たとえば、同じお客様が火曜の夜は牛乳1本だけを買い、土曜の昼は家族と来て日用品を15点買う。スーパーでもドラッグストアでも見かける光景です。ID-POSを顧客ごとに平均すると、この2回の来店は「月に数回来て、中くらいの金額を使う人」にまとまります。どちらの来店の姿も、数字に残りません。
私は、品揃えと売場を考える単位を、来店1回ごとの目的である来店意図(ショッピングミッション)で考えることをおすすめします。
来店を「暮らしの線」の上に置く
下の図は、生活者の暮らしの状態を1本の線で描いたものです。オレンジの点が、来店が起きる場面です。
線の動きで、来店の文脈は4つに分かれます。
文脈1「保つ」は、線が平らに続く区間です。牛乳や洗剤を切らさないための、つなぎ買いとまとめ買いが入ります。来店頻度の土台になる文脈です。
文脈2「戻す・備える」は、線がいったん下がって戻る区間です。発熱、水回りの不具合、花粉の季節、入学や出産、誕生日の準備が引き金になります。お客様は直したい状態を知っていても、何を買えばよいかを知りません。
文脈3「高める」は、線が上がる区間です。自分へのご褒美、新商品の確認、なりたい自分への投資が入ります。欲しい物を決めないまま店に入る来店も多くあります。
文脈4「店を使う」は、図の下に分けて置きました。EC注文の受け取り、処方箋、通勤途中の立ち寄り、家族への付き添いです。買い物以外が来店のきっかけになります。
分け方は2つの問いで決めます。1つ目は「来店のきっかけは、何かを手に入れることか」です。違えば文脈4に入ります。2つ目は「その買い物は暮らしを保つのか、戻すのか、高めるのか」です。この順に問えば、どの来店も4つのどれかに収まります。
線のどこで来たかで、売場の役割が変わる
文脈1のお客様は、速く済ませたいと考えています。米国のスーパーを調べた研究では、つなぎ買いの客の買い物かごが店にとって最も利益が高く、特売目当ての客が最も低い結果でした[1]。入口から目的の棚まで、短い動線で届く売場が合います。
文脈2のお客様には、相談と組み合わせが必要です。使う目的ごとに商品を並べた売場では、品種別の売場より購入点数と支出が増えました。その差は、買う物が決まっていない客で大きく出ています[2]。風邪薬の隣に経口補水液とレトルト粥を置く売場が、これに当たります。
文脈3のお客様には、発見が要ります。新商品や季節品を、通路から目に入る場所に置くことが売場の役割です。季節の変わり目に入口の平台を新商品へ替えるのは、この文脈の来店に向けた売場づくりです。
文脈4のお客様は、買う予定がないまま店に入ります。米国のコンビニの調査では、立ち寄りを決めた時点が出発前という客が43%、移動の途中という客が38%でした[3]。受け取りカウンターや調剤の待合の周りに何を置くかで、ついで買いの量が変わるわけです。
AIエージェントの影響も、文脈で分かれます。BCGの調査では、購入の完了までAIに任せる消費者は4%にとどまります[4]。私は、文脈1の定番品の補充から先にAIへ移り、相談と発見と場所に価値がある文脈2〜4は店に残りやすいと考えます。
自社の来店を、線の上に並べてみる
始め方は難しくありません。ID-POSをレシート単位で並べ、点数、部門数、時間帯、特売品の比率で分けます。
1〜2点で即食や衛生用品だけなら文脈1の急ぎの買い物、15点以上ならまとめ買い、という仮のルールで始めて構いません。正確性を気にしすぎると仮説が作れません。まず1店舗の1週間分で試せば、分析の作業も小さく済みます。そのうえで店の出口でお客様に「今日は何をしに来ましたか」と聞き、レシートと突き合わせることが望ましいです。
あなたの店では、どの文脈の来店がいちばん多く、どの文脈で利益が出ていますか。その答えが出れば、守る売場と伸ばす売場を決められます。
出典
[1][Walters, Jamil Journal of Business Research 56(1) 2003年1月 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0148296301002016]
[2][Sarantopoulos ほか Journal of Marketing Research 56(3) 2019年6月 https://eprints.whiterose.ac.uk/id/eprint/141634/]
[3][NACS What C-Store Shoppers Are Actually Thinking 2022年5月 https://convenience.org/Media/Daily/2022/May/6/2-What-C-Store-Shoppers-Actually-Thinking_Research]
[4][BCG How Retailers Can Reinvent the Digital Flywheel for Agentic Commerce 2026年10月 https://www.bcg.com/publications/2026/retailers-win-ai-shopping-agents]