根回しと社内政治の違いとは?健全な組織運営のための3つの判断基準

混同される二つの概念

「あの人は根回しが上手い」と言われるとき、それは褒め言葉でしょうか、それとも批判でしょうか。多くのビジネスパーソンが、根回しや人間関係構築を「社内政治」と同一視し、忌避すべきものとして捉えています。しかし、これは大きな誤解です。

コンサルタントとして多くの組織を見てきた経験、そして上場企業の幹部として組織運営に携わった立場から断言できるのは、根回しと社内政治は似て非なるものであるということです。両者を混同すると、健全な組織運営が阻害されます。

根回しの本質は「合意形成の事前準備」

根回しとは何でしょうか。それは、重要な意思決定の前に、関係者と個別に対話し、懸念を聞き、情報を共有し、理解を深めてもらう活動です。目的は組織全体の利益のために、スムーズな合意形成を実現することにあります。

例えば、ある製造部門の課長が、新しい生産管理システムの導入を提案するとします。いきなり経営会議で提案しても、現場の実態を知らない経営層からは「本当に必要なのか」と疑問が出るでしょう。営業部門からは「現場が混乱して納期に影響しないか」という懸念が出るかもしれません。

そこで課長は、提案前に各部門の責任者と個別に面談します。現場の課題を共有し、システム導入による効果を数値で示し、懸念に対する対策を説明します。経営層には投資対効果を、営業部門には移行計画を丁寧に説明します。

この事前準備により、正式な会議では建設的な議論が可能になります。「反対のための反対」ではなく、「より良い実行のための意見」が出るようになります。これが根回しの本質です。

社内政治の本質は「部分最適の追求」

一方、社内政治とは何でしょうか。それは、組織全体の利益よりも、特定の派閥や個人の利益を優先する行動です。

先ほどの例で言えば、もし課長が「A専務派」に属しており、システム導入の真の目的が「ライバルのB専務派が管理する部門の影響力を削ぐこと」だったらどうでしょうか。生産効率の向上は建前で、実際には特定の派閥を有利にするための施策だとしたら、それは社内政治です。

ある小売企業での事例を紹介しましょう(架空の事例です)。店舗運営部門と商品部門の間に長年の対立がありました。店舗側は「本部が現場を理解していない」と不満を持ち、商品部門は「店舗が本部の方針に従わない」と考えていました。

ある部長は、この対立を利用して自身の影響力を拡大しようと考えました。店舗側に「商品部門は現場を軽視している」と煽り、商品部門には「店舗は勝手なことばかりする」と伝えます。そして自分だけが「両者の調整役」として振る舞い、どちらの派閥からも頼られる存在になろうとしました。

結果として、組織の分断は深まり、本来協力すべき部門間の連携が阻害されました。顧客満足度は低下し、業績にも悪影響が出ました。この部長の行動こそが社内政治です。

両者を分ける三つの基準

根回しと社内政治を見分けるには、三つの基準があります。

第一に、目的です。

根回しの目的は組織全体の利益のための合意形成ですが、社内政治の目的は特定派閥や個人の利益の追求です。システム導入は会社全体の利益のためか、それとも派閥の力関係を変えるためか。この問いに正直に答えることが重要です。

第二に、情報の扱い方です。

根回しでは、関係者に同じ事実を共有し、異なる立場から見た懸念に答えます。一方、社内政治では、相手によって異なる情報を伝え、対立を煽ります。「A部門にはXと言い、B部門にはYと言う」という行動は、社内政治の典型です。

第三に、結果の評価軸です。

根回しの成果は、組織全体のKPI(業績、効率、顧客満足度など)で測定できます。社内政治の成果は、派閥の力関係や個人の影響力という、組織全体には貢献しない指標でしか測れません。

経営層が取るべき三つの行動

では、社内政治を排除し、健全な根回し文化を育てるために、経営層は何をすべきでしょうか。

一つ目は、評価基準の明確化です。

人事評価において、「部門を超えた協力」「情報の透明な共有」「組織全体への貢献」を明確に評価項目に入れることです。逆に、「派閥形成」「情報の歪曲」「部門対立の助長」は減点対象とすべきです。これらを客観スコアにするためには360度評価が有効です。

二つ目は、意思決定プロセスの可視化です。

「なぜこの決定に至ったのか」を組織に説明する文化を作ることです。根回しは事前の合意形成ですから、その過程で出た意見や懸念、それに対する対応も含めて共有すれば、透明性が保たれます。

三つ目は、対立の建設的な解消です。

部門間の意見の違いは当然あります。それを「対立」として放置せず、共通の目的を達成するための「異なる視点」として組織の知恵に変える仕組みが必要です。定期的なクロスファンクショナルミーティングや、部門を超えたプロジェクトチームの設置が有効です。

管理職が実践すべき行動指針

課長層を含む管理職は、日々の行動でこの境界線を意識する必要があります。

提案をする前に、「この提案は誰のためか」を自問してください。会社のためなのか、自分の評価のためなのか、特定の派閥のためなのか。正直に答えることです。

関係者と話すときは、「全員に同じ事実を伝えているか」を確認してください。相手の立場によって説明の角度は変えても、事実を歪めてはいけません。

そして、決定後の成果を組織全体のKPIで測定してください。「自分の影響力が増した」ではなく、「売上が伸びた」「効率が向上した」「社員満足度が上がった」という客観的な指標で評価することです。

境界線を引く勇気を

根回しと社内政治の境界線は、時に曖昧に見えます。しかし、目的、情報の扱い方、結果の評価軸という三つの基準で見れば、明確に区別できます。

組織を動かすためには、人間関係の構築も、事前の調整も不可欠です。それを「政治的だ」と批判して避けるべきではありません。しかし同時に、組織全体の利益を忘れ、派閥の利益を優先する社内政治は、厳しく排除しなければなりません。

経営層から現場まで、すべての層でこの境界線を意識し、健全な合意形成文化を育てていく。それが、持続的に成長する組織を作る第一歩です。

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