障害や福祉について語るとき、「結果平等」と「機会平等」、 そして「平等(Equality)」と「公平(Equity)」の概念は避けて通れません。 これらの違いを正しく理解することが、社会をよりよくする第一歩と言えるでしょう。 本記事では、それぞれの特徴と障害者支援・女性のライフステージ支援における実践例を踏まえ、 障害の社会モデルの重要性を含めて考察します。
1. 結果平等と機会平等
結果平等(Equality of Outcome)
結果平等は、 最終的な成果や結果をすべての人に均等に与える考え方です。 たとえば、マラソン大会で速く走った人も遅かった人も同じ賞品を 受け取るようにするイメージです。
機会平等(Equality of Opportunity)
機会平等は、 誰もが同じスタートラインに立ち、公平に競争できるようにする考え方です。 マラソン大会で言えば、全員が同じ靴や同じスタート時間で走ること。 ただし結果は、能力や努力によって変わります。
結果平等は「最終的な結果」を均等にするための調整を重視しますが、 機会平等は「スタートライン」を同じにし、個々の能力に応じた結果を受け入れる考え方です。 結果を一律に揃えるのではなく、まずはスタートラインを整えることが、 多様な人材が活躍できる社会を目指すうえでの重要なポイントです。
たとえば、出産や育児などライフステージの変化をサポートし、 女性を含めたすべての人が継続的にキャリアを築ける環境を用意することが求められます。 結果だけを均一化しようとすると、個々が本来持っている 多様な能力や努力の方向性が生かされにくくなるため、 根本的な問題解決には結びつきません。
【参考情報】
国際労働機関(ILO)は「機会均等(Equal Opportunity)」に関するガイドラインを示し、 雇用分野での差別をなくすための取り組みを推奨しています。
ILO “Equality and Discrimination”
2. 公平と平等
平等(Equality)
平等は、 すべての人に同じものを与えることを指します。 たとえば、全員に同じサイズの靴を配るのは「平等」ですが、 足のサイズが異なる人には合わない場合があります。
公平(Equity)
公平は、 個々の状況やニーズに応じて必要なものを与えることです。 足のサイズが違えば、それに合った靴を配るほうが「公平」と言えます。 平等は「同じ扱い」を重視する一方、 それが必ずしも公正な結果をもたらすとは限りません。 公平は「個別の状況に応じたサポート」を行うことで、 最終的に誰もが同じスタート地点に立てるようにする考え方です。
【参考情報】
世界保健機関(WHO)の報告書では、公平(Equity)を 「社会的に公正な状況をつくるために必要な不平等を是正する概念」として解説しています。
WHO “Social determinants of health”
3. 結果平等よりも機会平等を重視すべき理由
多様な人材が活躍する社会を目指すうえでは、結果を一律に揃えるのではなく、 まずはスタートラインを整えることが重要です。 なぜなら、結果だけを均一化しようとすると、個々の多様な能力や努力を 十分に反映できない恐れがあるからです。
また、たとえば「企業の取締役や管理職が男性ばかり」 「カンファレンス・セミナー等の登壇者が中高年男性に偏っている」 といった状況には、社会的・歴史的な背景や、 大企業で一定の知見を得るまでに年数がかかるといった構造的要因も影響しています。 さらに、出産などライフステージに大きな変化が生じる可能性がある女性にも、 男性と同様に「個別の状況に応じたサポート」を行うことで、 最終的に誰もが同じスタート地点に立てる“機会平等”が重要です。
結果が出るまでには時間を要するかもしれませんが、 こうした取り組みによって“因果”を無視した結果平等の歪みを抑え、 社会全体の持続的な発展に寄与することが期待されます。 一方で、こうした因果関係を無視して単に“結果”だけを均一化しても、 根本的な問題解決にはつながりません。
4. 障害者支援における「公平」の重要性
障害者に必要な支援は「平等(同じ支援を全員に)」ではなく、 個々の状況に応じた「公平(必要な支援を必要な人に)」でなされるべきです。 たとえば教育現場では、文字を読むことが困難な生徒だけにタブレット端末を配布し、 文字を拡大できるようにすることは、全員に同じタブレットを配るよりも 「公平」な対応といえます。
障害者だけでなく、妊娠・出産・育児などライフステージによって 制約が生まれやすい人にも焦点を当て、必要な配慮を“個別の状況”に合わせて 提供する視点が大切です。 こうした「公平(Equity)」を重視する取り組みこそが、 多様な人々が同じスタート地点に立って活躍できる社会を育む鍵になります。
5. 「障害の社会モデル」の考え方
ここで鍵となるのが、障害を「個人の問題」として捉えるのではなく、 「社会環境との相互作用」によって生じるとする 「障害の社会モデル」です。 たとえば車いすユーザーが2階に上がれない場合、 個人の身体機能だけではなく、エレベーターの有無や 建物のバリアフリー設計など環境要因が大きく影響します。
従来の「医療モデル(障害=個人の身体的・精神的機能の不備)」に対し、 この社会モデルは環境への働きかけを通じて障害を軽減・解消できる可能性を提示します。 また、国際連合の「障害者の権利に関する条約(CRPD)」では、 障害を持つ人々が社会のなかで平等に生活し、参加できるよう 環境整備を進めることの重要性が明確に示されています。
【参考情報】
・障害者の権利に関する条約(CRPD)
外務省:障害者の権利に関する条約
・障害者差別解消法(日本)
厚生労働省:障害者差別解消法に関する資料
6. まとめ
- 結果平等は「最終的な結果を一律に揃える」ことを重視し、機会平等は「スタート地点を揃える」ことを重視します。
- 平等(Equality)は“一律の対応”を指し、公平(Equity)は“個々の違いに応じた対応”を指します。
- 障害者や、ライフステージによって制約が生まれやすい女性に対しても、「必要なサポートを必要な人に」行う発想が不可欠です。
- 企業や社会のリーダー層が偏っている問題など、構造的・歴史的な背景を踏まえたうえで、まずは機会を広く開く(機会平等)ことが重要です。
結果を無理に揃えるのではなく、機会を均等にし、 必要な支援を柔軟に行うことが重要です。
私たち一人ひとりが何らかの制約を抱える可能性があるからこそ、
社会環境をバリアフリー化し、公平性を重視する姿勢が欠かせません。