AmazonGo1号店のレジが存在しない顧客体験と仕組み

 Amazon本拠地SeattleにあるAmazonGo1号店に行ってきました。(現地時間2018年5月15日-18日)

 クラスメソッド社 横田社長のご尽力のおかげで、Amazon BooksやAmazon experience center、Amazon fresh pickupに行く、そしてAmazon従業員専用WorkSpaceであるSpheresに入る機会もありましたが、それは気が向いたら別の機会に書くとして、11回入店したAmazon Goについて記載します。

 気づいたこと、調査したことを全て記載したわけではないのですが、かなりの長文ですので、そのつもりでお読みください。

Amazon Goとは

 AmazonGoについては、いろいろな記事等でご存じの方がこのページに訪れていると思います。一言で以下のように表現できると私は感じました。

1)「レジに並ぶ、レジで決済する(良くない)顧客体験を取り去った店舗」

 後述しますが、AmazonGoは「人手不足だから」「経費を削減したいから」レジの人手をなくすという小さな考えで生まれたものではありません。
 世界で最も顧客中心な企業
というビジョンを持つAmazonならではの発想で生まれた「買い物をするときはレジで支払いをするという常識を否定するもの」です。
 その発想とは小売の実店舗でレジに並ぶということ、レジでの店員とのやりとりが必ずしも良くない体験であり、それを無くしたというものです。

2)「ECと同様の顧客分析ができるシステム・商品開発をコンビニに持ち込んだもの」

 こちらも後述しますが、Seattleの1号店は天井に200台前後のカメラ、棚裏には4000台前後のカメラ、多くの棚に重量センサーという重装備な店舗になっています。
 私はこれまでに、AI画像認識の様々な技術を知る機会がありました。単に買った・買わないを99%の精度で把握するだけであれば、ここまでの機材は必要ないと考えます。

 また、私達より以前に行った友人達が考えうる様々な(意地悪ともいえる)パターンを試しましたが、100%の精度で購入は正しかったことからも現状は完璧とも言える精度だと思います。
 販売する商品の単価を考慮すると機材を半分のコストにして99%の精度が出れば十分実用レベルと私が経営者なら判断します。

 それでも、ここまでの機材を使用するのは、顧客ごとの検討したけど棚に戻した(ECのカゴ落ち)商品を把握する目的だと私は考えます。
 AmazonGoはAmazon.comアカウント(日本で言うAmazon.co.jp)で使用しますので、ECでレコメンド等に使用しているのと同じデータが実店舗でも取得でき、かつ紐付けできているわけです。

Amazon Goの買い物の流れ

0.事前準備

①Amazon.comのアカウントを作る

 日本のアカウントでは使用できませんので、新規作成します。簡単です。

 Amazon.com新規アカウント作成

②AmazonGoのアプリをインストールする

 Android:GooglePlay

 iPhone:AppStore

③ログインし、クレジットカード登録する。

1.アプリを立ち上げてコードをゲートにタッチする

 店頭入ってすぐにゲートがありますので、こちらにコード(SCAN KEY)をタッチすると入店できます。

 なお、このコードは同じ顧客でも時間で出力が変わり、画面キャプチャなどで入ろうとしても一定時間が経過すると入れません。プラスチックの会員カードやStocardのようなそれらを取り込むアプリよりもセキュアなわけです。

 ちなみにスマホが必要なのは、この瞬間だけであり、入った後に電源を切ろうが人に預けようが問題ありません。つまり、MACアドレスやWifiによる特定は一切していないということになります。

2.店内で欲しいものを取る

3.退出する

4.数~10分後に購入履歴が届く

以上です。簡単ですね。

 退出する際はコードも何も必要なく歩いて出るだけなのですが、最初の買い物では、万引きに間違われてゲートが閉じてしまうのでは…とか、屈強なスタッフに捕まるのでは…という恐怖を感じましたが、2回目からは何も感じなくなり、3回目からは売っている商品の価格も気にならなくなります。

 こればっかりは自分で体験しないとわかりませんので、ぜひAmazonGoに実際に行って、体験してもらいたいと思います。

 さて、それぞれに解説をしていきます。

観察とそれによる推察できること

1.アプリを立ち上げてコードをゲートにタッチする

 かなり複雑なコードに見えたので、時間・場所などで出力コードが異なるということを予測しました。

 結果、場所がどうかは検証できませんでしたが、時間でコードは変わりました。同じ顧客でも時間で出力が変わり、画面キャプチャなどで入ろうとしても一定時間が経過すると入れません。なので、ブログにも撮影したままアップしています。

 プラスチックの会員カードやStocardのようなそれらを取り込むアプリよりもセキュアなわけです。

 また、スマホが必要なのはこの瞬間だけであり、入った後に電源を切ろうが人に預けようが問題ありません。つまり、MACアドレスやWifiによる特定は一切していないということになります。

 なお、店内には専用のFreeWifiが飛んでいますが、あくまでもサービスとしてのWifiということになります。

 AWSにamazon cognitoという顧客IDの管理と認証をする仕組みが公開されていますので、こちらでECのAmazon.comと結びつけて一括管理しているものと思われます。

 同様にamazon rekognitionが人物の特定と行動追跡をします。
 「動画を通して人物を追跡でき、顔が動画中で見えない場合でも、または人物がシーンから出入りする場合でも可能です。またフレーム中の人物の動きも特定できて、誰かがビルから出入りしているかどうかも特定できます。」とAmazonのサイトに書いてありますので、入店時にAmazon.comのアカウントと紐付けが完了し、後はrekognitionで追跡するわけです。

 余談ですが、この機能は特定と追跡だけでなく、感情分析もできます。

 当然、従業員のそれも測定できるわけなので、接客後のお客様の感情変化なども人事評価に加味することが可能になりますね。
 お客様をHappyにさせる従業員をより報いることが出来たり、そうでない従業員の指導に活用することもできますね。

 店内で接客により笑顔になったお客様とそうでないお客様のLTV比較をすることも容易にできるわけですので、「おもてなし」の定量化ができる時代がきたことを実感します。

2.店内で欲しいものを取る

 棚に並んでいる商品を見て、欲しい商品を見つけたら自分のバッグに入れても良いですし、フリーで提供されているオレンジのバッグに入れても良いです。

 普通に店内を歩いていると日本のコンビニとさして雰囲気は違いませんが、「そういう目」で見るとカメラやセンサーの多さに気がつくことができます。

機器類(目に見えるもの)

 店内には天井に各種カメラ・センサー(単純なカメラ、赤外線センサー付カメラ、入店カウンター天井カメラ)が約200台、

 棚には棚裏カメラと重量センサーがありました。棚裏カメラは8~9割の棚に設置されており棚1枚(約90cm)に16台ついていますので、4000台ほどだと思います。重量センサーも7割ほどの棚にはついていました。

 この棚裏センサー16台の真ん中によく見るとカメラ枠よりやや狭いものが1つついています。赤外線センサーか温度センサーか不明ですが、補助的なものと推測されます。

 重量センサーと棚裏カメラの組み合わせについては、天井カメラだけの類似の仕組みと違うAmazonGoの精度を実現する肝の技術だと考えます。私の推測ではいずれコストの高い重量センサーは大幅に削減されると考えます。なぜそう思うかについて実験したものもあるのですが、ここでは記載しません。

↑棚の奥側

↓棚の手前側

スタッフオペレーション

 前述したとおり、AmazonGoが目指すものはレジ人件費の削減ではなく、レジでの不快な体験のないコンビニエンスストアですので、店内にスタッフは大勢います。様々な時間帯に11回入店しましたが、最低4人、多いときは8人ほどフロアにいたと思います。

 当たり前ですが客が多い時間はスタッフも多く、(視察組がダブって?)スタッフと合わせて60人以上店内にいる時には入場制限を流石にしていました。
 オフィス街のセブンイレブンピーク以上の密度でスタッフをカウントすることが出来ませんでしたので、もっといたのかもしれません。

 入り口付近に必ず1〜数名のスタッフがいますが、これは見張るということではなく、アプリの使い方がわからない人のフォローをする目的でした。全体的にアメリカの小売店舗とは思えないフレンドリーさでした。

 朝(出勤前)、昼(昼ご飯)のピークタイムは結構な勢いで食品が売れていくので、スタッフが常時品だしをしていました。

 マテハン・手順ともにごく普通でした。オリコンに入った不足商品をバックヤードから台車に載せて売場に運搬し、手作業で先入れ先出しします。

 マテハンは普通でしたが、オリジナル商品に関しては番号が振られていたので、良く似た商品でも間違えず品だし出来る工夫がされているともいえます。

 番号であれば、将来ロボットが荷出しする際の効率もあがりますし、当然のことながら、細かい文字で書かれた商品名よりも、大きな数字の方が天井のカメラでも正確に認識しやすいという利点もあります。

 また、この番号の下には商品毎(おそらく製造ロットも)に異なるコード的な画像が印刷されており、こちらもカメラ認識と商品管理に役立っているものと考えます。

 実際に見る前の想像として、店内のスタッフはAmazon Prime Nowのようにスマホを作業に頻繁に使うイメージを持っていたのですが、実際にはたまにスマホを確認する程度の頻度でしたので、プッシュでの作業指示が来たときだけ使用するというところでしょうか。

※私は、前職でAmazon Prime Nowを導入しましたので、その印象が強いだけなのかもしれません。

 朝一とごく一部の時間帯には、売場を確認しながらカートに載せたノートPCを操作するスタッフもいました。無理のない範囲で後ろからのぞきこんだところ、Excel的な表計算ソフトでした。作業時間を考慮して欠品の確認くらいの作業と推測しましたが詳細不明です。

3.退出する

 私を含めた行った人のほとんどが、初回店を出るときに万引き誤認されて捕まるのではないか というドキドキ感を味わいながら退出します。

 しかしながら、何も起こらず「これでいいの?」という気持ちで買い物が終了します。

 これが3回、4回目くらいからは、価格を気にせず欲しいものだけ手に取ってすぐに店を出るようになります。

4.数~10分後に購入履歴が届く

 店舗を出てすぐに購入履歴がこないのは、各種センサーを含めたデータ処理(答え合わせ)のためと推測されます。

 購入履歴のBKLTラップの写真を見ていただくとわかりますが、023などの無骨な数字・記号が記されたパッケージではなく、食べるときの中身を美味しそうな画像で表現しています。細かいことですが、重要なことですね。紙のレシートよりもリッチな情報です。

 アプリ上からRefund(返金)を請求することが出来ます。ほぼ完璧な精度なので利用する機会はほとんどありませんが。

 商品に対するフィードバックもここから出来ます。

AmazonGoから見るAmazonの食への本気(TENETS)

 行く前には、コンビニを作ったわけだから、オリジナルの食品もあるよね…くらいの認識だったのですが、店に行くと売れているのはサンド、サラダ等の食品が圧倒的でした。(あと、視察客の定番AmazonGoチョコ)また、食べてみるとどれも美味しいんですよね。このあたりはWholefoodsのノウハウも生きているのかもしれません。

 店舗の道路沿いのところで店内調理していました。

スタッフの動きを見ていると、正直それほど効率的な作業光景ではありませんでした。天井にも店内のようなカメラ・センサーはありません。

しかしながら、Amazonは食に対して本気であることを目にしました。それは調理場の入り口付近に張られた文章です。

何が書かれているかというと、

KITCHEN TENETS:信条

NEVER COMPROMISE SAFETY:決して安全を脅かすことはない

当社の従業員と顧客の健康と安全以上に重要なものはありません。私たちは、チーム、顧客、ベンダー、および自らのために、安全な状態と食品の取り扱いを確保するために適切な措置を講じる。何か気づいたら、必ず言いなさい。

DELIGHT OUR CUSTOMERS:私たちの顧客を喜ばせる

私たちは小さな汗をかくことをいとわず、細部にまでこだわり、いつでも楽しむことができる美味しい食べ物を顧客に提供しています。

STRENGTHEN OUR TEAM:私たちのチームを強化する

私たちはチームとして一緒に仕事をし、お互いを尊厳と敬意を持って扱います。これらの違いは価値があり、チームをより強くするため、お互いのユニークなスタイル、視点、背景に感謝します。

TAKE PRIDE IN OUR KITCHEN:私たちのキッチンにプライドを持つ

細部への配慮と品質への関心は、毎日の清掃や衛生、お互いのコミュニケーション、標準的な作業、品質チェックなど、食品生産以外の作業のすべての側面にまで徹底的に及んでいます。

DELIVER BAR-RAISING RESULTS:高い水準の結果をもたらす

私たちは期待されるものだけでなく、それ以上のものを目指して努力しています。私たちは新しい方向に向かっており、新しいことを試してみたいと思っています。私たちは、私たちの食糧や運営をより良くするための最善の考えが私たちのチームから来ていると信じています。

Amazonのリーダーシッププリンシプルと非常に近い考え方だと思います。

安心して働いてくれ→顧客を喜ばせよう→お互いの違いを尊敬し、チームで取り組もう→細部重視→期待以上の結果を出そう

というわけです。

AmazonGoが作られた目的

 さて、このようなリーダーシッププリンシプル、キッチンテネットが明確に文章で示されるAmazonですので、AmazonGoに関しての目的も明示されています。

(本当に)レジ並びも会計もない

JUST WALK OUT SHOPPING

これによる最高の買い物体験

 レジで待つ、財布を出すということが無くなった体験を複数回すると、小売業でよく言われる「レジは最高のおもてなしの場である」というような言葉が嘘だと感じられます。

 接客は必要な時に必要なだけ受けたいですよね。レジはそうではないということです。

 この発想は、Amazonのリーダーシッププリンシプル

Customer Obsession リーダーはカスタマーを起点に考え行動します。何よりもカスタマーを中心に考えることにこだわります。

Think Big 狭い視野で考えてしまうと、大きな結果を得ることはできません。リーダーは大胆な方針と方向性をつくり、示すことによって成果を導きます。リーダーはお客様 に貢献するために従来と異なる新たな視点をもち、あらゆる可能性を模索します。

の2つがあるからこそだなぁと感じました。

 経営理念・行動指針というものはどの会社にもあると思いますが、それが本当の正義となって圧倒的な投資(Amazonの年間新規投資は2.5兆円と言われています)が行われる実行力こそがAmazonの強みなのだと実感したAmazonGo体験でした。

言行一致

当たり前に使われている言葉ですが、本当に言行一致する組織は強いですね。

最後に

 この長文は7,200文字ほどですが、それでも書かなかったことが多々あります。私の契約先等と話す内容と差をつけていますのでご理解ください。

 とにかくもレジが無い究極の買い物体験であるAmazonGoを一度実体験することをオススメします。今まで世の中になかった店舗ですので、体験しないと実感・理解できないことが多々あります。

 今回は、クラスメソッド社の横田社長が企画したツアーに20数名で行ってきました。Amazonがなぜリアル店舗を展開するのか?などをテーマとした 世界最先端のマーケティング 著者である奥谷さん、岩井さん はじめ素晴らしいメンバーと体験できたことを感謝します。

 AmazonGoに行かれる方は、ぜひ奥谷さん・岩井さんの

『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』

および、鈴木康弘さんの

アマゾンエフェクト! ―「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか

を読んでおくことをオススメします。いずれもAmazonの狙いをわかりやすく文章にしてくださっていますので、どうしても行けない方もぜひ。つまり、いずれにせよ買って読みましょう。

さて、店舗は無人なら良いのか?

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