企業がオンラインメディアで効果を上げる手法の一つとして、アバターを活用しようとすることがあります。
例えば、ECサイトであれば自動化された擬似接客を行うというケースが考えられるし、オンライン医療分野で患者に緊張感を持たせないという目的で人対人の対応においてアバターを使う実験も行われています。
一例として倉敷中央病院の薬剤部で導入された動画を添付します。
アバターとは
アバターとは,仮想空間やオンラインゲームなどに登場するユーザーの分身のことであり、コンピューターテクノロジーによって擬人化され,かつ,視覚的に表現された存在です。
アバター活用の利点
企業の利点
企業が自社のウェブサイト上でアバターを活用する利点は2つあります。
まず、商品の特徴などの顧客に知って欲しい情報を効率的に伝達することができることがあります。アバターを活用すれば,あたかも店員が語り掛けるかのように情報を分かりやすく伝達することができるので、文字情報よりも伝わりやすくなります。
次に、アバターが顧客のウェブサイトに対する評価や購買行動に好ましい効果をもたらすと考えられることです。アバターの存在が購買意思決定に正の効果をもたらすという論文はいくつかあり、実店舗における店員同様に,ウェブサイトでアバターとも相互的なコミュニケーションを行うことが可能であるというものです。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1071581900903689?via%3Dihub
自動化されたアバターの利点
GPT4にPDF読み込みプラグインを適用して、アバター関連の論文を複数読み込ませたあとに「アバターに相談できる仕組みがなぜ必要か」を質問しました。結果は以下の通りです。
アバターに相談できる仕組みが必要な理由は以下のとおりです:
アクセスの容易さ: アバターは24時間365日利用可能であり、ユーザーがいつでも相談や情報を求めることができます。これは、特定の時間帯や場所に制約されることなくサポートを受けることができるという意味で非常に便利です。
プライバシーの確保: 一部のユーザーは、特定の問題や悩みについて人間に直接相談することをためらうことがあります。アバターを通じて相談することで、匿名性やプライバシーを保ちながら情報を得ることができます。
コスト効率: 人間のオペレーターやカウンセラーを常時配置するのはコストがかかりますが、アバターを使用することで、一定のサポートを低コストで提供することが可能となります。
一貫性: アバターはプログラムされた情報に基づいて回答するため、情報の一貫性や正確性を保つことができます。人間の場合、情報の解釈や伝達の仕方にバラつきが生じることがありますが、アバターはそのような問題を減少させることができます。
多言語対応: アバターは複数の言語に対応することが容易であり、多様なユーザー層にサービスを提供することが可能です。
スケーラビリティ: 多くのユーザーが同時にサービスを利用しても、アバターはそれに応じてスケールアップすることができます。これにより、ピーク時でもサービスの品質を維持することができます。
カスタマイズ: アバターは特定の業界やニーズに合わせてカスタマイズすることができます。これにより、ユーザーにとって最も関連性の高い情報やサポートを提供することができます。
感情の非介入: アバターは感情を持たないため、ユーザーの問題や要求に対して客観的に対応することができます。これは、特定の状況での偏見や先入観を排除する上で有利です。
このうち、プライバシーの確保以外はAIなどを活用して人の代替えをする前提の利点です。
では、人対人の相談でアバターを使うメリットはプライバシー以外に何があるでしょうか。
相談相手としてのアバター
参考論文
「カウンセラーアバタの外観とユーザの相談状況の違いが相談意欲に及ぼす影響の検討」という論文があります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjske/21/3/21_TJSKE-D-22-00001/_article/-char/ja/
この中で参考になった部分は以下の通りです。
「アバターの外観や相談状況はユーザの相談意欲に大きく影響する可能性がある。」
「中等度のうつ病などの重い状況において、白衣を着たアバターがユーザに好まれることを示した。白衣を着ることによって、患者からの信頼や有能との評価、好意、相談意欲が高まる効果が先行研究で示されているため、重い相談状況では白衣を着たアバターが最も好まれたのである。」
「緊張度の高いユーザーが白衣の人型アバターの前で話すと、逆に話しにくくなる可能性がある。したがって、ユーザーがアバターを(ロボットデザインなどからも)自由に選択できることが望ましい。」
これを実証する目的で研究が行われたので、その結果が相談されやすいアバターを考える上で参考になりました。
研究結果
注視傾向
被験者はアバタの外観に関係なく、顔や上半身を主に注視する傾向があることが確認された。
重い相談状況では、白衣を着たロボットアバタ(RA)の顔の上部が長く注視され、軽い相談状況では白衣を着たヒューマンアバタ(HA)の顔の上部が長く注視されることが確認された。
重い状況では、カジュアル服のHAとRAの顔の下部の注視時間が長くなり、軽い状況ではその時間が減少することが示された。
顔の上部と顔の下部の注視時間は負の相関関係にあった。
アバタのボディ部分の注視時間は、顔の上部や下部に比べて短く、有意な結果は得られなかった。
以上の結果から、相談状況やアバタの外観によって、被験者のアバタへの注視傾向が異なることが明らかになった。
心理評価
相談意欲に影響を与える要因として、相談状況、アバタの外観、自己開示の意思、信頼感の4つを考慮し、マルチレベル分析を実施した。
分析結果から、自己開示の意思と信頼感は相談意欲に強く影響しており、R2=.78と高い説明力を持つモデルが得られた。
重い相談状況では白衣のヒューマンアバタ(HA)に対する相談意欲が高く、軽い状況ではカジュアル服のHAに対する相談意欲が高かった。
一方、カジュアル服のロボットアバタ(RA)に対する相談意欲は低く、アバタの外観が意欲に大きく影響している可能性が示唆された。
相談状況によって被験者が選択するアバタの服装が異なることが確認された。
以上の結果から、相談状況やアバタの外観、自己開示の意思、信頼感などが相談意欲に影響を与えることが明らかになった。
アバターによるカウンセリングは,利用者が好きな見た目のアバターをカスタマイズできる。これは服装ならともかく人にはできないことです。
悩みは人によって異なるため,悩みの程度に応じて利用者が好きなアバタを選択できる仕組みが有効になるのではないかと考えます。