カナダのドラッグストア市場分析:3大チェーンの戦略と最新デジタル施策

カナダドラッグストア業界の概況

カナダのドラッグストア業界は、大手3社を中心に競争が活発化しています。業界をリードするのはショッパーズ・ドラッグマート(Shoppers Drug Mart)、ジャン・クティ(Jean Coutu)、そしてレクサル(Rexall Pharmacy Group)です。これら3社はいずれも大手小売・ヘルスケアグループの傘下にあり、処方薬とフロントストア(一般商品)の両面でサービス提供を行っています。
市場環境としては、高齢化の進行による処方薬需要の増加、消費者の健康志向の高まり、そしてデジタル化の波が主要トレンドとなっています。特にCOVID-19パンデミック以降、ドラッグストア各社はデジタルサービスの拡充を加速させ、顧客体験の向上とデータ活用による収益性改善を図っています。


ショッパーズ・ドラッグマート(Shoppers Drug Mart)


企業概要と業績推移

ショッパーズ・ドラッグマートはカナダ最大のドラッグストアチェーンで、食品小売大手のLoblaw Companies傘下で展開しています。過去3年間の業績は着実な成長を示しており、売上高は2021年の約148億ドルから2023年には約172億ドル(約1.79兆円:1カナダドル104円計算)へと拡大しました。これはLoblaw社全体売上(2023年約595億ドル)の約3割を占める規模です。
2023年時点で1,300店を超える店舗網を有し、全州・準州に出店しています。買収時の2014年に約1,250店だった店舗数は着実に増加し、このほか介護用品店(Wellwise)など特殊業態店も一部運営しています。
営業利益率はミッドシングル(5~7%)程度と推定され、グロスマージン(売上総利益率)は約39%、税引後の純利益率が約6.2%と分析されています。高マージンのビューティ部門が利益率を押し上げる一方、処方薬部門はジェネリック普及等で粗利率が圧迫されている状況です。
既存店売上の前年比は2021年が+5.0%、2022年が+6.9%、2023年も+5.4%と好調を維持しました。特に2022年はフロント(雑貨)売上が前年比+11.5%と大きく伸び、薬局売上も+5.4%増加しています。パンデミック下で咳・風邪薬や高級コスメの需要増が売上を牽引しました。


商品カテゴリー構成

ショッパーズの売上構成は大きく二つのカテゴリーに分かれています:
・処方薬(調剤)部門
処方薬売上は全体の約50%を占めています。2023年は調剤部門売上約86億ドルと推計され、前年比+6.8%成長しました。ジェネリック医薬品の普及で単価は下がる傾向にあるものの、調剤回数や薬剤師によるケアサービスの拡充で売上拡大を図っています。


・フロントストア部門
非処方の店頭部門売上も全体の約50%です。美容・化粧品がフロント売上の中核であり、高利益率カテゴリとなっています。そのほかOTC医薬品(一般用医薬品)、ヘルス&ビューティ(トイレタリー)、日用雑貨、スナックや飲料などの食品・コンビニ商品も展開しています。
近年は特に美容(コスメ)カテゴリーが二桁成長するなど牽引役となっており、全社の売上構成比でも美容関連が2割前後を占めると見られます。店頭部門全体では2023年に約85億ドル(前年比+4.2%)の売上となっています。

デジタル戦略と取り組み

ショッパーズは親会社ロブロー社の戦略の下、「食料品とドラッグストアの統合的な小売エコシステム」を強みとしており、デジタル活用による顧客エンゲージメントとヘルスケアサービスの拡充に注力しています。


デジタル小売と個客志向

全社戦略の最優先事項に「デジタル小売(Digital Retail)とPC Optimum」を掲げ、電子商取引プラットフォームの強化と顧客体験の向上を進めています。具体的には、ショッパーズのECサイト強化(美容専門のオンラインショップや処方薬のオンライン注文導入など)や、店舗受取サービスの拡大などを推進。
また、Loblaw Mediaという自社デジタル広告基盤を活用し、オンラインと店頭双方でメーカー向け広告を展開して収益源とする戦略も取っています。


PC Optimumによるパーソナライズ

PC Optimum™は「カナダで最も強力なロイヤリティプログラム」と位置づけられ、その膨大な購買データを活用した個別最適なオファー配信により販売促進を図っています。実際、ロブロー社全体で年間10億件以上のトランザクションデータを分析し、的確なクーポン・プロモーションを配信することで、顧客一人当たり売上(シェアオブウォレット)の拡大に繋げています。


ヘルスケアのデジタル化

ショッパーズは「Connected Healthcare(つながるヘルスケア)戦略」を推進し、テクノロジーによって患者と医療提供者を結びつけるエコシステム構築を目指しています。
2020年にはスマートフォン向けの「PC Health」アプリを開始し、健康相談チャットやウェアラブル連携、健康増進プログラムを提供しています。同アプリでは健康ミッションの達成でPCポイントが貯まる仕組みも取り入れ、デジタルヘルスとロイヤリティの融合を図っています。
さらに、Maple社(遠隔医療)との提携でアプリからオンライン診療・処方を受けられるサービスも展開。また近年はオンタリオ州などで薬剤師の処方権拡大に合わせ、店内に薬剤師主導のクリニックを新設(2023年に74拠点開設)するなど、デジタルとリアル両面でヘルスケア提供能力を強化しています。


会員制度とロイヤルティプログラム

ショッパーズのロイヤルティ戦略の中核となっているのがPC Optimum™(ピーシー・オプティマム)です。2018年に旧Shoppers OptimumとLoblawsのPC Plusを統合して誕生した共通ポイントプログラムで、現在会員数は数百万世帯規模にのぼります(カナダ人口の過半が参加とも言われます)。
毎日200ドル購入ごとに1万ポイント(10ドル相当)が貯まる基本設計で、アプリやウェブで個別のボーナスオファーを毎週配信し、来店頻度・単価向上を図っています。ショッパーズ店頭だけでなく、ロブロー系のスーパーマーケット等でも共通してポイントが貯まるため利便性が高く、Loyalty One誌の調査で顧客ロイヤリティNo.1に選ばれるなど高い支持を得ています。
公式アプリ「PC Optimumアプリ」ではポイント管理やオファー確認ができ、セルフスキャン決済との連携などデジタル施策とも融合しています。また「Shoppers Drug Mart公式アプリ」では処方箋のスキャン送信やリフィル依頼が可能で、処方履歴確認やリマインダー通知などデジタルでの顧客囲い込みに繋げています。


ジャン・クティ(Jean Coutu Group)


企業概要と業績推移

ジャン・クティは2018年以降、食品小売大手メトロ社(Metro Inc.)の薬局事業部門として運営されています。カナダ国内専業で、グローバル展開はありません。
メトロ社の発表によれば、2022年度の同社全体売上188.9億ドルの約20~22%を薬局事業(ジャン・クティおよび関連薬局)が占めています。この比率から推計すると、ジャン・クティ事業の2022年売上高は概ね40億ドル前後、2023年度はメトロ全体が207.2億ドルと初めて200億を超えたため、薬局事業も45億ドル程度に拡大したとみられます。
2023年現在で約420店舗を展開しています。主力のPJCジャン・クティ(標準店)に加え、ヘルスケア専門の小型店PJCサンテ(Santé)やBrunet(ブルネ)などのバナーを含めた総数です。地域別ではケベック州を中心に、ニューブランズウィック州やオンタリオ州東部にもフランチャイズ展開しています。
店舗網はフランチャイズモデルで、各店舗は加盟薬剤師が経営し本部が商品供給・マーケティング支援を行う形態です。近年は年に数店舗ずつ新規開店や既存店の改装が行われており、2022年度にはケベックで新規2店、オンタリオの食品スーパー内に調剤薬局2店を開設しています。
メトロ社全体では2023年度に営業利益(税引前利益ベース)9.5%、EBITDAマージン9.5%を記録しています。ジャン・クティ部門単体の損益は非公開ですが、一般に食品小売より薬局小売の方が利益率はやや高いと言われます。
既存店売上前年比は2021年度が+3.4%と堅調、2022年度は+7.9%と大幅増(処方箋+6.7%、フロント商品+10.6%)、2023年度も+6.5%(処方箋+6.3%、フロント+7.0%)と高成長を維持しました。


商品カテゴリー構成

ジャン・クティの売上も、大きく二つのカテゴリーに分かれています:
・処方薬部門
処方薬関連が売上の5割強を占めるとみられます。既存店ベースでは処方箋売上が2022年+6.7%、2023年+6.3%と拡大を続けています。2022年・2023年はいずれも処方箋枚数の増加(家庭医不足の中で薬剤師の対応拡大)やワクチン接種・検査需要が売上押し上げ要因となりました。
メトロ社は薬局部門について「処方箋の前線役割拡大」が成果を上げたと述べており、今後も薬剤師の担うヘルスサービス拡充によって処方薬売上の伸長を図っています。

・フロントストア部門
ビューティ・化粧品、OTC医薬品、日用品・雑貨、食品などの非処方部門売上が残りの約4~5割を占めます。美容(コスメ)商品はジャン・クティの強みであり、香水やメイク用品の豊富な品揃えで知られます。
2022年は既存店フロント売上が前年から+10.6%と急伸しました。これはOTC医薬品(市販薬)やビタミン剤の特需(コロナ後の感染症流行による)に加え、美容・化粧品の売上回復が寄与しています。2023年もフロント売上は+7.0%と引き続き高い伸びを示しました。


デジタル戦略と取り組み

ジャン・クティ(メトロ社薬局部門)は、食料品事業とのシナジーとローカル市場でのヘルスケア強化を経営方針としています。特に近年はデジタル戦略の一環として独自ロイヤリティプログラム「Moi(モワ)」の導入やオンラインサービス強化に注力しています。

食料品×ドラッグの相乗効果

親会社メトロは食品スーパーとドラッグストアの両事業を持つ強みを活かし、両チャネルの購買データ統合と販促連携を戦略の柱としています。「お客様が我々の食料品と薬局ネットワークの補完性を最大限に享受できるようにする」という方針の下、2023年に統合ロイヤリティ「Moi」プログラムを開始しました。
これにより顧客IDを横断して把握し、パーソナライズドな販促を実現しています。また、食品スーパー店内にジャン・クティ薬局を併設する試みもオンタリオ州で進めており、ワンストップで食と健康を提供するモデルを拡大中です。


デジタル戦略とOMO

メトロ社はMoi導入を「デジタル戦略における大きなマイルストーン」と位置づけています。顧客の購買行動がオンラインとオフラインを行き来する現在、モバイルアプリやウェブを通じたシームレスな体験を重視しています。
具体例として、ジャン・クティ店舗の約300店で「クリック&コレクト(オンライン注文・店頭受取)」サービスを展開しており、処方箋や店頭商品の事前注文が可能です。2022年度末時点でこのBOPIS(店頭受取)サービスは全体の7割超の店舗に導入されました。
さらに、ジャン・クティ公式サイトでは処方箋のオンラインリフィル(再調剤依頼)や店舗在庫の確認機能も提供し、顧客の利便性向上と業務効率化を両立しています。


ヘルスケアサービスの拡充

ヘルスケア面では、薬剤師の役割拡大に伴いサービス強化を打ち出しています。例えば、2023年にはオンタリオ州で薬剤師による軽度疾患の処方解禁を受け、ジャン・クティでも対応強化。店舗にプライベートカウンセリングルームを設置し、顧客がオンライン予約で薬剤師相談できる仕組みを導入しました。
また、ケベック州での遠隔医療サービスとも連携を模索し、地域医療のハブとしてドラッグストアを位置づける戦略です。デジタル面でも、処方データと健康アドバイスを組み合わせたパーソナルヘルスレポートをアプリで提供する構想が進行中と報じられています。


会員制度とロイヤルティプログラム

ジャン・クティの会員制度の中核は「Moi™(モワ)リワードプログラム」です。2023年5月にケベック州で正式ローンチしたこの新統合ポイントプログラムは、Metro(食品)、Super C、Première Moisson(ベーカリー)及びジャン・クティ/ブルネ薬局の5業態約900店舗が参加し、97%のケベック世帯をカバーするカナダ最大級のポイント連合となりました。
会員は1ドル購入ごとに1ポイント貯まり、500ポイント=4ドル相当としてレジで即時値引きに使えます。年会費無料の提携クレジットカード(RBC社発行Moi Visa)も導入し、カード決済でポイント二重取りや提携先(ガソリンスタンド、ホームセンター等)での特典を提供しています。
Metro社は旧来の「metro&moi」プログラムで培った個客分析ノウハウを活かし、Moiではより個別化されたオファー配信や即時ポイント還元によりエンゲージメント向上を図るとしています。ジャン・クティも長年提携していたAir Milesから脱退しMoiに一本化しました。会員は公式アプリ「Moiアプリ」でデジタル会員証を提示でき、各業態ごとのパーソナルクーポンも受け取れます。導入から1年で会員数は220万人(その内100万人が新規)に達し、メトロ社は「想定以上の成功」と述べています。
「PJCアプリ」でも処方箋のリフィル注文、処方履歴の閲覧、リマインダー設定、店舗検索など薬局利用に特化した機能が提供されています。Moi導入後はポイント機能も統合されつつあり、将来的にMoiアプリで処方管理まで可能になる見込みです。


レクサル・ファーマシー・グループ(Rexall Pharmacy Group)

企業概要と業績推移

レクサルはカナダ第2位規模のドラッグストアチェーンです(店舗数ベースではGuardian/IDAに次ぎ第2位)。正確な売上高は非公開ですが、2016年に米国マッケソン社が買収した際に年間売上高約20~25億ドルと推定されていました。
以降、調剤需要の増加に伴い緩やかに成長し、2023年前後には推計25億ドル超の売上規模と考えられます。グローバル展開はなく、親会社変更(2024年にマッケソン社→カナダ系PEファンドのバーチ・ヒル社)後もカナダ国内事業に専念しています。
2023年時点で全国に約400店舗を展開しています。主にオンタリオ州と西部4州(アルバータ、ブリティッシュコロンビア等)に集中し、他にマニトバなどにも店舗があります。店舗フォーマットは標準的ドラッグストアの「Rexall」のほか、一部病院内薬局など特殊立地も含みます。従業員数は約8,000人です。
営業利益率は非公開のため推定となりますが、競合他社並みかやや低めと考えられます。カナダ市場2位とはいえ規模効果でショッパーズより劣り、また近年は激しい価格競争の中で利益率圧迫が指摘されていました。それでも業界平均程度の営業利益率5%前後、EBITDAマージン8~10%程度は維持していると見られます。
既存店売上前年比は公表されていませんが、業界トレンドから2022年に+5~6%台の成長を遂げていたと業界紙で報じられています。特に2022年は咳・風邪薬や抗原検査の需要増でOTC売上が伸び、処方箋もワクチン接種で客数増となりました。2023年はそれらの反動減を処方箋数の増加が補い、前年並みの売上を維持した模様です。


商品カテゴリー構成

レクサルの売上構成も、主に二つのカテゴリーに分かれています:
・処方薬部門
レクサルの売上の約半分強は調剤・処方薬関連です。店舗によっては処方薬売上が6割以上を占めるところもありますが、チェーン全体平均では55%前後と考えられます。
2020年以降、処方箋枚数は堅調に増えています。レクサルでは処方箋の写真送信サービスをアプリで提供しており、デジタル経由の処方受付も拡大中です。また高齢者施設向け調剤(Rexall Health Solutions)事業も一部行っており、これら処方関連が収益の柱です。

・フロントストア部門
非処方部門(店頭売上)は全体の約45~50%を占めます。品揃えは他チェーンと類似し、OTC医薬品・ビタミン剤、ヘルス&ビューティ(化粧品・パーソナルケア)、日用品、食品・飲料などです。
特にレクサルは「ヘルスケア特化型ドラッグストア」を標榜しており、健康志向商品を強化しています。2020年に発表した調査では「若年層の75%がデジタルヘルスサービス利用に前向き」との結果が出ており、それを踏まえ健康食品やサプリメント、ウェアラブル連携機器などの品揃え拡充も行いました。
コスメ商品はショッパーズほどの高級ラインナップはありませんが、一般的なメイク・スキンケアブランドは扱っており売上の一部を占めます。日用品や雑貨では、2020年にオフィス用品大手Staples社との提携で文房具コーナーを300店舗に設置するなど、差別化も図っています。


デジタル戦略と取り組み

レクサルは「Health、Wellness、Rewardsの融合」を掲げており、他チェーンとの差別化としてヘルスケア重視の戦略を採っています。特に2020年に導入した会員アプリ「Be Well™」を軸に、データとデジタルを活かしたサービス展開を強化しました。


ヘルスフォーカス戦略

レクサル社長のニコラス・カプリオ氏は「従来のポイントプログラムは顧客の期待を満たせていない。求められるのは単なる報酬以上の価値(バリュー)とヘルスケアサポートだ」と述べ、2020年に大胆な施策転換を行いました。
それが健康とウェルネスに焦点を当てたBe Wellプログラムです。社内調査では「3人に1人が処方リフィルを面倒に感じた経験がある」「4人に1人は自身の服薬履歴を一元管理できていない」といった課題が浮き彫りになっており、これをデジタルで解決しようという狙いです。

Be Wellアプリの活用

2020年9月に公式リリースされた「Be Well®」は、ヘルスケア機能とロイヤリティを統合したスマートフォンアプリです。利用者は以下のようなサービスを受けられます:

健康情報の一元管理:処方薬やワクチン接種の履歴を安全に閲覧でき、自身の薬剤リストや予防接種状況を把握可能。さらに心拍数や歩数などの健康指標をアプリ内でトラッキングでき、個人の健康管理ツールとして機能。
ポイントの獲得・利用:購入1ドルにつき10ポイントが貯まり、店頭で10,000ポイント=$4として利用可能。特筆すべきは購入履歴や健康目標に応じたパーソナライズドクーポンが配信される点で、例えばサプリ購入者には次回割引や関連商品の提案がなされます。
デジタル処方サービス:アプリから処方箋の写真送信ができ、店舗での受け取りをスムーズにします。さらに処方のリフィル通知・管理機能や、カナダ初の試みとして薬剤師とのバーチャル相談、ラボ検査結果の参照といったサービスも順次導入しています。

このようにBe Wellは「ヘルスケア・プラットフォーム」として設計されており、「健康管理をシンプルかつリワーディング(報われる)にする」ことを目的としています。リリース以来、数十万規模のユーザーを獲得し、レクサルは他社にはない健康重視の顧客基盤を築きました。


提携とクロスユーティリティ

Be WellはCarebook社と提携して開発されており、薬局システムとの連携をスムーズにしています。また、2022年にはRBC(ロイヤルバンク)と提携し、同行クレジットカード利用者がレクサルでポイント優遇を受けられるプログラムを開始しました。
これにより金融×ドラッグのデータ連携も進み、より高度な顧客分析が可能となっています。さらに、他業種との協業(上述のStaplesや、スーパーマーケットチェーンへの薬局併設など)も進め、様々な接点でBe Wellを活用できるようにする戦略です。


会員制度とロイヤルティプログラム

レクサルの会員制度の中心はBe Well™プログラムです。「カナダでもっともヘルスフォーカスなロイヤリティプログラム」とうたわれ、2020年の開始以降チェーンの代名詞となっています。
基本ポイント付与(10ポイント/$1)のほか、個別会員ごとに健康目標達成によるボーナスポイントや誕生日特典なども提供されます。アプリ上で服薬リマインダーやヘルスチェックリストが送られてくるなど、単なる購買ポイントに留まらない顧客エンゲージメントが特徴です。
2022年には会員ID連携を容易にするため物理カードの無料配布も開始し、高齢顧客にも対応しています。現在では全店舗売上の大半がBe Well会員による購買となっており、レクサルのマーケティング施策はBe Wellを中心に展開されています。
Be Well会員はパーソナライズされた健康増進コンテンツを受け取れます。例えば血圧チェックキャンペーンや禁煙支援プログラムの案内、ワクチン接種時期のリマインド等です。これらは会員の年齢・性別・購買履歴データに基づき配信され、適切なタイミングでの来店誘導につなげています。
また、アプリ内の「バーチャル薬剤師」機能ではチャットボットや薬剤師とのテキスト相談が可能で、小さな疑問でも気軽に問い合わせできる環境を提供しています。こうした健康サポート充実とポイント還元をセットにすることで、ヘルスケア分野でのロイヤリティ強化を図っています。
レクサルは2020年までAir Miles提携店でしたが、「顧客のニーズに合わない従来型プログラム」と判断し離脱しました。代わりにBe Wellを立ち上げ、既存顧客の取り込みを行いました。Air Miles会員に対してはBe Well入会促進キャンペーンを展開し、スムーズに移行しています。


カナダドラッグストア3社のデジタル戦略比較

共通するトレンドと各社の特色

カナダの大手ドラッグストア3社を比較すると、いくつかの共通するデジタル戦略のトレンドが見えてきます。
まず、いずれの企業もオムニチャネル戦略を重視しています。店舗とオンラインチャネルの融合により、顧客がシームレスに買物体験ができるよう注力しています。特にクリック&コレクト(オンライン注文・店舗受取)サービスはコロナ禍を経て3社ともに拡大し、処方箋のオンライン管理や調剤依頼機能も共通して強化しています。
第二に、独自ロイヤルティプログラムによる顧客囲い込みを強化しています。ショッパーズのPC Optimum、ジャン・クティのMoi、レクサルのBe Wellはいずれも従来のポイントカードから進化し、スマートフォンアプリを中心とした顧客エンゲージメント基盤となっています。特徴的なのは、単なるポイント還元だけでなく、購買データを活用したパーソナライズドマーケティングの実践です。
第三に、ヘルスケアサービスの拡充です。薬剤師の役割拡大に合わせ、3社ともに処方箋管理を超えたヘルスケアプラットフォームの構築を目指しています。薬剤師によるカウンセリング強化やバーチャル相談、健康増進プログラムの提供など、健康管理に関わる領域への拡大が進んでいます。

一方で、各社の特色も明確です。

ショッパーズ・ドラッグマート:食品小売との統合的エコシステムを強みとし、美容カテゴリーも強力。PC Optimumを軸にデータドリブンな販促と、ヘルスケアアプリによる健康支援を両輪で展開。
ジャン・クティ:ケベック州を中心とする地域密着型で、食品スーパーとのシナジー追求。Moiプログラムで食と健康の統合的アプローチを強化し、フランス系市場におけるローカライズされたサービスに注力。
レクサル:ヘルスケア特化型を鮮明にし、Be Wellプログラムでは健康管理機能をポイント還元と直接結びつけるユニークな戦略。薬剤師の専門性強化とデジタルヘルスの融合を目指している。

今後の展望と課題

カナダのドラッグストア業界は今後も変化が続くと見られます。以下のような要素が今後の展開を左右するでしょう。
・デジタルと実店舗の最適バランス

3社ともにデジタル施策を強化する一方、実店舗の役割も再定義しています。処方箋業務のデジタル化が進む中、薬剤師の対面カウンセリングや健康相談といった高付加価値サービスへの転換が鍵となります。同時に、美容カテゴリーなど体験価値の高い商品の試用・販売拠点としての店舗の役割も重要になっています。


・ヘルスケアエコシステムの構築

単なる小売業から、総合的なヘルスケアプロバイダーへの転換が進んでいます。遠隔医療サービスとの連携、保険会社との協業、ウェアラブルデバイスとの統合など、より広範なヘルスケアエコシステムの一部としてのドラッグストアの位置づけが強まっています。


・データプライバシーとセキュリティ
購買データと健康情報を組み合わせたマーケティングは強力である一方、顧客のプライバシー保護とデータセキュリティがますます重要になっています。3社とも顧客データの取り扱いに関する透明性確保と信頼構築が欠かせません。

・後発品普及と薬価圧力への対応
処方薬売上の過半を占める調剤部門では、後発医薬品の普及拡大や薬価引き下げ政策により利益率が圧迫される傾向にあります。この課題に対し、調剤の効率化やヘルスケアサービスの付加価値向上による収益多様化が重要です。


まとめ:小売DXの最前線としてのカナダドラッグストア

カナダのドラッグストア3大チェーンは、いずれもデジタルトランスフォーメーションの最前線に立ち、顧客体験の革新と業務効率化を進めています。特にデータとデジタルを活用した個客マーケティングと、ヘルスケアサービスのデジタル化は、今後の小売業におけるDX戦略のモデルケースとなるでしょう。
3社はそれぞれの特色を活かしながらも、共通してオムニチャネル戦略とモバイルアプリ中心のロイヤルティプログラムの強化を進めています。顧客の購買データと健康情報を統合的に活用することで、単なる商品販売から健康支援サービスへと事業領域を拡大し、新たな付加価値の創造を目指しています。
この動向は日本を含むグローバルな小売業界、特に健康・美容関連ビジネスにおいても参考になる点が多く、「小売×データ×ヘルスケア」の融合という新たなビジネスモデルの方向性を示唆しています。


参考資料

Shoppers Drug Mart – Loblaw Companies Limited 年次報告・決算説明資料(2021–2023年)
Jean Coutu (Metro) – METRO Inc. 年次報告・決算プレスリリース(2021–2023年)
Rexall – Rexall 公式ニュースリリース(2020年Be Well発表)
Reuters, Canadian Grocer, Commerce Detail 各種業界レポート
Statista, Supermarket News 市場データ
各社公式ウェブサイト(shoppersdrumart.ca, jeancoutu.com, rexall.ca)

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