棚卸しとは
棚卸資産とは事業活動を行うために保有する商品、製品、半製品、原材料、仕掛品、貯蔵品などをいいます。物品を販売する事業では通常これらの棚卸資産を保有していますが、その価値は変動しますので、評価基準及び評価方法が定められています。
当然、薬局における医療用医薬品の在庫も棚卸資産であり、何時間も残業をして行っている作業はこの金額を確定することが目的です。
また、販売目的で保有するものではありませんが、短期間に消費する消耗品についても棚卸資産に分類されています。ドラッグストアや薬局で使用されるレジバッグ、薬袋なども対象です。消耗品について税法上では、毎年おおむね一定数量を取得する消耗品で経常的に消耗する場合に限り、継続適用を条件に取得した事業年度の損金に算入することが認められています。これらは現実には、医薬品と異なり1枚単位で精緻に計数するのではなく、束単位で数えることが多いものです。
棚卸資産の期末評価とは
棚卸資産の期末評価とは、決算時に在庫として保有する棚卸資産の帳簿価額を算定することです。棚卸資産の期末評価を行うことによって、その事業年度の売上原価が算定されます。
<売上原価の計算式>
【期首棚卸資産(前期の期末棚卸資産)】+【当期仕入高】-【期末棚卸資産】
期末棚卸資産の評価額が大きいほど売上原価は減少し、小さいほど売上原価は上がります。このことから、棚卸資産の期末評価を会社の都合のいいように行われると、恣意的に利益を増減させることができてしまうのです。
こうした不正な決算書の作成や税務申告が行われないよう、棚卸資産の期末評価については税務・会計の両面で、一定の評価方法が決められています。
棚卸資産評価方法の種類
原価法による棚卸資産の期末評価方法
原価法とは税法上の棚卸資産の評価方法であり、棚卸資産の取得原価をもとに期末の棚卸資産を評価する方法です。取得原価の計算方法については、会計上の5つの方法に合わせて、以下6つの方法が認められています。
個別法
取得原価を個別の仕入価格で管理する方法です。原価法としてもっとも正確な評価方法といえますが、個別管理が可能な棚卸資産にしか適用できません。
個別法は、個別性が高い商品に向いている評価法です。例えば、不動産や書画・骨董・美術品などは、同じ商品がなく個別性が高いので、個別法が適しています。逆に、同規格の品物を大量に扱う場合は不向きです。
先入先出法
先に仕入れたものから先に払い出したと仮定して、取得原価を算定する方法です。期末の棚卸資産の評価額には、新しく仕入れた棚卸資産が反映されます。
先入先出法のメリットは、計算上の仮定が、実際のモノの流れと一致しやすいということです。その一方で、物価に変動があった場合に、影響を受けやすいのがデメリットです。つまり、インフレ時には、利益が多く計上され、デフレ時には利益が小さく計上されてしまう傾向があるということです。また、期末在庫が最終の仕入れ数を上回っている場合に、遡って単価を調べて計算する必要があり、計算が煩雑になることがあります。
移動平均法
仕入価格の平均値を計算し、1単位あたりの取得原価を計算する方法です。仕入れのたびに平均値を算出する点が特徴といえるでしょう。
頻繁に単価計算をしていくことになるため、計算が複雑になる点がデメリットです。しかし、払出資産の単価を随時把握できるため、販売業績を常に管理できるというメリットがあります。
総平均法
移動平均法と同様に、仕入価格の平均値から1単位あたりの取得原価を計算する方法です。事業年度全体の仕入価格の総額で平均値を算出することに特徴があります。簡単に言えば、期末や年度末に平均単価を求めて、それを単価にする方法です。年単位のほか、月単位(月別総平均法)や法人の場合、6ケ月ごと(6月ごと総平均法等)なども認められています。
「総平均法」は計算がシンプルになることがメリットですが、一定の期間を経過するまでは計算ができないというデメリットがあります。
売価還元法
売価を使って算定した「原価率」を使い、棚卸資産の評価額を計算する方法です。多種な棚卸資産を扱う業種に向いています。
売価還元法では、受払記録を簡略化して管理できます。在庫管理の負担を軽減できるというメリットがあります。スーパーや百貨店のように取扱商品が多い小売業の場合、商品ごとの原価を調べるのが困難なので、売価還元法がよく用いられていました。デメリットは、原価率を厳密に求められないことです。上場企業の会計監査が厳しくなるにあたり、近年は総平均法や移動平均法への変更も増えてきています。
最終仕入原価法
事業年度の最後の仕入価格を棚卸資産の取得原価とする、簡便的な方法です。会計上では他の5つの評価方法と別に「期間損益の計算上著しい弊害がない場合」に認められる方法とされていますが、税法上の法定評価方法であり実務では多用されています。もし、評価方法を選択しなかった場合、最終仕入原価法で棚卸資産が評価されることになります。
原価法以外の評価方法
税法上の棚卸資産の評価方法には、原価法のほかに低価法があります。原価法は棚卸資産の取得原価から評価額を計算する方法ですが、低価法は原価法による評価額とその棚卸資産の期末時価とを比較して、低い方を評価額とする方法です。したがって、原価法よりも期末棚卸評価額が低くなる場合があります。
期末棚卸資産の大部分が最終の仕入価格で取得されている場合や、期末棚卸資産に重要性が乏しい場合においてのみ、適用が容認されています。
保険調剤薬局に望ましい棚卸資産評価方法は
医療用医薬品の棚卸資産としての特徴
調剤の過誤や作用の強い医療用医薬品の紛失は、患者の生命や店舗の信用に関わる重大な問題に発展しかねないことから、小売業で取り扱うその他の商品と比較して、医療用医薬品は厳格な単品管理が求められます。
物販と調剤を両方手掛ける店舗においては、保管方法や棚卸方法に関し、その他の商品とは別に医療用医薬品専用のルールや手順書を作成し、運用していくことが一般的です。
多様な商品を扱う小売業では、受払記録を簡略化して管理できて在庫管理の負担を軽減できるメリットがある売価還元法による在庫評価が多く採用されています。
ところが、医療用医薬品については単品管理の必要性が高いため単品管理が実務に根付いていることから移動平均法もしくは、総平均法という平均原価法による在庫評価が一般的です。
そのため、医療用医薬品とそれ以外の物販商品をともに扱う小売業者においては、医療用医薬品については平均原価法を適用し、それ以外の商品については売価還元法を適用していることがあります。
薬局としての会計基準は?
薬局として相応しい会計基準がないかと、各種書籍とWEBを調べてみたのですが、どこにも記述は発見出来ませんでした。とある県薬剤師会では最終仕入原価法を採用と明記したものがありましたが、なぜなのか、不都合はないかについては不明でした。
探している過程で、医療法人における医薬品の評価基準と評価方法に関しては、医療法人会計基準等で規定されていることがわかりましたので、列挙します。
医療法人会計基準
棚卸資産の評価基準及び評価方法については重要な会計方針に該当し、棚卸
資産の評価方法は、先入先出法、移動平均法、総平均法の中から選択適用する
ことを原則とするが、最終仕入原価法も期間損益の計算上著しい弊害がない場
合には用いることができる。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000158963.pdf
独立行政法人会計基準
国立病院が運用適用対象の独立行政法人会計基準では、
個別法、先入先出法、平均原価法(=移動平均法、総平均法)等のうちあらかじめ定めた方法を適用して算定した取得原価をもって貸借対照表価額とする。
国立大学法人会計基準
国立大学の附属病院が対象となる国立大学法人会計基準では、原則として移動平均法を適用して算定した取得原価をもって貸借対照表価額とする。
薬局としての会計基準
医療法人における医療用医薬品の会計基準は、移動平均法、総平均法、先入先出法が原則とされていることがわかりました。しかし、薬局としての会計基準はありませんでした。
あらたに薬局を開く。もしくはM&Aの際に株式公開を考慮して棚卸資産の評価方法をどうするか迷ったときは、同じ医療用医薬品を扱う医療機関の会計基準に準拠したほうが良さそうです。最後に医療用医薬品を移動平均法、総平均法、先入先出法で管理した場合のイメージを記載します。
移動平均法の例
前述したとおり、仕入価格の平均値を計算し、1単位あたりの取得原価を計算する方法です。仕入れのたびに平均値を算出し、次回購入するまで払い出し(使用)単価に使います。
総平均法の例
総平均法は、払出し(使用)のときは数量だけを記録し、(年間の場合)事業年度末に繰越高と当該事業年度の購入高の合計金額を繰越数量と当該事業年度の購入数量の合計数で割ったものを、その会計期間中の払出し(使用)単価とする方法です。
先入先出法の例
ダイヤモンド・オンラインおよびダイヤモンド・ドラッグストア寄稿「新型コロナウイルス禍 ドラッグストアで食品の欠品が増える理由と対策」ということで、いつものダイヤモンド・ドラッグストア連載とは別に、ダイヤモンド・リテイルメディア様の[…]
【2010年8月28日】に書いた薬剤師または医療事務向け内容です。処方箋および調剤録の保持期間は3年です。これをペーパーレス化出来ないかということで半日かけて調べました。調剤録の電子保管に関しては、診療録等と比較して薬剤師[…]