棚卸とは
棚卸とは、実際に商品を数えて実在庫を把握し、システム上の理論在庫との差異を確認する業務です。会計上は期末棚卸資産の評価と売上原価の算定に必要であり、実務上は在庫精度を維持するための主要な補正手段です。
年1〜2回の一斉棚卸だけでは、在庫管理の観点から十分とは限りません。棚卸と棚卸の間に発生した理論在庫のずれは、入出庫処理の修正や循環棚卸を行わない限り蓄積します。
実地棚卸と帳簿棚卸
実地棚卸は、現物を数えて在庫数を確定する方法です。帳簿棚卸は、入出庫の記録から在庫数を計算する方法で、システム上の理論在庫がこれにあたります。
両者の差が棚卸差異です。差異が出た場合は、数え間違いや計上時点のずれがないかを確認したうえで、理論在庫を確定した実在庫に合わせて修正します。筆者は大手小売業でグループの棚卸し管理の責任者をしていました。その時の感覚でいうと、棚卸し作業自体のオペレーションミスが8割、日常の店舗及びサプライチェーン、経理オペレーションミスが2割であり、誤差金額ベースでは逆転します。棚卸し作業そのもののミスによる金額の差異は店舗全体で見た時に大きくないケースが多く、後者は桁違いの異常値が現れることがあります。
一斉棚卸と循環棚卸
一斉棚卸は、棚卸基準時点を定め、全SKUを一度に数える方法です。営業を止めるか、閉店後に実施することが多く、作業負荷が集中するため頻度を上げにくくなります。循環棚卸(サイクルカウント)は、対象を分割し、日常業務の中で継続的に数える方法です。店舗全体の営業を止めずに実施でき、高額で盗難リスクの高いカテゴリーや単品など重要度に応じて棚卸頻度を上げられます。
棚卸差異が生まれる原因
理論在庫と実在庫がずれる代表的な原因は、次の5つです。
万引き・盗難・内部不正
POSを通らずに在庫が減るため、理論在庫が実在庫より多くなります。
廃棄・廃棄などの登録漏れ
廃棄・破損などによって売場から除いた商品が、システム上は在庫として残ります。日配品や生鮮食品で発生しやすく、理論在庫が過大になる要因です。
検品の省略
納品数と伝票数の不一致を検知できず、実際に届いていない数量が在庫に計上されたり、届いた数量が在庫に反映されなかったりします。在庫に計上されます。
SKUの誤登録
類似商品を別のSKUとして処理すると、一方の理論在庫が過大になり、もう一方が過小になります。例えば、ヨーグルトの味が複数ある時に、レジでまとめて同じ商品として1回のスキャンを複数個登録するなどのケースです。

返品・キャンセルの処理漏れ
返品商品を売場に戻した際に在庫を戻し入れないと、理論在庫が実在庫より少なくなります。また、ECなどで注文キャンセル後に引当を解除しない場合は、販売可能在庫が実態より少なくなります。
棚卸差異が自動発注を壊す仕組み
自動発注は、理論在庫を入力として発注点への到達を判定します。理論在庫が実在庫より多い状態では、システムは「まだ在庫がある」と判断して発注しません。実際の棚が空でも、システム上は在庫がある状態になります。
これが、自動発注の導入後に欠品が増える代表的なパターンです。発注ロジックの精度を上げても、入力データが誤っていれば改善効果は限定されます。自動発注の導入前に、在庫精度を一定水準まで高める必要があります。

循環棚卸の進め方
高頻度品は対象を絞る
全SKUを高頻度で数えると、作業負荷が大きくなります。ABC分析による重要度に加え、欠品の影響、棚卸差異の発生頻度、廃棄登録の漏れやすさを基準に対象を絞ります。
頻度を決める
例えば、Aランクは週次、Bランクは月次、Cランクは半期という形で、階層別に頻度を設定します。全SKUを年2回だけ数えるより、重要SKUの確認頻度を上げるほうが、在庫精度を効率的に改善できます。
差異の原因まで追う
数値を合わせて終わりにすると、同じ差異が翌月も発生します。差異の金額が大きいSKUや、差異が繰り返し発生するSKUについて発生源を特定し、業務手順を修正することが本来の目的です。
棚卸とIT活用
ハンディターミナルとバーコード
紙の棚卸表からハンディ入力に切り替えることで、転記ミスと集計工数を削減できます。循環棚卸を日常業務に組み込むうえでの必要な投資です。一定規模の小売業では当たり前に使われるハンディターミナルのハードとしてのスキャン精度、ソフトの使いやすさが効率を左右します。
RFIDによる一括読み取り
RFIDタグを使うと、電波がタグに届く環境では、箱を開けずに複数の商品を一括で読み取れます。棚卸時間を短縮でき、頻度を上げやすくなります。一方、金属や水分は読み取り精度に影響します。導入コストやタグ単価、商品へのタグ貼り付け作業のコストも考慮し、商品特性と費用対効果に適したカテゴリーへ適用する必要があります。
画像認識による棚の在庫把握
カメラ画像から棚の商品を認識し、欠品や陳列量を検知する仕組みが実用化されています。バックヤードを含む総在庫の棚卸を代替するものではありませんが、棚卸のない期間における売場在庫の可視性を補う手段になります。
棚卸は、期末棚卸資産の数量と評価額を確定するために必要であり、在庫管理の精度を担保する主要な補正手段でもあります。年1〜2回の一斉棚卸だけでは、自動発注が前提とする在庫精度の維持が難しくなります。循環棚卸を日常業務に組み込むことが、発注精度の土台になります。発注方式そのものの整理は小売店舗の発注方式で解説しています。