「内装を綺麗にしたのに客単価が変わらない」。
「アプリを作り直したのに利用率が上がらない」。
小売の現場で、こうした声は珍しくありません。
このとき問題になりやすいのは、デザインの優劣というより、最初に置いたゴールです。
見た目のデザインとデザイン思考。違いは“起点”
見た目のデザインは、統一感や美しさを高めます。
店舗の内装、什器、POP、UIの磨き込みが中心になります。
一方でデザイン思考は、顧客の課題解決を起点にします。
「なぜ必要か」「どう機能すべきか」を先に置く進め方です。
図:見た目=表現の最適化/思考=意思決定の最適化
小売でKPIを動かすには、後者の比重を上げるのが望ましいです。
KPIは、客単価(円)、購買率(%)、再来店(回)などが分かりやすいです。
「Design」の語源と本質
Designはラテン語のdesignareに由来します。
意味は「指し示す(designate)」と「描く(draw)」の両方です。
つまり本来は、目的を定めてから形にする言葉でした。
※出典:Online Etymology Dictionary “design”
https://www.etymonline.com/word/design
日本語の「デザイン」は「描く」に寄りがちです。
その結果、綺麗でも「探せない」「選べない」が残ることがあります。
小売で回るデザイン思考の5ステップ
デザイン思考は、共感→定義→発想→試作→検証です。
特に重要なのは共感です。
ここでの共感は、アンケートより行動観察が中心になります。
共感:売場で迷う時間(秒)や引き返し(回)を観察する
定義:「誰が・いつ・何ができない」を1文にする
発想:打ち手を10案出す
試作:1週間で簡易版を作る(POPやダミー画面で可)
検証:2週間でA/B比較が望ましい
行動経済学を足すと「効く設計」に寄せやすい
人は合理的に選ぶとは限りません。
だからこそ、初期設定や見せ方が効きます。
デフォルト効果:初期設定が行動を左右します
損失回避:得より損を避けたい傾向があります
※出典:Kahneman & Tversky “Prospect Theory”(1979)
https://www.jstor.org/stable/1914185
ナッジ:強制せずに後押しする考え方です
※出典:Thaler & Sunstein, Nudge(2008)
https://yalebooks.yale.edu/book/9780300122237/nudge/
デザイン思考で課題を特定し、行動経済学で解決策の形を整える。
この分業がうまく回ると、施策の再現性が上がりやすいです。
小売への適用ポイントは「探す負荷」の削減
例1:ドラッグストアのアプリ
来店客を観察すると、レジ前で会員コードやクーポンが見つからず焦る場面があります。
ここでの課題は「UIが古い」ではありません。
急いでいるときに「会員コードが表示されない」「10秒以内でクーポンへ到達できない」です。
会員コードはオフラインでもトップに表示して、クーポン一覧をナビゲーションに固定し、関心の高いものから上位表示するのは有効になり得ます。
例2:スーパーマーケットの売り場
「献立が未決」の来店客が多い時間帯があります。
このときは陳列の統一感より、意思決定の支援が効きます。
「今日の晩ご飯」提案コーナーや、材料3点セットは試しやすいです。
KPIは、滞在時間(分)と関連買上点数(点)と客単価(円)が見やすいです。
小売のデザイン思考は“現状を望ましい状態に変える”運用
デザインとは、現状をより望ましい状態へ変える行為とも定義されます。
※出典:Herbert A. Simon, The Sciences of the Artificial(1996)
https://mitpress.mit.edu/9780262691918/the-sciences-of-the-artificial/
見た目を整えることは大切です。
ただ、順序としては「顧客の迷いを観る→課題を整理する→小さく試す」が先です。
次の改装や刷新では、まず「顧客がどこで何秒止まっているか」から始めてみませんか。