ロシアドラッグストア市場の勢力図
ロシアのドラッグストア業界は急速な変化を遂げており、トップ企業間の競争が激化しています。国内最大手3社の販売戦略と経営アプローチを徹底分析しました。これらの企業は店舗拡大やデジタル化を積極的に進め、医薬品市場におけるシェア拡大を図っています。
リグラ(Rigla)- 伝統と革新を融合させるマーケットリーダー
企業概要と業績推移
リグラはロシア最大の調剤薬局チェーンで、流通大手プロテクグループの小売部門として展開しています。2021年から2023年にかけて一貫した成長を続け、2023年の国内売上高は約1,534億ルーブル(2,523億円:1ルーブル1.65円換算)(前年比+15.0%)に達しました。2021年の約1,200億ルーブルから順調に売上を伸ばし、店舗数も同期間に3,500店から4,100店へと拡大しています。既存店売上も前年比一桁台後半で推移し、新規出店効果を除いた成長も堅調です。営業利益率は3~5%程度に留まっており、店舗網拡大を優先する経営戦略を採用しています。
商品構成とカテゴリー戦略
リグラでは医薬品(処方薬・OTC)が売上の約7割を占める中心カテゴリーです。残り3割は非医薬品で、化粧品(スキンケア・美容関連)が15%前後、衛生用品や日用雑貨が約10%、健康食品・サプリメント類が5%前後となっています。特徴的な取り組みとして、ドラッグストア内に「Rigla Beauty」というコスメ専門コーナーを設け、美容・ヘルスケア商品の強化にも注力しています。調剤薬だけでなく、ベビー用品や栄養補助食品なども取り揃え、客単価向上を図る品揃え戦略を展開しています。
デジタル戦略とオンライン展開
リグラはプロテクグループ傘下という強みを活かし、積極的な店舗網拡大とデジタル戦略の両立を図っています。特筆すべきは統合オンラインプラットフォーム「Zdravcity」の展開で、自社と提携先の在庫をネット予約・宅配できるサービスを構築しています。2022年には全社共通のコンタクトセンターの統合を実施し、AIチャットボットを導入することで顧客対応の効率化とサービス向上を図りました。
これらのデジタル施策が実を結び、2023年のオンライン売上は約320億ルーブルに達し、チェーン全体売上の2割超を占めるまでに拡大しています。Webサイト経由の問い合わせに自動応答し、注文状況確認やロイヤルティカードの有効化、最寄り店舗案内、商品の在庫・価格照会などを24時間体制で処理する仕組みも整備しました。
会員制度とロイヤルティプログラム
リグラは共通ポイント制度「Аптечная семья(薬局ファミリー)」を導入し、傘下全ブランドで利用可能な会員プログラムを展開しています。会員は購入額に応じて最大10%のボーナスポイントが付与され、次回以降の支払いに充当可能です。基本付与率は3%からスタートし、利用額に応じて優待ランクが上がる仕組みになっています。
また、即時割引や提携先とのキャンペーンも積極的に実施しており、一定額以上購入で抽選に参加できるプロモーションなどで顧客ロイヤルティを高めています。スマートフォン向け公式アプリ「Riglaオンライン薬局」も提供しており、デジタル会員証の提示やポイント管理、在庫検索・予約注文などが可能です。これらの取り組みにより、リグラは数百万人規模の会員基盤を構築し、顧客データをマーケティングや品揃え最適化に活用しています。
アプレル(Aprel)- 急成長するディスカウント薬局チェーン
企業概要と業績推移
アプレルは2000年にクラスノダール地方で創業した調剤薬局チェーンで、近年爆発的な成長を遂げています。低価格戦略と積極的な多店舗展開により、店舗数・売上ともにロシア業界トップクラスの規模に成長しました。2023年末時点でロシア77地域に7,434店を展開し、特に地方都市や農村部まで幅広く店舗網を構築しています。
売上高の伸びは驚異的で、2020年の380億ルーブルからから急成長し、2023年は1,242億ルーブルの売上を計上しました。わずか数年で売上規模が3倍以上に拡大しており、2021~2023年の年平均成長率は50%以上に達します。店舗数も2020年末の約1,500店から2023年末には7,434店と急増しており、買収と新規出店の両輪でネットワークを拡大しています。既存店売上も好調で、2023年には既存店ベース成長率+13%を記録しています。
商品構成とカテゴリー戦略
アプレルは処方薬・OTC医薬品を主力とするディスカウント薬局のため、売上の大部分(およそ8割以上)が医薬品関連です。残りは化粧品・パーソナルケア用品や衛生雑貨、ベビー用品、健康食品などですが、その比率は2割弱に留まります。他社が力を入れる高価格帯の美容・ヘルスケア商品は比重が小さく、低価格医薬品の品揃えと在庫確保に注力している点が特徴です。
「お客様はアプレルに医薬品の安値と必要な品揃えを求めて来店する」と自社で語るように、常備薬や処方薬の安売りがチェーンの競争力となっています。一方で、基本的な化粧品や日用品も取り扱い、会員向けに割引価格を提示する「クラブ価格」商品を設定するなどアップセルも図っています。また店舗によっては育児用品やベビーフード等の食品カテゴリーも扱い、地域のニーズに応じた品揃えをしています。
経営戦略と成長モデル
アプレルは「ロシア全国での価格リーダー」を目標に掲げ、積極的な店舗拡大戦略とEDLP(常時低価格)戦略を推進しています。M&Aとフランチャイズによるネットワーク拡大に非常に積極的で、毎月90~100店の新規出店を続ける驚異的なペースで事業を拡大しました。2022年には店舗数で業界最大となり、売上でも僅差でリグラに次ぐ2位となっています。
サプライチェーン面では独自の卸売部門(社内流通網)を構築しており、全店舗への安定供給と大量調達による仕入コスト削減を実現しています。また、一部地域では地域密着型のマーケティングを展開し、地方自治体や医療機関とも提携して処方箋患者の囲い込みを図っています。
デジタル戦略の面では、急拡大に伴う業務効率化を目的に本部機能のIT化やデータ分析にも着手しています。公式オンラインサイトやモバイルアプリで在庫検索・予約注文サービスを提供し、遠隔地の顧客にもアクセスしています。しかし、アプレルの競争優位は圧倒的店舗網による地理的カバレッジと低価格設定にあり、まずは物理的なマーケットシェア拡大を最優先する戦略を取っています。
会員制度とカスタマーロイヤルティ
アプレルは「Апрель + Аптечный клуб」(アプレル+薬局クラブ)という名称のロイヤルティプログラムを展開しています。会員登録(無料)をすると「クラブ価格」として通常より割安な価格で商品を購入でき、購入金額に応じたボーナスポイントも付与されます。2024年時点で2,500万枚以上の会員カードがアクティブとされており、ロシア最大級の顧客基盤を持つドラッグストア会員制度になっています。
会員は年代・地域別の購買データに基づくきめ細かなプロモーションや割引キャンペーンの対象となり、定期的に特売情報が提供されます。スマホアプリ「Аптека Апрель」(アプレル薬局)ではデジタル会員証機能があり、ポイント残高や購入履歴、近隣店舗在庫などを確認できます。またアプリや公式Telegramチャネルを通じ、季節ごとのヘルスケア情報発信やクーポン配信も行っています。これらの仕組みにより、低価格と高ロイヤルティで固定客化を図っている点がアプレルの強みとなっています。
プラネータ・ズドローヴィヤ(Planeta Zdorovya)- 地域密着型のヘルスケアパートナー
企業概要と業績推移
プラネータ・ズドローヴィヤは、ペルミに本社を置く連邦規模のファーマシーホールディングです。ロシア中部・ウラル地方発祥で、地方都市を中心に店舗網を広げてきました。チェーン名が示す通り地域住民の「健康の惑星」を目指すコンセプトで、薬剤販売に加えて地域密着型サービスにも注力しています。
2023年の売上規模は業界3位の1,109億ルーブルに達し(前年比+15.0%)、市場シェア約6.2%を占めています。2023年末時点の店舗数は2,383店で、ロシア各地に幅広く展開しています。業績推移をみると、2021年から2023年にかけて年間およそ10~20%前後の売上成長率を維持しており、2021年の売上高は推定800~900億ルーブル、2022年は約952億ルーブル(前年比+約20%)、2023年には1,109億ルーブルとなっています。
店舗数は2021年に約1,500店、2022年に2,000店超、2023年に2,383店と順調に拡大しました。出店は主に自社成長に加え、地域中堅チェーンの買収によって実現しています。既存店売上の前年比も堅調で、2023年は+12~13%程度と見られます。
独自のカテゴリー戦略
プラネータ・ズドローヴィヤは医薬品販売を核としつつ、非医薬品カテゴリーもバランスよく展開している点が特徴です。売上構成は医薬品(処方薬・OTC)がおよそ7割、化粧品・パーソナルケア用品が約10~15%、日用雑貨・医療器具が約10%、そして食品(特にベビー用食品や栄養補助食品)が5%前後と推定されます。
チェーン独自の取り組みとして、「Страна Детства(子供の国)」という母子向け専門コーナーを70店舗以上で展開しており、育児用品・ベビー薬・離乳食などの品揃えを強化しています。このコーナーでは専用の積立式ボーナスプログラムやママ向けイベントも実施し、若い家族層の需要を取り込んでいます。
また一般化粧品や皮膚治療用のデルマコスメにも注力し、一部店舗では肌診断サービスを提供するなど差別化を図っています。総じて、プラネータ・ズドローヴィヤは「地域住民の健康生活を総合的に支える品揃え」を掲げ、調剤薬だけでなく関連商品の販売比率も着実に伸ばしています。
サービス差別化戦略
プラネータ・ズドローヴィヤは「地域密着型ヘルスケア拠点」としての地位確立を目指し、サービス面での差別化と堅実な拡大戦略を取っています。他チェーンが価格競争や大量出店に注力する中、同社は調剤薬局+付加サービスのモデルを追求しています。
その一例が店内で薬剤師による健康相談に加え、遠隔専門医と繋ぐ「インターネットドクター」プロジェクトです。これは一部店舗にタブレット等を設置し、来店客が必要に応じ遠隔地の医師からアドバイスを受けられるサービスで、セルフケアニーズに応える試みとなっています。
また前述の「子供の国」プロジェクトのように特定カテゴリーに特化した売場作りや、自社発行の健康情報紙・会報誌(発行部数計19.5万部)による顧客教育にも力を入れています。出店戦略としては、自社新規出店の他に地域チェーンの統合を通じたネットワーク拡大を進めており、経営統合によるスケールメリット追求も図っています。
デジタル活用面では、公式サイトでのオンライン予約・宅配サービスやコールセンターの24時間化など基本施策を整備するとともに、売上データ分析による品揃え最適化も進めています。プラネータ・ズドローヴィヤは派手さはないものの、地域顧客の信頼を得るきめ細かなサービスと着実な経営によって業界上位に上り詰めたチェーンと言えます。
ロイヤルティプログラムの特徴
プラネータ・ズドローヴィヤはボーナスカード制のロイヤルティプログラムを採用しています。会員は購入金額に応じてポイント(ボーナス)を蓄積でき、一定ポイントを貯めると割引を受けられる累積型ボーナスプログラムとなっています。特に「子供の国」コーナーではママ向けに特化したポイントサービスを展開し、おむつやミルク購入で高倍率ポイントを付与するなどの施策で固定客化を図っています。
2020年時点で月間500万人の顧客がチェーンを利用し、そのうち150万人が常連顧客(ロイヤルカスタマー)と報告されており、会員基盤は年々拡大しています。スマホアプリも提供され、デジタル会員証・ポイント管理や処方箋の事前送信、近隣店舗検索などの機能を備えています。
さらに、公式SNSやメールを通じて会員限定クーポンや健康コラムを配信し、来店頻度向上につなげています。プラネータ・ズドローヴィヤはポイント還元と専門サービスでロイヤルティを高める戦略であり、地域のファン客づくりに成功しています。
ロシアドラッグストア市場の今後の展望
ロシアのドラッグストア業界は今後も統合と集約が進み、上位3社の市場シェアはさらに拡大する見込みです。各社とも店舗数拡大とデジタル化の両輪で事業を推進しており、特にオンライン予約・宅配サービスは成長分野として注目されています。
また、高齢化社会の進展に伴い、専門的な健康相談サービスや高齢者向け商品の品揃え強化も重要なトレンドとなるでしょう。業界大手3社はそれぞれの強みを活かした戦略で市場ポジションを固めており、リグラはデジタル統合と会員サービス、アプレルは圧倒的な店舗網と低価格、プラネータ・ズドローヴィヤは地域密着型サービスと専門性という差別化要素で競争を展開しています。
消費者視点では、デジタル化の進展によりアプリ経由の商品予約や会員特典の充実など、利便性が大きく向上しています。今後もロシアのドラッグストア業界は変化と成長を続けると予想されます。
参考資料
- «Ригла» купила сети «Аптечество» и Farmani из 375 точек – Ведомости
- «Ригла» запустила единый контакт-центр | Вестник цифровой трансформации | «Директор информационной службы»
- Активный рост: краснодарская сеть «Апрель» вошла в топ-5 крупнейших в РФ — РБК
- Будет апрель, вы уверены? » Фармвестник
- Небольшие аптеки продаваться крупным конкурентам – Коммерсантъ
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- Пермская «Планета здоровья» поглотит приморскую сеть аптек — РБК