※上場企業が対象であり、食品スーパーマーケットに区分されにくい企業もここでは対象外です。
いわゆる「食品スーパーマーケット」として市場認知されている企業の傾向をまとめたものです。
イオン リテール
過去3年間の業績データ
イオングループの中核企業イオンリテール(以降イオン)は食品スーパーと総合スーパー(GMS)事業を併せ持ち、国内最大の小売グループです。GMS・SM事業の年間売上高は、2021年度約5兆7,000億円、2022年度5兆8,000億円弱、2023年度は約6兆円強と緩やかに増加しました。
店舗数はグループ全体で国内2,000店以上にのぼり(GMS約350店、食品スーパー約1,600店)、2021~2023年度で新規出店・統合により店舗網を拡大しています 。
営業利益率は1~2%台と低めながら安定推移し、既存店売上高前年比は2021年度は微減~横ばい、2022年度は+0.3%、2023年度は+2~3%とコロナ禍後の回復基調が続きました。
カテゴリー別売上構成比
イオンのGMS・SM事業における商品カテゴリー構成は、食品が約6割強を占め、その内訳は生鮮食品(青果・精肉・鮮魚)が約35~40%、惣菜が10~15%、日配品・一般加工食品が約40~45%となっています (イオングループ上期決算状況とグループ各社新店、催事にみる新た …)。残りの約4割弱は非食品で、衣料品・住居余暇商品(家庭用品や衣料など)が含まれます (スーパー業界 売上高ランキング(2022-2023年)-業界動向サーチ)。
イオンでは自社開発商品「トップバリュ」を食品から衣料・日用品まで幅広く展開しており、食品売上に占めるプライベートブランド比率も高水準です。また、生鮮部門では産地直送や地域農産品の取り扱い拡大により青果18%・精肉12%・鮮魚6%とバランスよく構成し、日配21%・惣菜15%・一般食品26%(アルコール7%含む)という売上構成比のモデル店舗もあります (イオングループ上期決算状況とグループ各社新店、催事にみる新た …)(※一般食品には調味料・菓子・飲料等が含まれます)。
経営方針と戦略
イオンは「デジタルシフト」と「地域密着」を経営の軸に掲げ、グループ横断のDX戦略を推進しています。公式決算説明では、ネットスーパー事業の強化や店舗のデジタル化に注力し、2023年度は食品の伸長と衣料品の荒利益改善によって営業総利益が前年を上回ったとしています。
グループ全体でデータ活用と効率化を図り、店舗では電子棚札やスマートレジ導入を進め、省力化と在庫最適化による収益改善に取り組んでいます。また、英国Ocado社との提携による自動倉庫型ネットスーパーを開発し、2023年に千葉県で稼働開始するなど、先進技術でEC拡充を図っています。
リアル店舗面でも、食品スーパーのドミナント出店(例:2023年度は14店舗新規開店)を継続し、既存店の活性化策としてブラックフライデーなど大型セールや値引き企画で客数増加を狙いました。競合他社が進める都市型小型店展開に対しては、イオンも「まいばすけっと」や新業態の開発で応戦し、地域ニーズに合わせた店舗フォーマットの多角化戦略を取っています。また、環境変化に対応するため、店舗統合・再編(例:マックスバリュなどSM事業の地域会社統合)を進め、スケールメリットを生かした商品調達力・物流効率の強化で競争力向上を図っています。
アプリ・会員制度・ロイヤルティプログラム
イオンはグループ共通の電子マネー「WAON(ワオン)」とクレジット機能付きの「イオンカード」を軸に強力な会員基盤を有しています。WAON発行枚数は約8,800万枚(2023年時点)に達しています。
イオンは従来分散していた複数のアプリサービスを、iAEONを中心に統合・一元化を進めています。2021年9月から提供が開始されたiAEONは、WAONアプリをはじめとする複数のアプリ機能を統合した総合プラットフォームとして機能しはじめています。
2025年2月をもってイオンスクエアメンバーIDが終了し、iAEON IDへの完全移行が進められています。これにより、WAONポイントやお届け先情報などのユーザーデータは、iAEON IDのもとで一元管理されることになります。
「イオンお買い物アプリ」はイオンモールなどに入っている、「イオンスタイル」内でクーポンを使用できるアプリとなっており、専門店や他系列のイオンスーパーなどは対象外です。イオンお買い物アプリは引き続き存在するものの、iAEONアプリから起動して利用することができます。
iAEONアプリでは、WAONポイントの管理、AEON Pay決済、イオンラウンジ予約、電子レシート機能など、包括的なサービスを提供しています。この統合により、ユーザーはイオングループの様々なサービスを単一のIDで利用できるようになり、利便性が向上しています。特に決済、ポイント管理、店舗情報の確認といった基本機能が一つのプラットフォームに集約されることで、よりシームレスなサービス提供が実現されています
セブン&アイ・HD(イトーヨーカドー他)
過去3年間の業績データ
セブン&アイ・ホールディングスのスーパーストア事業(イトーヨーカドー、ヨークなど)は、2021年度の売上高約1兆380億円、2022年度1兆3910億円(旧基準ベース)、2023年度も約1兆0,500億円前後と横ばい推移となりました。
2023年9月にイトーヨーカドーとヨーク(旧:ヨークマート)を経営統合しており、同年度末の店舗数はイトーヨーカドー123店、ヨーク(食品スーパー業態)103店の計226店舗となっています。既存店売上高はコロナ禍からの回復で2021年度は前年割れ幅が縮小し(客数98.7%、客単価101.2% 、2022年度はほぼ前年並み(既存店99.9%)。2023年度は衣料品・住居品部門の不振を食品部門が補い、既存店売上はやや増加に転じました(前年比約+1%程度)。営業利益率は1~2%前後と低く、2021~2022年度は採算改善策で黒字は維持したものの1%台前半、2023年度も統合コスト等で2%弱に留まっています。
カテゴリー別売上構成比
イトーヨーカドー(総合スーパー)は衣料・住居関連も扱いますが、食品売上が全体の約6割を占めます。食品カテゴリー内訳は、生鮮食品が約30%強(青果・水産・畜産の合計)、惣菜約10%、日配品約20%、一般食品約30%となっており、総合スーパーとして豊富な品揃えを維持していますす。一方、非食品では衣料品が約15~20%、住居関連商品が約15%程度を占めます。
ヨーク(食品スーパー業態)では、生鮮の比率がさらに高く、青果・精肉・鮮魚合計で4割近く、総菜10%以上、日配・グロサリーなど加工食品で約45%、非食品はごく一部(5%未満)です。各社とも自社開発商品「セブンプレミアム」を強化しており、特にイトーヨーカドーでは総菜や日配でグループPB商品の売上構成比が高いのが特徴です。なお、セブン&アイ共通のポイントサービスとしてnanacoポイントを導入しているため、食品売場でもポイントキャンペーン等による集客が図られています。
経営方針と戦略
セブン&アイのスーパーストア事業は、近年の業績低迷を受けて抜本的改革に着手しています。経営方針として不採算店舗の閉鎖・スクラップアンドビルドを進め、2021~2023年で大型店の閉店・縮小を相次いで実施しました。また、2023年にはイトーヨーカドーと食品スーパー事業(ヨーク)の経営統合を行い、重複コスト削減と商品政策の一体化を図っています。
戦略面では「食の強化」に重点を置き、総合スーパー業態でも食品売場への投資を増やしました。たとえば、惣菜工場を新設してプライベートブランドの中食(お惣菜)開発を推進し、健康志向商品や簡便メニューの商品力向上につなげています。
また、競合他社が進めるDXに対抗し、スマートストア戦略の一環で「セブン&アイ公式アプリ」を活用したOMO施策を強化しました。具体的には、店舗受取りネット注文サービス「オムニ7」の刷新、セルフレジ・AIレジカートの導入試験、電子棚札の設置などを実施しています。2023年度の決算説明では、デジタル活用による業務効率化で営業利益率改善を目指す方針が示され、実際に既存店客数・客単価の回復で営業利益は前年比+8.2%増と改善傾向を示しました。加えて、ヨーカドー各店でテナント再配置による収益力強化(テナント料収入増)を図る戦略も進行中で、地域密着の品揃え強化と相まって総合スーパー事業の再建を目指しています。
2023年9月、イトーヨーカ堂と食品スーパーのヨークは経営統合を実施しました。この統合により、首都圏を中心としたスーパーストア事業の効率化とシナジー効果を追求しています。統合後も「イトーヨーカ堂」の名称で事業を展開し、商品開発や物流、システムを一元化することで固定費削減を図っています。
首都圏に店舗網を集中させる一方で、不採算店舗の閉鎖が進んでいます。2026年までに33店舗の閉鎖計画があり、特に北海道や東北からは撤退する動きが顕著です。
ヨークベニマルの役割
ヨークベニマルは東北地方を中心に展開しており、地域密着型戦略で堅調な業績を維持しています。新店舗出店計画が進行中で、生鮮食品や惣菜部門の強化にも注力しています。また、DX本部設置など組織改革も行い、中長期的な成長基盤を構築中です。
2024年10月に設立された中間持株会社「ヨーク・ホールディングス」は、イトーヨーカ堂やヨークベニマルなどスーパーストア事業全体を統括します。2025年度には外部資本導入による持分法適用会社化が予定されており、IPO(株式公開)も視野に入れています。ヒューリックやKKRなど外部企業との協力が進められており、不動産活用や店舗改装による収益力強化が期待されています。
コンビニ事業への集中とスーパー事業の自律性強化
セブン&アイ全体ではコンビニ事業へのリソース集中が進む中、スーパー事業は独自性を高める方向性が示されています。食品開発領域での協働体制は維持される予定です。
イトーヨーカ堂は依然として最終赤字が続いており(2024年2月期:259億円)、黒字転換にはさらなる改革が必要です。一方で、「食」の強化や首都圏集中戦略などによる収益改善の兆しも見えています。今後はIPO成功や新たな資本提携による成長基盤構築が焦点となります。
アプリ・会員制度・ロイヤルティプログラム
セブン&アイグループでは共通ID「7iD」による会員統合を進めており、イトーヨーカドーでは公式スマホアプリ「イトーヨーカドーアプリ」を展開しています。このアプリでは会員コードの提示でセブンマイルが貯まり、50マイル=50nanacoポイントに交換可能です。
主要特典として、毎月8のつく日の「ハッピーデー」で5%割引になるクーポンや、アプリ限定の時限クーポン(例:2000円以上購入で200円引き)を配信し集客に寄与しています。ポイントプログラムはグループ共通の電子マネー「nanaco」と連携しており、イトーヨーカドー各店でもnanaco支払いで基本1%のポイント付与があります。さらにセブンマイルプログラムにより、アプリ経由の買い物200円ごとに1マイルが貯まり、一定数をnanacoポイントへ交換可能な仕組みです。
決済面では、セブンカード(クレジット)やセブンペイ(※現在は廃止)に代わり、2023年よりアプリ内モバイルオーダーやコード決済への対応を拡大しました。これにより店舗でのスキャン&ゴー(スマホで商品バーコード読み取り・そのまま決済)サービスも一部導入され、レジ待ち解消や購買データの蓄積に活用しています。
会員制度は長期利用者向けにランク特典はありませんが、アプリ会員数は順調に増加しており、2023年時点でグループ全体の7iD会員数は2,700万人超となっています。これらデジタル施策により、店頭とオンラインを融合した顧客サービス向上とロイヤルティ強化を図っています。
ライフコーポレーション
過去3年間の業績データ
首都圏・近畿圏で約300店舗を展開するライフコーポレーションは、2021年度(2022年2月期)売上高7,683億円、2022年度7,654億円、2023年度8,097億円と増収基調にあります。既存店ベースでは、2021年度は前期比+0.2%と巣ごもり特需後も高水準を維持し、2022年度は前年比99.9%(客数98.7%、客単価101.2%)とほぼ前年並み、2023年度は+2.3%程度の増収となりました。
店舗数は2021年度末時点で約296店、2022年度末305店、2023年度末313店と着実に拡大しています。営業利益率は2~3%台で推移し、2021年度は3.1%、コスト増の2022年度は2.6%、効率化効果で2023年度は約3.0%となりました。食品スーパー単独企業としては堅調な利益水準を確保しています。
カテゴリー別売上構成比
ライフの売上構成は「食品」が約9割以上を占め、非食品は1割未満です。食品内訳は、生鮮食品(青果・精肉・鮮魚)が約35%強、惣菜が約10%、日配品と一般食品など加工食品が合計で約45~50%にのぼります。
ライフ独自の呼称では、生鮮部門、一般食品部門、生活関連用品部門、衣料品部門に分けており、直近期(2023年3~11月期)の部門別売上高は、生鮮2,666億円(前年同期比+5.7%)、一般食品2,739億円(+5.1%)、生活関連用品517億円(+2.8%)、衣料品170億円(+0.2%)となっています ([PDF] 2024 – 全国スーパーマーケット協会) (ライフ 決算/3~11月営業利益8%減、物件費・人件費増加の影響で)。このように生鮮・一般食品で全体の約85%を占め、衣料や日用品は15%程度にとどまります。生鮮では特に青果の品揃えに定評があり、青果・精肉・鮮魚の各売場に専門バイヤーを配置し品質訴求しています。惣菜比率も高く、ライフは総菜開発に力を入れているため、店内厨房で手づくりする惣菜(デリカ)売上構成比は10%以上となっています。また、ライフは「スマイルライフ」「ライフプレミアム」「BIO-RAL(ビオラル)」といった独自PB商品を多数展開し、特に自然志向のBIO-RALは全店の約8割に専用コーナーを設置しています。
経営方針と戦略
ライフは「豊かさと健康の提案」を掲げ、積極的な新規出店と既存店改革による成長戦略を推進しています。2021~2023年度にかけて首都圏・近畿圏で毎年5~10店舗の新規出店を継続し、店舗数拡大とドミナント強化で市場シェアを伸ばしました。
経営方針では、生鮮食品の強化とヘルス&ウェルネス戦略に重点を置き、PBブランド「BIO-RAL(ビオラル)」による有機・健康志向商品の開発や、菜食・低糖質といった新商品の投入を加速させています。また、関西地区でプロセスセンター(集中調理施設)の再編により弁当・惣菜の集中製造を強化し、店内作業を効率化するとともに総菜の品質向上と品揃え充実を図りました。
デジタル活用にも積極的で、ネットスーパー事業の拡大を図り、宅配エリアの拡張と受注拠点の増設によってEC売上は2022年度に約96億円(前期比+81%)に達しています (EC売上1000億円めざすライフコーポレーション、2022年2月期は81 …)。店舗のDXでは全店に電子棚札を導入し、発注や在庫管理にITを活用して人手不足対策と経費削減に取り組んでいます。営業利益は前年より26%増加するなどDXと商品施策の効果が現れています。他社動向では、関東で競合するヤオコーや関西の万代なども出店攻勢を強めていますが、ライフは都市部の大型店と郊外店のバランス出店や、プライベートブランド戦略で差別化を図り、堅調な業績を維持しています。
アプリ・会員制度・ロイヤルティプログラム
ライフは自社ポイントカード「ライフポイントカード(LCカード)」によるポイントプログラムを展開し、100円につき1ポイント(1円相当)を付与しています。主要な会員特典として、誕生月にポイントプレゼント、毎週日曜はポイント2倍デーなどの施策があります。特に近年は公式スマホアプリ「ライフアプリ」の普及に注力し、カードをアプリに連携することで会員証バーコードとして利用可能です。アプリではデジタルクーポン配信や抽選キャンペーン応募ができ、紙の折込チラシに替えて特売情報をプッシュ通知するなど、デジタル販促を強化しています。
また、ライフは独自の決済サービスとして決済アプリ「LIFE PAY」を導入し、会員のキャッシュレス比率向上を図っています。店頭では即時ポイント割引に対応したセルフレジや支払い時のコード決済も充実させ、アプリ経由でスマホ決済(コード払い)が可能です。ポイントは1ポイント=1円で次回以降の買い物に利用できるほか、一定数貯めて景品応募に充当することもできます。2023年時点でライフのアプリ登録会員数は74万人、ポイントカード会員数は約415万人に達し、デジタル会員基盤が急速に拡大しました。これにより、顧客の購買データを活用したパーソナルクーポン配信や、健康アプリとの連携による来店誘致(歩数に応じたポイント付与等)など、新たなロイヤルティ施策にも取り組んでいます。
フジ
過去3年間の業績データ
フジは中国・四国地方を地盤とする食品スーパー大手で、2022年度にイオン傘下のマックスバリュ西日本との経営統合を行いました。その結果、売上高は2021年度(2022年2月期)3,048億円から、統合後の2022年度7,849億円へと大幅増加し、2023年度は8,010億円(前年比+2.0%)と増収となりました。店舗数も統合により約60店舗から一挙に約300店舗超へ拡大し(2023年度末時点で推計350店舗規模)、2021~2023年度で新規出店も年間数店舗実施しています。営業利益率は統合初年度に1.4%(2022年度)でしたが、統合シナジー効果で2023年度は約1.9%に改善し、営業利益151億円(+33.5%増)と過去最高益を更新しました。
既存店売上高は、2022年度は統合準備の影響もあり微減でしたが、2023年度はリニューアル投資効果などで既存店が活性化し、食品中心に前年超えを達成しています 。なお、フジは2024年3月に持株会社体制へ移行し新生「株式会社フジ」(統合後事業会社の合併)として船出しており、今後の業績にも統合効果が本格的に反映される見通しです。
カテゴリー別売上構成比
統合後のフジでは、食品部門が売上の約90%近くを占めます。生鮮食品(青果・精肉・鮮魚)は合併前のフジ単体では約30%でしたが、マックスバリュ西日本の店舗では生鮮比率がやや低かったことから、統合後は生鮮合計で25~30%程度とみられます。一方、惣菜比率は約10%、日配品・一般食品など加工食品は合計で50%以上を占め、特に米どころ中国地方の地場ニーズに合わせて米飯・総菜に強みを持つ店舗もあります。非食品はホームセンター事業等を含めても1割未満で、衣料品はごくわずかです。
フジは経営統合後、商品カテゴリーについてイオングループとの連携を深めており、2022年よりフジ・リテイリング店舗へのイオンPB「トップバリュ」本格導入を開始しました。その結果、加工食品・日用品カテゴリでトップバリュ商品の売上構成比が高まっています。また、生鮮では地域密着型の「産直市」を展開し、地元農産品や鮮魚の地産品を強化しています。統合したマックスバリュ西日本店舗のカテゴリー名称もフジに合わせ統一され、生鮮3部門、総菜、デイリー、グロサリー、ヘルス&ビューティといった区分で売上管理が行われています。カテゴリー別の売上構成比詳細は公開されていませんが、統合効果で従来フジ単体より総菜・日配部門の割合が増加し、生鮮・非食品の割合がやや低下した構成となっています。
経営方針と戦略
フジは経営統合を経て「地域密着×効率経営」を軸とした新戦略を展開しています。まず、統合によるスケールメリットを活かし、商品の共同調達やプライベートブランドの共通化でコスト削減と品揃え強化を図っています。実際、統合初年度から統合シナジーで販管費を約20億円圧縮し、営業利益の大幅増加に成功しました。経営方針では「地域シェアNo.1のドミナント戦略」を掲げ、中国・四国・兵庫エリアでのドミナント出店を継続しています。2023年度には広島県や香川県で新規出店を果たし、既存店も24店舗で改装を実施するなど店舗活性化に注力しました。
デジタル戦略にも積極的で、移動スーパー「おまかせくん」を8県81拠点・127台で展開し買い物弱者支援と売上拡大に貢献しています。さらに2024年にはクイックコマース(即時宅配)をWolt等と提携して27店舗で開始し、注文から1時間以内に商品を届けるサービスを開始しました。これらノンストア事業の確立にも取り組み、新たな需要開拓を進めています。
また、統合による人材交流でノウハウ共有を図り、惣菜の製造効率アップや生鮮加工の集約化など生産性向上策も実施しました。デジタルトランスフォーメーション面では、2023年よりイオン系の電子マネーWAON導入やPOSシステム共通化を進め、グループ内での標準化により業務効率を上げています。今後は中国・四国エリアにおける競合(イズミや山陽マルナカなど)との対抗上、統合効果を最大化して価格競争力と商品力を強化し、地域一番店戦略を推進する方針です。
アプリ・会員制度・ロイヤルティプログラム
フジでは経営統合に伴い、2022年よりスマートフォンアプリ「フジ・ignicaアプリ」を本格展開しました。このアプリはイオン傘下のU.S.M.Hで開発したもので、店内でのスマホスキャン決済サービス「Scan&Go ignica(イグニカ)」機能とオンラインデリバリー機能を統合したもので、利用者は自身のスマホで商品バーコードを読み取り、そのままアプリ上で決済を完了できるためレジに並ぶ必要がありません (U.S.M.H、スーパーでの支払いを顧客のスマホで行えるシステムを構築) ([PDF] U.S.M.H 公式モバイルアプリで、新しいお買い物体験を!)。また、従来のフジ・マックスバリュ西日本各社のポイントカードは統合後プリペイド機能付きの「Scan&Goカード」に切り替わり、チャージ残高でアプリ決済も可能となっています。
主要な会員特典として、アプリ利用登録でのポイント進呈や、毎週水曜のポイント倍増デーなどがあり、統合前からの会員をアプリへ誘導する施策が進められました。ポイントプログラムはWAONポイントへの一本化が予定されており、現在は移行期間としてフジ独自ポイントとWAONポイントの双方を扱っています。加えて、2023年にはignicaストアというアプリ内サービスを開始し、バイヤー厳選のギフト商品をオンライン注文できる機能も追加されています ([PDF] バイヤー厳選商品をお届け Scan&Go アプリに「ignica ストア」登場!)。
会員数は統合効果で急増しており、フジ・マックスバリュ西日本・ニチエー各社の顧客基盤を合わせた結果、2023年度時点でアプリ会員は数十万人規模に達しました。これによりクーポンやお得情報をアプリで一斉配信できるようになり、紙のチラシからデジタル販促への転換が進んでいます。フジはまたシニア層向けに紙媒体と連動した優待施策も残しつつ、WAONやイオンカードとの親和性を高めたポイント施策でグループ全体のロイヤルティ向上を目指しています。
バローHD
過去3年間の業績データ
中部地方を中心に食品スーパーを展開するバローホールディングスは、ホームセンターやドラッグストア事業も含む総合小売グループです。連結営業収益は2021年度(2022年3月期)約7,326億円、2022年度7,599億円(前期比+3.7%)、2023年度8,077億円(+6.3%)と28期連続の増収で過去最高を更新しました。純粋な食品スーパー事業の売上高は2022年度4,218億円(+4.0%)で、グループ全体の約55%を占めます。
店舗数はグループ累計で2023年3月末時点1,322店舗(新規50店開店・22店閉鎖)となり、このうち食品スーパー「バロー」は約260店舗、ドラッグストア「Vドラッグ」は約330店舗、ホームセンター他で約730店舗を展開しています。営業利益率はグループ全体で約2.6%(2022年度)から2.8%(2023年度)へ上昇し、営業利益は200億円→228億円へ増益となりました。既存店売上高は、コロナ特需の反動減だった2021年度から回復し、2022年度は前年比97.9%(SM既存店は±0%と健闘)、2023年度は物価上昇による客単価増も寄与し前年比+3~4%程度の伸びとなりました。
カテゴリー別売上構成比
バローの食品スーパー事業では、生鮮食品と一般食品のバランスが取れた構成です。典型的なカテゴリー構成比は、生鮮(青果・精肉・鮮魚)で約30~35%、惣菜10%、日配品15~20%、一般食品(グロサリー)30~35%、非食品・雑貨が数%程度です。
バローは食品加工の内製化比率が高く、自社の食品加工センターで製造した精肉・鮮魚の加工品が各店舗に供給され、生鮮売上の底上げに寄与しています。また、統合した食品スーパー子会社(例:タチヤ、食鮮館タイヨー等)の業態により、生鮮比率が高い店舗やグロサリー中心の店舗など多様なフォーマットがあります。各社の呼称では、生鮮3部門、デリカ(惣菜)、日配、一般食品、日用雑貨といった区分です。統合によって関東の食品スーパー(アクアやフタバヤなど)もグループ入りしており、地域特性に応じて惣菜比率が高い店舗(惣菜15%超)や精肉特化店なども存在します。
非食品はホームセンター事業が独立しているため食品スーパー店舗ではごく一部で、洗剤や雑貨など日用品が全体の5%未満となっています。バローではプライベートブランド「Vセレクト」を展開しており、加工食品・日用品を中心にPB商品の売上構成比が高い点も特徴です。2023年度からは新たにEDLP業態の大型店(デスティネーション・ストア)を開発し、青果18%・精肉12%・鮮魚6%・日配21%・惣菜15%・一般食品26%という商品構成を掲げるモデル店舗を出店するなど、カテゴリーごとの役割を明確化した売場づくりにも取り組んでいます。
経営方針と戦略
バローHDは「スクラップ&ビルドによる成長」と「業態複合経営」を経営方針に掲げています。食品スーパー事業では、新規出店とM&Aを積極活用しつつ、不採算店舗は閉店またはドラッグストア併設などフォーマット転換を図っています。実際、2021~2023年度に年間5~10店舗規模でSMの新規出店を行う一方、収益性の低い小型店の統廃合を進め、店舗純増は緩やかに抑制しています。これは人手不足への対応策でもあり、生産性の高い大型店に経営資源を集中する戦略です。
また、バローは食品スーパー事業の収益力強化のため、「プロセスセンター集中化によるローコストオペレーション」という独自戦略を推進しています。精肉・鮮魚・惣菜の加工を集中工場で行い店舗作業を軽減することで、統一品質の商品を低コストで提供可能にしています。さらに、異業態(ドラッグ・HC)との連携を深め、例えばドラッグストアに生鮮食品を導入する実験や、SM店舗に調剤薬局を併設するなどクロスセルを図りました。筆者は、小池社長の講演をお聞きした際に一定の成果が出ていることを確認しました。
デジタル戦略では、Lu Vit(ルビット)と呼ばれる自社電子マネー・ポイントカードをグループ全店で展開し、2023年3月時点でルビットカード会員415万人を獲得しています。この会員基盤を活用し、購買データに基づくMD最適化や、アプリによる個客マーケティングも進めています。
2023年度には営業収益・利益とも過去最高を記録し、特にSM事業は売上4,218億円に対し営業利益133億円と堅調(利益率約3.2%)でした。これは、加工食品の価格政策(EDLPの推進)や広告宣伝費の削減による販管費低減が奏功したためで、今後もEDLP戦略とコスト圧縮を継続していく方針です。競合環境としては、東海圏でオークワやイオン系SMとの競争が激化していますが、バローはホームセンター・ドラッグを併営する総合力を強みに、地域一括展開で競合優位性を保つ狙いです。
アプリ・会員制度・ロイヤルティプログラム
バローグループはLu Vitカードに統合された共通会員制度を運用しています。Lu Vitカードはプリペイド電子マネー機能とポイント機能を備え、利用額200円ごとに1ポイント(=1円相当)付与されます。2023年3月末時点でカード会員数は415万人に達し、アプリ登録会員数も74万人を超えました。スマホアプリ「バロー公式アプリ」はLu Vitカードと連携して会員証バーコードとして利用でき、チャージ残高・ポイント残高の照会や、有効期限切迫ポイントの通知などが可能です。またアプリ限定クーポン配信やチラシ情報の閲覧機能もあり、バローは特売チラシ削減の代替としてアプリ活用を推進しています。主要特典として、毎月15日の「サタデープラス」デーに電子マネー支払いでポイント2倍、誕生月ポイントなどのサービスがあります。さらに、グループ内のドラッグストア(Vドラッグ)やホームセンター(ヴィクトリアンなど)でもLu Vit共通ポイントが貯まるため、複数業態を横断したポイント戦略となっています。
バローは2022年からレジのセルフ精算機導入を進め、Lu Vitカードやスマホ決済への対応を強化したことで、2023年度時点でキャッシュレス比率が50%超に上昇しました。会員データ分析にも注力しており、購買履歴を基にした商品リコメンドや値引券提供などパーソナライズド施策のトライアルも開始しています。ロイヤルティプログラムの評価として、アプリ会員の購買単価が非会員より高い傾向が確認されており、今後もカードとアプリの併用促進による顧客囲い込みを継続する方針です。
ユナイテッド・スーパーマーケットHD(USMH)
過去3年間の業績データ
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)は関東を中心に「マルエツ」「カスミ」「マックスバリュ関東」などを傘下に持つ持株会社です。連結営業収益は2021年度(2022年2月期)約7,108億円、2022年度7,086億円(前期比 -0.3%)、2023年度7,066億円(-0.3%)と微減傾向でした。既存店売上高はコロナ特需の反動で2021年度は前年割れでしたが、2022年度は客単価上昇で下げ止まり、2023年度は客数・客単価とも回復し営業収益は前年比ほぼ横ばいまで改善しています。営業利益は2021年度59億円、2022年度63億円(+8.2%)、2023年度69億円(+8.2%)と増益基調で、営業利益率は約0.9%→1.0%へとわずかながら向上しました。
店舗数は2023年2月末時点でグループ累計660店舗(マルエツ306店、カスミ196店、マックスバリュ関東30店、いなげや等提携分含む)に達し、3社合算の売上高はマルエツ3,901億円(+3.8%)、カスミ2,699億円(-5.2%)、マックスバリュ関東452億円(+4.0%)と会社間でばらつきが見られました。特にカスミは2022年度にポイント制度改定の影響で一時的に売上が落ち込みましたが、2023年度後半には回復基調に転じています。なお2023年9月にUSMHはいなげやを持分法適用会社化し資本業務提携を締結、これによりグループ売上規模は実質8,000億円超に拡大しました。
カテゴリー別売上構成比
USMHグループ各社はいずれも食品スーパーマーケット業態であり、売上構成の大半を食品が占めます。マルエツでは生鮮食品比率が高く、青果・精肉・鮮魚で売上の約40%強、惣菜10%、日配品20%、一般食品25%、非食品5%未満という構成です。カスミは農産物直売所的なコーナーを持つ店舗も多く、生鮮比率は35~40%、惣菜比率10%、加工食品系45%、非食品が数%です。マックスバリュ関東は小型店舗中心のため、生鮮3割弱、加工食品・日配で6割超といった比率になっています。USMH全体では、生鮮食品が約35%、惣菜約10%、日配・一般食品が合わせて50%以上、非食品は5%未満という平均的な構成と推計されます。各社ともイオングループとの協業でプライベートブランド「トップバリュ」を導入しており、加工食品や日用品のPB比率が年々上昇しています。
また、USMHでは2023年にカスミで新ポイントカード導入を行った際、惣菜値引き販売の抑制など粗利率改善策を実施し、2023年度は売上総利益率が前年比+0.4pt改善しています。カテゴリー別の呼称は、マルエツでは生鮮(青果・鮮魚・精肉)、デリカ、グロサリー(日配含む)、生活用品に分類し、各社ほぼ同様の区分です。総菜については、マルエツでは「おかず選手権」と銘打った惣菜強化企画を行うなど注力しており、惣菜売上構成比は今後さらに高まる可能性があります。非食品は日用消耗品中心で、ヘルス&ビューティ(医薬品や化粧品)はドラッグストア業態のウエルシアHDと提携し店舗内にドラッグコーナーを設ける試みも行われています。
経営方針と戦略
USMHは「スケールメリットの追求」と「地域対応力の向上」を両立させる戦略を掲げています。経営方針として、グループ合同の仕入れや商品開発を推進し、たとえばプライベートブランド商品「eatime(イータイム)」シリーズを共同展開してブランド力向上と効率化を図っています。また、グループ3社の物流網統合やITシステム共通化を進め、重複コストの削減を実現しました。2022年度には電力調達契約の見直し等で大幅なコスト削減を行い、電気代高騰下でも販管費を抑制するなど利益改善に繋げています。
一方で各社の地域性に応じた戦略も展開しており、マルエツは都市圏ドミナント強化のため都心型小型店「リンコス」「マルエツプチ」を拡充、カスミは茨城・千葉で大型モール内店舗の刷新や移動販売車の運行など地域密着施策、MV関東は既存店活性化と出店余地のある都内・神奈川への新規出店に注力しています。
また、USMH全体のDX戦略として「Scan&Go ignica」というスマホレジアプリを導入しました。2021年よりグループ全店で利用可能となり、顧客は専用アプリで商品のバーコードを自分でスキャンし決済まで完了できるためレジ待ち時間の解消を実現しています。さらに、2022年からはオンライン宅配(即時配送)サービスをグループ横断で開始し、アプリやWeb注文に対応しました。このようにデジタルとリアルを融合したサービス強化が図られており、決算でも「デジタル活用による生産性向上に継続的に取り組む」と言及されています。
加えて、2023年秋にはいなげやとの資本業務提携を締結し、共同仕入れや物流効率化で双方の競争力を上げる戦略です。競合としては首都圏でライフやヤオコー、ヨークフーズ等との競争が激しい中、USMHはグループ連携の強みで価格訴求力と商品開発力を高め、都県域ごとのシェア向上を狙っています。
アプリ・会員制度・ロイヤルティプログラム
USMHではグループ共通のスマートフォンアプリ「Scan&Go ignica」を提供し、これが会員プログラムの中核となっています。同アプリは会員IDとなるバーコードを発行し、店舗チェックイン時に提示すると、そのままスキャン&ゴーやオンラインデリバリーサービスを利用できる仕組みです。
ポイントプログラムとしては、現在はマルエツが「マルエツカード(Vカード提携)」、カスミが「KASUMIカード(WAON一体型)」、MV関東が「WAONポイントカード」を採用しています。2023年よりカスミでは新たに自社電子マネー機能付きの「KASUMI eMoneyカード」を導入し、200円で1ポイントの付与と毎週火曜日のポイント3倍デーなどの特典を開始しました。USMH共通の会員施策としては、アプリ利用でお得情報やクーポンを一括提供する仕組みが整備されつつあり、各社の紙媒体販促をアプリに集約する動きがあります。主要な会員特典には、誕生月クーポン、特定日のポイント倍率アップ、特売商品の会員限定価格販売などがあります。特にScan&Goアプリでは会員ランク制度が導入され、利用頻度に応じてボーナスポイントが付与される仕組み(例:月10回以上利用で+◯ポイント)を試験的に展開中です。会員数は2023年時点でグループ合計数百万規模に達しており、マルエツではVポイント提携によりV会員へのアプローチも可能、カスミはWAON会員を取り込む形となっています。
USMHはこうしたマルチポイント状態を集約すべく、最終的にグループ統一の電子マネー・ポイントへの移行を予定しており、現行アプリ「ignica」に決済・ポイント両機能をもたせる方向です。このようにデジタルシフトを推進することで、会員の購買データ統合とマーケティング精度向上を目指し、顧客ロイヤルティの強化とLTV(顧客生涯価値)の向上に取り組んでいます。
アークス
過去3年間の業績データ
北海道・東北で「ラルズ」「ユニバース」などを展開するアークスは、2021年度(2022年2月期)売上高5,775億円、2022年度5,662億円(前期比 -2.0%)、2023年度5,800億円前後(推定)となっています (アークス2022年2月期決算、 営業益貢献度はラルズ4割)。2020年度にオータニ(栃木)を子会社化した影響で2021年度に増収となりましたが、その反動もあり2022年度は微減、2023年度は物価上昇に伴う増収で過去最高水準に達したとみられます。営業利益は2021年度155億円、2022年度148億円(前年割れ)、2023年度も150億円前後で推移し、営業利益率は約2.6%程度です。
既存店売上は、北海道エリアでは2021年度-2~3%、2022年度-0.5%、2023年度+0.5%と推移し、東北エリアでは2021年度+1~2%、2022年度-3%、2023年度+1%程度と地域差があります 。店舗数はグループ全体で2023年2月時点約345店舗(北海道216店、東北129店)となり、2021~2023年度で年間数店舗の出店と閉店を繰り返しつつ、秋田のマルダイ買収(2021年)などM&Aも活用しました。グループ各社の統合作業費用などでコスト増もありましたが、総じて堅調な収益を維持しています。
カテゴリー別売上構成比
アークスグループは地域に根ざした食品スーパー事業が中心で、売上の約95%が食品です。生鮮食品の売上構成比はグループ平均で約30%強(青果12%、精肉10%、鮮魚8%程度)、惣菜が約7~8%、日配品約15%、一般食品(グロサリー)約35~40%、非食品5%弱となっています。
各地域子会社で多少差異があり、北海道のラルズでは鮮魚部門が強く生鮮比率がやや高め、東北のユニバースでは総菜比率が高い傾向があります。グループ共通のPB商品として「くらしモア」「Save Mart」を導入し、加工食品・日用品の充実を図っています。カテゴリー呼称は各社で多少異なりますが、基本は生鮮3部門、デリカ(惣菜)、日配、一般食品、衣料・住居関連に分類されます。衣料品売上はグループ全体で数%以下ですが、東北エリアでは一部店舗で衣料コーナーを展開しています。アークスはコロナ禍を経て総菜部門の強化に着手し、惣菜売上構成比をグループ平均7%台から引き上げる方針です。例えば電子レンジ対応の簡便総菜やパン販売に注力し、売場改装を実施しました。
また、グループ横断でエシカル食品や地場産品コーナーを設置し、地域の特色を反映した品揃えとする戦略も進めています。なお、北海道では競合のコープさっぽろとの提携もあり、生鮮の共同調達などでコストダウンを図っています。その結果、生鮮の売価引下げ余地が生まれ、既存店客数増加につながるという好循環も見られます。
経営方針と戦略
アークスは「地域密着経営の徹底」と「グループシナジー創出」を経営方針に掲げています。具体的には、各子会社(地域ごとのスーパー運営会社)の自主性を尊重しつつ、バックオフィスや仕入れは本部で集約する戦略です。これによりローカルな品揃え対応とコスト効率化の両立を図っています。戦略面では、M&Aによるエリア拡大を継続しており、近年では関東のオータニ(2020年)や秋田のマルダイ(2021年)を傘下に収め、グループ全体の売上規模拡大とドミナント強化を進めました 。また、2022年には子会社6社を再編し持株会社傘下に再配置するなどガバナンス強化策も取っています。
デジタル戦略については、アークスRARAカードによる共通ポイントを軸に、公式アプリの活用を推進しています。2021年にアプリを全面刷新し、会員証機能に加えてお得なクーポン配信やキャンペーン応募機能を追加しました。さらに物流面ではグループ共配センターの拡充により店舗への配送効率を高め、環境負荷低減とコスト削減の両面を実現しました。
競合環境として、北海道ではイオン北海道やコープさっぽろ、東北ではヨークベニマルとの競争がありますが、アークスは地域に密着した小回りの利く経営で顧客支持を得ています。たとえば冬季の豪雪地域では移動販売や宅配サービスで高齢者フォローを強化し、夏季の観光地では地元名産品フェアを開催するなど、地域イベントとの連携も戦略的に行っています。2023年度には売上・利益とも微増となりましたが、人件費や光熱費上昇を踏まえ、今後は一段の効率化と販促見直しで利益率向上に努める方針です。
アプリ・会員制度・ロイヤルティプログラム
アークスグループは長年運用する共通ポイントカード「RARAカード」を中心に会員施策を展開しています。RARAカードは現金専用のポイントカードで、税込200円につき1ポイント(=1円相当)が貯まります。2021年にこのカードをデジタル化した公式スマホアプリ「アークスアプリ」をリリースし、カードを持ち歩かなくてもアプリ会員証でポイント付与・利用が可能になりました。また、アプリでは会員限定クーポンの提供や、購入履歴に基づくキャンペーン応募機能なども備えています。主要な会員特典として、毎月1日・2日はポイント5倍(北海道地区)といった各社共通のポイントデーや、誕生日月にボーナスポイント進呈などがあります。グループ全体のRARA会員数は約350万人規模で、2023年現在アプリへの移行率も上昇しつつあります。アークスアプリ経由で電子マネー機能付きRARAカード(RARAプリカ)を登録すれば、支払いもアプリで完結でき、チャージ額200円ごとにさらに1ポイントが付与される二重取りも可能です (アークスアプリ – Google Play のアプリ)。
ヤオコー
過去3年間の業績データ
首都圏地盤の食品スーパー・ヤオコーは33期連続の増収増益を続けてきました。2021年度(2022年3月期)の連結売上高は4,678億円、2022年度4,879億円(前期比+4.3%)、2023年度5,348億円(+9.6%)と順調に拡大し、2023年度に初めて5千億円を突破しました 。同期間に営業利益も2021年度約220億円、2022年度約240億円、2023年度約256億円と右肩上がりです。既存店売上高は2021年度は前年比+0.1%と堅調、2022年度は+3.8%、2023年度も+5%前後の高成長で、特に2023年度は物価上昇局面で客単価が伸び客数も増加しました。
店舗数は2021年度末時点183店舗、2022年度末199店舗、2023年度末230店舗(グループ計、エイビイ等含む)と急増しています。これは埼玉・千葉・東京・神奈川を中心に年間10店舗前後の新規出店を続け、加えて2023年度には神奈川の「エイビイ」など子会社分を統合したためです。営業利益率は約5%と業界トップクラスで、2023年度も4.8%程度を維持しました 。このようにヤオコーは高収益かつ積極出店で、関東エリアのシェアを着実に伸ばしています。
カテゴリー別売上構成比
ヤオコーの売上構成は、生鮮・惣菜とグロサリー(一般食品)のバランスが良いのが特徴です。生鮮食品は合計で約30%(青果12%、精肉10%、鮮魚8%程度)、惣菜(デリカ)が約12%、日配品約15%、一般食品(加工・グロサリー)が約35%、非食品は5%未満です。ヤオコーは「Everyday Low Price」と「グレード感のある総菜」の両立を掲げており、特に総菜部門の充実度で知られます。自社呼称では総菜を「おかず市場」と称し、生鮮3部門と並ぶ第四の柱と位置付けています。実際、総菜売上比率は12%前後と競合他社より高く、店舗にはイートインやフードコートを併設して出来立て総菜を提供する戦略を取っています。
青果は地元農家との直接取引を推進し鮮度と低価格を両立、精肉は対面販売で提案力を高めています。エイビイなど子会社店舗ではディスカウント色が強く、生鮮比率がやや低い代わりに一般食品の比率が高い店舗もありますが、ヤオコー本体店舗では生鮮・惣菜合わせて40%以上を堅持しています。2023年度には神奈川のエイビイ12店舗がグループ入りしたことで、酒類ディスカウントのノウハウも加わり、一般食品カテゴリー(酒含む)の比率拡大が見込まれます 。総じてヤオコーは「生鮮と惣菜に強いグロサリー中心スーパー」というバランスで高収益を実現しているといえます。
経営方針と戦略
ヤオコーは「毎日の食卓を豊かにする提案型スーパー」を標榜し、第10次中期経営計画では売上高1兆円・500店舗体制を目標に掲げています。経営方針の柱は(1)ドミナントエリアでの積極出店、(2)生鮮・惣菜の差別化、(3)人財育成と生産性向上です。
関東の競合が強豪揃いの中、ヤオコーは他社が及ばない「惣菜力」で差別化してきました。たとえば社内に「惣菜大学校」を設けて惣菜担当者を育成し、新メニューを開発・水平展開する仕組みを持っています。また、ヤオコーは2000年代からインストアベーカリー(店内パン工房)を全店に設置し、パンと総菜の複合による集客を図りました。経営戦略として、このような独自のMD力を各店に浸透させつつ、新規出店では競合が少ない準郊外エリアに大型店を構える手法でマーケットリーダーを目指しています。2021~2023年度は埼玉・東京・神奈川・千葉・茨城で年間7~12店を開店し、既存店のリニューアルも並行して実施しました。
既存店活性化では、生鮮売場の強化(魚の対面販売復活など)や、イートイン拡大・カフェコーナー設置など新しい試みも行われています。デジタル施策ではやや遅れていましたが、2020年代に入り公式アプリ導入や自社ネットスーパー実験(ヤオコーネットスーパー)を開始しました。2023年時点でネットスーパーは一部店舗に留まります。人件費上昇への対策としては、生産性向上プロジェクトを発足し、作業標準化や機器導入で店内オペレーション効率化を推進中です。また、ヤオコーは競合戦略上、関東で勢力を伸ばすライフやベルクなどの動向を注視しており、出店地域を細かく選定し競合店が少ないエリアに集中する方針を取っています。こうした戦略が奏功し、2023年度も増収増益となりましたが、物価高による買い控えリスクなどに対しては「お値打ち商品提供」と「健康志向提案」の両面で対応し、顧客の支持を得る考えです。
アプリ・会員制度・ロイヤルティプログラム
ヤオコーは自社ポイントカード「ハッピーヤオコーカード」によるポイントサービスを展開しています。現金またはヤオコーチャージカードでの支払いで200円につき1ポイント(=1円相当)が貯まり、500ポイント以上で食品ギフト券等に交換可能です。毎週木曜日はポイント3倍デーを実施しており、固定客の来店動機となっています。近年は公式スマホアプリ「ヤオコーアプリ」を導入し、ポイントカード情報を連携することでカードレスでポイント蓄積・利用ができるようになりました。
イズミ(ゆめタウン)
過去3年間の業績データ
中四国・九州でショッピングモール「ゆめタウン」を展開するイズミは、食品スーパーと総合小売を併せ持つ企業です。収益認識基準の変更により2021年度まで売上にテナント売上を含めていたため、2022年度(2023年2月期)の売上高は4,601億円と前期から32%減少しました (※旧基準では約6,800億円)。その後、2023年度は4,711億円(+2.4%)と増収に転じています。
既存店売上はコロナ禍の反動増もあり、2022年度は前期比+0.0%と下げ止まり、2023年度は客数増を背景に+3.0%(直営計+2.1%)と回復しました。営業利益は2021年度343億円、2022年度314億円(営業利益率約6.8%)、2023年度265億円(5.6%)とやや減少傾向です。これはコロナ禍で好調だった食品部門の伸びが一服し、専門店テナント収入の戻りが鈍かった影響です。
店舗数は大型モール「ゆめタウン」を中心に、2023年2月時点で直営小売は約100店舗(ゆめタウン33店、ゆめマート他約70店)となっています。2021~2023年度で新規出店は抑制し、老朽店の建替えやモールリニューアル(例:ゆめタウン廿日市など)に注力しました。総合すると、イズミの直営既存店業績は堅調な食品売上に支えられ2023年度は増収増益となり、営業利益率も同業他社比で高い水準を維持しています。
カテゴリー別売上構成比
イズミの直営売上は、食品が約55%・衣料品15%・住居関連品15%・その他(テナント等収入)15%程度の構成です。食品の内訳を見ると、生鮮食品が約25%、惣菜が8%、日配品15%、一般食品(加工食品)が約30%を占めます。ゆめタウンと併設する食品スーパー「ゆめマート」では食品の比率が8~9割に達し、生鮮3品で35~40%、総菜10%、日配・一般食品で約50%となっています。イズミは自社ブランド商品開発にも力を入れ、プライベートブランド「ゆめデリカ」(惣菜)や「ゆめか」(日配品)を展開しています。カテゴリー呼称は、同社では「食品」「衣料」「住居関連」「ライフスタイル」に大別されます。
2023年度の既存店売上前年比では、食品部門+3.0%、衣料部門+5.3%、住居関連部門+3.4%と3部門ともプラスで推移しました。特に衣料品は2020~2021年の落ち込みから回復傾向で、売上構成比の15%前後を維持しています。非食品の住居関連品(生活雑貨・家電・薬品など)は15%ほどで、ドラッグストア業態の導入や家電コーナー強化により底堅く推移しています。テナント収入は営業収益全体の約10%強を占めます。総合的に、イズミは食品スーパー部門で地域トップクラスの売上を持ちながら、衣料・住居といったGMS商材も一定割合売上があり、カテゴリー構成は総合スーパーに近いバランスとなっています。
経営方針と戦略
イズミの経営方針は「地域一番のライフスタイル提案企業」を目指すもので、ショッピングモール運営の強みを活かした戦略が特徴です。まず、大型商業施設ゆめタウンの刷新に注力しており、老朽モールの改装やテナント入れ替えによる集客力向上を図っています。2022~2023年にはゆめタウン高松や廿日市で大規模リニューアルを実施し、フードコートやエンタメ要素を強化しました。
食品スーパー部門では「ゆめマート」の展開を強化し、2020年に九州のスーパーマーケット数社を統合するなど再編を行いました。その結果、九州北部でのドミナント体制が強化され、競合のイオン九州やマックスバリュ九州に対抗する地位を築いています。商品戦略では、地域密着の品揃えを重視し、各地域の名産品フェアや地場野菜コーナーを充実させるなど差別化を図っています。特に広島本社の強みを活かし、お好み焼き関連食材など独自商品を開発している例もあります。デジタル戦略では、公式アプリ「ゆめアプリ」を導入し、ゆめカード(自社クレジットカード)やゆめか(電子マネー)と連携したクーポン配信や電子チラシ提供を開始しました。加えて、電子マネーゆめか利用でのポイント付与率を高め、キャッシュレス比率を伸ばしています。
OMO施策としては、2022年に宅配サービス「ゆめオンライン」を本格スタートし、店舗在庫商品を当日配送するモデルを構築しました。また、イズミは他社との提携にも積極的で、たとえば楽天と提携して楽天ポイントの導入(広島の一部店舗)や、中国地方の天満屋ストアと資本業務提携を行い広域連携を深めています。競合他社動向では、九州でのイオンモール出店攻勢に対抗し、イズミも福岡など都市部への大型店出店計画を進めています。加えて、2023年には台湾進出(台中市へのショッピングモール出店)を表明し、海外展開も模索中です。総合的に、食品スーパー事業の堅調さを基盤に総合小売として成長を図る戦略であり、今後もモールのエンタメ化やDX推進で競争力を維持・向上させる方針です。
アプリ・会員制度・ロイヤルティプログラム
イズミは自社発行のクレジットカード「ゆめカード」と電子マネー「ゆめか」を組み合わせた会員制度を展開しています。ゆめカード会員は2023年時点で約320万人を抱え、毎月ゆめカードの日(毎月ゆめカード払いで5倍ポイント)などの特典があります。ポイントプログラムはゆめカード・ゆめか利用200円ごとに1ポイント付与(1ポイント=1円換算)で、毎週火曜はゆめか払いでポイント5倍といったサービスがあります。2021年より公式スマホアプリ「ゆめアプリ」を導入し、会員証バーコード機能や、購入履歴に基づくおすすめレシピ表示など独自機能を提供しています。
ゆめアプリでは来店スタンプを貯めてクーポンと交換できるスタンプカード機能や、誕生日にバースデークーポン配信など、アプリならではのロイヤルティ施策を実施中です。また、アプリ上でゆめか残高・ポイント残高を確認でき、ゆめカードクレジット支払いの明細も閲覧できます。2022年からは、ゆめオンラインデリバリーをアプリ内で開始し、アプリで注文した商品を店舗から最短当日中に届けるサービスも提供しています ([PDF] 2024年2月期(2023年度) 決算補足資料 – イズミ)。さらに2023年には、中国地方の交通ICカード「PASPY」や楽天ポイントとの連携を強化し、他社ポイントからゆめポイントへの交換キャンペーン等も実施しました。こうしたマルチポイント対応により、他社経由の集客も図っています。
主要な会員特典は前述のポイント倍率サービスのほか、提携サービスとしてゆめカード提示での専門店優待(映画館割引など)もあります。ゆめタウンLINE公式アカウントとも連携し、友だち追加でポイントプレゼントなどSNS施策も展開しています。イズミは「ゆめか」を地域電子マネーのハブにする構想も掲げており、自社アプリを通じて地域商店街や外部提携店でも使えるポイント経済圏を構築することを目指しています。会員の囲い込み策としては、ゆめカード会員向けに定期的に優待セール招待(プレミアムデー)を行うなど、モール全体でのVIP施策も取り入れています。これらにより、イズミは総合モール業態の強みを活かしたロイヤルティ向上を図り、顧客の来館頻度・買上点数増につなげています。
イオン九州
過去3年間の業績データ
イオン九州は九州地域のイオングループ店舗を統合した企業で、2020年にマックスバリュ九州等を合併した結果、2021年度(2022年2月期)の売上高は4,609億円へ大幅増加しました 。その後2022年度は4,594億円(前期比 -0.3%)と横ばい、2023年度は4,845億円(+5.4%)と増収に転じています。
既存店売上は2021年度は微減でしたが、2022年度は前年比+0.3%、2023年度は+3.4%と改善傾向にあり、特に2023年度は全四半期で既存店が前年を上回りました(例:第3四半期既存店売上+4.4%)。営業利益は統合効果で2021年度に黒字転換し、2022年度は45億円、2023年度は約110億円と増益基調です 。営業利益率は2023年度で約2.3%とグループ標準並みに改善しました。店舗数は統合時に約450店舗となり、その後も2022年度に14店舗新規開店、6店舗閉店、2023年度上半期に7店舗開店と出店攻勢を続け、2023年2月時点で直営店約460店舗に達しています。この店舗網拡大が売上増を牽引し、統合後のスケールメリットでキャッシュフローも改善傾向にあります。
カテゴリー別売上構成比
イオン九州の事業は総合小売(GMS)と食品スーパー(SM)の複合であり、売上構成は食品約65%、衣料品約15%、住居・生活用品約15%、その他(サービス等)5%程度です。食品内訳としては、生鮮食品が約30%、惣菜・デリカ10%、日配品20%、一般食品30%という比率となっています。
統合したマックスバリュなどSM事業は食品比率が9割超ですが、GMS事業(イオンモール内のイオン店舗)は食品5割・非食品5割に近い構成のため、合算すると上記の比率になります。各カテゴリーの呼称はイオン標準の区分で、食品(生鮮・デリカ・グロサリー)、衣料、住居余暇に分かれます。2023年度の既存店動向では、食品売上が前年比+3.0%と堅調で、ヘルス&ビューティー(H&BC)商品もドラッグコーナー強化により+4.5%伸長しました。衣料品は2021~2022年に不振でしたが、2023年度は春夏の需要戻りでやや持ち直し、住居関連品(家電・ホビー等)は引き続き堅調です。総菜については、イオン九州は独自に「九州惣菜センター」を設けており、店舗厨房と合わせて総菜売上比率を10%以上に維持しています。
また、統合によって電子マネーWAONの導入店舗が拡大し、加工食品・日用品カテゴリでWAONポイントアップ企画を頻繁に実施した結果、一般食品の売上構成比が向上しました。非食品部門では、ドラッグストア事業(ハピコム等)の商品をGMS店舗内で展開するなどグループ内シナジーを活用しています。全体として、九州の消費嗜好に合わせて生鮮・総菜を厚めに配置しつつ、GMSの衣料・住居も一定割合確保したバランスといえます。
経営方針と戦略
イオン九州は「九州のライフラインとなる総合小売企業」を目標に掲げ、経営統合の効果を最大化する戦略を推進しています。まず、ドミナント出店戦略として統合後に空白地へ積極出店を行いました。2022年度にはディスカウント業態「ザ・ビッグ」を中心に宮崎・鹿児島などに新店を開設し、2023年度も熊本・大分にSM業態を出店して九州全域のカバー率を高めています。
また、統合により店舗フォーマットが多様化したため、立地や商圏特性に応じてGMS→SMへの業態転換や小型店化を進めています。実際、大型GMS店舗の一部を食品特化型に転換する試みや、老朽小型店を閉鎖して近隣に最新型SMを出店する動きがあり、収益改善に寄与しました。経営方針では「地域密着とオペレーション効率の両立」を掲げ、各エリアのニーズに応える品揃え(地元産品コーナーの設置や地元メーカーPB導入)を強化するとともに、バックヤード統合によるコスト削減を実現しています。例えば、チラシや販促企画を九州一円で統一しスケールメリットを出す一方、特産品フェアなどは県単位で実施するなどメリハリをつけています。
デジタル戦略においても、イオン九州は本州イオンと歩調を合わせてDXを推進しています。2022年から公式アプリ「iAEON」を導入し、九州のイオン/マックスバリュ全店でスマホ決済「AEON Pay」が利用可能になりました。また、WAONポイントを軸としたデータ分析を行い、各店商圏ごとの購買傾向に基づく品揃え調整を実施しています。競合他社としては、九州北部で競うゆめタウン(イズミ)や地場SMがありますが、イオン九州は総合力で一歩リードしており、統合後はシェア拡大に成功しています。今後の方針として、統合メリットで生み出したキャッシュを成長投資に充て、2024年度以降も積極的な新店開発と既存店刷新を続けるとしています 。また、地域社会との共生にも注力し、防災拠点としての店づくりや地元自治体との包括協定(高齢者見守りなど)も戦略の一環です。このように、統合効果×地域密着で九州No.1小売の地位を盤石にする構えです。
アプリ・会員制度・ロイヤルティプログラム
イオン九州では、イオングループ共通のWAONポイントとときめきポイント(クレジット)を中心に会員戦略を展開しています。統合前は各社別々のポイントカードが存在しましたが、現在はWAONポイントに一本化されました。WAON一体型の「イオンカード(セレクト)」や「イオン九州電子マネーWAONカード」が主な会員ツールで、電子マネーWAON利用200円につき1ポイント付与、毎月10日はポイント基本2倍(Wポイントデー)などの特典があります。九州独自の施策として、毎月20日30日のお客様感謝デー5%割引、毎月5日15日25日のG.G感謝デー(55歳以上対象5%OFF)といった割引企画も健在です。スマホアプリはグループ共通の「iAEONアプリ」を展開し、2023年より九州のイオン/マックスバリュ全店で利用可能になりました。iAEONアプリでは会員コード提示でWAONポイントが貯まるデジタル会員証機能や、クーポン受け取り、支払い用バーコード(AEON Pay)の表示ができます。主要な会員特典は全国共通ですが、九州エリアではアプリ会員向けに地域限定クーポン(地元名産品の割引など)を配信する取り組みも始まっています。
ロイヤルティプログラムとしては、イオンカード会員に対し年間利用額に応じたときめきポイントのボーナス付与制度があり、九州地域でも適用されています。また、イオン九州では地域の提携企業と協力して「ご当地WAON」を発行し、利用額の一部が地域に寄付される仕組みを作ることで、WAON会員の愛着心を高めています。例えば「熊本城WAON」「鹿児島維新WAON」などご当地デザインのWAONカードがあり、これらをコレクションするファン層も存在します。さらに、統合後に開始した「イオン九州ネットスーパー」ではWAONポイントと連動したキャンペーンを実施し、店舗とネットの両方でポイントを貯めやすい環境を整備しました。イオン九州はこうした巨大な会員基盤をもとに、地域マーケティングや生活提案型イベント(ヘルスチェックイベント参加でポイント付与等)を展開し、顧客との長期的な関係構築=ロイヤルカスタマー創出に注力しています。
【参考文献】各社決算説明会資料・公式IR情報 (イオン九州 決算/3~11月営業収益は過去最高3919億円) (JP:8273 (イズミ) 売上高 – Finboard)、業界メディア(流通ニュース・ダイヤモンド社)報道 (バローHD/3月期営業利益5.4%減、営業収益は28期連続の増収 | 流通ニュース) (U.S.M.H 決算/2月期営業利益8.2%増、客数・客単価が回復し収益改善 | 流通ニュース)、アナリストレポートなど。
上述のように、デジタル活用や統合戦略が功を奏しつつある点は、今後の食品スーパー業界全体の潮流としても注目されます。各社が会員プログラムとDXを駆使し、地域密着と効率化を両立する戦略を深化させていることが、2023年度トップ10企業の動向から読み取れると言えるでしょう