供。オンラインと店頭で統合された会員サービスにより、リピート購入を促進し顧客データの蓄積によるマーケティング高度化を図っています。


キミア・ファルマ(PT Kimia Farma Tbk)

業績と国営企業としての戦略

キミア・ファルマはインドネシア最大の国営製薬企業であり、医薬品製造から卸・小売(薬局チェーン)まで垂直統合型のビジネスモデルを展開しています。同社の小売部門「キミア・ファルマ・アポテック (KFA)」は国内最大規模の薬局チェーンとして、2023年時点で約1,300店舗を展開するまでに成長しました。
業績面では、2021年度の連結売上高は約1兆2,857億ルピアでしたが、ワクチン事業の親会社集約など事業構造の変化により2022年度は売上高9,606億ルピア(約25%減)となりました。しかし2023年度には売上高が約9,965億ルピア(前年比+7.9%)と再び成長軌道に戻り、コスト削減効果もあって収益性も改善しています。
2023年2月には、インドネシア投資庁(INA)と中国・シルクロード基金(SRF)から約40%の出資を受け入れ、小売子会社KFAの資本増強を実施。この資金を活用して店舗網の拡充やデジタル化を加速させる計画を進めています。


商品構成と薬局チェーンとしての特性

キミア・ファルマの薬局チェーンKFAは、医薬品販売を中心とした伝統的な薬局モデルを基盤としています。

医薬品(処方薬・一般用医薬品):売上の約80~85%(調剤を含む)
化粧品・美容関連:売上の約5~10%(自社ブランド化粧品や市販コスメなど)
日用雑貨・衛生用品:売上の約5%前後(マスクや消毒剤、ベビー用品等)
食品:売上の約5%未満(健康補助食品や栄養ドリンク等)

国民皆保険(JKN)の処方箋需要を背景に、処方薬を含む医薬品販売が売上の大部分を占めていますが、近年は「ヘルス&ビューティ」を掲げてOTC医薬品やコスメ分野にも注力し始めています。


デジタルヘルスへの取り組み

キミア・ファルマは積極的なデジタル戦略を展開しており、特に顧客関係管理(CRM)技術の導入により購買データ分析による需要予測やマーケティング効率化を進めています。
さらに政府系病院と連携したオンライン処方箋アプリの開発も進行中で、電子カルテ(EMR)や医師の処方情報と薬局システムを接続するインフラ整備に取り組んでいます。患者はスマートフォンで医師診療を受け電子処方箋を発行してもらい、最寄りのキミア・ファルマ薬局でスムーズに薬を受け取れる仕組みが構築されつつあります。
このようなデジタルヘルスの取り組みにより、新たな顧客層の獲得や業務効率化(処方受付の迅速化、在庫最適化など)を実現しています。また、自社ECサイトや外部マーケットプレイスでの公式ストア運営にも注力し、OTC医薬品やサプリメントのオンライン販売を強化しています。

モバイルアプリとサービス展開

キミア・ファルマは公式モバイルアプリ「Kimia Farma Mobile」を提供しており、処方薬の予約や一般薬のオンライン注文、近隣店舗検索、健康相談などの機能を充実させています。アプリ利用者向けにクーポン配布や配達サービスも拡充し、デジタル経由の利便性向上に努めています。
同社は国民皆保険(BPJS/JKN)の指定薬局ネットワークとして保険患者の利用が多いという特性を活かし、定期利用者へのフォロー(投薬履歴管理やリフィル提案など)を通じた関係性強化を図っています。デジタル会員登録した顧客には健康情報や予約リマインドなどのサービスも提供し、公的保険制度と連携した独自の顧客基盤の活用を進めています。


アポテックK-24(PT K-24 Indonesia)

24時間営業の薬局チェーンとしての成長

アポテックK-24は2002年創業のインドネシア最大の民間フランチャイズ薬局チェーンです。24時間年中無休の薬局をコンセプトに、初期からフランチャイズ方式で急速な店舗展開を実現してきました。
店舗数は2021年頃に約500店だったものが、2022年に600店超、2023年には700店超と着実に増加。2024年10月時点では156都市に750店以上を展開するまでに成長し、2026年までに1,000店舗という野心的な目標を掲げています。


医薬品特化型の商品構成

アポテックK-24の商品構成は医薬品に特化した内容となっています。

医薬品(処方薬・OTC):売上の約90%前後(主力事業)
化粧品:売上の約2~3%(スキンケアや基礎化粧品を少量取扱い)
日用雑貨:売上の約5%前後(オムツや衛生用品、マスク等)
食品:売上の約2~3%(栄養ドリンク、水、乳児用ミルクなど)

チェーン名の「K」は「Komplit」(品揃え完備)を意味し、その名の通り処方薬から一般薬まで幅広く取り揃えているのが特徴です。24時間営業という特性から、夜間の緊急需要に対応できる品揃えも工夫されています。


サービス保証と経営理念

アポテックK-24は創業当初より5つのサービス保証を掲げ、これを全店舗で徹底しています。

24時間年中無休の営業
時間帯による価格差を設けない
医薬品在庫の充実
正規品のみの取り扱い
無料薬剤師相談・配達サービスの提供

これらのサービス保証を徹底することでブランド信用を築き、フランチャイズ展開においても加盟店教育を重視し、どの地域のK-24でも同じ水準のサービスが受けられる体制を整えています。


デジタル医療サービスの展開

K-24は自社で24時間対応のオンライン医師相談サービス「Dokter Siaga Online」を提供しており、顧客は遠隔診療で処方箋を発行してもらい、そのままK-24薬局で処方薬を受け取ることができるシステムを構築しています。この革新的なサービスは2024年に評価され、同社はインドネシアのフランチャイズ・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。
さらに、カスタマーサポート面でもコールセンターやSNS、Googleビジネスを活用した顧客対応窓口を整備し、問い合わせに迅速に対応する体制を整えています。これらのデジタル施策により、「いつでもどこでもK-24」という利便性を向上させ、他チェーンとの差別化を図っています。


オンラインプラットフォームと会員制度

アポテックK-24はオンライン薬局プラットフォーム「K24Klik」を運営しており、スマートフォンアプリから医薬品の在庫確認・注文・宅配依頼が可能です。アプリには会員機能も統合されており、ユーザーは電子会員証を店舗で提示することができます。
K-24の会員ロイヤルティプログラムでは、25,000ルピアの購入ごとに250ポイント(実質1%還元)が付与され、貯まったポイントは会計時の値引きや記念品との交換に利用できる仕組みとなっています。会員カードは全国の加盟薬局で利用可能であり、購入履歴も統合管理されているため、利用者にとって便利なシステムとなっています。
また、会員登録時にメールアドレスを提供すると、健康情報やプロモーションを知らせるニュースレターが配信される仕組みもあり、デジタルマーケティングに活用されています。


インドネシアのドラッグストア市場の今後の展望

インドネシアのドラッグストア市場は、人口増加と中間層の拡大、健康意識の高まりなどを背景に今後も成長が見込まれています。特に各社が積極的に進めているデジタルトランスフォーメーションにより、オンラインとオフラインを融合したサービスモデルが一層進化すると予想されます。
3社はそれぞれ異なる強みを持っており、ガーディアンは美容・コスメ中心の品揃えとモール立地、キミア・ファルマは国営企業としての信頼性と調剤薬局ネットワーク、アポテックK-24は24時間営業の利便性とフランチャイズ展開力を活かした競争を展開しています。
今後はデジタルヘルスケア領域でのサービス競争が一層激化し、医療機関との連携や健康管理アプリの機能強化など、単なる小売業の枠を超えたヘルスケアプラットフォーム化が進むことが予想されます。インドネシアでは依然として個人経営薬局も多い中、これら大手チェーンは積極的投資と革新的施策で市場シェアを伸ばしており、業界再編も含めた動きが加速する可能性があります。


参考資料

ガーディアン(PT Hero Supermarket Tbk)年次報告書、DFIリテールグループ決算資料
ビジネスニュース(Bisnis, Kontan, Emitennews)
キミア・ファルマ公式プレスリリース・投資家資料
PEFINDO信用格付レポート、IRJEMS学術論文
アポテックK-24公式ニュースリリース、フランチャイズグローバル記事
各社ウェブサイト・アプリ情報
Chameleon Pharma Consulting 市場調査レポート

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